バトルROワイアル@Wiki

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another:守るべきもの [2日目・朝]


襲撃は突然だった。
森の中から飛び出した人影に気づいた時には、すでに懐に入り込まれていた。
がきん、と金属の擦れる音。
「あなたはっ……!」
間一髪で引き出したレイピアでバスタードソードを受け止めながら、♀クルセが
驚愕の声を上げる。突然の襲撃者は、彼らがあまりにも見知った人物であったから。
ぶん、と横合いからの攻撃にグラリスが飛び退く。
「グラリス……カプラ職員のあんたまでか」
驚きから立ち直ったらしい♂アルケミが援護に入ったのだ。
強度のないレイピアでは鍔迫り合いは圧倒的に不利だ。
グラリスは返答の代わりに、剣を振るう。
「くっ……殺し合いには乗り気ってことかよっ!」
重い剣を受け止める甲高い音が立て続けに響く。♂アルケミのほうは学究肌かと読んだが、
意外にやる。強度に劣る杖で、うまく刃を受け流し、さばいている。
(ならば、やはりこれ……!)
一瞬のフェイントを交えて、ぶんと剣を振るう。
「くっ!」
ぎぃん! とその太刀筋をぎりぎりでさばいた瞬間――
「う……?」
ぐらり、と意識が揺れる。腿に突き立てられた細いもの。
(しまった、逆もフェイント――スリープアローか――?)
ごうと耳元で風がうなるのを感じながら、意識が閉ざされる。
「♂アルケミさん!」
♀クルセが叫ぶ。動きの止まった♂アルケミにグラリスの剣が振るわれる。
割って入るのは間に合わないと判断した♀クルセは、その術を行使する。
『契約により、我、汝の盾とならん!』
糸のような光が伸び、二人を繋ぐ。グラリスの刃が♂アルケミを袈裟懸けに切り払ったのは、
その直後だった。
「あ、ぐっ……!」
焼けるような痛み。何度も感じた鈍い衝撃は、肋骨をやられたのだろうか。
ぼたぼたと足元に血が滴る。
グラリスも一瞬戸惑っていた。確かに斬りつけたはずなのに、肉を切り骨を断つ感触は
あったのに、傷が浅い。その直後、背後で上がった呻き声に、事態を理解する。
「献身とはね……やられましたわ」
他者の傷を自らの身体に移し変える奇跡にして、クルセイダーでも修める者は数少ない
奥義の一つ。
その場に倒れこんだ♂アルケミにひとまず背を向け、♀クルセに向き直る。
「それに、よもやこの島でそんな奇跡を行使しようなどと考える方がいらっしゃるとは……」
この二人がもともと知り合いだったとも思えない。わずかな時間で、
よほどの信頼関係を築いたらしい。
「私は……この人を守ると決めました」
♀クルセは油断なくレイピアを構えている。だが先ほどの傷がこの娘の身体に刻まれたのなら、
間違いなく重傷のはずだ。それが証拠に、剣先は微妙に震え、血の溜まった足元もややおぼつかない。
「見ず知らずの男を? あなたに何の見返りがあるのかしら?」
このまま攻めれば容易に崩せる。そう判断し、一気に切りかかる。激しい剣戟の音が響いた。
「見返りなんて……求めていません! 一緒に生き残りたいだけです!」
技術はあるようだが、やはり傷が響いているのだろう。たちまちグラリスが押し始めた。
♀クルセはずるずると後退していく。
「いずれ一人しか残れないのに? その時あの方はあなたを襲うかもしれませんわよ?」
同時に言葉でも♀クルセを攻め立てる。この娘の剣には躊躇いがある。この殺戮の島で、
まだ甘い幻想を見続けているのだ。ならば、それを突いてやれば心を崩すのは容易い。
「カプラ職員の……グラリスさんの台詞とも思えません!」
泣きそうな声。そんな仮面にもはや何の意味がある。この場では殺すか殺されるか、
それしか道はないというのに。どこまでも甘い娘。
「……ああ、それとも」
そうだ、この娘の表情には見覚えがある。戦場にもいた愚か者の表情。
「あの方に恋でもしたのかしら?」
一瞬、♀クルセの動きに動揺が走ったのをグラリスは見逃さなかった。
死角から一気にバスタードソードを叩きつける。
ぎぃん!
鈍い音と共に勝負は決していた。半ばから断ち折れたレイピアの刃が宙を舞い、
乾いた音を立てて地面に転がる。
そして♀クルセががくりと膝を突いた。彼女の身体に突き立ったままだったバスタードソードの
刃がずるりと抜ける。簡素な鎧ごと断ち切られた腹部から、どくどくと血が溢れ出した。
(あら、図星だったのね。半分カマをかけたつもりだったのだけど)
こういう手合いは戦場にもいた。だがそういう人間は、ほぼ例外なく長生きは出来ないものだ。
そうした感情は思考を鈍らせ、一瞬の判断を曇らせる。そしてその一瞬こそが、戦場においては命取りとなる。
確かに、♂アルケミの傷を引き受けながら、しかも重量や強度で圧倒的に劣るレイピアで、
ここまで自分と戦ったことは賞賛に値するが、けれどそれだけだ。
熱に浮かされた小娘ごときに後れを取る自分ではない。もうこの娘は動けまい。
彼女に止めを刺し、その後は♂アルケミを始末するだけだ。
そして、一刻も早くWを探さなくてはならない。
「……ど、し……て……」
腹を押さえ、喉にこみ上げる血で激しく咳込みながら♀クルセが呻くように言う。
それは何に対する問いかけなのか。
どうしてあなたは殺すのか? どうして自分の心がわかったのか? どうして自分は勝てなかったのか?
どれでもあり、どれでもないようにも思う。わかったところでグラリスには答えるつもりもなかった。
だが、♀クルセに近づきながら、我知らずグラリスは話していた。
「あなたは、あの♂アルケミストを守ると言いましたね」
苦しげに息をしながら♀クルセが顔を上げる。
その首筋にぴたりと刃を当てて、グラリスは続けた。
「ですがあなたは私に勝てなかった。今なら私はあなたの見ている前であの方を殺すことも
出来ます」
♀クルセが辛そうに表情をゆがめる。
あのバードにでも影響を受けたのか。さっきから自分は喋りすぎているとグラリスは思う。
「守るというなら、何をしてでも最後まで守りきるべきなのです。あなたにはその覚悟がなかった。
あなたがここで死んだ後、あのアルケミストも私が殺します。あなたは結局、誰も守れない」
けれども言葉が止められない。それは、半ば自分に向けた言葉でもあったからか。
「そして、私にも守らなければならないものがあるの……だから、死んで頂戴?」
ずっ、とバスタードソードの刃が走る。
♀クルセの首筋から迸った熱い血が、グラリスの顔を濡らした。
「か、く……ぁ……」
♀クルセの唇から発される音はもはや言葉になってはおらず、代わりにごぼごぼと
血が溢れ出るのみ。
それをグラリスは眼鏡越しに見下ろしていた。

