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『学園ラグナロク 第四話 居残り勉強の死闘』

♀ハンターは半泣きになりながら机に向かう。
その対面には厳しい顔をした♀スパノビが居る。

「さ、後は数学の問題だけです。さっさかさーっとやってしまいましょう」
「ふえーん、お姉ちゃんのいじわるー」

いつもは優しい♀スパノビの表情も、今日は厳しさを無くさないよう意識して笑わないようにしている。

「合宿行けなくなってもいいんですか? みんなで海に行くんですよね?」
「う~~~頑張る」

唸りながらも何とか問題に向かう♀ハンター。
そしてその隣の席の♂プリはというと、完全にグロッキーで机に突っ伏していた。

「……俺もーぎぶ。♀ウィズ、後頼む」
「ダメです。♂プリさんまだ三問しか解いてませんよ」
「鬼」
「はいはい」
「悪魔」
「何とでも」
「魔女、バーバヤガー、運命の三醜女、貞子、オークレディ」
「…………」

机の周りに魔方陣が描かれた瞬間、飛び上がって鉛筆を手に取る♂プリ。
♀ウィズはそれを見て頷く。

「わかればよろしい」

教室内にはその二組四名しか残っていなかったが、そこに新たな人間が加わる。

「ん? 貴様らまだ残っておったのか?」

ドアを開いて入ってきたのはミストレス先生だ。

「別に残るのは構わぬが、間違っても校内で騒ぎなぞ起こすなよ」

四人は素直に頷くが、それを聞いてなかった者がその言葉と同時に騒ぎを起こしに来た。

『おっせーぞお嬢! 今日は学校早く終わる日じゃねーのかよ!』

と、鷹語で喚きながら教室の窓ガラスを突き破ってふぁるが飛び込んできたのだ。
鷹の不始末は飼い主の責任。
ミストレスは青筋たてながら♀ハンターを睨む。

「わ、わわっ! ふぁるー、ダメだよ教室に入っちゃー」
『うっせ、これ以上待ってられっか。今日は狩り行く約束だったろーが』
「ででででも、宿題しないと合宿行けないし」
『めんどくせーなー。んなもんは宿題出した奴倒しちまえば済む事じゃねーか』

ふぁるが何を言っているのか♀ハンターは一瞬戸惑う。
しかし、その飛び方の気配から、♂プリだけはふぁるの次の行動を読みきった。

「おおっ! やる気かケダモノ! ならば……」

速度増加とブレスにキリエまでふぁるにかけてやる♂プリ。
直後ふぁるは、容赦なく、ためらい無く、ミストレスに向かって突貫していった。

「何?」

ハンターの飼う鷹である。まさか飼い主の意思無しで勝手に人を攻撃するなぞ露ほども思わないミストレスは、それを見ても全く反応すら出来なかった。


どっかーん!


「ふぁっ! ふぁーるー!」
「あやや~」
「おっしゃスマッシュヒット!」
「……やっちゃいましたね」

見物人四人はそれぞれに感想を述べるが、ふぁるは反転すると更なる目標を狙う。

『だーれがケダモノだエロ坊主!』


どかどっかーん!


吹っ飛ばされて机ごとひっくり返る♂プリ。

『ざまー見ろ。大体てめーみてえな間抜けがお嬢の近くに居るなんざ百年早ぇんだよ。身の程をわきまえやがれ』

♂プリは倒れかかってきている机を振り払いながら起きる。

「……このクソ畜生が……もう懺悔こいたって許してやんねーからよ……」
『誰が許してくれって言ったよ。おら、ケリつけてやるからかかってきな!』

一人と一匹の間で飛び交う火花。
♀ハンターはおろおろするばかり、♀スパノビも♀ウィズも諦めたような顔である。

「相変わらず喧嘩っぱやいですね~、ふぁる君も♂プリさんも」
「止めるだけ無駄ですね。一段落するまでほっときますか」

だが、二人はここで是が非でも止めておくべきだったのである。


「……そうか、貴様らそんなに死にたいか……」


底冷えするような声、MVPモンスターに相応しい迫力全開でそうのたもーたのは、とことん無視されていたミストレス先生であった。
喧嘩っぱやい二人組、当然場数も踏んでいる。
そんな二人、というか一人と一匹は、当然危機を感知する能力にも長けていた。

