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2-079

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079 誕生、悪ケミハウス [放送前]


辿り着いた海岸は東、だから水平線に太陽は沈まない。
薄暗い海は、深い闇、押しては返す波の音だけが、ざざー、ざざーと海辺に響く。
かろうじて視認できた海岸線の形状と、配布された地図から、
区切られたエリアにおけるさらに詳細な位置を特定すると、
海岸から少し離れたところで火を起こし、お湯を沸かしている悪ケミの元へ歩み寄った。

悪ケミは沸かしたお湯に、岩場からここまでの道中で偶然発見し採取した数枚の黄ハーブを浸し、
始まりの場で渡された水筒に、そのお湯を戻す作業をしていた。
お湯を沸かすのに使った鍋、これもまたどこかから見つけてきたのだろう。
なるほど、戦闘面はともかく、サバイバルな方面での才能は優れているらしい。

「うふふー、効果は薄いけどお手製の黄ハーブティーができたわよー」

私がすぐ側まで近づいてきているにも係らず、彼女はその作業に熱中していた。

「場所の特定は済んだよ」

私の声に、彼女は私を見、水筒を私に向けて差し出す。
受け取り、今度は私の水筒を彼女に手渡す。
お互いに水筒の水を彼女の黄ハーブティにしておこうというわけだ。

「世界せーふくのためには子分にだって飴をあげなくちゃ。
 あんたには私の手足となって働いてもらわなくちゃいけないんだからね」

彼女はそう言ってかわいらしく笑う。
そんな彼女の顔がもう少し良く見えるように、私は彼女が座っている岩のとなり、
これまた座るには手ごろな形の岩を見つけ、そこに座る。

「ちょっと、近づきすぎじゃない?」

暗くなったためかサングラスを外した彼女の目が私を威嚇する。
焚き火のせいかどうかは分からないけど、彼女のやわらかそうな頬はほんのり紅い。

「仕方がないのです。私はひとりではとてもこの島で生きていけない忍者なのですから」

「会ったときもそんなこと言ってたけど、ホントにそんな職業あるわけ?
 私、聞いたこと無いんだけど」

どうやらすぐ側に座ることには許可が下りたらしい。
私は配給された鞄の中から干し肉を取り出し、はむはむとその味を噛み締める。
悪ケミはそんな私の食事をじーっと見て、そして、自分も干し肉を取り出して食べ始めた。

「あんまり美味しくないわね、これ」
「うん」

「なんでこんなことになっちゃったのかしらね」
「うん」

「これからどうしたらいいのかしらね、私たち」
「うん」

ぎろり、悪ケミの視線が私を、もう少し何か気が利く台詞でも吐きなさいよ、と言わんばかりに突き刺す。
だからといって、私にもこれから先の名案なんてものはない。

「向こうのほうに灯台が見えたけど、それ以外はなにも、脱出の手がかりはなにも見つからなかったよ」

私の言葉に悪ケミは軽くため息。手の中の干し肉をちぎって、口に入れる。

「灯台、夜を過ごすには一見安全そうだけど、逆に人と出会いそうで危ないわ。
 今夜はこのあたりの岩陰で休むしかなさそうねー」

不満そうな顔をして、さらに干し肉のちぎった一切れを口に入れる。
灯台を目指すわ、なんて言われたらどうやって止めようかと考えていた私は、
意外と冷静な彼女の判断に少し驚く。

「でもね、そうすると、野宿することになるけど大丈夫かい?」

私は気まぐれからか、少し意地悪な質問を投げかける。
年頃の少女にはかなり答えづらい質問であろうことは分かっていた。
けれど、聞いておかなければ今日の宿が決まらないのだ。
私は少し微笑みながら、彼女の答えを待った。

「そこで、じゃじゃーん。あれをさっき見つけておいたのよー」

彼女が指差した先には、人が十分に入れそうなほどの大きさのダンボールが丁寧に畳められていた。
なぜこんなところにダンボールが?という疑問はおそらく意味がない。
神様の気まぐれか、それとも道化師が用意した素敵な素敵なアトラクションの小道具か。
そんなことは私には分からないのだから。

「そして、じゃじゃーん、なぜか都合よく鞄の中にマジックペンが入っていたのよね♪」

最高の一品が鞄の中から出てきたような最高の笑顔を浮かべて、彼女はマジックペンを私に見せる。
一体全体このマジックペンのなにが彼女をここまで興奮させるのか私には分からない。
身を護るための武器や防具の方がよっぽど良いはずなのに、と思う。
眉をひそめたまま固まっている私をよそに、彼女はダンボールをせっせせっせと組み立てて行く。
見事な手際だ。彼女のどこにそんな才能が眠っていたのだろう。
引越し業者でもかくはいくまい、と言った早業に私の目は釘付けになる。

そして僅か数分後。見事なダンボールハウスが完成した。
おそらくこれが今宵の寝床、ということなのだろう。
しかし、どう見てもそのサイズは大人ひとりが寝るのがやっとのように見える。

「そこにふたりで寝るのかい?」

確認のため、彼女に質問する。ぴくぴく、質問を聞いた彼女の眉が動く。
顔がリンゴのように真っ赤に染まる。照れているのか怒っているのか、私にはよく分からない。

「なに言ってるのよ、これは私の、私専用のお家に決まってるじゃないの!
 あんたなんて子分なんだから見張りよ、見張り。外で見張ってなさいよ」

うがぁーー、と噛み付いてきそうな勢いでまくしたてる悪ケミに、思わず後ずさる。
しまった、さすがに攻めすぎた、らしい。

「それじゃ、あとはよろしくね」

そういって彼女はそのダンボールハウスに近づき、そして、
ダンボールハウスの側面に先ほどのマジックペンで何かを書いてから中へと入っていった。

そろりそろりと近づき、先ほど書いていた文字を目を凝らして読み取る。
書いてあった言葉に、くくと笑い、そして私は再び焚き火の位置へと戻り、火を消した。

ダンボールでできた悪ケミハウス、その側面には───

『一日一悪』

───と書かれていた。

〈悪ケミ>
現在位置:海岸(H-7)
所持品:バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式
外見特徴:不明
思考:脱出する。まずは海岸に向かう
備考:悪ケミハウスで就寝
参考スレッド:悪ケミハウスは三箱目

〈忍者>
現在位置:海岸(H-7)
所持品:黄ハーブティ、その他不明(おそらく青箱x2)
外見特徴:不明
思考:悪ケミについていく。殺し合いは避けたい

<残り40名>


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