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2-084

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084 暗い夜 [定時放送後・深夜]


暗い。
森の中である。襲撃の的にされぬよう火を焚くわけにもいかず、わだかまる闇の中で
♀クルセは木の幹にもたれ、空を見上げる。
やはり、暗い。
黒々とした木々の天蓋を通して、わずかばかりの星の瞬きが見えた。それは昨日まで
見上げていたものと変わらないはずなのに、急に遠くなってしまったように彼女には思えた。
なぜ、こんなに暗いのだろう。
鬱蒼とした木々の陰のせいというだけではない。この島そのものがはらむ闇の気配とでも
言うべきものが、彼女の視界にも、そして心にも暗くのしかかってくる。
血と殺戮、死と恐怖の空気が充満したこの島。あの道化師の忌わしい放送によれば、
すでに9人の人間が二度と復活すら適わぬ死に見舞われたことになる。
そしてそれは即ち、彼らに死をもたらした者がいるということ。今この瞬間にだって、
森の闇の向こうからいつ死神がやってくるかわからないのだ。
夜がこんなに恐ろしいのは、まだ幼い少女だった頃以来だろうか。
昼間の記憶が蘇る。瞳に狂気をたたえたあの男。おそらく♂アルケミが乱入して
くれなければ、あのまま切り刻まれ、彼の「モルモット」とやらになっていたに違いない。
『死亡者は、♀クルセさん――』
自らの名があの道化師の口から呼ばれるのを想像して、言いようもない悪寒に襲われ、
身をかばうように膝を引き寄せる。
脇腹の傷がずきずきと痛む。♂アルケミが道中でわずかながらハーブを見つけ、
石ですり潰したそれを傷に当ててくれたので、傷口から毒素が入る危険はないだろうし、
もしかすると明日には傷も塞がるだろう。それでも、かなりの体力を奪われてしまったのは
いかんともしがたい。
弱気な考えになるのは消耗しているせいだ。
いけない。気を強く持たないと。
「なぁ」
そう思ったとき、夜の向こうから控えめな声がかけられた。今は眠っているはずの
♂アルケミの声。この島で私が頼るべき、今はたった一つの絆。
「あ……なんですか?」
こちらも小声で返す。万一他の人間に位置を悟られないよう、という配慮もあったが、
それ以上に自分の声はひどく心細く響いた。
「大丈夫か?」
「あ、はい……誰かが来そうな気配とか、変な様子は何も……」
「違うよ。君は大丈夫なのか?」
その言葉を聴いた瞬間、♀クルセの目から涙がこぼれた。ぽろ、ぽろ。
大粒の雫が膝を濡らす。
「う、く……」
こらえようとしても溢れ出てくる。その肩に誰かがそっと手を置いた。
「泣けるのも今のうちだ。泣いとけ」
「でもっ……ひっく……」
いつの間にか起きていた♂アルケミに、背中をぽんぽんと叩かれる。
「そりゃ、正直言えば、俺だって怖いのさ。でもな……男ってのは困ったもんで、
こういう時はカッコつけずにいられないんだ」
「うくっ……あ、ぅ……うぅぅ……っ!」
♂アルケミの胸に顔をうずめるように、♀クルセは泣き崩れていた。
一度堰を切った感情は止められず、涙が♂アルケミの服を濡らしていく。
震える背中を、♂アルケミはあやすようにずっと撫でていた。
ごめんなさい。でも、今だけ……泣かせてください。
涙と一緒に恐怖を洗い流して。その代わりに、運命に立ち向かう勇気を。

「落ち着いたか?」
まだ小さくしゃくりあげる♀クルセの背中を抱きながら、♂アルケミは声を掛ける。
「はい……ごめんなさい。守るだなんて偉そうなこと言って、こんな風に……」
「いいさ。女の子に胸で泣かれるなんて、男としちゃ本望だ」
冗談とも本気ともつかない口調でそんなことを言う。
それがおかしくて、♀クルセはくすりと笑った。
「♂アルケミさん」
す、と手のひらを上げて見せる。
「ん?」
答えるように♂アルケミが上げた手のひらに手を合わせ、唱える。
『我、♀クルセイダー、汝、♂アルケミストの盾にして血肉なり。我が血肉と魂のことごとく、
汝に献身す。汝が苦痛、汝が罪、一切は我が魂によってあがなわれるものなり』
ぼう、と青白い光が手を包む。
『……Devotion』
光が広がり、ぼんやりと二人の体を包み込んだ。ゆっくりと手を離すと、手の間に
光の糸が伸びる。二人を繋ぐ絆の糸。
その時、すぅ、と青白い光が木々の隙間から差し込んで、二人の姿を照らし出した。
暗いとばかり思っていたのは、気づかなかっただけで。
こんなにも暗い夜も、照らしてくれる光があるではないか。
まだ涙の跡が残る顔のまま、それでも力強く、♀クルセは言った。
「私が、あなたを守ります」


<♂アルケミ>
現在位置:E-4(森)
所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本
外見特徴:BSデフォ・青(csm:4j0g50k2)
備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る、ファザコン気味?、半製造型

<♀クルセ>
現在位置:E-4(森)
所持品:レイピア、青箱(未開封)
外見特徴:剣士デフォロング・黒(csf:4j0270g2)
備考:守る対象を探す(今は♂ケミに同行)、右脇腹に負傷(治癒しつつある)、
   献身Vitバランス型 ※肩と足の傷は治癒


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