バトルROワイアル@Wiki 2-205


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205.隠し味 [2日目深夜]


トクン。 トクン。
血流にのって薬効が全身を巡る。
黄色い果実に秘められた世界樹の生命力そのものが。
傷ついた全身の細胞が癒合し再生して行く。
シュワシュワ、プチプチと音が聞こえる気がするほどの早さで。

(う…)
♂騎士はうっすらと目を開けた。
そして薄目のままゆっくりと周囲を見回す。
周囲に数人分の気配があった。
「あ、いま♂騎士さん動きませんでしたか?」
聞き覚えのない声。
とっさに目を閉じる。だが、そのことで却って動きが生まれてしまったようだ。
「♂騎士!よかった、気が付いたか!」
誰かが飛びついてくる。
反射的に振りほどこうとするが、体が思うように動かない。
力を込めると硬直していたあちこちの骨と筋がばりばりと音を立てた。
「ぐ…」
「無茶するな。まだ完治したわけじゃねえ」
また別の声がする。
少なくとも3人に囲まれているようだ。もはや目をつぶっている意味はないだろう。
彼はもう一度慎重に目を開けてみる。
暗くてよく分からないが木立の中のようだ。近くに2人、横になっている者が2人、さらに少し離れてもう1人居た。
どうやら5人もの大所帯らしい。
今声を掛けたのは…誰だろう?
「どうした?」
「ああ、いや…」
誰にせよ、今のところ害意はないようだ。
むしろ♂クルセにやられて死にかけていた自分をここまで運んでくれたのだろう。
彼らが何者にせよ、助けてくれたのだとすれば幸運としか言いようがない。
だが、今は彼らの正体よりまず気になることがある。
「教えてくれ。♂ケミはどうなった?」
「…なに?」
彼の言葉に目前の人物が絶句する。
他の面々も困ったように顔を見合わせた。
まさか、自分が意識を失っている間に殺されてしまったのだろうか。
恐ろしい想像が脳裏をよぎる。
やがて目前で絶句していた人物がため息混じりに言った。
「おいおい、何言ってんだよ。そりゃ俺だろ」
「助けられといて悪いが、冗談聞いてる暇はないんだ。青い髪をしたアルケミストの男を見なかったか?」
「だから俺がその♂ケミだっての!忘れたのか!?」
「そんなはずは…」
記憶の中の♂ケミをなるべく正確に思い出し、目の前の人物と比べる。
髪の毛の色。容貌。衣装。そして声。
そのどれもが似ているようにも、似ていないようにも感じる。
だが少なくとも、どこが違っていると指摘できるほどの差も見つからなかった。
「お前…♂ケミか?」
「だからそうだって言ってるだろ!」
「そうか…よかった」
安堵のため息を吐く彼を♂ケミが揺さぶった。
「よかったじゃないぜ!どうやったらこんな短時間で俺の顔忘れられるんだよ!」
「いや、そう言われてもな」
なんだか妙に痴話喧嘩くさい文句だよな、と他人事のように思いつつ♂騎士は頭を掻く。
♂ケミの顔をはっきり見分けられないせいか、微妙に親近感が湧かないのだ。
そんな2人を見比べて、離れている人物が不思議そうに言った。
「もしかして記憶喪失とかじゃないですか?」
「ああ、なるほどな」
近くにいる2人の内、♂ケミではない方が同意する。
♂騎士はその意見と自分の症状にかすかなギャップを感じたが、うまく説明もできないので黙っていた。
少なくとも記憶喪失という説明は彼にとっても分かりやすい。
「そうか、まあ思い出せたみたいだしいいけどさ」
「ここがどんな所か、とかは憶えてますか?」
少々不満げに口を尖らせる♂ケミに続いてそんな質問が投げ掛けられた。
♂騎士は欠けた記憶がないか、島に来る前後のことを思い出してみる。
GM森と名乗った男。最初に遭遇した♂ローグとダンサー・バード。刃を交えたグラリスや♂クルセ。そして目の前で死んでいった♀クルセと…♀プリのこと。
「……ああ。ここがイゾルデの作った殺人ゲームの舞台だって事も、俺が死にかけた理由も憶えてる」
ただ、島に来てからのことを思い出してみるうちに別の不安感がわき上がってきた。
今までは敵味方がはっきりしていた。
少なくとも外見でどんな職業か、どんな戦い方をするかが推測できた。

