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2-072

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匿名ユーザー

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072 変人と奇少女



 ──はて。どうも、私の予定通りには進まないものですね。
 矢張り、理論と実践とは違うものですか。思えば、どうも私の方法には華、という物が欠ける気がする。
 とは言え。今の私の魔法、と言うものも所詮は華でしかありませんし。
 よくよく考えれば私の腕力では、如何なこの鋭利な刃物があるとは言え──。
 理論畑の私の弊害ですね。どうも、夢中になると周りの状況が見えなくなっていけない。
 とは言え。実験は続けなければなりませんし──しかし、随分歩いて疲れましたね。

 あれから。その男は♀ハンターを襲った場所から随分離れた木立に腰掛け、何時もそうしている様に、論駁をぶつぶつと呟いていた。
 最も、それは歩くのに疲れ切った為に休息を取っている、という意味合いもある。
 (と、言うのはあれから彼は♀スパノビ達を追いかけたはいいが、途中で見失い、仕方なくそのまま移動していたので)
 とは言うものの。元々体力の無い男の事である。随分と疲れが取れるまで時間はかかりそうであった。
 (彼の土気色の顔は、医師が見れば即座に『あ、君栄養失調っぽいね』と言うに違いない)

 傍目から見れば酔漢の様にも、奇人の様にも見えるのだが、生憎彼にそれを忠告するものは誰も居ない。
 一つ言える事があるとするならば、思考を重ねている彼からは周囲の状況が認識から排除されている、という事だ。
 更に付け加えると、全身に圧し掛かる疲労は、幸いにして彼から悪夢めいた幻視を取り払ってもいた。

 ──知識、とは元来、一人では限界があるものなので。
 最も、常日頃から男は孤独の弊害を書物で補う程度の賢明さはあったのだが、
生憎この場は彼が普段篭りきりの埃と古い紙の臭いのする書斎兼自室ではない。
 彼は、そこまで考えて自らが知的な対話者を欠乏している事に気づいた。
 更に言うなれば、少々脳の即時栄養源となりうべき糖分が足りない。

 だが。
 だから、と言って。知的であるならば誰でも良い訳では、無論その男にとってなかった。
 そう。例えば教会や、象牙の塔の中での決まりきった知識のやり取りにしか興味の無い愚鈍な魔導師や司祭などではいけない。
 とは言え、そもそもからして彼は孤独であるが故に、その様な相手を確保する術を知らない。
 結局、知的対話者の件は思考から外して、更に演績的思考を続ける事にした。
 彼は実践の人間だ。そして、理性の求道者でもある。

 ──それに私は、開拓者なのだ。禁忌を畏れず、神を畏れず。只、魔法的幾何学的真理の追究のみを奉ずる。
 第一。この私からしてみれば、未だ人体を神聖と見る人間は愚鈍極まる。
 そんな事だから、何時までたっても治癒を進歩の欠片も見られないヒールと薬品に任せ切りなのだ。
 不治の病。悪性肉腫。そして、魔導がその深淵とする領域を踏破し、その先に我々は至らねばならない。
 その勇気が無いのだ。あの連中には。魔法の奥義を古書のみに求めるは愚鈍。
 魔法使いであるならば、自ら未来を求めよというのだ云々。
 だから『ああなる』というのだ。愚鈍な連中め。
 しかし、そういうifに意味はないし興味もない。私に出来る事は考える事だけだ。より良い結論を導く為に。

 ぶつぶつぶつぶつ。
 独り語は彼の悪癖である。むしろ、思考と研究に関する過剰すぎる熱中と言った方が正しいかもしれないが。
 外面は取り繕えば、♂Wizとてもそれなりではあるのだが、こればかりは如何し様も無い。
 ちゅんちゅんと遠くではスズメの鳴く声がすがすがしいのだが、彼の周りでは明度が三つ程暗い。
 太陽までもがその男を避けて通っている、という様な風情である。
 無論、彼の論駁に場所は関係しない。その点でも彼は愚かだった。

