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237.実験と観察 [3日目早朝]


清く正しいアコライトの朝は早い。
まだ薄暗い内に起き出すと熟睡中の相棒を揺さぶった。
「ほらほら、さっさと起きるっ」
「う~。まだ眠い~」
起こそうとする手を避けて♀マジは右に左に転がる。
♀アコは両手を腰に当てて眉をつり上げた。
「そんなんで冒険者つとまるの?」
「ボクは学究派なの。フィールドワークは専門外~」
「はいはいわかりました。でもあと2日しかないんだよ。時間は貴重でしょ」
「あ~う~」
夜更かし朝寝坊が常なのか、♀マジは一向に起きようとしない。
やがて諦めたようなため息と共に足音が離れてゆき、♀マジは腕に顔を埋めて寝直す態勢に入った。
しかしその耳に♀アコの笑みを含んだ声が届く。
「早く起きないとごはん全部食べちゃうからねー」
「ごはんっ!?」
飛び起きる♀マジ。
「どこどこっ…って何1人で食べてんのよ!」
「起きないのが悪い」
口をもぐもぐ動かしながら♀アコはしれっと言った。
♀マジはいそいそと近付き、食べ物を探して♀アコの周囲を見回す。
「で、ご飯どこ?保存食なんて昨日ので終わりだと思ってた」
「うん、昨日食べたのが最後だよ」
「え?じゃあ何食べてるの?」
「これ」
「う」
♀アコの取り出した物を見て♀マジは軽く引いた。
民間で用いられる精力剤にも似た、乾燥したトカゲのような代物。
ただし見た目に比して匂いはそう悪くない。
子デザが落ち着かなげに前足を踏み、舌を出して尻尾をぱたぱた動かした。
「それってペットフードじゃ」
「ん。どうかと思ったけど結構いけたよ。いらない?」
「もらう」
引っ込められ掛けたペットフードを♀マジの手が素早く奪う。
きゅうん
子デザは鼻を鳴らした。

「やー助かった。これでひとまず安泰だね」
「明日の夜はもうごはんの心配してる余裕なんてないしね」
北上する2人の足取りは軽い。
その後を子デザがとぼとぼ付き従う。
子デザ一匹なら一週間近く食べつなげるだけのエサがあったのだが、2人と一匹では節約しても二日分ぎりぎりにしかならない。
そして彼女たちには空腹を我慢して食い延ばす気などこれっぽっちもないようだった。
「で、どこ行くの?」
♀アコは♀マジに尋ねる。
方向音痴の1人と一匹としては♀マジに頼るしかない。
「F-5にジョーカーとかいうヤツ探しに行くの」
「え。なんで場所分かるの?」
「自分がエライと思ってるヤツは真ん中とか高いトコが好きでしょ」
そういって地図を見せる。
「あー。なんかちょっと納得かも。けど真ん中辺ってだけならもっと広いし、禁止されてないところから調べるのが先じゃない?」
「禁止されてるからなんだよ。他は周りから追い立てるみたいに禁止してるのに、ここだけ真ん中を、それも一番最初に禁止したんだよ?変だと思わない?」
「変…かなあ?」
「変なの。だからボクはここが怪しいと思う」
断言する♀マジに♀アコはふうん、とうなずき
「でも方向間違ってない?」
地図と景色を見比べて首を傾げる。
「え!?」
♀マジは慌てて地図を取り返し、さらに太陽の方向を確かめ直した。
結論。
「間違ってない。北はこっち。この超神話級方向オンチ!」
進行方向を確認した彼女はジト目を向ける。
♀アコは頬を膨らませた。
「そこまで言う?自分なんか朝寝坊魔人のくせに」
「ボクは普通だっ。キミが早すぎるの」
「ふーん。規則正しい生活しないと発育が遅れるんだよねー」
「あ~っ。言ってはならないことを~!」
売り言葉に買い言葉。
何度目になるか分からない竜虎の戦いが再開されようとした。
もう完全に慣れっことなった子デザはさっさと避難し、減ってしまったエサの代わりを探しに行く。
そしてすぐに戻ってきた。
わふ
「ん、どうしたの?」
子デザに裾を引っ張られ♀アコは構えを解く。
♀マジも戦意をそらされて歩み寄った。
「サベージでも見つけたとか?」
「だったら捕まえる?」
「もちろんお昼ごはんに大決定」
