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2-200

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200.野良犬は牙を研ぐ [2日目夜放送後~深夜]


ジョーカーの声で目を覚ましたグラリスはすぐに西へ向かった。
海岸沿いの狭いルートが閉じた以上、袋小路になってしまった場所で眠るのはあまりに危険だったからだ。もし明朝の放送でF-3が禁止区域に設定されたらまず助からない。

(つくづく癪に障る男ですこと)
彼女はジョーカーが禁止区域を無作為に選んだとは信じていなかった。
なにしろダーツを使って選んだというのだ。あの男が百発百中の腕を持っていたとしても誰も驚くまい。

自分を追い立て、他の連中と戦わせようと言うのだろう。
休むな。戦え。さもないとWが…と言うわけだ。
だが今のままでは難しい。
最初に遭遇する可能性が高いのは彼女に重傷を負わせた例の五人なのだ。
おそらく戦力を減じてはいまい。

おそらく、と言うのは彼女が放送で目を覚ましたためである。
当然最初の方…つまり誰が死んだかを聞けなかった。
ただ残りは28名と言っていたので、昼間死んだのは5人だけと分かる。
たったそれだけの中にあの集団の面子が含まれるとは考えにくいし、もし含まれたとしてもせいぜい♂シーフか♀商人だろう。
だとすれば手強さはほとんど変わらない。

(となると弓が欲しいですわね)
彼女が魔法職と戦って勝つのは不可能ではない。
スリープアローを当てて眠らせられればいいのだ。
しかしあれだけの人数相手では近付くことすら容易ではないし、首尾良く眠らせても即座にとどめを刺せなければ仲間に起こされてしまう。
最低限、遠くから先制の一撃を当てられる必要があった。

(猟師小屋を探しましょう)
武器を作る技術がない以上、どこかで見つけるしかない。
だが今まで行った場所の多くでは他の参加者と出会った。
そんな場所に何か残っているとは思いにくい。
彼女は進行方向を少し変え、行ったことのない辺りを探してみることにした。

◇◇◇◇◇

「あら…」

東と南を禁止区域にふさがれた場所へ足を踏み入れたグラリスは小さな嘆声を漏らす。
月を映し込む穏やかな水面が目前に開けていた。
周囲を密集した木々に囲まれていて遠くからは気付かなかったが、かなり広い。
見たところブロックの半分ぐらいを占めているのではないだろうか。

「池…と言うよりはもう湖ですわね」

よく整備された岸辺。近くには木造の桟橋もある。
この近辺の生活用水にもなっているのだろう。沼地化しておらず、水も比較的澄んでいる。
グラリスはほとんど空になった水筒の栓を抜くと古い水を捨て、湖の水を汲んだ。
(毒が入っているとは思えませんし)
こんな大量の水に混ぜて効果が出るほどの毒など参加者には用意しようがない。
かといってGMがそんな罠を掛ける意味もない。連中は参加者同士の殺し合いを望んでいるのだ。

それでも念のため水を口に含み、変な味がしないことを確かめてゆっくり飲み込んだ。
濾過していない水はかすかに青臭い。しかし
(染み渡るとはこのことですわね…)
仕事のあとに傾ける一杯の酒でもなかなかこうはいかないだろう。
まだ初夏とは言え日中動き回れば汗をかく。そして多量の出血。
体は水を文字通り渇望していた。
半ば飛び込むような勢いで湖面へ顔をつけ、思うさま飲み続ける。

「っぷはぁ」

もうこれ以上は飲めないと言うところまで存分にのどを潤し、グラリスは顔を上げた。
(こんなことなら水筒に海水を詰めて来るんでしたかしら)
応急処置法の講義で学んだ知識がちらりと頭をかすめる。
血液には海水の4分の1ぐらいの塩分が含まれている。だから多量の出血や発汗の後には水だけではなく塩分も取った方がいいのだ。

(でも、まあ仕方ありませんわ)
彼女は肩をすくめた。
今さら戻る気にはなれないし、♀モンクから相当量摂取できたはずだ。
眠りに落ちる前にしたことを思い出す。
そしてふとあることに気付き、水面に映った自分の体を見下ろした。

「あら」

あごから首、エプロンドレスの胸元にかけてが黒ずんでいる。
長い髪も一部が黒く固まっていた。
もちろん♀モンクの血だ。
ここへ来る前も目があっただけで子供が泣くなどと言われてきた彼女だが、今なら出会った瞬間に気絶させることだって出来るのではないか。
もちろんこの島にそんなヤワな人間が残ってるはずもない。

少し考え、彼女はカプラの制服を脱ぎ始めた。
幸いと言っては何だが、ここは2つの禁止区域に接し袋小路に近い形になっている。好きこのんで近寄る者はそう居ないだろう。
(この島に来て2度目の水浴びですわね)
彼女がこの島で一番清潔にしているのではないだろうか。
そう思うとちょっとだけおかしくなる。

