バトルROワイアル@Wiki 2-092


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092 別離


さて…どうしたものか。

彼の思考は晴れていた。
突然降って来た女―――♀マジとの会話も、ある意味での休息となった。
行動を起こすには十分な状態である。
問題は未だ共にいる彼女だ。
確かに、自分をのっけから否定しないところには少なからず好印象を抱いた。
しかし、どうも調子が狂う。
ここに来て最初に聖騎士を襲ったときは、確かに先を予測し、的確な攻撃を繰り出すことが出来たというのに、この少女のときはそれが出来なかった。
疲れもあった、意外性もあった。だがそれだけでは、この自分の不調の裏づけにはならない。
この少女特有の何かがあるということか。
それとも自分自身が腑抜けてしまっただけなのか。


いつでも彼は自信に満ちていた。
それこそ魔術、学力などは当然のこと。
格闘でさえも、相手の動きを分析し、予測することができれば負ける気は無かった。
身体能力が元々低いわけでもなかったし、そういう意味では確かに才能が優れていたと言える。
だがそれだけでなく、彼は見えないところでの努力も欠かさなかった。
その結果の実力なのだが、彼の不器用さがそれをそう感じさせなかった。
「冷たい」「面白くない」「鼻持ちならない」
彼について回る評価は、このようなもの。
陰口などは日常茶飯事。研究の成果をまとめた用紙を、全て焼き捨てられたこともあった。
―全く理解できない。そんなことをしたところで、己を高められるわけでもないのに。
確かに無駄だった。陰口など意に介すことなどなかったし、研究成果は全て頭に入っていた。
だけど、それでも度重なれば気分を害されるのが人というもので。
表面はいつもどおりでも、自分でも気づかないうちに、苦しさは感じていた。彼は確かにそのとき、人間だった。

いつの日か、彼は他者を見下すようになった。
何の役にも立たないくせに、人の邪魔をすることだけは達者な、無駄な存在。
それが、彼の「人」に対する認識。
無駄なものは出来る限り取り除く。普段の研究でも、効率を上げるために重要なこと。
―だったら私は、一人で良い。
ウィザードになった日を転機に、彼は魔術師の集まる街を出た。
だが、一人になろうとして街を出た彼に、協会に無理を言ってまでついてきた者がいた。

その者は、彼にしてみれば、まるで無駄だらけで。
いつだって結果の分かりきった実験に、真剣な顔で取り組んで。
ある日彼がそれを馬鹿にすると、こう言ったのだ。
「自分で確かめないと、信じられないからね」
彼には理解できなかった。
くだらない、と去ろうとする彼に、彼女は続けて言った。
「君、嫌な奴って言われてるけど、全然そんな事ないよね。この前、ずっと一人で散らばった書類まとめてるの見たし、3日前なんて野良犬に餌あげてるの見ちゃった。私も嫌な奴だと思ってたんだけど、すっかりイメージ変わっちゃったよ」
彼は言葉を失った。
驚いたのもあったし、恥ずかしいと思う気持ちもあった。
「それは、書類が散らばってたら研究の邪魔だからで、犬は…その」
顔が熱くなるのを感じながら急いで言い訳を考える。
だけど、浮かばない。
こんなことは初めてだった。
弁論で負けたことはなかったし、だからこそ彼は余計に嫌われていた。
「犬は…何?」
凄く嬉しそうな顔でこっちを見ている。
全く理解できない。何がそんなに嬉しいのか。
彼が思考をグルグル巡らせていると。
「ほらね。確かめなくちゃ分からないでしょ?」
彼女はそうやって、花のように微笑むのだった。

彼女は変わっていた。
彼の陰口を叩くものがいれば、後ろからど突き倒した。
その後物凄い勢いで説教をしては、その声が五月蠅いと教官から指導され。
彼の書類が焼かれているのを見ると、一緒になって復元作業をする。(実際彼一人の方が効率が良かったのだが)
彼にしてみれば、本当に無駄だらけだった。
そのせいで嫌われることもあるだろうに。やりたい事だってあるだろうに。
―理解、できません…。
そう思いながらも、彼女を突き放すことは出来なかった。
何故なら、いつの日か彼は、彼女の存在を必要としていたから。