なのに、今ここにいる奴らの正体が分からない。

(おい、♂ケミ。どうしてお前は平気でいられるんだ)
助けられたにしても、こんな正体不明の一団を信用していいのだろうか。
♂ケミが騙されているとしたら?
助けてくれたのは♂ケミで、他の連中は居合わせただけだとしたら?
…そしてその♂ケミは本当に本物なのか?
疑念はとどまることなく広がり続けた。


この場に♂セージが居れば適切な質問を重ね、彼の症状を正確に診断したかも知れない。
また♀Wizが意識を取り戻していれば冷静に自身の状態を判断し、♂騎士も同じだと気付いたかも知れない。
だが♂セージはまだ合流しておらず、♀Wizは高熱こそ引いたものの体力を消耗したまま昏睡しており、震える体を♀商人が添い寝して温めている。
だから♂騎士が自分の異常に気付くことはなかった。
彼は個人を区別できなくなっているのだ。
フィールドに群棲しているポリンを一体ずつ区別できないように、他人をすべて『人間』としか認識できなくなっているのである。
もちろん落ち着いて観察すればペットのポリンのように多少の区別はつく。♂ケミに対してやっているのはそういうことだ。
しかし何人もが激しく入り交じって動き回り始めたらたちまち分からなくなるだろう。
彼は敵味方が判別できないという極めて危険な状態にあった。

異変の原因は、さしもの♂セージも焦りの余り見逃した一つの事実にある。
『参加者の死を目的としたゲームの支給品に、なぜイグ実やマステラなどという強力な回復薬が混じっていたのか』
もちろん生命線となるイグ実を奪い合って争いが起こる可能性はあるだろう。
だがそれなら食料や水の支給量を減らしてもいいし、マステラという中途半端な回復薬にそこまでの意味はない。
ではなぜGMジョーカーはそんなものを準備したか。
すべては次の一文に集約される。
――殺戮を楽しむための道具がいくつかジョーカーの手によって仕掛けられていた。

「…もう少し眠らせてもらっていいか?」
♂騎士は疑念を抱いたまま横になった。
問いつめて真偽を確かめようにも彼は弁の立つ方ではない。
相手が本気で騙すつもりだったら逆に言いくるめられる不安がある。
ならばもう少し観察した方がいい。
「わかった。早いとこ体調を取り戻してくれよ」
♂ケミらしい人物は軽い口調で答えた。
もちろん♂騎士は実際には眠りにつかず、そのままじっと聞き耳を立てる。
信じたい気持ちと疑念とが胸中を半々に占めたまま。
「…これで♂騎士の方は一安心か」
ややあって。彼のたぬき寝入りに気付いた様子もなくひそひそ話が始まった。
「ああ。あとはそっちだけど…大丈夫なのか?」
「まだ油断できねえ。けど、絶対に何とかするぜ」
――なぜ、声を潜める?
まず湧き起こったのはそんな疑問だった。
もちろん寝ている自分達を起こさないためだろう。理性はそう告げた。
しかし疑いを持って聞けば密談のようにも思える。
当たり前に受け取れば容態を心配しての言葉以外の何物でもないが…うまく騙せているという意味にも取れないか。
彼がさらに悩む内に♂ケミはもう1人に言った。
「あんたも少し寝た方がいいんじゃないか?」
それに対して相手はすぐに答えず、何やらごそごそと探る物音がする。
「その前にこいつを見てくれ」
「何だそりゃ?説教なら間に合ってるぞ」
「いいから」
何か取り出したようだ。
薄目を開けてそっと様子を窺うと♂ケミが黒っぽい…書物だろうか。四角い物を受け取る所が目に映った。
そして2人の会話が続く。
「…よく見えない」
「…そりゃそうか。ま、頑張ってくれ」
それはそうだろう。月明かりがあっても夜中なのだ。
少なくとも♂騎士の位置からではまったく判別できないし、手に持っていても読みにくいことに違いはあるまい。
案の定♂ケミは月光に向けあれこれ本を傾けていた。
そしてつぶやく。
「これは…う~ん」
それ以上何も言わない。
暗闇にページをめくるかすかな音だけが響き、♂騎士は居心地の悪さに身じろぎした。
――おかしい。
疑念が膨れ上がる。
読み進むペースは明らかに遅いし、なるべく月光に照らそうとしている。
そこまでは暗くて読みにくいのだから当然だ。
だが、それほどまでに読みにくいのなら口で説明するのが親切という物ではないか。
読みにくいと分かっているのにそれでも直接読ませる意味は?
答えはすぐに出た。
内容を聞かれたくないから。それしか考えられない。
全身に嫌な汗がにじんだ。
――聞かせたくないのは一体誰に対してか。
俺か。
……いや。
彼はその不吉な考えをうち消そうとした。
起きている3人は除くとしても、眠っている者が他に2人いる。そのどっちかかも知れない。
それに聞かせたくない理由も、例えば誰かが助からないといった「言いにくいこと」だからかも知れない。
♂騎士は明るい材料を探そうとした。
それでも胸の奥の方で暗くよどんだ物が蠢き出すのを完全には止められなかった。
――疑え。憎め。殺せ。
そのどす黒い想念は彼に囁く。
それが生き残る道だと。
違う!俺は♂ケミを信じる。
――本当に?
当然だ。
――あれが♂ケミでなくても?
あれは♂ケミだ。
――本当に?
やがて、長い時間を掛けて読み終わった♂ケミはなぜか数ページ戻って沈黙した。
♂騎士が祈るような気持ちで聞き耳を立てる中、ツバを飲み込む音が届く。
そしてもう1人に向けて言った。
「じゃあさ、動けない奴は足手まといになるし…置いて行かないか?」
――!
♂騎士は一瞬呼吸を忘れた。
――動けない奴ってのはお前のことじゃないのか。
違う。寝てる奴は他にも2人いる。
――じゃあそいつらのことだとして、あの♂ケミがどうしてこんな事を言うんだ。
それは…。
次第に、次第に。胸の内のどろりとした声と、理性のもたらす答えとが近付いて行く。
――あれは偽者だからだ。
「おいおい。そりゃいくら何でも薄情なんじゃねえか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。俺達の命も掛かってるんだ」
「ってもなあ…」
会話を聞けば聞くほど疑念は深まった。
♂ケミだと思っていた奴より相手の方がまだましな反応をしている。
「せめて起きるのを待とうぜ」
「俺達は最善を尽くした。あとは当人次第だろ?」

