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228.残酷な神さま [2日目深夜]


夢を見た。

とびきりのごちそうを目の前にしてうかれはしゃぐビニット。
そんなビニットを、行儀が悪いとたしなめるデフォルテー。

にぎやかな晩餐だった。

早くも葡萄酒を飲みはじめているソリンがいれば、鼻歌を歌いながら楽しそうに料理を運ぶテーリングがいる。
そして私のとなりには、まだ髪を伸ばしはじめたばかりの幼いWが座っていた。

彼女は瞳をきらきらと輝かせながら、テーブルの上に置かれた箱から赤色の包装紙をはがしとっている。
その箱は、私たちがついさっきWに贈ったものだ。

よほど中身が気になるのか、彼女は夢中になって紙をはがしていた。

ようやく開けた箱の中から出てきたものを見て、彼女は歓喜の声をあげた。
小さな手で大事そうに取り出したそれは、レースのついた白いリボンだった。

彼女はリボンを笑顔でにこにこと眺め、小鳥のようにかわいらしく喜びをさえずった。

「ありがとう、お姉ちゃんたち。とってもうれしい」

その笑顔があまりに可愛らしかったので、見ていた私の顔は大いにゆるんだ。

しあわせな誕生日のひとときだった。


口の中が血にあふれたことで、私は夢から目覚めた。
現実は夢とほど遠い、酷いものだった。

力まかせに斬りつけられたために胸も腹も見事なまでに裂けている。
骨などは砕けているに違いない。
即死ではないだけ、奇蹟とも言えるくらいだった。

夜の森であるために自分の体があまりよく見えないことを、正直ありがたいと思った。
もはや痛みの感覚すらないのだから、想像するだけでおそろしい。

さすがに呆然としたが、すぐに右手がなにかを握っていることに気がついた。
バスタードソードだった。

思い出して顔をゆっくりと上にあげたところ、人の顔があった。
暗さのため人であるとしかわからなかったが、♂クルセイダーに間違いないだろう。

目が合った気がした。

♂クルセイダーは低い声で私にぼそりとこぼした。

「死ぬのが、怖いのか?」

首を振る力が残っていなかったので、私は声を使った。ただしできる限り簡潔な言葉を選んだ。

「少しも怖くないですわ。ただ悲しいとは思いますけれど」
「どうしてだ?」

♂クルセイダーは矢継ぎ早に聞き返してきた。せっかちな男だ。それでも素直に答えることにした。
どうせ自分がもう長くないと思ったからである。

「守りたい人を守れずに死んでしまうこと。そのことが悲しいのですわ」

声に出したことで悲しさが強まった。
自分がここで死ぬこと。それはかまわない。それだけの罪を犯したとも思う。
ただそれでもWを守れないで死ぬことが、ひどく悲しかった。

「なるほど、愛するものを守ろうとする力か。どうりで強い。
 しかし残酷な話だ。守りきれずにお前は死ぬ。やはりこの世界には救いの神などいなかったというわけだ」

男は冷ややかな口調で言った。
クルセイダーが神を信じていないというのもおかしな話だが、この島ならそんなこともあるかもしれない。

私は思ったことを口にした。

「たしかに神さまはいないかもしれないですわね。もしいるのだとしたら、こんなことが許されるはずありませんもの。
 こんな人を殺し合わせるような、腐った遊戯が存在していいはずがありませんもの」

だけど、と続けた。

「さきほど私は夢を見ましたわ。なつかしい夢を。
 死ぬ前の最後の夢としては……悪くない夢でした。
 二度と見ることはかなわないと思っていた笑顔が、見られましたから。
 もしかすると、そんな小さな奇蹟くらいなら、神さまは起こしてくれるのかもしれませんわね。あまり意味はありませんけれど」

蝋燭の炎が消える前の最後の輝きというものだろうか。
手足はもうぴくりとも動かせないのに、口だけがよく動いた。
気が狂いそうになるほどだった痛みも今はなく、まるでどこにも怪我などしていないように感じられた。