「よっし」
食欲に支配された2人はあまり深く考えず子デザのあとを追って駆けだした。


「あれは食べられないね」
「……」
子デザに案内されていった先で見たモノに♀アコは嘆息する。
対して♀マジは無言で背を震わせていた。
「どうしたの?」
心配になった彼女はそっと声を掛ける。
それを引き金にしたように♀マジが爆発した。
「なにやってんのよこのばかぁっ!」
「わ、ちょっと!?」
猛ダッシュを掛けた彼女を♀アコは慌てて追いかける。
彼女たちの行く手には♂マジの体を調べる♂Wizの姿があった。
「なニごとダ?」
さすがに気付いたデビルチが突進してくる♀マジに怪訝な顔をする。
♂Wizは丁寧に説明した。
「ああ、あれがこの♂マジ君の探していた♀マジですよ」
「主人も知リ合いデあったナ?再開を喜んでるヨうにモ見えヌが」
「ふむ」
彼は♀マジが魔法の射程距離内に入るまで待って立ち上がり、
「アイスウォール」
とりあえず壁を立てた。
「へぶっ」
突然のことに立ち止まれず、氷の壁へ顔をぶつける♀マジ。
そこへ彼女を挟みこむようにさらにアイスウォールがそそり立つ。
氷に閉じこめられ、動きの取れなくなった彼女は唯一動く口を働かせはじめた。
「ああああんたたち男同士で何やってんのよっ!」
「……は?」
♂Wizはデビルチに一瞬目をやり、その後でやっと♀マジの誤解に気付く。
「何かとてつもない勘違いをしてませんか?」
「ホう?どウ思ったのダ?」
「そこの笑う直立黒ネズミっ!聞かなくていいっ」
「ネズ…。言うタなバースリーのできそコないメがッ」
「ダレがババアだっ!ぴっちぴちのこのお肌が目に入らないか!」
自分の疑問には答えずキンキン声で口論を始めた2人に♂ウィズは眉間へしわを寄せた。
「ああ君たち。話が進みませんから喧嘩はやめてください。それと――クァグマイア!」
「わっ」
アイスウォールの陰で泥に足を取られた♀アコが驚きの声を上げる。
飛び出した♀マジについて来たものの、あっさり捕まったあげく口喧嘩を始めたことに呆れて出るタイミングを失っていた。
ふつう殺し合いの相手とこんな下らない喧嘩は出来ない。
だが♂Wizは何事もなかったかのように言ってのけた。
「デビルチ。そちらのアコライトを引き離しておいてください」
「心得タ」
うなずいたデビルチがキーキー声を上げ始める。
「ちょっとちょっと。あなた♀マジの知り合いじゃ…」
「知り合いですよ。仲がいいとは言いませんが」
「デハあちラにゆくゾ」
「ちょ…」
抗議しかけた♀アコはデビルチのJTにはじき飛ばされた。
「さて♀マジ君。久しぶりですね」
♀アコとデビルチが離れたところで♂Wizは改めて向き直った。
少し落ち着いた♀マジもやっと間違いに気付く。
「ええっと…そこの奇人と変なコトしてたんじゃない…んだよね?」
「大体想像は付きますが、変なこととは具体的にどのようなことでしょう」
「ボクの口から言えるワケないだろっ!」
♀マジは顔を真っ赤にして逆ギレする。
地団駄踏むなり照れ隠しパンチするなりしたいところだったが、氷漬けにされててはそれもままならない。
「まあどのみち彼は既に死んでいます。あなたの想像していたようなことはできませんよ」
「死んで…」
寝ているのだとばかり思っていた♂マジの肉体へ視線を落とす。
なるべくムニャムニャな部分が目に入らないようにしてるので断言できないが、やっぱり死んでるとは思えないほど安らか…と言うか妙に幸せそうな顔だった。
♀マジはかすかに震える声をしぼり出した。
「キミがやったの?」
「いいえ。私ではありません。が、他の誰であっても難しいでしょう」
「どういうことさ?」
「肉体の損傷は生命活動を停止するほどひどくはないのですよ。むしろ何というか……そう、魂を抜かれたような状態ですね」
「なんだよそれ」
青ざめる♀マジに対して♂Wizはひょいと肩をすくめた。
「理由は分かりません。ですが何にせよ、こうしてほぼ完全な肉体が手に入ったわけです。今は当初の目的を果たすことを考えるべきでしょう」
