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2-154

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154.器と女王蜂


「ミストレスはどこにいったんだ!? 消えちまったぞ」
自慢の筋肉を躍動させながら男が廊下を歩いている。声に品性は感じられない。

「なるほど、彼女が器だったというわけですか」
となりを歩く男の声はひどく冷たい。月の光を思わせる銀色の髪が同色の眼鏡の縁とあいまって、まとう空気すら銀を帯びているようだった。

GM森とGM橘である。

「器ってなんだよ?」
自分だけがわかっているような口ぶりで話すGM橘に、気にいらない感情でもあるのだろう。
GM森はその感情を隠そうともせずに、いや、むしろより一層の不快感をこめて、眼鏡の奥の瞳を睨む。

GM橘は、そんなGM森の視線をすまし顔のまま受け流すと、それでも彼なりに気をつかったのか、

「♀アーチャーはミストレスの器だったということです。女王蜂自身は永遠の魂を持っていますが、肉体は滅び行くもの。
 ミストレスが人の体を使って転生することくらい、知っていると思っていたのですけれどね」
口もとにうっすらと笑みを浮かべ、GM橘は目的であった部屋の扉を押し開く。
軽い音を立てて開いた扉の先には、どこまでも白い衣服を身にまとい、遠めにも目立つピエロの帽子をかぶったひとりの男が足を組んだ状態で椅子に腰掛けていた。

男はふたりの入室に気付いたのか、立ち上がり、うやうやしくも一礼する。
立場的にはふたりの上司である彼は、本来ならばそのような行為をする必要などまったくない。
それでも慇懃に振る舞うところが、つかみどころのないGMジョーカーの性格をあらわしていた。

「はてさて、いったいどのような用件ですかねぇ。次の放送まではまだ時間があると思っておりましたが、それとも労働環境の改善要求運動でも始めましたか?
 そういうのは私の管轄ではないのですけれど、一応私はあなた方に指示を送ることのできる立場ですので、ある程度の不満、要望は聞き入れま───」
「ミストレスのあつかいについて確認しておきたいのです」
GMジョーカーが得意とするおしゃべりを、厳しい口調でGM橘が制する。
放っておけばGMジョーカーが自分のペースで話を展開してしまうことをGM橘は知っていた。
話術もまたGMジョーカーの武器のひとつなのである。
立場的にはGMジョーカーの直近の部下であるGM橘だが、もうひとつの顔では対立関係であるといえる。
少しでも自分の思惑通りにことを進めるためには、GMジョーカーのペースにのせられるわけにはいかない。

「あれは♀アーチャーへの転生を果たしました。では我々はあれを♀アーチャーと呼称すればよろしいのでしょうか?
 それとも───ミストレスのままでよろしいのでしょうか?」
GM橘の鋭い目線がGMジョーカーにぶつけられる。
GM橘の声を受け止めて、GMジョーカーは思案するような素振りを見せはじめる。

道化め、なにを考えているのかは知りませんが、騙されはしませんよ。
ミストレスが実験であることくらいは、わかっているのです。
ルーンミッドガッツ王国は、軍事力として頼りにならない冒険者の変わりに、魔物を従えようとしている。
魔物の力を従えることができれば、それは一国の軍事力にも匹敵しますからね。

GM橘はGMジョーカーを前にした胸中で、そんなことを思っていた。

「あれはミストレスとして扱ってください。死んだのは♀アーチャー。参加者のみなさまにはミストレスのことなどなにも知らずに、殺し合いを続けていただきたいのですよ」

やはり、とGM橘は思う。

「わかりました。それでは以降、あの♀アーチャーはミストレスとして扱わせていただきます。
 用件はそれだけです。それでは失礼させていただきます」
心の色を出さず、すましたままGM橘は一礼し、退席しようとする。
ふたりの会話に入りこめずにただ立っているだけだったGM森もGM橘に続こうと、GMジョーカーに背を向けた。

「あぁ、そうそう。聞きたいことがあったのをすっかり忘れていました」

背中を向けているふたりに対し、GMジョーカーが声をかける。最初からこのタイミングで話しかけることを決めていたような絶妙なタイミングに、ふたりは仕方なしに振り返る。

「今回の大会では、誰が優勝すると思っているか、ぜひに聞いておきたかったのですよ」
いやらしく笑いながら、GMジョーカーはさぐるような目でふたりの男の顔を見ている。
戦慄がGM橘の背中を通り過ぎる。

まさか、私の正体に気がついているのか。

知らぬ間にごくりと唾を飲み込んだGM橘。それを見てGMジョーカーは目を三日月にゆがめ、笑う。

「おっと、これは失礼しました。GMたるもの、いかなるときでも公平でなければなりませんでしたね。
 引き止めて申し訳ありませんでした。どうぞ、退室してくださって結構ですよ」

なんのことだかわからない、といった様子で再び背を向けてずかずかと退席するGM森にならってGM橘も部屋をあとにした。
手にはべっとりと汗がにじみ、いつのまにかのどがからからに乾いていた。
計り知れぬGMジョーカーの才略を見せられて、GM橘は屈辱に唇を噛み締めながら、自室への廊下を歩いていった。



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