バトルROワイアル@Wiki NG2-37


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NG.Bug [夜間~深夜]


 右胸に熱い痛みが灯る。そのまま突き倒されるように仰向けに倒れた♀スパノビは霞む視野の中で冷静に考える。

(肺を貫かれてしまいました。息を吸うのも苦しいです。これでは、もう動けません。
 窒息死か失血死ですか、もう少し、ほんの少し楽に死にたかったのですが…)

 妙に詳しい医学知識を動員して自己の状況を分析する。助からないことに納得して、次の手を考える。

『塔と墓の下にGMがいる』

 こんな場所で、こんな男に握りつぶされるにはあまりに惜しい情報。だから、彼女は残された時間を使って誰かにこれを伝えることにした。しかし、♂ローグはなかなか彼女から離れようとしない。激痛の中でひたすら機をうかがっていた♀スパノビは眼前に突きつけられた醜悪な顔とその手つき、そして程なくして始まった新たな痛みからこの男の趣味嗜好を完全に理解した。

「いやーーーーーーーーーーっ!!」

 叫んだつもりだったが声はほとんどかすれて、口からあふれ出るのは鮮血ばかり。悪意の塊のような男の言動に酷い風邪をひいたときのように背中がぞくぞくする。けれども、取り乱したのは一瞬だけ。彼女は気がついたのだ。これは、彼女の土俵であるということに。

 彼女の生まれはフェイヨン。ただし、表の街ではない。その色町である。物心ついたころには男女の情交の後を掃除し、そういったことを生業にする女を姉さん姉さんと呼んで慕っていた。だから、年上であろう♀ハンターに義姉さんと呼ばれても動じないどころか、一種懐かしみをもっていたのである。

 本来ならば一生を色町で送るはずの彼女が、なぜ冒険者になってしまったのか。それは戦争の所為であるともいえる。男の多くが兵役として戦線に駆り出された為ではない。貧乏人の男が戦争に駆り出されようとも、一部の特権階級はいつも以上に多くの金を落としていくのだから、商館の経営事体には全く問題がなかったのだ。問題は、彼女の同僚が起こしたのである。こちらの世界に足を踏み入れて日の浅い彼女は客である変態趣味の聖職者に手を上げてしまったのだ。日の浅い彼女を無理矢理指名した客も客だったのだが、そのことを棚上げして聖職者は激怒した。有形無形の圧力がかかり程なくして商館は店じまいを迎えることになったのである。

 戦線へと新たな客を求めるもの、入魂の仲になった者のところへ嫁ぐもの。義姉妹がちりぢりになる中で彼女は冒険者の道を選んだ。もともと運動神経も達者であったし、寝物語に聞いた冒険者たちのいう外の世界にも興味があった。なにより、彼らから学んだスキルを実践で試してみたくもあったのだ。ありがたいことに、初期投資に見合うだけの資金はあった。そんな経緯で彼女は冒険者となったのである。
 戦争のために冒険者の道を選んで戦争のためにBR法の犠牲になる。なんとも波乱万丈な人生である。まっとーな人生を歩んでいない、ともいう。

 彼女に近しい人物がこの島にいるとするならば、それは♀ケミだろう。しかし、たどり着いた場所は同じでも、その本質は全くの反対である。
 彼女の場合望んだ結果としてそこにたどり着いたわけではないし、まして彼女は搾取の記憶の代償を常に求め続けてきた。一方の♀スパノビは当然のこととしてそこにいたし、当然のこととしてそこにたどり着いた。そこに一片の悔いもなければ、搾取されたという意識すらない。後に、冒険者となってからどうにも自分の常識がずれているらしいことに気づいたが、幼いころから染み付いた常識ともいえるものは決して消えなかった。

 自身の一生に思いをめぐらせて♀スパノビは耐える。
 耐えるといってもコツがある。特に今は時間との勝負だ。自分自身が耐えるだけでなく早く隙を作ってもらわなくてはならない。だから、適度に拒絶の態度を見せてやることで、相手に自分が俎板の鯉であることを知らしめ安堵させる。それがこの手の嗜好を持つものにはたまらないことを彼女は経験から知っている。
 苦しげなうめき声をあげながら彼女はふと思った。

(このひと、今私が微笑みかけて首に手を回したらどんな顔をするのでしょう?)