自分は弱くなったのだろうか。
二人で暮らすようになってしばらくしたある日。
ふと、深く考え込んでしまった。
「また難しいこと考えてるのー?」
頬を突かれて我に返る。そして、五月蠅いなと彼女を押し返す。
いつの間にか当たり前になったやり取り。
もう一度考える。
―私は、弱くなったのか?
答えは、出なかった。
否、必要なかった。
そのとき彼は確かに、幸せを感じていたのだから。

だけど。
幸せというのは、時に無慈悲なほど容易く離れていくもので。
彼女は。彼が受け入れた彼女は。
まるで全てが嘘であったかのように。
この世から、彼の腕から、去って行ってしまった。

自分はどれだけのことを彼女にしてやれたのか。
いつでも私に与え続けてくれた彼女に私は、一体、何を。
浮かばない。いくら考えても浮かばないのだ。
湧いてくるのは、碌に笑うことも出来なかったことへの後悔のみ。
―もう一度彼女に会えたなら、そのときこそ、私は。
ああ。心から笑ってやれるのだろうか。
答えは未だ見えない。だから求め続ける。その答えを手に入れるため、彼は真理を求め続ける。
だから。
―私は、止まるわけにはいかない。


ひとしきり思考を巡らせた彼は、過去の夢から現実へと戻る。
くつくつと、小さく笑いを漏らした。
目の前には不思議そうな顔をした♀マジ。
「どーでも良いけど、やっぱりその飴返してもらって良い…って何いきなり笑ってんのさ。気味悪いよ」
「…そう、私は止まるわけには…」
「あーもうっ!目の前にボクがいるのに一人の世界に入るなー!」
そう叫んだ彼女の視界を、いきなり手の平が遮った。
「…え?」
「良いですか?良く聞いてください。貴方が奪った私のナイフを返していただきます。今すぐに、です」
何が起こったのか、これが本当に先ほどまでヨロヨロしていた男と同一人物なのか、♀マジは理解できなかった。
ただ感じるのは、得体の知れない恐怖。
「それを渡したら、今すぐ私の目の前から消えてください。なかなかに楽しい時間を過ごさせてくれたお礼に、今は殺さないでおいて差し上げます。…言っておきますが、抵抗はしないように。その気になれば、貴方を今すぐ葬ることも可能です」
カタカタと震える手で、コンバットナイフを差し出す。
指の隙間から見た彼の目は、先ほどまでの間の抜けたものではなく、生きているとは思えないほどあまりにも冷たく、全ての時間が止まったように冷え切っていて。
そして、何より悲しそうで。
「良い判断です。…さて、早く逃げた方が懸命ですよ。いつ私の気持ちが変わるか、分かりませんからね」
「―っ!」
♀マジは慌てて駆け出した。
方向感覚なんてさっぱりなかった。それどころか平衡感覚も怪しい。
ただただ駆けた。彼から、恐怖から、死から逃げるために。

♀マジが西へと逃げていくのを見て、♂Wizは一つ、大きく息をついた。
―さて、次からは本気で行くとしましょう。貴重な実験対象に傷がつくのは少々残念ですが、そろそろそんなことを厭っていられない状況です。
モルモットたちを狙っているのは自分だけではない。
下賎な輩が、自分の興味対象を奪っていくのは許しがたい。
「待っていてください…」
呟き、彼はゆっくりと、東へと歩き出す。
空には煌々と輝く月。
それを映して、彼の握ったナイフがぎらりと鈍く光を放った。


<♂Wiz>
現在位置:D6~C6の境目辺り→D6から東へ
所持品:コンバットナイフ、片目眼鏡、+10スティックキャンディー
備考:「研究」のために他者を殺害。黒髪。土気色肌。丁寧口調。マッド。

<♀マジ>
現在位置:D6~C6の境目辺り→C6方面西へ
所持品:真理の目隠し
備考:ボクっ子。スタイルにコンプレックス有り。氷雷マジ。異端学派。


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