「って、まさかそいつ解剖するとか!?」
一応の知り合いが目の前でバラバラにされるのはあんまり見たくないなあ、と顔をしかめる。
♂Wizは微妙な様子を見せた。
「まあ最終的には。ですがこれほど完璧な条件が揃ったのですから、先に試したいことが1つ」
「な、なに?」
底光りする眼を向けられて♀マジは頬を引きつらせる。
やっぱり彼は尋常じゃない。
ほっとけないとか思ったこともあるけど、今はそれどころじゃない。
逃げないと。
悪い予感に怯え慌てる彼女に♂Wizは淡々と告げた。
「私はすでにあなたと彼の魂について知り、呪をつないであります。そして今、ほぼ完全な状態の魂なき器が手に入りました」
そう言って♀マジを閉じこめた氷壁のそばへ♂マジの死体を引き寄せる。
「え、え、ええ?」
「ですから第3の実験――魂の定着を試そうと思います」


「せいっ!」
ひゅひゅひゅんっ
振り子のリズムからしなるように打ち出される三連撃はすべて空を切った。
「邪魔するなこのチビ悪魔っ」
「ナニを言うカ。悪魔ダからコそ邪で魔なノではなイか」
デビルチと対峙する♀アコはなんとか♀マジの方へ駆け戻ろうとする。
だがそのたびにデビルチに妨害されていた。
「ああもうっ」
膝を狙って繰り出される槍を跳び下がって避ける。
お返しとばかりに蹴り上げようとするが、これはあっさり受け流された。
「ナめるデないゾ。イくら何でモ侍祭ごとキに倒さレてなどヤラぬ」
デビルチは決して強力なモンスターではない。
が、ろくな装備もない一次職が簡単に倒せるほど弱くもない。
しかも♀アコの得意とする拳打は、リーチの関係上自分の腰より低い目標には極端に当てにくい弱点があった。
「いい加減にしなさいよっ」
「オっと」
突き出される槍を狙って踏みつけようとするが、狙われる位置がそこまで低くないのでなかなか思うように行かない。
「もうっ!」
業を煮やした♀アコは蹴りをフェイントに入れて大きく間合いを取った。
「おや。まタ一歩仲間かラ離レたナ」
「うるさいっ!こーなったらあたしがあんたの天敵だって教えてあげる!」
「ホう?」
デビルチはできるならやってみろとばかりに彼女の行動を待つ。
命じられたのは時間稼ぎなのだ。誘いに乗る必要はない。
だが♀アコの祈りを聞いてデビルチは笑いを引っ込めた。
「オーディンの威光よ!」
「しマった、ほーリーラいトか」
闇に生きる者にとって聖なる光は確かに痛い。
逃げ場を探すがもう遅かった。
丹田の前で組み合わせられた♀アコの両手が開きながら突き出される。
「ホーリーライト!」
「ギャぁッ…………おヤ?」
とりあえず地面に倒れてジタバタしてみたデビルチだが、予想した衝撃がいつまで経っても襲ってこない。
不審に思って顔を上げると♀アコが頭を抱えていた。
「あああんもーどーしていっつも失敗するのよー!」
その言葉とともに彼女の手に灯っていた白光が揺らめいて消える。
事態を察したデビルチは転げ回って笑い始めた。
「キ…キキキキキッ。ホーりーらイとがコんな物ダとは知らナかった。この偽アこライトめガ。キキキキキッ」
「誰が偽よっ…もっかいっ!」
♀アコはもう一度ホーリーライトを詠唱する。
しかし勢いよく突き出された両手に白い光が灯るものの、やはり放たれることなく消えて行った。
「あーうー」
「やれヤれ、修行が足りヌな。ひとツ手本を見せテやろウ」
両手を見おろす彼女を嘲り、デビルチはキーキー声でJTの詠唱を始める。
その瞬間、♀アコの瞳がキュピンと光った。
「待ってたわよこの時を!」
「!?」
詠唱を続けるデビルチの目前へ一足飛びに間合いを詰め、両手を右腰に引きつける。
踏み込んだ左足と軸足のストライドはこれでもかと言うほど広く、腰の位置は地面をかすめるほど低い。
地を這うような姿勢によってデビルチとの身長差が消失した。
拳が、届く。
そして
「ホーーリーーラァイトォォーーーーッ!!」
発声と共に両腕を押し出し、限界までたわめた軸足の力を解放する。
――詠唱中のデビルチは逃げられなかった。