 嘲笑うのか狼狽するのか怒り狂うのか気にも留めないのか。

(う~ん、難しいところですが、怒り狂うに一票入れておきましょう)

 いずれにしろ、ほんの少しでも余力が在ることを悟られるのはいけない。好奇心に駆られてつい実験してしまいたくなる気持ちをぐっと押さえ込む。
 なんといっても彼女は百戦錬磨なのだから。
 そんな彼女は一人思う。

(私、♂ローグさんも好きですよ。だって…)

 思っている間に彼女の待っていたチャンスが到来する。

(だって男の人って、とっても無防備になっちゃうんですから…)

 素早く正確にトンネルドライブを恐れて使えなかった集中力向上使ってまで、伝えなくてはならないことを♂ローグの死角に記す。気づかれていない。そして、この男は死体に興味はない。やがて息絶える私の身体で隠せば決して気づかれない。それには絶対の自信がある。しかし、これに気づく者が果たしているのだろうか。そのことに思いを馳せ、それはきっとカードが出るくらいの確率、とロマンチックな思いに浸る。
 さっきより、さらに視界が暗くなっている。死が近い。彼女は残された時間を妹のことを思うことで費やす。

(♀ハンターさん…、どうか…逃げて、ください。
 叱っても…護っても…あげられないお姉ちゃんを…、許してくださいね……)

 まどろむように瞳を閉じる。
 その目から一筋の涙が零れ落ちた。♂ローグは絶望の涙と見て狂喜する。♀ハンターは失望の涙と見て涙ぐむ。ただ彼女だけは知っている。それが、不甲斐ない自分自身への悔恨の涙であることを。
 とくとくと耳障りなほどに脈打っていた鼓動が薄れていく。
 底なし沼に沈んでいくような脱力感の中で♀スパノビは意識を手放した。

 軽い浮上感。水中から浮き上がるような感覚に目を開けるとちらちらと瞬く星空があった。手のひらを目の前に翳してみる。血の匂いは濃厚にするが、確かにこれは彼女自身の手である。

「……生きていますね。ありえません」

 呟いてありえないはずの事実を確認する。軽く周囲を見回して♂ローグがいないことに安堵し、不用意でしたと一人ごちる。そして、そっと胸に手を這わせてみる。傷は跡形もなくふさがっていた。そして血も綺麗に乾いている。下着が肌にへばりついて気持ち悪いが今はそんなことに構っている場合ではない。

「よいしょ…うん、正常…不思議です?」

 上半身を起こして自問自答する。全くありえないことだった。ありえないことにはさらにありえないことが付きまとう。パチリと乾いた音が鳴って、♀スパノビの命を握っていた首輪が外れたのだ。
 予想外の出来事に♀スパノビの動きが止まる。彼女の知る事柄を全て突っつき合わせて何が起こったかを推察しようとする。わからない、けれど、一つだけ思い出したことがある。
 ある御伽噺だ。それを思い出して彼女は自分が生きている理由にだけは合点がいった。