やがて傷だらけではあるが均整の取れたみごとな肢体が月下にあらわになった。
彼女はそれを無感動に見回す。
(傷口は――大丈夫そうですわね)
歩いている内に開いてしまった傷口がないことを確認してゆっくり水に入り、顔と上半身についた血をきれいに洗い落とす。
そしてすぐに水から上がると傷口回りを丁寧に拭った。
やはり少ししみる。それに傷口に泥が入ったまま放置すると破傷風になる事があるのだ。
それだけは気をつけろと古参の兵士に口を酸っぱくして言われた。

その古参兵はこうも言っていた。
『勇敢なのは騎士だけでいい。あたしら兵士は臆病なぐらいでちょうどいい』
その時は兵士だって臆病では務まらないだろうと思った。
だが、今になってその意味が分かった気がする。
騙し討ち、裏切り、不意打ちに罠。何でもありの戦場では、自身を、他人を、そして状況を見誤った者から死ぬ。
ここで慎重すぎると言うことはない。

(だからこそ弓が欲しいのですけれど)
血のこびりついた服を洗いながらグラリスは考える。
弓での先制攻撃ならば予想外の事が起きても逃げやすい。
だが付近に家は見あたらないし、対岸へ探しに行くのは禁止区域に踏み込む危険性が大きすぎる。

(集落がこちら側にも広がっていてくれましたらよかったですのに――)
そう思いつつ、裸身に洗い上がったエプロンだけを纏って桟橋へぶらぶら歩き出した。
桟橋があると言うことはそれを使っていた誰かの家があるかもしれない。
そして家があれば他の参加者と遭遇する可能性も上がる。服をすべて身に着けないのは、万一の場合濡れた服を着ていたのでは遅れをとるからだった。

やがて案の定、小さな木造の小屋が見つかった。
湖側に大きな両開きの扉があり、窓や煙突は見あたらない。
住居というよりは納屋らしい。
(ボート小屋…ですかしらね)
森を見ると西へ向かって山道らしきものが通じている。
つまり西方にも集落があり、そちらの住民が湖を利用するために建てたのだろう。

鍵は掛かっていなかった。
注意を怠らず、大扉をゆっくり引き開ける。
そして一歩下がり、剣を構えたまま気配を探った。
(…誰も居ないようですわね)
小屋の中は月明かりのある外より一層暗かったが、梁の上に伏せられたボートの他はがらんとしており隠れられそうな物陰はない。
流れ出した冷たい空気にも体温や匂いといった人の気配を感じられなかった。

(ですけど、これは何もなさすぎやしませんこと?)
小屋に踏み込んだグラリスは腰に手をあてて嘆息する。
2,3棒きれが転がっている他は本当に何もない。
ボート小屋なら整備の工具か小刀、もしかしたら投網でも手に入るかと思ったのに。
彼女は天を仰いだ。
そしてひびの入った眼鏡をかけ直す。

頭上、ボートの船底に不自然な焦げあと。
視線を下ろしたグラリスは少し考え、小屋の中をもう一度くまなく調べなおした。
すると見つかる、かすかに黒ずんだ土間。刃の食い込んだ跡の残る柱。
きれいに掃除されてはいるが、ここで殺し合いがあったのだ。

「…考えてみれば、当然でしたわね」

殺し合いがあったのは昨日今日ではない。おそらく1ヶ月かそれ以上前。
つまり前回かそれ以前のゲームだ。
この処刑ゲームは毎回同じ島で開かれているのだから、ほとんどの家屋には誰かが入ったことがあると思っていい。そして使える物は持っていっただろう。
海岸の小屋であれこれ見つかったのは幸運だったのだ。

彼女は武器を探すことを諦め、転がった棒きれを手に取った。
火をおこして服を乾かそう。幸いこの小屋に窓はなく、灯りが漏れる心配は少ない。
そして手に取った棒の正体に気付いた。
(私のツキはまだ失われてない)
それは先端を引き抜かれた銛の柄だった。
誰かが金属部分だけを短剣として使うために持っていったのか、あるいは他の理由か。
何にせよこのままでは棍棒の役にも立たない。だが、彼女には最高の武器になる。

グラリスはスリープアローを数本取りだし、矢尻から3分の1ほどの所で切り落とした。
そして服の裏打ちを詰め物にして銛の先端、刃が引き抜かれた穴に固定する。
これで飛び道具が手に入った。
銛は投げることも出来るように作られているのだ。
先端が抜けやすいのも問題ない。どのみち毒は一回で効果を失うし、換えの穂先にする矢はまだある。

彼女はできあがった「睡眠銛」をひと振りして満足げに頷き、火を焚くためにボートを破壊し始めた。


<グラリス>
現在地:F-4(ボート小屋の中)
容姿:カプラ=グラリス
所持品:TBlバスタードソード、普通の矢筒、スリープアロー十数本とそれを穂先にした銛
備考:
状態:裂傷等は治療済みだが、体力はまだ半分以下。



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