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2-207

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207.交尾 [2日目深夜]


敗走、それは気高き女王である彼女にとって、けしてあってはならぬことだった。
たとえ自らがどれほどの窮地に置かれたとしても、女王とはそれを高らかに笑い飛ばし、最後には勝利のさかずきを右手に敗者にあわれみの情をかける存在のはず。
ならばなぜ、我はこのような醜態をさらしておるのじゃ!

すこしの怒りも冷めやらぬまま、彼女は森の中を、つややかな紫の髪をはげしくゆらして走っていた。
四枚の羽で宙空を自在に飛びまわっていた昆虫族の女王としての威厳は、見る影もない。
ファルコンつきのハンターていどに遅れをとったことに、彼女の自尊心は大いに傷つけられていた。
騎士が剣士に決闘で土をつけられたようなものだった。いや、そんなものでは済まない。
ノービス相手に完膚なきまでに叩きのめされた。それくらいの屈辱だった。

とめどなくこみ上げてくる憤りに、彼女の目は瞳孔、虹彩のみならず、結膜にいたるまで真っ赤に染まっていた。
月明かりでもはっきりとわかるほどに目を赤く輝かせる彼女の容貌は、もはや女王蜂というより、妖魔かあやかしのようだった。
生来の♀アーチャーを知っているものがいまの彼女を見たとしても、とても同一人物とは思わないだろう。
それほどにミストレスは怒髪天を衝いていたのだった。

そんな状態の彼女の前に立ち塞がるものがいたとしたら、その人物はよほどの痴れものか、それとも大胆不敵な存在か、どちらかだろう。
そして♂マジシャンは前者に該当した。
彼は身を隠していた自分に気づくことなく近くを走りぬけようとしたミストレスが♀アーチャーのいでたちをしており、さらには弓をもっていないことを見てとって、つい呼び止めてしまったのだ。
♀マジシャンに関する情報のひとつでも聞き出そうと思ったのだろう。
まったくもっておろかとしか言いようのない行動だった。
もちろんそれは、はた目には♀アーチャーにしか見えない彼女の正体を知っているものからすればの話であり、ともかく♂マジシャンは声をかけてしまったのだった。

呼び止められてからのミストレスの行動は、♂マジシャンの予想できる範囲をはるかに超えていた。
刀剣類を手に襲いかかってくる可能性くらいは片隅に持っていたのだが、相手がまさか自分には唱えることすらできない高位の魔法を使ってくるなどとは、古いカード帖からゴーストリンcが出てくる確率ほども考えていなかったのだ。

はげしい白光とともに♂マジシャンははじけ飛び、大木に背中を強打されてうめき声をあげた。
そのときの♂マジシャンの心理を表現するとこうなる。

馬鹿な・・・・・・なぜ・・・・・・どうして・・・・・・
相手はアーチャーのはず・・・・・・こんな・・・・・・ありえるのかっ!?

擬音にすると当然こうなる。

   ざわ・・・・・・


          ざわ・・・・・・

話をもどそう。
ボーリングバッシュで撃たれた魔物のようにすっ飛んだ♂マジシャンだったが、さすがマジシャンだけに魔法への抵抗力はそれなりにあるらしく、気絶することはなかった。
状況が理解できずに頭の中は混乱したままだったが、つづく雷球を回避することだけはできたようだった。
どちらかというと狙って避けたというよりは、偶然当たらなかったていどなのだが、とにかく体勢を立てなおすことには成功した。
もちろん彼女の攻撃が、それで終わるはずはない。

♂マジシャンはその瞬間が悪い夢であることを願ったに違いない。
いっそ、島に来てからのすべてが夢であってくれと思ったかもしれない。
それというのもマジシャンでもウィザードでもなさそうな彼女が、怒り狂ったミノタウロスのような真っ赤な目で、ユピテルサンダーを乱発してきたからだ。
♂マジシャンは胸中でひどい悪態をついた。ほかの誰にでもない、自分自身にだ。
目に見える情報だけを鵜呑みにして、警戒を怠った自分を呪わずにはいられなかった。
けれど、どう考えても手遅れだった。

