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2-204

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204.ひとりだけの世界 [深夜]


――いつから、こうなった?
暗い夜道を、取り憑かれたように♀BSはただ歩く。♂スパノビはおろおろとしたままそれに付き従う。
方向などわからない。消えた仲間がどうなったかなどということも、最早どうでもよかった。
いや、はじめから仲間などではなかったのだろう、と♀BSはぼうっとした頭のまま思う。
♀アルケミストも、淫徒プリも、加わったばかりの♂アコライトと♀ノービスも――ただ自分の望みを叶えることだけを考えていた。
その望みが、みんなで生き残るなどという甘いものではなかったことははっきりとわかる。
♀BSはあまり思慮深いほうではなかったが、それだけは本能で感じ取っていた。

「お前はどうして何も言わずに、あたいについてくるんだい?」
やや後方を歩く♂スパノビに問いかける。まともな答えを期待してはいなかったのだが。
「よ、よくわかんねえけど……おで、ぼずをひとりにはできねえ」
「……そうかい」
この男がこんな風体で、こんな頭でなければさぞかし甘い言葉になっただろうに、と♀BSは思った。
しかし同時に、常人よりも馬鹿で純粋だからこそ、酷く荒んだ状況の中でもこのような言葉が吐けたのだろうとも思われた。
彼の言葉には嘘はない。それ故に、ただ嬉しかった。
「人数だけは多かったけど、あたいたちははじめから二人だったんだね」
♀BSがそう呟くと、♂スパノビは悲しそうな目で彼女を見つめてきた。
彼女の言葉の意味はよく理解してはいないだろうが、彼なりにボスが悲しんでいるのはわかったのだろう。

二人か。本当にはじめから、ずっとそうだっただろうか。
前方に視線を戻すと、見たことのある風景が広がっていた。
深夜ということもあり、はっきりとわかるものではなかったが――鞭と短剣が供えられた二つの墓には見覚えがあった。
「なあんだ、またここに戻ってきちまったのかい。同じところをぐるぐると、バカみたいだねえ」
おかしそうに笑いながら、♀BSはダンサーの墓の前に座り込んだ。

はじめから今まで、ずっと二人ではなかった気がする。
少なくともあの踊り子には自分は気を許していた。
♂スパノビを見つめるあの優しい瞳は、どこか自分の母親に似ていたし、父親にも――少しだけ似ていた。
もっとも歳が違いすぎるし、そんなことを彼女に直接言ったらおばさん扱いするな、と怒られただろうけれど。
会ったばかりの♂BSも、確かにスケベそうな男だとは思ったが、悪い人間には感じなかった。
彼はすぐにダンサーと共に旅立ってしまったけれど、付き合いが長ければ信頼できる仲間になれたかもしれない。

でも、今はどうだ。
仲間はまた一番はじめに逆戻り。心を許せる人間は♂スパノビ一人。
(それも、心を許せる、だなんて言って――)
♂スパノビの幼さを利用して、自分の不安を鎮めようとしているだけだ、と彼女は自嘲した。
(結局、自分の心の中にあるのは、自分ひとりのことだけ。あたいも結局、身勝手なのか)
♂スパノビがもし彼女の心中の言葉を聞くことができたなら、それをはっきりと否定してくれるだろう。
♀BSは確かに、彼のことを思いやることができる優しい人間なのだから。
しかしあまりに変わりすぎた状況の中で、♀BSは暗い考えを持つことしかできなくなっていた。

いつから……あたいは、こうなった?
もう一度、♀BSは自分自身に問う。この島に送られたばかりのときは、自分はこんなにも弱い人間ではなかったはずだ、と。
♂BSが死んで、ダンサーが死んで、――父親も、死んだ。姿の見えない元仲間の誰かも死んだかもしれない。
一度に色んなことが起こりすぎて、人が死にすぎて。いつから自分が駄目になったのかはわからない。
ただ、すぐにでも自分が彼らのようになるかもしれないという、この狂った世界の怖さが痛いほどわかっただけだ。

♂スパノビまで死んでしまったらどうなるだろう。彼女の頭の中に、かつて振り払った思考が蘇る。
この狂った世界の中で、ひとりになったら――自分はどうなる? この世界に溶け込むように、狂ってしまうのだろうか。
自分が死ぬのと、ひとりきりになるのと、どちらが辛いのだろうか。

「ぼ、ぼず! あれなんだ!?」
「なんだい、騒がしい……」
♂スパノビの声に、墓から視線をはずすと、暗闇にぼんやりと浮かび上がる光があった。
(……綺麗)
それは揺らめく炎のようで、彼女を惹きつけて離さなかった。
(何か、見覚えがある気がする。でも、なんだったか……)
まあいいか、と思考を打ち切り、♀BSはゆっくりとその光に近づいた。
「ぼず! な、なんかそれ、こわい……」
♂スパノビが怯えた声で♀BSを止めようとするが、彼女は構わず進む。
がくがくと身を震わせながら、それでも彼女をひとりにはできないと思ったのか、♂スパノビも結局は彼女の後に続いた。

そして――♀BSの目の前に、かつて彼女自身の手によって真っ二つに断ち切られた、一本の槍が現れる。
もう槍としての機能は失っているはずなのに、なぜかそれは生きているかのように輝いている。
仲間を失った苦い記憶が♀BSの頭によぎり、彼女は目を逸らした。

しかし、空虚になりかけた心が、その強すぎる光を求めるように揺れ動く。
暗く揺らめく光に、手を伸ばすことも、背を向けることもできずに――♀BSは、ただ立ち尽くしていた。


<♀BS>
現在地:F-6
所持品:ツーハンドアックス 古いカード帖
外見:むちむち カートはない
備考:ボス 筋肉娘
状態:負傷箇所に痛みが残る。軽度の火傷。ショックに次ぐショックで、軽い放心状態。ヘルファイアに半分魅了されている

<♂スパノビ>
現在地:F-6
所持品:スティレット ガード ほお紅 装飾用ひまわり
外見:巨漢 超強面だが頭が悪い
状態:瀕死状態から脱出。おろおろ。ボスが心配。



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