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232.迷いの森 [2日目夜]


光の届かない夜の森を男は歩いていた。

手の届く距離ですら目を凝らさなければ見えないほどである。足取りは慎重だった。
つま先をゆっくりと前に伸ばし、そろりと地面につける。進めた足に体重を預けるのにじゅうぶんな感触を確認して、次の足を送る。
一歩、また一歩と繰り返し、道なき森を歩いていた。

男はこの森をできるだけ早く抜けたかった。
D-6まで移動して、自らの手で殺めてしまった♂ケミを少しでも早く弔ってやりたい。
その思いが、本来であれば動くべきではないはずの夜の森をひた歩く原動力となっていた。

他人が聞けば、自分で殺しておいて何をいまさら? と男に侮蔑の眼差しをそそいだかもしれない。
だが♂ケミを弔うという行為が、男には───♂騎士にはどうしても必要だった。
♂ケミを埋葬することで自分が背負った友殺しという罪と真正面から向き合う。
そうしなければ彼は前に進むことができないのだ。

それは肉体的な意味ではない、心がである。

殺される。死にたくない。気がつけば殺していた。
相方としてかけがえのない存在であったはずの♀プリも、友としてかけがえのない存在になってくれるはずだった♂ケミも、自分が殺してしまった。
ただ生きていたい。目の前にいる彼らがおそろしい。それだけの理由で殺してしまったのだ。

まったくの被害妄想だった。疑心暗鬼にとりつかれたとしか考えられなかった。
いずれのときも♂騎士を襲ったのは、狂おしいまでの脅迫観念だった。

不安を、焦燥を、恐怖を抑えることができず、黒い衝動が心に満ちあふれた。
殺さなければ、殺される。だから殺した。

しかし実際には♀プリも♂ケミも、♂騎士に対する殺意など、ただのひとかけらも持ち合わせてはいなかった。
おそらく彼らは最後まで、どうして自分が殺されなければならなかったのか理解できずに死んでいったに違いない。
信頼していたものに殺されたという絶望を胸に抱いて、彼らは死んだのだ。

いや、もしかすると♂騎士に刺されたときですら、彼らは自分たちの方にこそ悲があったのではないかと思い悩んだかもしれない。
それほどに心根のやさしいものたちだった。

そんな彼らの命を奪っておいて自分だけがのうのうと生きている。
許されていいはずがなかった。地獄の底に落ちるべきだと断言できた。

けれどそれは今ではない。今は死ぬときではない。どうせ死ぬのなら、この島で救うことのできるものたちのために身を粉にし、すべてを終わらせたあとに死ぬべきた。
すべてを終わらせてから、騎士として死ぬべきだ。

しかし、ほんとうにそれが自分の望みなのだろうか?

♂騎士は歩みを止めた。

先の接触のおり、♂クルセイダーは♂騎士に言った。
「弱い奴は、強くなれるまで悩み続けていればいい。望む生き方を見つけられるかどうかはお前次第だ」と。

果たして自分にとっての望む生き方とは、いったいどのようなものなのだろう。

ため息が洩れた。

死にたくない。命を手放すことなんてできないと泣き叫ぶ自分。
泥水をすすってでも生きていたいと強く願う自分。がむしゃらに生にしがみつこうとする自分。
心の奥底には確かに、あきれるほどに生を望む自分がいた。

なんと情けなくて、なんと無様な騎士だろう。これでは欲望のままに生きているローグとなにも変わりはしない。

いや、ローグよりもはるかに性質が悪い。
心を預けてくれたものを疑って殺し、魔が差したんだと言いわけをして弔う。それでいて善人ぶった顔をして仲間に取り入り、また殺すのだ。
それも生きたいという本能だけで。

こんな自分は騎士ではない。もしかすると人ですらないのかもしれない。
心はとっくに悪魔によって食い散らかされ、彼らの良いように操られているのではないだろうか。

♂騎士は頭を抱え唸った。

騎士として生き死ぬこと。悪魔に魂を売ってでも生き延びること。自分はいったいどちらを望んでいるのだろう。
♂ケミを弔ってやりたいのは罪と向かい合い騎士として前に進みたいからなのか。それとも罪から少しでも逃れたいだけなのか。

どろどろの思考に目まいがして、♂騎士は身近な木に体を預けた。

心が悲鳴をあげていた。

♂ケミを弔うというのは、彼に詫びようとする心からの気持ちであるはずだった。
自分がしでかしたことを厳粛に受け止め、それでも生きていくために必要なことだと思っていた。

違う。気づいてしまった。

なんのことはない。自分は死にたくないだけのだ。それでいて人を殺したくもないのだとはっきり自覚した。
できるかぎり罪悪を犯すことなく、さらに生き残りたい。

乾いた笑いがこぼれた。

生き残りたい、殺しもしたくないなどとは二人も殺しておいて言えた台詞ではない。
臆病で、卑怯で、矮小で、身勝手で、憐れとしか言いようがなかった。
とんでもない騎士もいたものだと自身を揶揄した。

顔を伏せ、泣くように両手をのぞきこんだ。

愛した人たちの血に染まった両手が、犯した罪の重さに震えていた。
醜い手だった。どこまでも醜く、汚らわしい。唾棄すべき手だった。

その手で顔を覆い、言ってはならない願いを口にした。

「生きたい……」

自分は騎士ではない。認めるしかなかった。
慕ってくれた人を手にかけておきながら贖罪もせず、自らの生を懇願することなど騎士にあるまじき行為である。

殺したくない。殺されたくもない。
欲張りな自分に、あきれかえって苦笑した。

この自分の感情を、ありのままを♂プリに伝えたら、彼はなんと言うだろう。
♂ケミを殺したことはすまなかったと思う。それでも俺は生きたい。そう伝えたら彼はどんな顔をするのだろう。

寝言を言うなと怒るのだろうか。そのていどの男だったかと鼻で笑うのだろうか。
それとも、あの豪胆な笑顔で、力をあわせて一緒に生き抜こうと受け止めてくれるのだろうか。

騎士である前に人間。♂騎士は、そう言ってくれた彼の言葉を今更ながらに思い返していた。

顔をあげた♂騎士は再び夜の森を歩きはじめた。D-6にたどり着くために。♂ケミを弔うために。
そして、自分と同じように生きることをあきらめない仲間と、ともに生き残るために。

精いっぱい生きようと思った。
たとえ自分が許されることのない罪人だとしても、殺してしまった彼らの分まで精いっぱい生きようと。

決意の瞳が赤く燃えていた。


<♂騎士>
現在地:D-4→D-6を目指す
所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個
外 見:深い赤の瞳
状 態:痛覚を完全に失う、体力は半分ほど、個体認識異常(♂ケミ以外)正気を保ってはいるが、未だ不安定
    ♂ケミを殺してしまった心の傷から、人間を殺すことを躊躇う それでも生きたいと思う自分をあきれながらも認める。
備 考:GMの暗示に抵抗しようとするも影響中、混乱して♂ケミを殺害  体と心の異常を自覚する
    ♂ケミのところに戻り、できるなら弔いたい




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