「やばい」
『げ、やりすぎた』

ミストレス先生が動いた瞬間、♂プリとふぁるは同時に反対方向に向かって飛ぶ。
即座に飛ぶJT、机を影にして何とか射線から外れた二人は難を逃れるが、目標は♂プリかふぁると決め付けていた♀ウィズは反応が遅れた。

「へ?……っきゃー!」

その高い抗魔力でダメージこそ抑えたが、勢いで吹っ飛ぶのまでは止められない。
窓ガラスを突き破って外まで放り出されてしまった。

「逃げるな卑怯者めが!」

二発目。

「え? わたし違っ……っきゃー!」

三発目。

「ふぁるー、逃げちゃだめ……っきゃー!」

三人が窓の外に放り出された頃には♂プリもふぁるも教室から逃げ出していた。

「逃さぬ! 地獄の底まで追い詰めてくれるわ!」


既に♂プリもふぁるも逃げる足を止める事、適わぬ状況となっていた。

「やべえ……これミストレスだけじゃなくて♀ウィズもマジギレしてる、絶対」
『ぐあ~、お嬢絶対怒ってる。♀スパノビもミストレスじゃなくて俺に怒る。ピンチだオレ様』


「♂モンクさん、じ、じつは私、夏合宿用に……その……」
「ががが、がっしゅくがっしゅく、どしたの♀騎士?」
「あ、新しい水着が欲しいなって。だから……明日一緒に……」

「ええい、いい加減観念せぬかー!」

「MYGOD!」
「♂モンクさん!? ああっ! アフロが二倍にまで膨れ上がって……って気絶するなんてひどいです。せっかく勇気を振り絞って私が……」


「お・う・じ・さ・ま♪ 今度の合宿同じ部屋にしましょー」
「ちょっ! そういう無茶をまた君は……だから、引っ付くのは良くないって!」
「えー! だってせっかくの一つ屋根の下なんだから、二人で夜抜け出してロマンチックな星空見上げながら、蛍に囲まれて夜を空かすのは基本よ~」
「だからそういうつもり無いって何度も……」

「ええいちょこまかとっ!」

「……やっぱりさ、こういう時、何の問題も無くまず僕に当たるのって、ひどいと思うんだ……がくっ」
「ああっ! 王子様がこげ王子に! 許せません! ……けど先生にやり返すのは恐いから、逃げてる二人に制裁をっ!」


「あ、あの! ♂クルセさんは……合宿には……」
「……全員参加だからな」
「だ、だったら! わ、私と一緒の……班に……その……」
「ん? なんだ♀ローグ。言いたい事があるのなら早く言え」

「ユ・ピ・テ・ル・サ・ン・ダー! いいかげん当たらぬか!」

「……神様のバカ」


次の日、ふぁるはみんなに掴まって校舎の屋上から逆さまに吊るされてしまいました。
私はちょっとかわいそうだなって思ったんだけど、お姉ちゃんがじごうじとくって言うので、そうなのかなって思いました。
でも♂プリさんがパンツ一枚で同じように逆さに吊るされているのを見た時は、びっくりしました。
♀ウィズさんはそれを見てとても嬉しそうにしてました。
ちょっと恐かったです。
それと校舎がそこかしこ黒こげになったので、みんなで掃除しました。
いつもは掃除を絶対にしないミストレス先生も一緒に掃除したので、すっごく楽しかったです。
ミストレス先生も最初は凄く落ち込んでたけど、私とお姉ちゃんと三人で並んで窓拭きしてたら、すぐに一緒に笑うようになりました。
でもミストレス先生、話しして笑うっていうか、屋上見て笑ってたような気が……

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