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189

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189.絆



♂ケミ、深淵の騎士子はそれぞれの乗馬(?)に乗り、砂漠を行く。

突き刺すような日差しが容赦なく照りつけるが、ペコ、そして黒馬はそんな環境にもビクともせずに歩を進める。

流石に駆け抜けるとはいかないが、おかげで騎乗している二人は会話を行う事も出来た。

「なあアルケミよ、私は……間違っていたのであろうか?」

突然、深淵の騎士子がそんな事を言いだした。

♂ケミは深淵の騎士子が何を言いたいのかすぐに察する。

「ドッペルゲンガーさん達の事?」

「ああ」

深淵の騎士子は憂いを含んだ顔で正面を見続けている。

即答出来ない♂ケミ。

「…………」

少しの無言の後、深淵の騎士子は更に言う。

「少なくとも奴らは敵ではない。

むしろ同じ志を持つ者達だ。そういった存在はここでは貴重なのでは無いのか?」

言葉にした事で、心の中で渦巻いていた物が具体性を帯びる。

「……もしかしたら私は取り返しのつかない事をしたのではないのか?」

ふっと♂ケミの方を見る深淵の騎士子。

「埒も無い……忘れてくれ」

♂ケミも同じ事を考えていた。そして、出た結論も同じだ。

「もしかしたらあの人達の力抜きでは僕達は戦い抜けないかもしれない。

もしあの人達と一緒に戦っていたら僕達は捨て石にされて死んでいたかもしれない」

そう言って苦笑する♂ケミ。

「本当、埒も無いよね」

答えなど出るはずもないのだ。

ならば考えてもしょうがない、だが……

深淵の騎士子もつられて苦笑する。

「お前に偉そうな事を言っておいてこのザマだ」

そういう深淵の騎士子に、♂ケミは今度は苦笑ではなく本当の笑みを見せる。

「あははっ、お互い様って事か~」

それがどんな思いであれ、それを共有出来る相手が居るというのは、心和む事であった。

砂漠を行く二人が、ドッペルゲンガーの姿を見つけたのはそのすぐ後の事である。

お父さん、お母さん、僕は深淵の騎士子さんの事を誤解してたみたいです。

深淵の騎士子さんは勇敢な騎士で、決して後悔などしない人だと思っていました。

でも、ドッペルゲンガーさんと女騎士さんの遺体を前にした深淵の騎士子さんは動揺を隠せず、ただその場に立ちつくしたままで居るのです。

動揺の理由は痛いほどわかります。僕も同じ思いだから。

でも、深淵の騎士子さんの動揺の程は度を越してます。

立ったまま、足下の地面を黒く染めて絶命しているドッペルゲンガーさん。

無惨に切り刻まれ、左の肩口から胴体までが引きちぎれている女騎士さん。

僕も始めにこれを見た時は震えていたと思いますが、すぐ隣でそれ以上に狼狽え、震える深淵の騎士子さんを見て、逆に僕は落ち着きを取り戻しました。

これをやった敵に怯える?

違います。

深淵の騎士子さんはきっとそういうのは恐くないような気がします。

僕には心当たりがあります。

だから、僕は深淵の騎士子さんを無理矢理引っ張ってその場から引きはがしました。

「わ、私は……」

まだ震える深淵の騎士子さん。

僕はその両肩を掴んで言いました。

「君のせいじゃないよ」

しかし、深淵の騎士子さんは首を横に振るだけです。

だから、僕は続けて言いました。

「違う。君だけのせいじゃない……この意味わかる?」

動揺している深淵の騎士子さんは僕の言う意味がわからないみたいです。

そして、僕もそろそろ限界でした。

「僕達のせいだ。僕も悪いんだ……僕達が間違ったんだよ」

ごめんなさいドッペルゲンガーさん、ごめんなさい女騎士さん。

僕達が間違ったせいで、あなた達が死んでしまいました。

アコが、そして兵士さん達が死んだ事にも懲りずに、僕達はまた間違ってしまいました。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……

♂ケミが深淵の騎士子の肩を掴んだまま堪えきれずに涙を流すと、深淵の騎士子もタガが外れたのか、♂ケミの胸に飛び込んで泣き出した。

死を悼む、そういった気持ち以上に、自責の念で押しつぶされそうで。

二人ともきれい事を言っている余裕なんて無くて、自分の事だけで手一杯な中。

抱き合ってお互いを支え合って、激情の荒らしが過ぎ去るのを待っていた。

同じ咎を背負った者同士で。

二人はドッペルゲンガーと女騎士を埋葬すると、それぞれに形見として二人の剣を持って行く事にした。

深淵の騎士子はドッペルゲンガーのツヴァイハンターを、♂ケミは女騎士の無形剣を。

黒馬に乗る前に♂ケミが言った。

「また……理由出来たね」

「重いな。とてつもなく重いぞ……」

「持ちきれないかな?」

深淵の騎士子が悲しそうに、それでも笑顔で言う。

「……二人なら、なんとかなりそうだぞ」

期待してた答えが返ってきた事で、♂ケミも笑みを返す事が出来た。



<♂アルケミ 現在位置/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品/ハーブ類青×50、白×40、緑×90[騎士子の治療時に使用]、それ以外100ヶ、すり鉢一個 石をつめこんだ即席フレイル、無形剣>

<深遠の騎士子 現在位置/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能)、ツヴァイハンター、遺された最高のペコペコ 備考:アリスの復讐>


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