「グぎョあッ」
白光を伴って叩きつけられた両掌がデビルチの小さな体を軽々と吹き飛ばし、立木に叩きつけた。
♀アコの心象風景の中でその木がメキメキと音を立てて折れる。
もちろん現実にそんなことは起きない。
ただ、幹に貼り付いたデビルチがゆっくりと剥がれ落ちた。
「ふう、すっきりした」
♀アコは地面に落ちたデビルチを踏みつけ、大きく息を吐く。
その足の下でデビルチは苦しい声を絞りだした。
「わ、ワざとホーリーらイとが撃てヌ振りをしテいたのカ…?」
彼女はあっさり首を振る。
「ううん、飛ばせないのはホント。でもこうやって直接当てれば問題なかったのよね」
「…なぜコのヨうな奴ニ…」
精神的ショックを受け、デビルチは今度こそ気絶した。
「あ…ああああっ、あああああああああっ」
♀マジの喉から悲痛な叫びが上がり続ける。
彼女を拘束するアイスウォールには直交するように新しい氷壁が重ねられ、すぐには溶けそうにない。
そしてその周囲には大魔法にも匹敵する巨大で複雑な魔法陣が渦巻いていた。
「う…あ……やああぁっ……」
何かが彼女から引き剥がされて行く。
いや、違う。
彼女自身が肉体から引き剥がされて行くのだ。
術を開始する前に♂Wizは言った。
『あなたの魂を彼の肉体へ移し替えます。うまくいけば死なずに済みますよ』
痛みではなく、あるべきものが奪い取られる喪失感が全身をさいなむ。
代わりにそれを埋めて行くのは長い長い詠唱。
耳に響いていたその声が、次第に彼女自身をつかむ確固たる力として感じられるようになっていた。
視界がときどき二重映しにぼやけ、色や形の代わりに命や力の流れが目に映るようになる。
だが、彼女の魂は抵抗を続けていた。
色あせた視界が元に戻り、肉体の感覚を取り戻す。
今は体中に感じる氷の冷たさも気にならない。むしろその感覚が彼女の味方だった。
「あ……うう…」
再び魂を引き剥がそうとする力が掛かり、さらにまた彼女が押し戻す。
いつしか足元の魔法陣も内なる戦いを表すように正転と反転を繰り返し始めていた。
その時。
『――全に働いているようですが元の肉体から魂をうまく――。――な使い方をする予定はなかったのですから当然――』
♂Wizの思考が声として直接流れ込んできた。
同時に期待や焦りといった感情、そして誰かのイメージの断片が感じ取れる。
(女のひと…?)
一瞬自分の置かれた状況も忘れ、かいま見えたそのイメージへ意識を向ける。
それはあっという間に消え去ったが、感謝と悔恨に満ちた♂Wizの深い想いをかすかに感じ取れた。
(大事な人だったのかな)
♀マジは思う。
(だったらコイツがこんなになっちゃったワケもそこにあるのかも)
なんとかしてやれないかな、と思った直後。
思考の続きが聞こえてそれどころではなくなった。
『――は反動でこちらの魂が剥がれそ――。――り肉体から魂を切り離すには命を絶つのが確――』
(ちょっとまってええええええええええええええ!それってボクを殺すってイミ!?)
揺らぐ視界に♂Wizの握るコンバットナイフが映った。
魔法への精神集中を続けているのでごくゆっくりとしか動かせないようだが、ナイフは確実に上がって行く。
どんなにゆっくりでも氷漬けでは逃げられない。
(そりゃまあ確かに世紀の大実験に立ち会ってるわけだし、ちょっと成功しそうな気もするけど。自分が実験体になりたいとは思わないよ!)
(だいたいうまくいかないからって物理的手段に頼るのは魔法使いとしてどうかと思うっ。場当たり的な計画変更は失敗の元だよ!?)
♀マジは必死に抗議するが♂Wizの手は止まらない。
もっとも抗議しているのは魂だけで、肉体は意味を為さない叫びを上げ続けているだけなのだから当然と言えば当然である。
鋭い刃先はゆっくりと彼女へ近付き、
「ア・コ・ラ・イ・ト・キイィ~~~~~~~~~~ック!!」
ゴツン
強烈な衝撃を額に感じて♀マジの意識は闇に落ちた。


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