それでも自分が死ぬということは不思議と理解できていた。

死を受け入れつつあった私の意見に♂クルセイダーは感銘を受けたらしい。
うれしそうに言った。

「神はいる。しかしその程度のことしかしてくれないということか。なるほど。あきれるくらいに残酷な神だ」

けれど、どこか自嘲しているようにも聞こえた。

「ええ。ほんとうに残酷ですわね」

そう答えて私も少しだけ笑った。

奇妙なことだと思った。
私も彼も、命のやりとりをしていたはずなのに。殺し合いをしていたはずなのに。
さらに私はまもなく死ぬ。ところが彼に対する怒りや憎しみが少しも沸いてこなかった。

「悔いはないのか?」と彼が聞いてきたので、「悔やんだところでしかたがないですわ」と返した。

悲しいという感情だけは尽きなかったけれど、はっきりどうしようもないと思った。
つきものが落ちたみたいだった。

「自分が助からないことくらいわかりますもの。
 だからあとはあの子の無事を祈るだけ。どんなに悲しくても、今の私にできることは、たったそれだけ。
 ところであなたには、いませんの? 守りたい人。あなたはなんのために戦っていましたの?」

♂クルセイダーは淡々とした口調で答えた。

「俺には誰もいない。俺はこのどうしようもない人生に、ただ抗っていただけだからな。
 だがそれも終わりだ。結局は俺も、残酷な神にもてあそばれて死ぬらしい。所詮、人の力ではどうにもならないということだろうな」

私は驚いて彼を見つめた。表情はわからなかったが、荒れた息を吐く音が耳を通して聞こえてきた。
はっとして自分が握る剣の先を凝視した。

剣先がまっすぐに♂クルセイダーの胸へと伸びていた。

「あなたも、でしたのね」

そう言うのがやっとだった。

だから彼に怒りも憎しみも沸かなかったのだと、ひどく納得した。

ああ、と♂クルセイダーが頷いたので、ため息をもらした。
どうにか笑顔を作ったが、たぶん彼の目には見えないだろう。
それでも笑顔で話しかけた。

「それにしてはおたがいに、長く話ができていますわね」
「なに、残酷な神のほんの気まぐれというやつだろう。最後くらいは好きに愚痴れとでも言いたいのだろうが、馬鹿馬鹿しい」
「まったくですわ。どうせ気まぐれを起こすなら、こんな現実をねじまげるくらいしてもらいたいですのに」
「同感だ。こんな現実は───、こんなくだらない死にかたをする人間は、俺たちで最後にしてもらいたい」

彼が笑った気がした。私も口もとをほころばせている。
終わりの時間が、すぐ目の前まで来ていた。

とつぜん思いついたように♂クルセイダーが言った。

「お前の守りたいやつの名前を教えてくれ。俺もそいつの無事を祈ろう。
 一人より、二人で祈ったほうが効き目があるかもしれんだろう」
「誰に祈るのです? あなたのいう残酷な神さまにですか?」

驚くより先に聞き返していた。

「そうだな、最後くらい神に祈ってやろう。クルセイダーらしくな」

皮肉なのか、心からの言葉なのか、よくわからなかった。
朦朧とする意識で、かろうじて答えた。

「それは、たのもしいですわね」
「だろう。だから名前を教えてくれ」

W。
そうつぶやこうとしたが、唇が動かなかった。
残念だけれど、ここまでということなのだろう。

視界もぼけはじめている。私の世界が終わるのだ。

「まったく。神はどこまでも、俺につめたいらしい」

意識の底で♂クルセイダーの声が聞こえた。けれど、それもすぐに消えてしまった。


<♂クルセイダー>
現在地:E-4
髪 型:csm:4j0h70g2
所持品:S2ブレストシミター(亀将軍挿し)
備 考:♂騎士を生かしはしたものの、迷いはない
状 態:左目の光を失う 脇腹に深い傷 背に刺し傷を負う 焼け爛れた左半身 死亡

<グラリス>
現在地:E-4
容姿:カプラ=グラリス
所持品:TBlバスタードソード、普通の矢筒、スリープアロー十数本とそれを穂先にした銛
状態:裂傷等は治療済み 左手首から先を失う 死亡


<残り22名>



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