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2-007

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007.地獄の煉火



夢を見ていた。
どうして、そんな夢を見たのか、わからなかった。
日常から非日常に投げ込まれ、出会いは別れで。
数秒前の談笑は血に染まり、無力感に打ちのめされ――決心をし。
生涯を捧げて一途に想い。報われぬままその短い一生を終える。
そんな悲しい戯曲は、あって欲しくなかった。
いや、存在するはずもなかった――少なくとも、今「ここ」にいなければ、知るはずもなかった。

私は今日、騎士に転職するための試験を受けるはずだった。
プロンテラの露店を冷やかしながら、時間が迫っていることに気付き、近道を行くことにした。
狭く、人がすれ違うのにも困難なこの路地は、やはり誰もいない。
――誰もいない、はずだった。

「お嬢さん。少々お時間をいただけますか?」

透き通るように頭に浸透してくる声。
聞いた誰もが魅了されそうなその声の主を探すように、振り向く。
「どちら様?」
そこには、ピエロ帽を被った白い男がいた。
「貴方様をお迎えに上がりました――剣士団長から伝令はお済みで?」
ゆっくりと、一歩一歩近づいてくるその白い男に、何故だか分からないが酷く嫌悪感を覚えた。
「いえ…何も伺ってはおりませんが…」
団長と最後に話をしたのは昨日の夕べであった。
騎士団への入団テストを頑張れ、と激しく激励され、丁重に別れを告げただけである。
「ふむ…それでは、きちんと状況を整理しないといけませんね」
いつの間にか開かれたのであろう、ワープポータルがそこにあり、
乗りなさいといわんばかりに手を引かれたので、渋々と従うことにした。

たどり着いたのは剣士団のギルド前であった。
「さ、中へ」
促され、扉を叩く。
中に入るなり、剣士団長がこちらを見て目を大きく見開いた。
「ど、どうしてお前…今日は大事な試験の日ではなかったのか?」
「そうなのですが、何やら白い服を着た男性に連れてこられて…」
そこまで言ったとたん、後ろで扉が開く音がした。
「団長。貴方が選出したのは彼女で間違いないですよね?」
例の白い男だ。
「選出?いったい何のことでしょう…?」
剣士団長は押し黙ったまま、私と白い男に交互に視線を投げかける。
「構いませんよ、他の方でも。ただし…誰も差し出さないというのなら――」
瞬間、殺気を感じて床に転がる。
団長は腰から剣ををぬき振り回す。
カキン、キンッ!と、鉄の弾けあう音。
その後、床に突き刺さる6本の短剣。その刃先は全て折れていた。
「流石は剣士団長を勤めるお方。しかし――」
剣士団長の顎鬚がさらり、と床に落ち、右の頬からは血が滴っていた。
「代わりなど、何人でもいるのですよ?」
冷たい、見つめるだけで人を殺せそうな視線を投げかける白い男。
そしてその視線は私のほうへと――
「わ、わかった…すまん、急にこんなことを告げたくはなかったのだが…」
いいながら、腰の抜けた私を抱き起こす剣士団長。
そして、彼は確かにこう言った。
「殺し合いに、行ってきてくれ」
しばらく思考の停止する私。
「…え?」
「そういうことです、お嬢さん。時間が迫っています――詳しい説明は後からしますので、どうかご同行を」
開かれるポータル。
「そ、そんな…殺し合い…?」
――ふと、朝見た夢を思い出し、首を強く振って頭から消す。
そして剣士団長は、
「お前なら…優しいお前なら、弱者の盾になれると思っている…頼むぞ」
非情にも、助けの手は差し伸べてくれなかった。

