バトルROワイアル@Wiki NG2-06


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NG.思惑



「……どうも、おかしい」
広くはないが狭くもなく、それどころか窓すら無い。壁にかけられた燭台だけが唯一の灯りという殺風景な執務室の中、分厚くファイリングされた参加者たちの名簿を読み返していたピエロ帽の男――GMジョーカーは、形のよい眉をひそめた。
参加者たちに見せた残酷で軽薄など受けの笑みは、そこにはない。この男にも人並みの感情があったのかと思わせるほどに、その顔は不快感をあらわにしていた。
「まったく、愉快ではありませんね。ええ、不愉快です。不快です最悪です」
GMジョーカーはファイルから二人分の書類を抜き出すと、机の中からもう一冊――こちらはやや薄い――ファイルブックを取り出して、他の監視者が詰めるラウンジへと大股で向かっていった。
ラウンジの扉を押し開け、GMジョーカーはそこにいるはずの二人組を探した。
「ちょっとお話を伺ってもよろしいですかな? GM橘さん、GM森さん?」
GMジョーカーの呼びかけにゲームを監視していた二人の男たちが、驚いたように振り返った。
「な、何用ですかな……GMジョーカー」
「ああ。席は立たなくて結構ですよ。そのまま座って、私の質問に答えてくださればいいんです」
にっこりとGMジョーカーはGM橘たちに笑みを見せた。哀れな参加者たちに向けたのと同じ、仮面のような微笑を。
「質問……とは?」
「ええ、これのことですよ」
銀縁眼鏡の奥から睨みつけてくるGM橘の前に、GMジョーカーは抜き出したファイルを突きつけた。
そこに書かれていたのは、♂騎士と♀プリーストの項目だった。
「貴様、何を言ってるんだ! 私にはさっぱり分からんぞ!?」
GM森が激昂して椅子を蹴って立ち上がる。その隣でGM橘が小さく「この馬鹿め」と舌打ちした。
この態度だけで充分に確証は得たが、GMジョーカーは気づいてない振りをして続けた。
「私が事前に騎士団と教会から受け取ったこのファイルと、あなた方にまとめてもらったこのファイル――どうも齟齬があるようですが……どういったことですかな?」
薄いファイルを彼らの前に放り投げ、GMジョーカーは小首を傾げてみせた。年端も行かない少女なら、その仕草は愛らしいと言えたかもしれないが、冷たい微笑を浮かべた男が見せる仕草としては、これ以上に威圧感のあるものは無い。
「……いえ、存じませんね。確かに私が受け取った資料には、彼らの名前が書いてあったと記憶しておりますが」
「そ、そうだ。その通りだ」
GMジョーカーの静かに威圧を含んだ問いかけに、GM森は見るからにうろたえていたがGM橘は普段と変わらぬ平静さで答えた。
「ほう。では、彼ら二人が今、同じ場所にいることもご存知ではないと?」
「そんなものは偶然でしょう。移送方陣に乱数移動の呪を付加しているのですから、偶然、彼らが同じ場所に辿り着いてもおかしくはない」
「彼らは元から顔見知りのようですが?」
「元々、このゲームは各ギルドのはみ出し者や落伍者を集めているんですよ。類は友を呼ぶといいますから、それで顔見知りなのでは?」
「つまり、これはすべて偶然で、あなた方二人はまったく知らない……と仰る?」
「ええ、残念ながら」
沈黙がラウンジに落ちる。この場に詰めている一般兵士たちにも、この場が静寂と見せかけて一触即発の雰囲気を孕んでいることは明らかだった。
「……そうですか。ならば、仕方ありませんね」
だが、その沈黙を破ったのはもたらした張本人のGMジョーカーだった。
兵士たちの安堵の溜息が漏れる中、彼はダンスのステップのように軽やかに踵を返して扉へと向かった。
