バトルROワイアル@Wiki

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 146 Miscalculation


グラリスは勝機を焦ったための誤算に歯噛みした。
♂シーフは自らの誤算のために高い代償を払った。
♂プリーストは軽率な一言が招いた誤算を悔やんでいた。
♀ウィザードは気のゆるみからの誤算を打破しようとした。
そして、♂セージにとっての誤算は…。



「小川が近くにありましたね。汲んできたらどうですか?」
「うん、そうするね?」

♂セージを見上げていた少女は♂シーフの提案を受けて小川の方向へと駆け出していった。
最初の同行者である♂セージに声を掛けてから駆け出すまでの時間、わずか数秒。
普段の♂セージならば諧謔の効いた一言も言おうものだが、♀ウィザードの話を反芻していた今の状態ではダメともいいとも応えることは出来なかった。
そして、はたと気づいた時には少女の背中は木立の中へと消えていった後であった。

「おぃおぃ、いいのかよ。保護者さん?あの子は♂シーフみたいに隠れるのがうまいわけじゃないだろう?」
「保護者、という言葉には賛同しかねますが、よろしくはないですね」

♂プリーストが揶揄するように言った言葉に♂セージはほんのわずか眉をしかめて答える。
たしかに、♀ウィザードたちとの交渉の間、独りにしたがために大泣きされてしまった♂セージとしてはよろしくないとも言いたくなるだろう。
もっとも、それ以前にこの殺し合いの島で単独行動をすること事体軽率であることは言うまでもないはずなのだが。

「すこし、気が緩んでいますわね」

その軽率さを鑑みて♀ウィザードがため息混じりに呟いた。
おそらく五人の共同体というものは現在の最大勢力であろう。
それにゆえに気が緩んでしまっては元も子もないのだ。
何しろ、彼女たちはただ生き残ろうとしているわけではない。
この悪趣味極まりないゲームを叩き潰そうとしているのだから。

「えぇ」「だな」

即答する男二人。

…二人?

「♂シーフさんは!?」
「なに!?」
「いませんね。まさか♀商人を追いかけていった?」
「どうして!?」
「俺たちの話を聞いてやばいって思ったのか…?ミイラ取りがミイラになるだろうが!」

吐き捨てる♂プリーストの悪い予感はほどなくして的中する。


――― 一方そのころ ―――


♂シーフは♂プリーストが考えたとおり、一人でかけだしてしまった♀商人の後を追っていた。

『あの子は♂シーフみたいに隠れるのがうまいわけじゃないだろう?』

その言葉に彼は自分基準で物事を考えていたことを思い知らされたのだ。
彼ならばもしマーダーに出会ってもハイディングでやり過ごすことが出来るかもしれない。
しかし、彼女ならばどうだ?隠れることは出来ない、だからといって逃げ切れるものなのか?

「どうしてあんなことをっ…」

彼自身の言った言葉を悔やみながら手近な木の幹に八つ当たりをして♂シーフは独り毒づく。
そして、足早に小川のほうへと歩を進める。
探すのは♀商人の姿。マーダーにとっては手ごろな獲物であろう少女の姿だ。

しかし、少年は失念していた。
彼もまた、狩られる側の人間であるということを。
そして、運の悪い事に狩人は少年のすぐそばにまで迫っていたのだ。

その狩人であるグラリスは小首をかしげていた。
森の下生えをかき分けて先を急ぐ風に見えるのはどう見ても一次職の少年だ。
激戦であった一日目を生き抜いた一次職である、おそらくは誰かとパーティを組んでいるのだろう。
そう思ったのだが、周囲に彼の仲間らしい人間はいない。
ならば、二次職にならないすきものかとも考えてみたが、その割には物腰に凄みがない。

身に付けた鎧が音を立てないよう息を潜めて観察を続け、彼女は得心したとばかりに笑む。
彼が先を急ぎながらも誰かを探すそぶりを見て取ったのだ。
つまり、あの少年は今まで共にいた仲間から捨てられたか喧嘩別れしたかはぐれたか。
いずれにせよ単独行動をしなくてはならない状況なのだと。

だとしたら話は簡単だ。斬って捨てるのみである。カプラWのために。
グラリスの決断は早かった。
彼女は身に付けた鎧が騒音を立てるの事も気にせず対人特化のバスタードソードを構えて駆け出す。

♂シーフが突如現れた金属音の方向に顔を向けるまでに8歩。
迫るグラリスへと身体を向ける間にさらに4歩。
普段そこにあるだろう短剣を掴もうとし空振りを繰り返す間にもう7歩。

「ハァアアアアアッ!」

気合の声も鋭く、最後の一歩を踏み込み、同時に剣を振り下ろす。
しぶく鮮血。肉を断つ感触。吹き飛ぶ♂シーフ。
グラリスは一見吹き飛んだように見える♂シーフがバックステップで必殺の一撃から逃れたことを知る。
肉を断つ感触があっても骨を砕く感触がなかったからだ。
彼女は冷ややかに♂シーフを見やると一言呟いた。

「死んでいただきます」
「嫌だ!」

即答した♂シーフは右肩の傷口を押さえながら懸命にバックステップで距離を稼ごうとする。
しかし、手負いの身では普段の軽快なステップが踏めようはずもない。
走り寄るグラリスとの差は徐々に縮まる。
まるで命の火を灯すろうそくであるかの如くに徐々に縮まる。
やがて♂シーフは失血と疲労、息切れでバランスを崩し後ろ向きに倒れる自分を感じた。

(殺されるッ!!)

そう硬く目を閉じた彼だが、更なる痛みはなかった。
ただ、あったのは傷口に翳された大きな暖かい手の感触と。
頭を打たぬよう背中に回された意外にしっかりとした腕の感触と。
玲瓏たる呪文の詠唱と共に彼の脇を駆け抜けて行った雷光が起こした風の感触だけであった。

そして、グラリスは、雷で木に叩き付けられた。

グラリスは勝機を焦ったため獲物の仲間の存在を失念するという誤算に歯噛みした。
♂シーフはマーダーなど大丈夫という自らの誤算のために高い代償を払った。
♂プリーストは軽率な一言が招いた誤算を悔やんでいた。
♀ウィザードは気のゆるみから出た誤算を打破しようとした。
そして、♂セージにとっての誤算は血に濡れたグラリスの剣から♀商人の安否を察して動揺してしまったことであった。
ただ、皆の誤算の大本である♀商人だけがこの場におらず、この場の出来事を知らない。


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