♂ケミの苛立たしげな口調に♂プリは口ごもった。
彼がGM達の本拠を探すため喧嘩別れしようとしていることは分かる。
だが、彼1人で送り出すのは自殺行為だ。
実のところ♂ケミの言う「動けない奴」は♀Wiz1人のつもりなのだが、♂プリはそれに気付けない。
そして♂ケミにとっては自分と♂騎士との同行が当然過ぎて、誤解を生んでいる可能性に思い至れない。
前提が微妙にずれていながら会話は成立してしまったこと、そして筆談で真意をただすには暗すぎたことが彼らの不幸だった。

♂騎士は流れる沈黙に身を固くした。
荒い呼吸や言葉未満のうなり声から双方の苛立ちと当惑が手に取るように分かる。
冗談でやってるようには思えない。
これは本気だ。
――やっぱり、こいつは♂ケミじゃない。
♂騎士の心の天秤が疑いの側へ大きく傾いたその時。
「…だったらさ」
同意しない相手にしびれを切らせたのか、♂ケミだと思っていた誰かは吐き捨てるように言った。
「どうせ死ぬんだ。俺が楽にしてやってもいいぜ」
アリエナイ
コイツハ…ダレダ
疑念は恐怖に満ちた確信へと変わり、恐怖はGM橘の暗示を呼び覚ます。
――そうだ、殺せ。
無意識に手が動き、ツルギを鞘から抜く。
それでも、彼は必死に抵抗した。
恐怖をおして前に進めと♂プリに言われたから。
ゲームには乗らないと♂ケミに語ったのだから。
だが。

「危ない、よけて!」
たった1人、♂騎士の異変に気付いた♂シーフが叫ぶ。
襲撃か。とっさに♂ケミは♂騎士を守ろうと覆い被さり――
♂騎士は飛び掛かってくる「♂ケミの偽者」から身を守ろうと、ツルギを突き出した。
そして
刃は♂ケミの胸をまっすぐに貫いた。


<♂騎士>
現在地:D-6(丘の木立)
所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個
備 考:♂ケミを真の意味で認める、GMの暗示に抵抗しようとするも影響中、混乱し♂ケミを刺す
状 態:痛覚を完全に失う、体力は赤ゲージ、個体認識異常(FF型混乱)

<♂アルケミスト>
現在地:D-6(丘の木立)
所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本
状 態:致命傷を負い虫の息
備 考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る ファザコン気味? 半製造型
メマーナイトなし? ♀WIZ・♂シーフ・♂プリ・♂騎士・♀商人と同行


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