バトルROワイアル@Wiki

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128 Don't cry for lady and....


「うあああああああっ」
 ♂アルケミストが泣いている。彼の目の前で、死んでしまった名も知らない少女の為に泣いている。
 それを見て♂騎士は知らず、叫びだしたい様な衝動に駆られていた。
 どうにかそれを押し留める。自分はそれはしてはならない事だ、と思った。
 しかし、だからと言って目の前で泣いている男にかける言葉が見つかるという訳ではなかった。
 なぜなら。泣いている彼がどんなにか辛いのかを♂騎士は知っていて。
 まさにその時に、慰める言葉なんてたった一つも存在しない事も知っていたので。

「♀クルセッ…♀クルセ…っ!!どうして…お前、俺を守るって…そう言ったじゃないか!!
 だったら、何でこんな…っ。畜生…畜生ぉぉぉぉぉぉっ!!」
 ああ。♂アルケミストよ。♂騎士は思う。
 お前も、俺と同じになってしまったのか。
 このクソッタレな島で、自分の大切な人を失ったのか。
 泣き叫ぶ彼を見ながら騎士はそう確信していた。

 彼のその考えを証明するかのように、首が半分千切れかけた♀クルセイダーの亡骸は、赤く。ただ赤く。物言わぬ。
 虚ろな瞳。何処も見ていない。それは死体。紛れもない死人。
 泣くな。ここで泣いたら嘘だ。と、♂騎士は自分に言い聞かせた。
 目の前の少女を自分は知らない。ならばその涙は♀クルセの為ではなく。
 だから泣けない。泣くわけにはいかない。

 だが。泣けないなら、一体何をすればいいと言うのか?
 今ここで♂アルケミストを説き伏せる?まさか。
 誰もが誰も聖人みたいに悟りを開いている訳ではない。
 なら、背を押すか?今さっきの、仇をとる為にカプラ職員を殺せと。
 冗談じゃない。それは余りにも薄汚い。
 答えなんて、出そうも無い。だから結論は保留して、少なくとも男が泣くのに♂騎士は任せた。
 もしもの時の為に、一応はツルギの鯉口に手を走らせていたけれども。

 やがて、真っ赤に泣きはらした顔で♂アルケミストが立ち上がった。
 そこで初めて♂騎士の存在に気づいたのか、振り向きながら睨みつける。
 慌てて騎士は手を振りながら♂アルケミストに言葉を投げた。

「俺はやる気じゃない。勘違いしないでくれ」
 それを見ながら、しかし尚♂アルケミストは胡乱げな目で♂騎士を睨んでいた。
 信用できないに違いない。マイトスタッフを握りなおし、油断無く身構えている。
 ♂騎士は思う。確かに、アレで殴られたらきっと痛いだろうが、それでも俺はそれなりに剣技には自信が──っと。
 良くない。この思考は良くない。どうして、こう、殺し合いの方に思考が向いているんだ?
 殺しは俺には向いてないし、殺して後悔だってした筈だろ?だったら、今やることは判ってる筈だ。
 …もっとも、殺しあう、その思考は幾分熱を持った頭のせいかもしれず。
 しかし、彼はそれを押さえ込んで、マイトスタッフを握った♂アルケミストの前で、ツルギを投げ出した。

「降参だ。俺には本当に、殺し合いをするつもりなんて無いんだ」

 こうして、♂騎士は♂アルケミストの捕虜となった訳である。
 何処かの家から調達してきたらしいロープで縛られて転がされている。
 勿論、支給品を全部取り上げられた上で。
 …念のために言っておくと、彼の趣味ではない。

 そして、♂アルケミストは休息の為に♂騎士共々、幾つかある家屋の一つの中に居た。
 (火を付けられる危険で言えば、余り賢明な選択とはいえないのかも知れないが、疲れた彼の精神は自然にその選択を選ばせていた)
 さて。一体どうしたものであるか、と♂騎士は思う。
 彼はと言うとSMまがいの格好で床の上に投げ出され身動きが取れないし、
♂アルケミストはと言うと、泣きはらした目を隠そうともせず、ぼんやりと窓の外を見ている。
 傍目にも放心している事が見て取れる様な有様だった。

「ええと、スマン。取り合えず、このロープを解いて欲しいんだが」
「…悪ぃ。信用できないんだ」
 精神的に完全に崩壊してしまっている、と言う訳では──このように返事も返ってくるので──無かろうが、酷く危うげに見える。
 (♂騎士には預かり知らぬ所であるが、こういった症状は手酷い心理的な傷を負った人間特有の所作である)
 溜息を一つ。
 むやみに冷静さを取り戻してしまっているのは、きっと♂アルケミが♂騎士には少し前の自分みたいに見えているからだう。

 取り合えず、♂騎士が思った事は。
 矢張りこのロープを解いて欲しい、と言う事で。
 その為に必用なのは間違いなく相手の信頼であり、それを築く会話のキャッチボールが何より不可欠なのであった。
 とは言え。果たしてこの状態の♂アルケミストとまともな会話が成り立つものだろうか。

 ──無理、だよな。そりゃ。

 果たして。時間だけが解決するだろう傷跡を癒せるのは自分ではありえまい、と♂騎士は思う。
 それはどちらかと言うと優しい女性の役目である。薔薇は咲かない。
 脳裏を光速で過ぎて行く例外は、数時間ほど前まで同行していた逆毛の聖職者だが、
自分に今すぐ彼の様な役回りが出来る、とも思えない。
 結局自分に許されている事、と言えば拘束された上に地面に転がされているだけで。

 ──八方塞がりかぁ。でも。♀プリースト、間違っちゃいないよな、俺?

 そう自分に尋ねてみる。
 答えは返ってこないが、不安じみた感情もわいてはこなかった。
 上等だ、と思う。現状に不安を覚えていない。今はそれで十分だ。
 時間が過ぎれば、やがて状況は嫌でも動き出すだろう。
 彼は未だ見ぬ未来をぼんやりとシュミレートし始める。
 例えば、♂プリースト達が後を追ってくるとか、もしくは♂アルケミストがもう少し落ち着きを取り戻す、とか。
 ここは楽観的に考えておく事にした。

 丁度、そんな時だった。
 遠く、幾分ラジオノイズの混じった、あの忌まわしい道化の声が聞こえてきたのは。


<♂騎士 持ち物状態変わらず F-3に戦闘の音を聞いて戻ってきた ♀プリーストの遺体を埋葬した場所は次の人にお任せ>
<♂アルケミスト 持ち物場所変わらず ♀クルセイダーの死に心理的に大きなショックを受けている>
追記:♂騎士&♂ケミの放送後の行動については次の人に。


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