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NG2-27

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NG.天国には行けない2人 [2日目昼]


どんよりと灰色によどんだ雲が、男の頭上に立ちこめていた。
男の片目には大きな傷痕があった。
真新しい傷ではないそれを見れば、誰だって男がまっとうな生活を送ってきたとは思わないであろう。
事実、男の人生は血に彩られていた。

盗み、犯し、殺した。金品を奪い、純潔を奪い、生命を奪った。
どこまでも、ひたすらに、ただただ自分の欲望を満たすために。
殺した人間の中に自分の肉親は当然のように入っていたし、子を孕ませた女を子供ごと殺したこともあった。

それでも男の欲望は満たされることはなかった。
渇ききった心にいくら血の雨が降ろうとも、心はひからびたままであった。

ただ殺すだけではなんの快楽も得られない。つまらない。
なにをしてもつまらない。生きていても死んでいるみたいで、つまらない。
どうしようもないほどに、つまらない。

男は刺激に餓えていた。
殺し、殺される、殺人ゲームに自らを投じるほどに、刺激を求めていた。
そして念願は叶い、男はいま、殺人ゲームの舞台に立っていた。

その男が誰であるか。
言うまでもなく、♂ローグであった。

彼は配給された干し肉をおいしくもなさそうに噛みちぎりながら、目を血走らせ、周囲にひそむ気配をさぐっていた。
血肉に餓えた獣という言葉を人にも使うことができるのだとすれば、♂ローグはいま、まさにその言葉通りであった。

朝起きてから数時間も経っているのに誰も殺せていないことが、♂ローグ自身をいらつかせていたのであった。

足りない。血が、肉が足りない。
恐怖に泣き叫ぶ声が足りない。命乞いをするあわれな声が足りない。
隣人の死に嗚咽し、血啼く声が足りない。絶望に気が触れて壊れたように笑う声が足りない。
死のふちで、殺す相手をうらみつらめく呪詛の声が足りない。

なにもかもが、足りない。

だから♂ローグは───決めた。
次に自分の目に誰かが映ったら、その誰かを殺す、と。
たとえそれがどのような人間であれ、どのように徒党を組んでいようと、全力で殺す、と。

そう考えた♂ローグのことを知れば、人は短絡的な思考の殺人狂と揶揄したかもしれない。
しかしそれは大きな間違いであった。
実際彼は少しも狂ってなどおらず、自己の力量というものを正しく把握していた。
どの程度の相手なら、どの程度の人数までなら、どこまでなら殺せるか。
それらのことを限りなく熟知していたし、
殺した経験でいえば、彼はこの島にいる誰よりも経験を積んでいるかもしれなかった。

その♂ローグが全力で殺すということは、それはすなわち、殺せるということであった。
おそらくはオーラを放つ冒険者でさえ、殺せる自信があるのだろう。
相手の力を発揮できないよう封じ、自分の力を最大限に利用する戦い方を、彼は身につけているのである

島に来てからこれまでの殺しでは、♂ローグはどこか手を抜いていた。
もちろんそれは殺しを楽しむためであり、自らが好んでそうしたのであった。
けれど次はない。
♂ローグは血を浴びたいのである。
一秒でもはやく、誰かの肉体から血を奔出させたいのである。

目を皿にして、♂ローグは獲物をさがした。
茂みによって見通しは悪かったが、その分は耳と鼻で補った。
そしてさがし続ること実に2時間。
♂ローグはついに獲物を見つけたのである。

獲物は二匹。痩せたアサシンとバフォ帽にサングラスのアルケミストであった。

突然に、忍者は悪ケミを突き飛ばすと、無言のまま短剣を鞘から抜いた。
まさに紙一重としか言いようがなかったが、その行動によって悪ケミは命を救われた。
トンネルドライブで姿はおろか、気配までも消していた♂ローグによる一撃を、悪ケミに代わって忍者が受け止めたのである。

「手前ェ・・・やるじゃねぇか。さすがにアサシンさまは伊達じゃねェってか」

凶暴さを前面に押し出して、♂ローグはベッとつばを吐くと、
ひかえめなサイズのおしりを地面につけたまま動転している悪ケミをちらりと見て、下卑た笑いをした。

「ちと発育が悪ィな、嬢ちゃん。そんなんじゃ、立つモンも立たねェよ」

言葉に反応してか、びくりと悪ケミのからだがふるえた。
これほどの殺意を浴びせられては、殺し合いの経験などもたない悪ケミが、萎縮してしまうのも無理はないことであった。