 丁度、その時だ。
 『ぎゃー、どいてどいてどいてよっ!!』とか言う、彼の立つ位置とは正反対の叫びが聞こえたのは。
 何事か、一体何がどうしたのか、と彼がその鋭い頭脳で把握するよりも早く。
 頭上から、女の子が降ってきた。何の前触れも無く。全くの出し抜けに。
 頭脳の回転は速い。だが、彼の反応速度などは思考に全精力を傾けていた今、致命的に遅いので。

 彼曰く。凡人にも解る様に口にすれば、♂Wizは降って来た♀マジシャンの尻の下に、物理的に敷かれていた。
 慣用句が示す所の『尻に敷かれた』ではない。どちらかと言うと、Hipdrop hit ♂Wizである。
 そういえば、ここの真上は少しばかり切り立った壁だったか。凡そ2メートル位の。
 ──などと、傍観者が居れば思うだろうが時既に遅し。
 何ら抵抗を示す事無く、予期せぬ時に予期せぬ方向から突然振ってきた尻に♂Wizは押しつぶされたのだった。



 もーっ。何でこう災難続きなのよ。
 と、何か硬いモノにお尻がぶつかったせいでボクは半分涙目になりながら呟いていた。
 怒りたいんだか、笑うしかないんだか、それとも泣き出すべきなのかも判らない。
 大体からして、歩いたり走ったりチチ・シリ・フトモモを強調しまくってる野蛮女から逃げたりで、疲れて判断力が鈍ってるし。

 って言うか、逃げ回ってたら随地図もみないで分歩いちゃったなぁ…トホホ。ボク、体力に自信なんて無いのに。
 ここは一体何処なんだろ。さっぱり判らない。最後に地図を見た場所がF5って所はちゃんと覚えてるけど、
山越え谷越え、くたくたになるまで歩いた後でここが一体どこなんだかさっぱり判らない事に気づいたんだよ。それも今。
 えっ…途中もちゃんと地図を見ておけって?
 えっとっ──い、いきなりそんな現状に対応した行動なんてとれる訳ないじゃないか!!
 ホラっ、ボク、本は見慣れてるけど地図は見慣れてないから。だってマジシャンだし。

 そ、それにさ、聞いてよ。クタクタだからあの坂を上ったら休もう、って思ったら途中でいきなり崖なんだよ。
 こんなの全くの欠陥工事だよ。公共事業のムダムダムダムダムダーっ。
 あー、もう!!責任者出て来いっ!!でももう遅いよ!!ボクは落ちちゃって今から這い上がるのは不可能なんだから。
 って、責任者はあの変なピエロのオッサンだよね。…それじゃあ出てきてもらうと困る。前言撤回。 

 で、ここまでを五秒くらいで考えてボクは。所在無くなって息を吐いて──

「…って、誰よ君!!っていうか、キャーーーーーッ!!」
 そこで自分以外の誰かを尻に敷いてるのに気づいてスクリーム──っていうか誰っ!?この人誰っ!?
 ボクは弾かれる様に飛び退いて、振り返る。すると、そこに地面に顔を押し付けたままの男の人が居た。
 で。そのアンチャンは、と言うと、いまだに地面に押しつぶされたままこの状況に関してぶつぶつとやっている。
 こ、怖っ!!何より先に生理的本能的恐怖ってヤツが先に立ってしまうようなタイプの男の人だった。
 脳内に見えない小人が住んでそう、と言えばピッタリくるかもしれない。

 ボクは弾かれた様に飛び退いて、彼にフーッ、と猫みたいに牙を剥く。
 だってこの人アレだよ!?どう見てもアブナイ人で死神博士、言い換えれば○○○○にしか見えないもん。
 ややあって、自分が地面に潰されている事を思い出したみたいに、ぼこっ、とその人が顔を引き抜いて立ち上がった。
 その目に思わず気圧される。冷たい目はまるで氷…って言うより寧ろ、固まった血みたいだ。 
 あ、そういえば。この島って殺人OKだったっけ。あははははは…や、やっぱマジシャンじゃウィザードには勝てないよね。