夜空に浮かぶ星の数には到底いたらなかったが、両手両足を使っても数え切れない回数のユピテルサンダーを浴びた♂マジシャンは、ぐうの音もだせずうつ伏せに倒れた。
虫の息ではあったが、それでも死んでいないのだから、なかなかの魔力の持ち主と言えよう。
順調にウィザードへの転職を果たしていれば、もしかするとかなりの大魔法使いになれたのかもしれなかった。

そこまで相手をぼろぼろにして、ようやくすこしは怒りがおさまったのか、ミストレスはたおれた♂マジシャンに近づいた。
彼がまだ生きていることにおどろきつつ、蹴りをいれてうつ伏せからあお向けにさせると、顔をのぞきこんだ。
陰気そうな顔立ちであったが、ぶさいくではなく、やるときにはやるといった強さを秘めているように思えた。

(これは・・・・・・使えそうじゃ・・・・・・)
本来の器を取り戻した自分の手加減ない魔法を死ぬことなく耐え切った♂マジシャンの肉体に、いったいどのような興味をもったのだろうか。
ミストレスは♂マジシャンの衣類をすばやく剥ぎ取ると、自分の上着の止めひもに手をかけた。
しゅるりと音をたててミストレスもまた一糸まとわぬ姿となった。
これが♀アーチャーの肉体でなく、島に来た当初の器であれば、さぞや男性を喜ばせる光景だったに違いない。
しかし今のミストレスの肉づきは、どちらかといえば貧粗なもので、それでも色づいて見えるのは女王蜂の内面的なものが多少外に出ているに過ぎない。

「う・・・・・・」

♂マジシャンがかすかな声をあげた。夢心地とはまさにこういうことを言うのだろう。
目を覚ましたら見目うるわしいはだかの女性がいて、そしてこともあろうに自分と肌を重ねていたのだから夢としか思えない。
ただ残念なことに魔法によってぼろぼろにされた手足は動かすことができなかった。
それでも痛みどころか自分のからだが溶けてしまいそうなほどの快楽を感じ、♂マジシャンは恍惚の表情を浮かべた。
いま起こっていることを含めて、いままでのことが本当に夢のように思えた。

♂マジシャンが気を取り戻したことを知り、ミストレスはうれしそうに口もとをゆるめた。

「とびきりの快楽をやろう。光栄に思うのじゃな。我のために果てるのじゃからの」

それが♂マジシャンが生涯で聞いた最後の言葉となった。
ことを終え、ミストレスは横たわったままの♂マジシャンを一瞥し、ふたたび衣類をまとった。
どくんと下腹部から全身に力がみなぎってくるのをたしかめて、にたりと満足そうに笑んだ。

「気持ちよかったじゃろう? 死ぬほどにの」

そしてミストレスは静かにその場をあとにした。
用済みの死骸には、もはやなんの感慨を示すこともなかった。
いまの彼女が考えることはただひとつ。それは♀ハンターへの報復だった。


<♂マジ>
位置 :E-7
所持品:ピンゾロサイコロ(6面とも1のサイコロ) 3個(内1個は割れている)
   青箱1個 スティレット
外見 :長髪 顔色悪い
状態 :死亡 ただし全裸で
備考 :JOB50 ♀マジとはぐれ捜索中 カイジ


<ミストレス>
現在地:E-7
外見 :髪は紫、長め 姿形はほぼ♀アーチャー
所持品:ミストレスの冠、カウンターダガー
備考 :本来の力を取り戻すため、最後の一人になることをはっきりと目的にする。つまり他人を積極的に殺しに行くことになる。なんらかの意図があって♂ハンターを誘惑。その理由は不明
   ♂マジから魔力を奪った! ♀ハンターに報復したい!


<残り25名>



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