ポータルに乗った後、説明を受け、支給品を貰ってさらに転送される。
前方には木々が生い茂り、背後には崖と海。どうやらどこかの島のようだ。
辺りを見回すと、森の中に小屋があったので、ひとまずそこで、これからどうするかを考えることにした。
「使えそうなものは何もないなぁ…」
薪を切るための斧のような物はあるにはあったが、刃こぼれしていて武器としては使えそうもない。
そもそも、彼女は殺し合いをする気などはないのだが、このような場では錯乱するものがいてもおかしくはない。
そういう意味で、護身用の武器ぐらいは持っておくべきだと踏んだのだ。
「そういえば…支給品があったっけ」
説明を思い出し、鞄の中から青い古びた箱を取り出して、思い切って開けてみる。
「…なんだろ、これ」
小瓶に入った粘着性の液体。
箱には、一緒に説明書のようなものがついていた。
「何々…特製アンチペインメント…?従来のアンチペインメントより効果は長続きします…。
 ふむふむ…。…注意。この薬を…ってあれ、破れてる…この薬を、なんなんだろう…」
とりあえず小瓶をおいておき、もう一方の箱にも手をかける。
「おっと…これは…槍?」
手に持って――片手では支えきれない大きな槍だったので両手で、振り回してみる。
すると、槍の先端から巨大な火球が飛び出てきた。
「って!ちょっと…小屋が燃えて…あ、あちちっ!」
急いで荷物をまとめ、小屋から飛び出る。
黒い炎。まるで、地獄の――
「う、うわああああ!」
背後からの急な叫び。
武器を構えようとするが、如何せん両手用の槍で片手では持てなかった。
仕方がないので体勢を整えるために顔を庇うように両腕を使う。
左手を襲う、痛み。
辺りに飛び散る鮮血。
痛い、痛い、熱い熱い熱い痛い熱い痛い熱い痛い。
何も考えられず、手元に転がる小瓶の中身を一気に飲み干した。
急速に痛みが引いていく。これは素晴らしい薬だと、思った。
落ち着いて襲撃者を見ると、スティレットらしき短剣をもった男のノービスであった。
「ちょっと落ち着きなさい、私は殺し合いに参加する気なんて――」
言う前に、その少年は走り寄って、その短剣を振り上げる。
このままでは、殺される――!
身体から、体温がなくなっていく。
痛みが引くように、熱さが、ぬくもりが消えていく感蝕。
頭に響き渡るのは幻聴。ただ一言。
『 コ ロ セ 』
短剣を振り上げる一瞬の隙に、片手では扱えなかったはずの槍を取り、そのまま少年の胸に突きたてる。
口から吐いた血が、私の顔にかかる。
特に気にもならなかった。
だって、その一瞬後には。
少年は焼き尽くされ、消し炭すら残らなかったから。
それが、とても美しく、儚く思えたから。
「…守る?こんなにも、儚いものを?守って、どうなるって?」
誰に言うでもなく、一人で呟く。
「命なんて…儚いものね。バカみたい…こんなものに、自分の命をかけられるなんて」
ずっと頭の中から消えなかった、見たこともない少女に、語りかける。
「私は貴女みたいにはなれない。なりたくもないわ。うふふ…あははははっ…」
彼女は、進んでいく。
もう戻れない、殺戮者としての道を。
風に乗って、一枚の紙片が彼女の足元に運ばれてきた。
それを見ると、どうやら破れた説明書の破片らしい。
ふと、覚えている部分と繋ぎ合わせてみた。
『注意。この薬を一度に大量に服用すると人格が破壊される可能性があります。
 用法容量は正しく守ってお使いください。』
「人格が破壊?くすくす…そんなことはない、逆にすがすがしい気分じゃない…」
ピースのなくなったパズルは永遠に完成する事はない。
高らかに笑いながら、次の獲物を探して歩き出した。
手にする得物は、地獄の煉火の名を冠する魔槍――ヘルファイヤ。

<♀剣士:島の西部 備考:薬剤乱用による人格障害、左手の手首より先を損失>
<所持品:ヘルファイヤ アンチペインメントの入っていた小瓶>

<♂ノービス:死亡>

<残り:49名>


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