バトルROワイアル@Wiki

215

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215.宴のはじまり


「秋菜ぁぁぁぁぁぁっ!!」
裂帛の気合と共に打ち下ろされる剛剣…ツヴァイハンダー。
しかし、秋菜はいとも簡単にそれを受け止める。
ぎり、と刃金が鳴る。火花が散る。
「あれあれあれ~っ…あなたは確かぁ…」
「間抜けにもお前のゲームに乗り、手を汚し、間違いを繰り返してきた愚か者…深淵の騎士、だ」
「へぇ…それで、お馬鹿さんなあなたは、そんなに叫ぶくらい私が嫌いなんですかぁ?」
鍔迫り合い。けらけらと、おどけた風に秋菜は言う。
「ああ、嫌いだな。愚かさ故に間違いばかり繰り返してきた私と同じくらい」
「自己嫌悪ですかぁ。それなら大人しくBANされてくれません? 面倒くさいの、嫌いなんですよぉ」
あなたが嫌いなあなたを直ぐに消してあげますからっ、と続ける。
しかし、騎士は女を睨む。

バルムンが真横に滑る。
質量差など無視しているかの様に、あっさり大剣を受け流した秋菜は、流れる様な体捌きで剣を薙ぐ。
ひゅおん。涼やかな音と共に宙に軌線が走る。
寸での所で飛び退いたペコがそれが回避できたのは、偏に黒衣の騎士が軽装となった故だった。
「そんなものは願い下げだ」
言うと、騎上で剣を構えた。
「どうしてです? お互いの為じゃないですか」
女は腕を引き絞り、バルムンを握る。
騎士は答えない。何故なら、一瞬の集中の乱れが命取りになる相手だから。
会話をすれば、僅かとは言え気をとられる。
油断無く、騎士は女を睨み据える。
「そんな顔しないで下さいよっ。秋菜、困っちゃいます♪」

──答えは既に彼女の中にある。
間違いは過ぎ去るもの。けれど、償わなければならないものでもある。
かつての誓い。絶対に生き残る事。それが今も彼女が騎士である理由。
それは、余りにも大きすぎて彼女にいかなる逃避も最早許さない。

そして、騎士には剣しかない。

「せあっ!!」
返答は走り込みながらの斬撃で十分。牽制の一撃。
女は横に飛んで避け、しかし騎士は逃がさない。
大きくツヴァイハンダーを振り上げ、二撃目のブランデッシュスピアを放とうとする。