「あなた方お二人が知らないのであれば、これは仕方の無いことでございますな。知らないことは分からない。分かっていたら知っている。いやはや、これぞ真に名言の中の名言でござい」
慇懃で滑稽な口調で、ピエロの帽子をかぶったGMは歌う。そして扉の前で、彼は喜劇的な優雅さで振り返った。
「つーことは、てめえらが書類の不備もロクに読めねえ無能だって事だよな?」
「――なっ!?」
ラウンジのすべての人間が彼の暴言に驚愕していた刹那の間に、GMジョーカーはGM森の眼前に立っていた。それは、開幕の際に♀モンクが見せた残影と呼ばれる歩法そのものであった。
「き、貴様ぁッ!」
GM森が逆毛をさらに逆立たせ、拳を振り上げる。しかし、GMジョーカーは優しささえ感じられる動きでGM森の胸元に掌を当てた。
「――破ッ!」
普段の彼からは想像もつかない裂帛の気合が迸り、肉塊を鉄板で思いっきり打ち据えたような異音が響いた。
たったそれだけだった。
それだけなのに、GM森は目から耳から鼻腔から口腔から――身体中の穴という穴から体液を噴いて、前のめりに崩れ落ちた。瞬く間にGMの白装束はどす黒く染まり、床に赤が広がってゆく。
本来ならば、殺戮ゲームの渦中にありながら主催者側という最も遠い場所にあるはずのラウンジに、濃密な死の気配が満たされてゆく。
「お、おのれ――っ!」
恐慌の一歩手前、顔面を蒼白にしてGM橘が叫んだ。腰に下げた魔剣バルムンを、さすがはGMというべき手練でGMジョーカーへと繰り出す。魔力の熱を帯びた神速の切っ先が、GMジョーカーの顔面に迫り――
「オートカウンター!」
左手であっさりといなされた。突き出される剣の腹を裏拳で叩き、その軌道を逸らしたのだ。
それでもなおGM橘はGMジョーカーの首を狙うべく剣を引き戻す。だが、それよりも速く、鋭角に振り落とされたGMジョーカーの右拳が彼のこめかみを文字通り抉っていた。
致死的な一撃に側頭部の左半分を潰され、GM橘が独楽のように宙を舞う。GM森の死体の上に落下した彼は、しばし健気に痙攣などしていたが、それもすぐに止まる。
元同僚の死体を冷ややかに見下しながら、GMジョーカーは深く嘆息した。
「はぁ……どうせ、闇賭博の胴元でもやってたんでしょう。小遣い稼ぎなら、余所でやってくださいよ。まったくもって迷惑千万。あ、そこの君、この汚いゴミを片付けといてくださいましな」
恐怖に身を固まらせている兵士の一人に指図して、GMジョーカーはラウンジから出て行った。
執務室に戻る廊下を歩きながら、叩き殺したGMたちの思惑を想像する。
大方あの二人は、♂騎士と♀プリーストが勝ち残れるように陰で細工する気だったのだろう。支給品は♂ローグに与える袋を選ぶ際に自分がチェックしたから問題はないが、他に何か仕掛けている可能性もあり得る話だ。
ならば、ゲームの進行に支障きたす前に、彼らをBANしてしまうべきか。
「否。アドリブ無きはただの脚本に過ぎず、アドリブこそが名優を創る――予測のつかぬ惨劇ならば、それも尚更」
三日月のようにつり上がった唇から漏れるのは、仮面ではない血の通った暗い笑み。
「これは、女王陛下のために捧げられた即興劇。美しく麗しく理知なる陛下の無聊を慰めるためだけの道化芝居。舞って回ってくるくる狂う、狂気と疑念の舞踏会。惨殺と憤死で彩られた血塗れの博覧会――」
雨垂れのごとき微かな笑いは、次第に強く大きく哄笑へと変わってゆく。
「さあさ、皆様。愚者と道化と狂女が織り成す血と涙と嗤いと死の惨劇をとくとご覧あれ!」
GMジョーカーの高笑いは、いつ果てることなく続いていた。


<残り46人>


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