 今更の様にそれを思い出してフーッ、とかシーッ、とか勇敢にその♂Wizを脅したまま、
やっぱり身の危険を感じるので、じりじりと後ずさった。何たって死神博士だし。
 先生だってボクが改造されちゃったりされるのは草葉の陰できっと望んでないに違いない…と言う事にしておく。
 すると、何を思ったのかボクの目の前でそいつは、ふぅっ、とどうにも似合わないアンニュイな溜息なんかついていた。

「…猫ですか貴女は。兎も角煩いので消え失せて下さい。休憩の邪魔です」
「…君こそ何様の積りよ」
 と、思わずムッとしてボクが聞き返すと、ボクの前の♂Wizはどういう訳か極普通に口を開くと何処か神経質そうな声で名乗った。
 ──ひょっとして今は気分が乗らない、とか?

「私?私は♂Wiz。真理を求道する者の一人、のつもりですよ」
 が、その気持ちはさて100m程向こうに投げるとして、♂Wizはそんな聞き捨てならない自己紹介なんてボクにしていた。
 な、なんですとっ!?ボクの目が黒い内はそんな言葉がこんなヤツの口から出るのは認めない。

「真理!?キミって何様の積り!?それを口にしていいのは、ボクのお師匠様だけなんだから!!」
「ほう。随分と自信家ですね。ですが、その師、とやらが本当に真理に近づいたのかどうかは判らないじゃないですか」
「な、何おーーっ!! って…あれっ?」
 で、ボクはそこではっ、と気づく。ぱぱぱっ、と目の周りを触ってみるけどある筈の物が無い。
 真理の目隠し。ボクのお師匠様が認めた弟子にだけ与えてくれていた魔法の布だ。…まぁ、ボクのはレプリカみたいだけど。
 見た目はどう見てもただの黒っぽい布なんだけど、青箱からしか出ない古代の魔法の目隠しと一緒で、
なんと、付けた人の魔力感受性を、ファミリアのソナー並に大幅に増幅してくれる優れものなのさっ。

 これを世界で一番最初に作ったのがボクの先生。ここからも先生の偉大さ、ってのがわかるよね。
 何せ、古い魔術装備の仕組みは今のペーペーの魔導師なんかじゃ一生かかっても解明できないくらい複雑なんだから。
 ま。解りやすく言うと何時でも使える暗視装置みたいなもの。
 これなら暗い夜でも安心かな──って、そんな悠長に講釈してる場合じゃないよっ!!
 もしも、あれが無くなったりなんかしたら困る。

 わさわさと辺りを探ってみると、ボクの目隠しは草の上にちょこんと乗っかっていた。
 ばっ、とひったくってそれを巻きつける。
 安心してボクは顔を上げると、何故か♂Wizがボクの事を関心したような目で見ていた。

「真理の目隠し…と言う事は、貴女は異端学派の方ですか。珍しい」
「異端言うなーーーーっ!!お師匠様こそは真理に一番近づいた人なんだからっ!!」
 で、出て着たのがまるで新種の大腸菌でも発見したような呟きだった。
 ボクはがーーーっ、と片手の拳を握りこんで力の限り叫ぶ。
 けど、○○○○は何か、少しも気にした風も無く、というかボクを置き去り気味に言葉を続けている。

「見ましたよ。彼の著作は一通り。ですが──まぁ、少々乱暴に過ぎましたね、彼は」
「誰が乱暴かーーーーっ!!って…キミもひょっとして?」
「ええ。まあ、愚人共に言わせれば私は異端であるらしいですね。
 最も、迷信、妄想、過去の類に閉じこもったまま一歩も外に出ようとしない人々に言われたくはありませんが…と、そうそう」
 そこで、ボクは♂Wizの目が僅かに怪しい光を湛えた気がして、思わずずざっ、と後ずさった。
 な、何っ!?何、その目っ!!なんていうか、それって何もしなくても暴虐陵辱拉致監禁の後に殺害だよ!!
 で、♂Wizは言った事には。