「ああ、バグを探しても見つからないはずです。私自身がバグでしたか…」

 煙るような金髪に手をやってため息をつく。
 それは、スーパーノービスの間に伝わる御伽噺。さっき♂ローグ相手に鎌を掛けた時の天使様の加護とかそんなちゃちなものではない、正真正銘本当の御伽噺。
 曰く、スーパーノービスは勝手に生き返る。
 笑い話である。死んだ人間が勝手に生き返るわけはない。だというのに、この御伽噺はスーパーノービスの間で延々と伝え続けられていた。あるものは使命が生き返らせるのだといい、あるものは愛の力だといい、あるものは宿命だという。ただ、スーパーノービスたちはそれを事実として受け止めていた。
 事の真偽を確かめようとジュノーのセージキャッスルが調査に乗り出したこともあったが、条件が条件であるために頓挫したという。当然だ。死ぬのには痛みが伴うし、すぐに蘇生が出来るとはいっても、蘇生には脱力感が付きまとう。そんな実験に我が身を捧げようなんて酔狂なスーパーノービスは一人としていなかったのだ。当然、人倫を擁護する大聖堂からの批判もあったらしい。
 結果、公式としてはスーパーノービスは生き返らない(はずである)という常識に則った、学者らしからぬ結論がまかり通ることとなった。ならば、GMたちがそれを見落とすのも道理である。

 ♀スパノビの復活という奇跡が初期開発時点から見逃されていたものであるならば、首輪が自動的に外れた事は改良を加える間に追加されたバグであった。もともと、首輪は再生利用される計画であったのだが、第一回のバトルロワイアル終了後、死体を回収する際に兵士の不手際から誤爆が多発し多くのけが人を出した。実働部隊からの突き上げを食らった公務大臣は心拍が停止するとジェムストーンとのリンクが自動的に切れるように改良し、さらにはその魔力を自動的に抹消するようにしたのだ。もし、これが第一回のバトルロワイアルであったならば、♀スパノビの復活はすぐにGMの知るところとなり、バグが一つ消えることとなっていただろう。

 自分の身に起きた奇跡に得心が行った♀スパノビはふらりと立ち上がり、周囲を見回す。そして、ばらばらに解体された義妹の遺体を発見した。やはりと思う自分とどうしてと思う自分がせめぎあう。えずく様に身体を丸め、ばらばらになった義妹も身体をかき集める。その中に、うその様に傷ついていない彼女の頭部を見つける。嘲笑うように歪んだ唇、見開いたまま瞳孔が開ききった瞳。おどおどとしながらも生命力にあふれていた生前の彼女を知る♀スパノビとしては見るに耐えない表情。
 ♀スパノビは義妹の頭をそっと地面に置くと散乱した二人分の荷物を漁りだす。食料は残されている。水も残されている。薬品も目減りはしているけれど残されていた。けれど、地図は血にまみれて使い物にならない。周りは屠殺場もかくやというような惨状だ、当然といえば当然である。古く紫色の箱もフォーチュンソードもオリデオコンの矢筒も奪われている。意外にも残されているダマスカスとスパナに♂ローグの思考を察する。

(メインとサブに遠距離武器。その他の余分な武器も食料も要りませんか。機動力重視ということですね)

 彼女は使えるものの中から水袋を手に取ると幸いにして血に濡れていなかったショートパンツの残骸を水に濡らし血と恐怖にまみれた義妹の顔を拭う。それが、義姉としてのせめてもの義務であるかのように。
 どれほどの時間がたったのだろう。名残惜しそうに♀スパノビは♀ハンターの前髪を撫で付けると荷物をまとめ始めた。当面必用なものを自分の鞄に詰め、♀ハンターの鞄はダマスカスで解体して即席のスカートにする。ソーイングセットの一つでもあればもっとうまく繕って見せるのにとも思うが、ないものねだりをしても始まらない。
 身繕いを済ませた♀スパノビはもう一度名残惜しそうに♀ハンターの頭部を抱き上げると一言。

「おやすみなさい」

 そういって♀スパノビは冷たくなってしまった義妹の額にそっと口付けをし、月明かりの中、西へと続く♂ローグの足跡を避けて歩き出した。

<♀スパノビ 現在位置・・・H-7から南へ>
<外見:csf:4j0610m2>
<所持品:S2ダマスカス シルクリボン(無理矢理装着) スパナ>
<スキル:集中力向上>
<備考:外見とは裏腹に場数を踏んでいる(短剣型)>
<状態:血まみれ。♀ハンターの生い立ち、鳥との会話能力を知る>



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