が、そこで気づいた。余りに簡単すぎる、と。
「くっ!?」
振り上げたままで騎士は手を止め、ペコは飛びずさる。目の前を何かが掠め、飛び去っていく。
これは…指弾?
見れば、バルムンを地面に突き刺している秋菜の頭上には衛星の様な球体が、それも十数を越える数くるくると回転していた。
人にあらざる者…否、それを圧倒する上位者故に可能な離れ業であった。
くすくすと秋菜は笑っている。
背後からは、撃ち漏らした瀕死のGMと♀セージ達が交戦する音。
足止めか。だが、彼らはきっとやってくる。騎士はそう信じる事にした。
「いい勘してますねっ、あのタイミングで避けるなんてっ。じゃあ、次いってみましょうかーっ♪」
女は、両の手の指で銃を作る。気の蒼白い輝きが指先に集まった。
焦燥が騎士の背筋を這い登ってくる。
「レックスデヴィーナ♪ あーんどっ、私はキリエ・エレイソンッ…さーあ、ショウ・タイムですよっ」
騎士には二つの白い指先が、まるで奈落の様な黒い穴に見えた。
殺意を孕んだ蒼い指先が、真っ直ぐにその技を封じられた騎士を捕らえる。
その射線上には…騎上にある頭蓋。
「ーーーっ!!」
楽しげに、楽しげに。
この箱庭の全ては女の遊び。彼女の掌の上。
他のGM等、只の道具に過ぎず、彼女に比する者ではない。
故に、女は美しく笑い、絶対者の余裕を以って宣言する。
そう。この戦いすらも、女にとっては只のスリリングな遊びでしかない。
「BAーNっ♪」
ドウッ、ドウッ、ドウッ。
くぐもった破裂音に、誰よりも早く反応したのは、騎士のペコだった。
数瞬前まで騎士が居た地面を、秋菜の指先から放たれる蒼白い光球が打ち砕く。
一発一発の威力は、通常モンク達が放つ五つの球体が込められたそれよりは低いが、
まるで、高レベルのボルトの様に隙間無く指弾が次々と襲い掛かってくる。
ましてや、この身は完全とはいい難く、一度でも直撃を貰ってしまえば勝負はそこで付いてしまうだろう。
殺到する球体をあるものはツヴァイハンダーを盾に防ぎ、あるものはペコが回避する。
だが。この開いた間合いからでは騎士の剣は届かず、かといってこれ以上接近すれば
ペコの回避速度を越えて指弾が殺到する上、彼女の剣は防壁に阻まれる。
ましてや、乗騎の体力にも限界がある。考えるまでも無い、騎士が圧倒的に不利であった。
回避し続けるしか手の無い自分と、鉄の防壁と無数の指弾を放つ秋菜。
今は未だ拮抗している。だが、徐々に体力を奪われ、傷を増やされれば──
「くっ!? ──あぐっ!!」
しまった。そう思う暇も無く、騎士は、片腕がはじけ飛ぶかの様な痛みと激しい衝撃を覚えた。
姿勢が崩れたその一瞬に、何発かの指弾が頬を、足を掠めていく。
視界が、傾ぐ。見れば、打ち抜かれた彼女の片腕は、その半ばからまるで襤褸切れの様にズタズタに引き裂かれていて。
──これでは、もう、この腕で剣は握れまい。
意識が、一瞬霧散する。気力が根こそぎ消えていく。
だが、それ程までの痛み故に、走る熱と痛みがギリギリのところで騎士の意識を繋ぎ止めていた。
何があろうと後続が遣ってくるまでは、なんとしても持ちこたえなければならない。
自分一人でどうにかなる相手ではないし、もとよりそんな積りもない。
戦いは未だ始まってさえいないのだ。
「あはぁ。外しちゃいましたっ♪ いけませんねー」
「ぐっ…う」
「痛いですかー? 苦しいですかー? でも、まだ倒れちゃいけませんよっ」
詠うように──それは異形の歌だ──秋菜は言う。
地面に刺していたバルムンを再び執り、言う。
「パーティーはまだまだ始まったばかり…だから、まだまだ私を楽しませてくださいねっ」
「……」
女の言葉は明らかな挑発。
その貌から余裕は消えない。
「あーあっ、もう本当に可哀相っ。そんなにボロボロで、それに一度私に倒されたのに、もう一度殺されちゃうなんてっ。
みーんな貴方が駄目なのよっ、もー駄目駄目ですっ。
さっさと秋菜にBANされてくれないと…♂シーフ君や、アラームちゃんが草葉の陰で泣いちゃいますよっ」
「……」

騎士は最早怒らない。
罪があると言うのなら、只墓場までそれを伴侶とするだけだ。
ペコは嘶き、彼女は手綱をボロボロの片手に縛り付けた。
激しい痛みが脳を焼くけれど、今は無視する。
騎上ならば、片腕でも十分な威力が期待できるだろう。
その目の闘志は萎えない。
「ならば、目を開き良く見ておく事だな」
「どうするつもりですっ?」
「私は、確かにお前が思う通りの罪人なのかもしれない。
──だがな。私の罪を購うのは、決して貴様ではありえない。
それに、判るまい。私は、いや私達は…貴様が思っているよりも遥かに、強いぞ?」
騎士は、言う。
死ぬつりは無いし、この期に及んでの自己犠牲も真っ平だ。
(何故なら、それは生を諦める事だから。誓いとは真っ向から相反する)
そして、誓いとは『果たされなければならないもの』だ。

やれやれ、と女は肩を竦めてみせる。
聞き分けの無い子供に言うような声音で、ゆっくりと言葉を編む。
「現実が見えない人って、可哀相ですねぇ」
「それはお前だろう」
「どうぞお好きに? 説得力に欠けますけどねっ」
秋菜は、笑う。騎士は、睨む。
否定と肯定。何処までも相反し、交わる事は無い。
「──さぁ、始めましょうよっ。こんな楽しい結末はこの秋菜と言えども始めてなんですからねっ」
そう、宴は未だ始まったばかり。


<秋菜 戦闘開始 BDSによる被害は軽微>
<深淵の騎士子 戦闘開始 指弾により片腕に重症 レックスディヴィーナでスキル使用不能>

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