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269.イン・ザ・ダーク[3日目午前]


殺せ、殺せ、殺せ、殺せ
その声はほとんど物理的な圧力を持って彼を押しつぶそうとする。

暗い、暗い地下道で。
決して傷つけてはならぬひとを前に。
光の差しこまぬ闇を背に。
♂シーフは耐える。

殺せ(いやだ)
殺せ(だめだ)
そいつは(このひとは)
敵だ(希望なんだ)

意識ははっきりしている。
意志もゆらいでいない。
すくなくとも、まだ。

それらを押しのけようと蠢くものは衝動。
砂漠でオアシスを目前にしたかのような欲求。
肉に刃をつきたてる感触。血のにおい。味。
それらが魅惑的な声で彼を呼ぶ。

のどが鳴った。
さほど冒険者経験の長くない彼でも、砂漠で動物を狩ったことはある。
そして狩りの獲物は食べるものだ。
もしも今、彼女を手にかけたら。自分はその肉に食らいついてしまうかもしれない。

(だめだっ)
危険な妄想を振り払うように頭を振る。
力と理性を振り絞るようにして短剣を振り上げ、腕輪へ振り下ろす。
カチンッ

「っ~~~~~~~~~~~~~…………っ!!!!!!!」
言葉にならない絶叫がほとばしった。
刃先の振動が腕の骨を伝って背筋を駆け上る。
快感に近くて、でも何かが違う、もどかしい感覚。

腕輪にはわずかな傷がついただけだった。
直前で右手が勝手に動いたせいだ。
そのため短剣が腕をかすめ、浅い傷口から血がにじんでいる。

「あは、は、ははは、あは…」
引きつったような笑い。瞳から涙があふれる。
傷口からしたたる血に、痛みより歓喜を感じたから。
耐え切れなくなる前に彼はバックステップを踏んだ。

闇の奥。ほとんど何も見えないその場所は焦げ臭い臭いがした。
がしゅ、と炭化した何かを踏み潰す感触。
闇が深く感じるのは壁や天井が黒くすすけてるせいもあるのだろう。

彼はその場所でめくら滅法に両手を振り回した。
手足が何かに当たるたび、そこへ何度も何度も短剣を叩きつける。
半ば焦げ、半ば朽ちた家具は短剣でもたやすく切り崩せた。

ときどき壁に当たる固い感触に手が痺れ、傷つく。
それでよかった。
暴れつづけて破壊衝動を満たし、体力を使い果たせれば。
血への渇望を忘れていられれば。

なのに。
「♂シーフ君!」
♀Wizさんの声が聞こえた。

せっかく見えなくしたのに、容貌が、表情がありありと思い浮かぶ。
渇望がよみがえる。
あのきれいな人を滅茶苦茶にしたい。
本能の深いところが、ずくん、とうずく。

我知らず声の方へ足が向いた。
「大丈夫?」
心配そうな響き。
明かりがゆっくりと近づいてくる。

「…にげてください」
平板な声で言いながら心のどこかで叫ぶ。
だめだ。
いま逃げられたりしたら間違いなくその背に飛びかかる。

止まって。
いや、むしろ
僕を殺して。

衝動を恐れ、心の表面ではそう言って。
でももっと深いところが考える。

♀Wizと戦う方法を。

彼は心の底から己を恐れた。
だから本来恐るべき敵である男が現れたとき、彼はむしろ感謝した。
白い服を着たそいつは野太い声で言った。

「お前ら、こんな所でナニしてた?」


<♂シーフ>
現在地:D-6→北か西の半島を目指す→謎の地下室?へ
所持品:多めの食料 +7トリプルハリケーングラディウス 囚人の腕輪?
容 姿:栗毛
備 考:ハイディング所持 盗作ローグ志望でちょっと頭が良い ♀Wizと同行 呪詛に体を蝕まれる
    ♀WIZの姿に亡き母が重なる 死を覚悟?
<♀WIZ>
現在地:D-6→北か西の半島を目指す→謎の地下室?へ
所持品:クローキングマフラー ロザリオ(カードは刺さっていない) 案内要員の鞄(DCカタール入) ウィザードスタッフ
容 姿:WIZデフォの銀色
備 考:LV99のAGIWIZ GMに復讐 ♂シーフと同行 年の事は聞かないでね?
状 態:容態安定。ただし全身に傷跡が残る。HPは半分ぐらい?希望が見えてきて気持ちが前向きに


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