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218.力対知恵と工夫と下準備


♂アーチャーはDSを秋菜に放つ。
秋菜は苦しそうな顔をする深淵を横目に見ながら、その矢をよけようとして、すぐに止める。
『鋭いっ!?』
空いた手でその矢を二本とも空中で掴み取る秋菜。
矢の先端は秋菜の眼前、数ミリの所で止まっていた。
すぐさま深淵がベコごと踏み込んで剣を振り下ろすが、それを身のこなしだけで簡単にかわす秋菜。
ふと、頬に何かが伝う感覚を覚えた。
戦闘中なので手で確認する事も出来ない秋菜は、舌でぺろっとなめてみる。
鉄の味がした。どうやらさっきの矢は僅かに止め損ねたらしい。
『苔の一念とは良く言ったものね……』

深淵の騎士子の剣を受け止めながら、秋菜は悩んでいた。
深淵とこうして遊んでいるのも悪くないが、ほっとくと他のGMが危険であるようだ。
それで秋菜がどうこうなるとは思わないが、結局最後は自分で全員斬り倒しましたではあまりに芸が無い。
自分が完全に後ろに下がって、前衛GMをフル支援すれば勝利は疑いようも無いが、それもそれで興ざめである。
せっかく色々手配して手に入れたGM達を、こんな簡単に手放すのも惜しい気がする。
『うまい事全員捕まえられれば一番なのよね~。となると……』
捕まえた時、一番面倒そうな相手を選ぶ。
『知恵袋はやっぱり♀セージちゃんよねっ。この子が無惨に殺されれば他の子も逆らう気、無くなるかな? 彼女抜きなら逆らっても大して恐く無いし♪』
首輪外しは秋菜にとっても驚きであった。
参加者がこの世界にある物だけでこの首輪を、秋菜に知られる事無く外したというのは、もちろん前例が無い。
『今回はテストケースとしても最高の出来みたい♪ うん、んじゃーそのお礼も兼ねて♀セージちゃんに狙いを絞りましょ♪』
秋菜は深淵の剣を力押しに押しきり、僅かに距離の空いた所で、ユピテルサンダーを放つ。
両腕を交差して、その雷の塊を受け止める深淵の騎士子だったが、魔力の勢いに押されてベコごと大きく後ろに下がる。
そうして出来た秋菜と深淵の間に他のGMが割って入る。
即座に秋菜から指示が入り、全GMは秋菜を中心に陣形を組み直す。
同時に秋菜から飛ぶヒールと各種支援魔法。
もちろん♀セージ達も手をこまねいていた訳ではないが、GM達のポテンシャルの高さにどうしても押し切れ無かったのだ。
秋菜の動きがあった瞬間に、♀セージが指示を出し、捨て身の集中攻撃に切り替えたのだが、それで倒せたのは二人までであった。
「ほんとにも~。♀セージちゃん勘良すぎっ♪ 二人もヤられるなんて秋菜びっくりよ~」
♀セージはあっさりと決断を下す。
「引くぞ」
恨み重なる秋菜を前に引くのは断腸の思いだが、深淵の騎士子も♂プリーストも♂アーチャーも素直に従う。
♂プリーストが速度増加をかけなおして、次の仕掛けまで一度引こうとした矢先、それは来た。
秋菜が、GM達の隙間をかいくぐって単身で飛び込んできたのだ。
他GMは動く気配は無い。
引くか挑むか。全員の反応が僅かに遅れた。
駆け寄りながら剣を振るう深淵の騎士子の剣を、髪の毛一本の差で見切ってかわし、♂アーチャーが放った矢をバルムンで受け流す。
♀セージは秋菜の背後にファイアーウォールを立てる。
何のつもりかは知らないが、このチャンスを逃す気は無い。
しかし、秋菜は下がる気などハナから無かったのだ。
他の連中には目もくれずに♀セージ目がけて走る秋菜。
ぎりぎりで秋菜の狙いに気付く♀セージ。
「皆引け! 私の事は構わず……」
秋菜は剣を振り上げ、♀セージに振り下ろさんとし、♀セージはその剣筋を見切るべく秋菜の動きに集中する。
「ふぇーいんと♪」
秋菜は右手に持った剣を振り下ろす事はせず、左手で♀セージの腕を掴もうとした。
♂プリーストは、秋菜の攻撃のタイミングに合わせて♀セージを突き飛ばす。
秋菜は言った。
「いんてぃみでいとー!」
戦場から消えたのは秋菜と♂プリーストの二人であった。