「となると使い道は───ひとつしかねェよな」

歯茎までむきだしにして、♂ローグは笑った。醜悪と表現するほかない笑い顔であった。

ふたたび♂ローグの姿が気配ごと消えた。
最初の襲撃と同じようにサプライズアタックを仕掛けようというのであろう。
もちろん♂ローグは相手がサイトやルアフを使えないことをわかっていた。
一方的な虐殺になるかもしれないことを承知で、その虐殺をしようというのである。

♂ローグは包丁の刃を地面にへたりこんだままの悪ケミに向けた。
ためらうような素振りは微塵もない。
一秒でもはやく。そう思っているのだろうか。
トンネルドライブを解いた♂ローグは、悪ケミの頭蓋目掛けて包丁の厚刃をすべらせたのである。

パッと悪ケミの紫色の髪が宙を舞った。
刃が悪ケミに届く寸前で、忍者の体当たりが♂ローグをよろめかせ、再び悪ケミを救ったのだ。

「おラァッ!」

手首を返し、♂ローグの包丁が今度は忍者を襲う。
ぶつかり合ったグラディウスと包丁の周囲に一瞬、火花が散った。
しかし、次の瞬間には♂ローグはふたたび姿を消していた。
微塵の隙も忍者には与えないということなのだろう。

♂ローグは執拗に悪ケミを狙って包丁を振るい、忍者はそんな♂ローグの凶行を、ぎりぎりのところで防いだ。
グラディウスと包丁のぶつかり合った回数は20回を超えていた。

忍者の額には汗が珠のように浮かび、こぼれ落ちた。
♂ローグもまた、全身にびっしょりと汗をかいていた。
悪ケミは腰を抜かしているのか、どうしようもできず、ふるえる肩を両手で押さえつけることしかできなかった。

何度目の攻撃であっただろうか。ついに均衡は破れた。
包丁が忍者の左肩を深く裂き、赤い血がどっとあふれ出した。
それでも忍者はわずかに呻いただけであり、続く♂ローグの一撃を、懸命に身をよじり、すんでのところで避けきった。

忍者のグラディウスの間合いよりもかなり外側で♂ローグは姿をあらわした。
♂ローグは肩で息をしはじめた忍者を見ながら、包丁に付着した忍者の血を歓喜に満ちた表情でなめた。

「さぁ、どうするよ。そいつを見殺しにして、敵討ちにでもはげんだ方がいいと思うぜ。
 1対1のガチンコなら、あんたもちったぁマシにやれるだろう?」

♂ローグは包丁で忍者を指すと、首を軽く回した。

「それともふたりなかよく連れ添って、天国行きの階段でものぼるか? あぁ?」

そのときである。
それまでずっと♂ローグに対してひとことも言葉を出してはいなかった忍者がはじめて口を開いた。

「残念ですが、私は彼女と違って天国には行けません。すこしばかり人を殺しすぎましたからね。
 ですが地獄に行くのも、まだすこし、先にしてもらいたいのですよ」

忍者の言葉に♂ローグは高々と笑った。

「そうかい、そうかい。いいねェ。人殺し同士でやりあえるってのはさ。
 たまんねェな。あまりの興奮で下半身までビンビンしちまいそうだ。
 それじゃ、嬢ちゃん守って最期まであがきな」

それだけ言って♂ローグはその身を周囲の景色に溶かしこんでいった。

<♂ローグ>
<位置:H-6>
<所持品:包丁、クロスボウ、望遠鏡、寄生虫の卵入り保存食×2、馬牌×2、青箱×1>
<外見:片目に大きな古傷>
<性格:殺人快楽至上主義>
<備考:GMと多少のコンタクト有、自分を騙したGMジョーカーも殺す>
<状態:全身に軽い切り傷>


〈悪ケミ>
現在位置:H-6
所持品:グラディウス、バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式
外見特徴:ケミデフォ、目の色は赤
思考:脱出する。
備考:首輪に関する推測によりモンクを探す サバイバル、爆弾に特化した頭脳
状態:腰がぬけて動けない
参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目


〈忍者>
現在位置:H-6
所持品:グラディウス、黄ハーブティ
外見特徴:不明
思考:悪ケミについていく。殺し合いは避けたい
状態:左肩に深い傷(致命傷ではない)


関連話:168.託す者



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