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208

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208.それぞれの幕間~[最後の一人]


さて。
最後に今一つ、語らねばならない事が残っている。
とある愚かな白い男の事だ。

彼は、GMと呼ばれる存在であった。
彼についての説明は、この一言に全てが集約される。
命じられるままに仕事をこなす。そんな存在だ。
彼は善良で忠実であったが、それ以外には特に取り柄も無い男だった。

男が、その女と出会ったのは、もうずっと昔の事だ。
彼自身、その当時の場所が何処だったか良く覚えていない。
ただ、はっきりと覚えている言葉が、一つだけある。
『私は、この世界が大好きなの』確かに彼女はそう言った。

時計塔の鐘。大きく大きく世界に鳴り響いている。
それは、祝福だった。世界は、あの日確かに二人にハレルヤを歌っていた。
青い空。まるで細雲の様に鳥が透き通る青に舞う。
冒険者だった彼女がまだ世界を歩いていたあの日。その女は、よくそこで笑っていた。
美しかった。まるで女神の様に。
深く、深く彼の魂にそれは刻み込まれている。
二度と戻る事は出来ないから、過去の残滓は何処までも眩しい。
しかし彼は。嗚呼、彼は。
愚かにも神の使いでありながら、その女に恋をしてしまった。
不確かな愛が世界で一番尊いだなんて、本気で信じていた。
そのぐらい、幸せだった。
──それが、男の運の尽き。
思い出の引き出しを開けよう。
そこに、全ては転がっている。


少し昔々の話をしよう。
恋を知ってしまった白い男が、彼の仕える神様に言いました。
曰く、私はひとを愛してしまいました、と。
神様は、答えを返します。
出来ぬ。人と天使は違うから。
男は、その言葉に更に返して言いました。
ならば私は堕ちましょう。そして全てを捨てましょう。私はそれでも構わない。
神様は、真摯な男の言葉に、けれど首を横に振りました。
しかし、何か思い出した様な顔をすると男に問いかけました。
お前は、その為に全てを捨てるも構わぬか?
男は、首を縦に振りました。
例え私は堕ちようと、彼女と共に在れるなら、何一つ決して厭いはしません。
神様は、ゆっくりと頷いて言いました。
ならば私は試練を課そう。貴方達は、私の使いであると同時に友であるから。
だから、女に試練を与えよう。その者を、私の友となさしめんが為に。
男は愚かにも、その言葉を聞いて喜んだ。只、疑うことも無く首を縦に振った。
まだ何も知りはしない。彼は、この瞬間重い重い罪を背負った。
──そして、彼は。
神様と、他の白い人々に導かれるまま、狭い部屋に鮨詰めになった人々の前にいた。
不安そうな顔、顔、顔。その中に、彼が愛した女も。
彼は、命じられるままに手渡されたページを読み上げる。
『貴方達には、これから殺し合いをしてもらいます』
──それが即ち、男が嬉々として受け入れた、試練。
狭い部屋に立つ男の前には、顔。動揺し、困惑し、怯える顔。
彼の良く知る女が、裏切られたような、泣き出しそうな顔で彼を見ていた。
違う。これは。違うんだ。私は。君が。君が只、本当に大好きで。
男の言葉は届かず、女の顔は、どうして、と彼を苛んでいた。
男は忠実に仕事を果たす。無機質に読み上げられていく言葉。
立ち上がり、理不尽へ怒りを露にしたばかりに殺されていく参加者。
他の白い人の気紛れで、何の意味も無く殺されてしまった参加者。
白い人を愛し、愛されたばかりに、裏切られた女。
泣きながら、怯えながら、怒りながら、絶望しながらポータルの光に飛ばされていく人、人、人。
嗚呼。その白い男は。人を愛してしまったばかりに、彼女を死地に追いやってしまった。
その罪は、誰が赦すことが出来るだろうか?
彼は、ひたすら後悔する事しか出来なかった。
自らの罪に繋がれている。その鎖は誰にも断ち切れない。
それは彼が望み、彼が叶えた願いだ。
最低の。害虫にも劣る。出来損ないの──
そう、その愚かな男はそんな道化だった。

やがて、彼が彼女のバックに入れた神剣(バルムン)を手に、血みどろになって女は彼の元に帰って来た。
白い、白い女が。試練を潜り抜け、全てを無くした愚かな道化の元に。
女は、笑っていた。嗤って男を見ていた。何も言わなかった。
その瞳は、男の心にまるで杭の様に突き立っていた。
その杭には、鎖が幾重にも巻き付いている。

そして、彼が愛した女の名は、秋菜と言う。
──今も道化は、彼女と下手糞な舞いを踊っている。


<秋菜 過去のお話>
<♂GM(二人目) 過去のお話>

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