秋菜と♂プリーストが消えた中庭、二人が消えるなりGM達が動き出した。
判断に迷う深淵の騎士子と♂アーチャーに♀セージが一喝する。
「例の場所に引く! 急げ!」
三人は砦入り口に向かって走り出す。
それを追うGM8人。どちらにも速度増加がかかっているので、差はほとんどつかない。
一人深淵の騎士子だけがベコに乗っていたので、どんどん差を広げ、門側の城壁の所に先に辿り着く。
目の前にあると、その巨大さは特に際だって感じられた。
「ふんっ!」
気合い一閃、巨大な門扉と城壁との境目に一撃を加えると、その部分がひしゃげ、門扉が微かに傾く。
深淵の騎士子は一度上を見た後、満足気に肯くと、すぐさま♀セージ達と合流する。
駆け寄ってきた深淵の騎士子に、♀セージは笑みを見せ、門扉のすぐ前に立つ。
♂アーチャーは不安そうに♀セージに言う。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
「もちろん」
いざ傾いた巨大な門扉の前に立つと、流石に恐ろしいのか深淵の騎士子も不安そうだ。
「これで間違えましたとかぬかしたら許さんぞ貴様」
「その時は三人揃って潰れている。文句はあの世とやらで聞くとしよう」
GM達が殺到する。
♀セージはファイアーボルトを唱えた。
炎の矢は、門扉上端にいつの間にか結んであった鎖を支えていたもう一方の壁面を崩す。
鎖がその限界を遙かに超える重量を支えていた事もあって、壁面は勢いよく弾け飛んだ。
深淵の騎士子の一撃で本来は倒れるはずであった門扉は、この時、このたった一本の鎖だけで支えられていたのだ。
唸るような音と共に10メートル弱の巨大な門扉が倒れ込んできた。
門扉下端を軸に、四分の一回転ほどした所で、完全に安定を失った門扉は、傾くにつれてその速度を増し、膨大な質量と共にGM達に襲いかかった。
5人がかわす間も無く押しつぶされた。
残る3人は位置の関係もあって、なんとか難をしのいだが、直後に襲ってきた土煙によって視界を遮られ、行動を制限される。
そして土煙が落ち着いた頃、♀セージ達が居たはずの場所を見たGMは、彼女達が既に去った後である事を知り、その追跡に移った。


「し、心臓に悪いぞ!」
深淵の騎士子はまだばくばく言っている胸を押さえながら♀セージに文句を言う。
「お、俺当分は門の側に行けそうにない……」
♂アーチャーも青白い顔をしている。
♀セージが計算により導き出した場所には、門扉は決して当たらない。
それを当てにして、その超至近距離であの巨大な門扉が半回転した挙げ句、派手な音を立ててぶっ倒れるのを間近にて見るハメになっていたのだ。
周到な準備を要する門扉倒しの策を、最大限に活用するにはどうしても囮が不可欠。それも囮はなるたけ門扉の側に居る事が望ましい。
大丈夫と言った♀セージを信用してはいたが、改めて眼前でこれを行われると流石に震えが来る。
だが、♀セージはすぐに二人に移動を促す。
♂プリーストの去就が気になるのは深淵の騎士子も♂アーチャーも同じなので、即座に同意した。
『……手遅れ……か? それでも私はっ!』
秋菜と二人で何処に現われようと、あの秋菜相手ではほんの数分も持ち堪えられないであろう。
♀セージの判断はそう言っていた。
それでも♀セージは行く事にしたのだ。
自分では意識していなかったが、その表情はかつて♀セージを救いに燃えさかる屋敷に飛び込んだ、♀ウィズのそれに酷似していたのだった。


♂アーチャーは二人と別れて目的の場所へ向かった。
まだ敵GMも残っていて危険は伴う。しかし♂アーチャーがそこへ向かうのを♀セージは止めたりはしなかった。
信頼の証か、はたまたそれ以外かはよくわからない。
それでも、♂アーチャーが考えた事を♀セージが認めてくれたのが嬉しかった。
城壁上を身をかがめて目立たないようにしながら走り、目的の場所に着くと、それはあった。
城壁外へと向けられたそれを、♂アーチャーは苦労して中へと向ける。
今まで一度も扱った事が無いので、正直に言うとうまく使えるかどうかあまり自信が無かったが、泣き言言ってる余裕も無ければ、言う気も無い。
「見てろよ秋菜! 絶対一泡吹かせてやるからな!」


<深遠の騎士子 現在位置/ヴァルキリーレルム 所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能)、ツヴァイハンター、遺された最高のペコペコ 備考:首輪無し>
<♀セージ 現在位置/ヴァルキリーレルム 所持品/垂れ猫 プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)、筆談用ノート 備考:首輪無し>
<♂アーチャー 現在位置/ヴァルキリーレルム内部の城壁側のとある場所 所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個 備考:首輪無し>
<♂プリースト 現在位置/ヴァルキリーレルム インティミにより秋菜と何処かへ 所持品/チェイン、へこんだ鍋、♂ケミの鞄(ハーブ類青×50、白×40、緑×90、赤×100、黄×100 注:HP回復系ハーブ類は既に相当数使用済) 首輪無し>
<GM秋菜 現在位置/ヴァルキリーレルム インティミにより♂プリと共に何処かへ>

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