「貴女、私の実験材料になる気はありません?何、心配要りません。同じく真理を求めた者として、最大限の敬意は払…」
「あるかっ!!」
 すかーん、と間髪居れずにボクは+10ステックキャンディの突っ込みが彼の脳天に叩き付けた。
 大体実験って何さ。何処をどう聞いても怪しさ100%大爆発じゃないか。何の説明も無しで了解なんてボクには出来る訳なかった。
 しかし。流石は先生の大好物。攻撃力の面でも凄い。
 あっさり目の前でその場に崩れ落ちた変態を見て、ボクはそんな感想を抱いていた。

 それから暫くして。

「…ふむふむ。なる程、意外に美味しいものですね。このステックキャンディとか言う飴は」
 ボクは、などと言いつつそれをぺろぺろ舐めて糖分を補給する♂Wizの前で、疲れたような顔で項垂れていた。
 なんであんな目をしてて、しかもボクに散々殴られたのに飴一つで大人しくなるんだろとか思ったけど気にしない事にしておく。
 だって、研究日誌にも度々出てくる程の先生の大好物だしね。
 『○月×日。今日は云々の実験を行った。結果は良好。ステックキャンディは今日もおいちい』
 だから死神博士も感涙に咽ぶぐらいおいちぃおいちぃ、って事なんでしょ。
 多分。

 ──まぁ、本当の理由にもちょっとは興味があったりもするけどね。
 まっ、夜も近いし、聞き出すとしても明日かな、とは思うけど。

 えっ…何でボクがこの変態に対してもう怯えてないって?
 答えは簡単だよ。
 先生の教えを知ってる人は珍しいし、実はこの人、ボクでも簡単に取り押さえれる位に疲れ切ってたんだもん。
 なのに何故か魔法も使わずに、怒り出して刃物を振り上げてきたんだ。+10ステックキャンディが無かったら危ないとこだったよ。
 こう、振り下ろしてきた手をばちーん、てボクが叩いてナイフを弾いたとこなんて見せてあげたいくらい。
 ボクも相当疲れてたけど、これが若さの差って奴かな。フフン。
 全く。そんな今にも死にそうな顔してるくせに、実験とか言って若い子に襲い掛かろうっていう魂胆が駄目なんだよ。
 どーせ、倫理的に宜しくなくて、お子様には見せちゃいけないような事たくらんでたに違いない。
 勿論、縛った後で正座させてそいつの短慮を思いっきり叱ってやった。

 後、持ってたナイフは危ないからボクが取り上げて管理する事にした。○○○○に刃物って言うし。
 それに、この人もボクみたいな話し相手が欲しかったって白状したしね。
 や、取り押さえてマントで縛り上げた後、色々表面的な話を聞いてみた時に解ったんだけど。
 うんうん。こういう場所で同好の志に出会えるなんて人生解んないもんだよ。
 それにボクだって一人で行動するのは心もとない。
 本来なら市中引き回しの上打ち首獄門ものだけど、ボクは理性的なマジシャンだから許してあげよう。

 ──それだけだからね。決っっっっして誤解なんてしないよーに。 
 取っ組み合ったときにちょっぴり前掛けが外れたりなんかして、思いっきり前見られたのなんて少しも気にしてないんだからっ!!
 勿論その後で思いっきりぶん殴ってやったしさっ!!危うく顔面の骨格が歪むんじゃないかって思うぐらい。
 後、それに乗じて殴った訳じゃないからねっ、だって平地って感じで見とれるぐらい魅力的じゃ…。

 ……。

 ひっぐ…うぐ…うっうっ…。


<♂Wiz 持ち物 モノクル +10スティックキャンディ 場所:C3=>D6~C6の境目辺り>
<♀マジ 持ち物 真理の目隠し コンバットナイフ 場所:E5=>D6~C6の境目辺り>

 備考:♂Wizは(これでも)多分心根はマーダーのまま 
 但し、彼を同行者に選んだ♀マジの今後の扱いについては次の人任せ
 ♂Wiz、格闘で♀マジに負ける。そして縛られ正座の後開放。今に至る。
 一日目、夕方。    


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