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2-067

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067 祝福されし死神


「今回はまぁまぁなペースですね」
GMジョーカーはぶつぶつと呟いている。
「そうですか?それはよかったですね」
GM橘がジョーカーにさらりと言い返す。
「ですが~、期待はずれといえば期待はずれなんですね」
「例えば♂ローグ君なんかには期待しているんですよ。彼のその気性といい、実力といい、まさにうってつけ!」
GMジョーカーは愉快とばかりに笑いながらまくしたてる。
「それに今現在で言えば♀剣士さんなんかも期待を持たせてくれますよ。それにまだまだやってくれそうな、そう、グラリスさんなんかも期待大です」
GM橘は黙ってそれを聞いている。
もううんざりというような顔を浮かべつつもジョーカーには悟られぬよう常に後ろに控えている。
「それに、彼も期待がもてますねぇ」
GMジョーカーが椅子を傾けながら天井を見つめる。
その口の端をわずかにゆがめながら。
「彼、とは?」
GM橘が怪訝な顔をして聞き返す。
「彼は昔から素質がありましたからね~、え~っとたしか前回。いえ、前回は進行が遅かったから~前々回ですね。その時も彼はいたんですよ」
「と、言うことは・・・」
「その通り!優勝経験者という事です!」
GMジョーカーはぐるりと振り向くと無機質な笑みをGM橘へとむける。
「その時はそれはそれはかなりのハイペースで進行したのです。1日目でおよそ半数がいなくなるほどに、そんな状況の中で彼は生き残った。それはもはや天運といってもいいでしょう!」
「天運・・・すなわち、その彼は運で勝利したと?」
「そう言ってもいいでしょう、彼の運には少しばかりいわれがありますが、そうだ!いい機会です少し昔話をしましょう!」
GMジョーカーはゆっくりと目を閉じ淡々と語り始めた。

「昔々ある所に一人の剣士がおりました。彼はとても努力家で仲間達の中でも急速に成長していったのです。
そして彼は転職できるほどの実力になり、しっかりと実績もありました、ですが彼は転職しなかったのです。
それはそれは不思議な事です、転職すればとてもとても強くなれますし、わずかばかりの地位も得られます、仲間達はとても不思議に思いました。
ですが彼には理由があったのです、それは彼には大切な人がいたのです。
彼女は明るく、おしとやかで、まるで野に咲く花のようなそう、絵に描いたような聖職者、アコライトだったのです。
彼女は人柄がよく、皆からも慕われていました。
ですが、彼女は生まれつき魔法を使うことが下手だったのです。
どんどんどんどん仲間達から置いていかれてしまいます。
そんな彼女に彼は言いました。「大丈夫、俺がいるから一緒に転職しよう」と。
それを聞いた彼女はにっこりと笑うと大きな声で返事をしました。
他愛の無い約束でしたが、それでも彼は幸せでした。
そんなある日の事でした。彼女は毎日大聖堂に祈りをささげに行ってます。もちろん彼も一緒でした。
しかし、そんな大聖堂にあろうことが賊が侵入してきたのです。
どうやら大きな盗賊団のようで王城の宝物殿を狙ったようでしたが流石にうまくいかなかったようです。
あれよあれよという間に追い詰められて大聖堂に命からがらにげこんだのでした。
大聖堂にも警備のクルセイダーが何名かいましたが、なにぶん相手も数が多く、一般人を人質にされては手が出せませんでした。
外ではもう騎士団やクルセイダー隊がすっかりと大聖堂を包囲していました。
そんな時です、一人の少女が恐怖に耐えかねたのか、叫びながら外に出ようとしました。
盗賊の一人がその少女を目障りだといい、剣を抜きました。それを見た彼は咄嗟に止めようと飛び出しましたが、残念なことに目の前にいた盗賊にとりおさえられてしまいました。
少女は幸いなことに盗賊が彼に気を取られている隙に外にでれたのです。
彼は盗賊におさえられ、殴る蹴るの暴行を受けました。
そんな時です、小さな声で、ですがよく通る声で祈りの声がきこえました。
盗賊も彼もその方向に眼をやります。
見れば彼女が静かに祈りをささげてました。盗賊はうるさいからやめろと刃をつきつけます、ですが彼女は祈り続けました。
彼は盗賊に組み伏せられながらもやめろ!やめろ!と叫びました。
そして盗賊は彼女の口に冷たい鉄の塊を押し込んだのです。
彼はまるで時間から取り残されたかのようにまわりがゆっくりみえました。
噴出す鮮血も、盗賊が高笑いする様子も、そして、彼女がこちらにゆっくりと微笑むのも。
そして彼女の口から剣をぬいた盗賊は笑いながら彼女を少しずつ刻んでいきました。
彼はそれを見て大変おこりました、組み伏せている盗賊を一瞬で押し退けると、まるで夜叉のような形相で彼女であったものを刻んでいる盗賊に走り出すと。腰に挿した剣を抜きざまに一刀両断にしてしまったのでした。
それを見た盗賊たちもだまってはいません、次々に彼に襲い掛かります。
彼は雄たけびをあげながら盗賊たちに突進しました。
それを合図に、クルセイダー隊と騎士団が突入し、奇跡的に彼は生きていました。
その事件後、彼と彼女にクルセイダーとプリーストの称号が与えられることになったのです。
ですが、彼の心は冷たくなったままでした、なぜなら彼女はもうこの世にはいないのです。
一週間後の任命式を終え、彼はいずこかへ姿を消しました。
そして一年の歳月が過ぎ、彼は戻ってきました。BR優勝者という肩書きを得て。
皮肉にも彼が初めて出た大会で最初に手をかけたのは彼女と同じ♀アコライトだったそうです。
その後、彼は自ら進んで危険な任務に身を投じるようになりました。
ですが、その全てを彼は生き残っているのです。
その様から彼の仲間達は彼のことをこう呼びました。
祝福されし死神、と。
今でもその死神はいずこかの戦場で剣を振るっているそうです。」

GMジョーカーはゆっくりと目を開ける。
GM橘は何も語らない。
「さてさて、そんな彼ですがその大会では2ケタをあげているんですよ。ですが今回はまだ一人、ペースが遅いですねぇ」
「死神も、疲れたんじゃないでしょうか」
GM橘はそう答えた。
「あははははは、それはそれは、それもありそうですねぇ、ですがその死神くんは前も、そして今回も自らの志願なのですよ」
「随分と・・・酔狂な死神ですね」
GM橘は嘲笑を浮かべながら言った。
「いいじゃないですか、死神らしくて、とにかく彼には期待をしているのですよ!」
GMジョーカーはそういうと大きく笑い出した。
「死神・・・か・・・」
GM橘は一言だけ呟いた。



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