「っ!」
背後に殺気を感じ、とっさに頭を下げて横に飛び退くと、さっきまで自分のいた空間を風が薙いでいた。
「あら……王子様のご登場ですか」
そこにはマイトスタッフを握り締めた♂アルケミが立っていた。
「でも遅かったようですわね? この方はあなたを守ると言って死にました」
まだ♀クルセの血に濡れたバスタードソードを構える。
「そしてあなたも……」
「黙れよ」
怒りの声ではなかった。かといって震えてもいなかった。
「それ以上、その子を侮辱するのは許さねえ。俺はあんたには殺されない」
♂アルケミは静かに泣いていた。
けれどその目は、悲しみに打ちひしがれたものではなく、さりとて怒りに我を失ったものでもなく。
その奥の静かな感情は、今のグラリスをして総毛立たせた。
眼鏡の奥の目がすっと細められて。
「いいでしょう……あの♀クルセイダーさんに報いる気持ちがあるのなら、生き延びて御覧なさい」
何かがこの男の中で変わったようだ。もはやくみし易しなどとは思うまい。
グラリスは剣を構え直した。

<グラリス 現在位置:F-3
 TBlバスタードソード、メイルオブリーディング、DCカタール、羽根帽子、スリーピングアロー、普通の矢筒、案内要員の鞄
 左脇腹負傷、激しい動きをすると激痛>
<♂アルケミスト 現在位置:F-3
 マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10個
 腿に矢傷、胸部負傷(ディボーションの効果で軽傷)>
<♀クルセイダー 現在位置:F-3
 レイピア(破壊)、青箱1個
 全身に重傷、瀕死>

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