バトルROワイアル@Wiki

2-012

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012.電波少女


「はぁ……」
静かな森の中を歩きながら、♂ハンターは溜息をついた。
何故こんなことになってしまったのか。
元々不幸体質と周りから言われ続けてきたし、自覚もあったがこれはさすがに理不尽だ。
さらに理不尽なことに、いつも頭上で羽ばたいているはずの相棒の姿が見えない。
「うぅ……ターコ、どこいったんだよう」
情けない声で相棒の名を呼びながら、彼は静かに涙を流した。

カラン、という音に振り向いてみれば、そこには小さな青箱が落ちている。
落ちている、のではなく落としたのだが。
(あぁ、支給品だっけ……すっかり忘れてた)
気づくことができたとは珍しく運がいいな、と♂ハンターは思った。
忘れたままだったとしたら何の抵抗も出来ずに野垂れ死んでいたかもしれない。

「……しかしなんでよりによって青箱なんだよ」
青箱にいい思い出があるはずもなかった。
大げさな作りのそれを開いてみれば一輪の花があるのみで、ヤケになって土に植えたのは記憶に新しい。
友人たちのように未鑑定の装備品すら出たことがないこの憎き箱を、彼は古く青いゴミ箱と呼んでいた。
「えぇい! 悩んでてもしょうがない。おーるどぶるーぼっくす、おーぷん!」
極限状態に置かれた彼のテンションはおかしくなっていた。

「や……やった……!」
箱の中にあったのは各種大量の矢。扱い慣れたそれほど頼もしいものはなかった。
「あぁ、神様仏様。今日までの不幸は今この瞬間のためにあったんですね」
普段全く信じない神に祈りを捧げようとしたその時。彼は気づいた。
「ちょ…っと待ちなさいよ! 弓はどうしたの弓は! ダーツでもしろというの!?」
おかしなテンションとあまりのショックに、口調までおかしくなっているのに彼は気づいているのかどうか。

(そ、そうだ。もう一個青箱はあったはず。そっちにもしかしたら入ってるんじゃ)
そう思い立ち、彼は鞄の中のもう一つの箱を開け放った。
「……懐かしいなぁ」
小さな『それ』を見つめながら、彼は昔のことを思い出していた。
『それ』を片手に、アーチャーになるためにポリンと戦った日々。
木屑を集めて来いと言われ、泣きながらウィローに『それ』で挑んだ日々。
「懐かしい……懐かしいけど、今必要なのは思い出じゃなくて弓なんだよ、神様」
手元のナイフを見つめ、不幸なハンターは肩を落とした。

(まぁ落ち込んでいてもしょうがないよな。どこかで弓を拾えるかもしれないし)
♂ハンターが今日まで健やかに生きてこれたのは、このポジティブ思考のためだった。
「……ん?」
前方の茂みに、うずくまっている少女がいる。服装からして♀アーチャーだろう。
近づいてみると、彼女はびくりと体を震わせ、涙で潤んだ瞳で♂ハンターを見上げてきた。
(お、可愛い)
愛らしい♀アーチャーの容貌に、彼は表情を緩ませる。
敵対する気はなさそうだし、仲良くなれるかも。そんなことを思いながら、声をかけようとしたその時。

「こ、こないで、この悪魔!」
「……へ?」
いきなりの悪魔呼ばわりに、彼はぽかんと口を開けた。
「か弱いあたしを脅して、この弓を奪おうっていうんでしょ! いえ、脅すだけじゃ飽き足らずあんなことやこんなことまで……
 それで最後は懐のナイフで胸を一突きされて……あぁ、なんて可哀想そうなあたし! 美人薄命とはこのことね」
弓やらナイフやら、心当たりのある単語はあったものの、とんだ被害妄想だ。
この少女に関わらないほうがいい。♂ハンターの本能がそう告げていた。

「そ、そんなことしないよ……それじゃ」
「こうなったら……やられる前にやってやれ、よ!」
立ち去ろうとした彼のすぐ横を、矢が通り過ぎていった。
♂ハンターの背中を、冷たい汗が流れた。

「な、頼むから、話を聞いてくれよ!」
「うるさい! 悪魔の言うことに耳なんか貸すもんか!」
矢の嵐の中、必死に声をかけようとするものの、♀アーチャーは聞き入れようとしない。
(それにしても……下手だなこの子)
彼女の放つ矢は、わざと外しているかのようにあさっての方向に飛んでいく。
ピンチといえばピンチだが、命の危険はなさそうなのが幸いだろうか。

「でもこのままじゃラチがあかない……か」
しょうがない、と呟くと、♂ハンターはナイフを手に取り、♀アーチャーに向けて投げた。
「……!」
ナイフは♀アーチャーの顔のすぐ横をとおり、背後の木に突き刺さった。
「あぅ……」
へなへなと座りこむ♀アーチャーの肩に、彼は優しく手を置いた。

「乱暴なことをしてごめん。でも本当に俺は君に危害を加えるつもりはないんだ。
 このまま一人でいたら危ない。君がさっき言っていたことが本当に起こるかもしれない。俺と一緒に行動しないか」
関わり合いにならないほうがいいとは思ったが、彼女を見捨てることはどうしてもできなかった。
座りこんで泣いている♀アーチャーが、とても小さく見える。
彼女がどこかおかしくなっていたのも、この極限状態にあったからだろう。
そう思うと彼女が可哀想に♂ハンターには思えたのだ。しかし……

「……王子様」
「……へ?」
「あなた、あたしの王子様なのね! あたしを守ってくれる王子様なんだわ!」
(何言ってるんだ……この子)
思わず彼女の顔を見つめてみるが、彼女の表情はどう見ても本気で言っているようにしか思えない。
(まさか……この性格、素なのかよ)
「ご、ごめん。やっぱり……」
「王子様!」
男らしくないとは思ったが、さっきの発言を撤回しようと口を開いた♂ハンターの腕に、♀アーチャーは縋り付いた。
「あたしを、絶対に守ってくださいね♪ 一生ついていきます!」
「あー……うん」
とんでもない地雷を踏んでしまった。思わず♂ハンターは頭を抱えた。

やはり彼は、不幸だった。


<♂ハンター  現在地不明(森) 所持品:ナイフ 大量の矢 備考:極度の不幸体質>
<♀アーチャー 現在地不明(森) 所持品:アーバレスト 青箱一個 備考:弓の扱いがど下手 妄想族>


<残り47名>


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