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228B

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228-B.伝説の詩 ラグナロク・オン・ライン


…首に薄いキズができる…。
血が段々畑のように首筋を流れてゆく…。
これで何本目だろうか…。

「なんで死ねないんだろ……」

今度こそはと思って掻っ切ろうとするがまたダメだ…。

「首のためらい傷か……」

皮肉すぎるジョーク。全く笑えない。
しかし剣が言うことを聞いてくれないのだ…。

「これ以上、運命は俺に何を期待しているんだ……!!!」

いくら力を加えてもブルブル震えてそれ以上押し込めずに魔剣は薄く
皮膚を切り裂く太刀筋を示す…・。

「この死に絶えた世界で……!」

だがそれでも魔王の残留思念が残っているかのように
魔剣はかの者が命を絶つのを許さない。

「秋菜が死に、帰れる望みもないのに……?!」

しかし、それでも剣は死ぬことができるなら死ぬ気で生きることも
できるはずだと言わんばかりに言うことを聞いてくれない…。

既に斜光は姿を消し、辺りは闇と煌星が支配する静穏な世界へと傾く…。

「うわああああああああああああああああああああ!!!!」

魂の咆哮。
だが耳が聞こえないということはすなわち自らの発音も聞こえないということだ。
もはや言語発音能力が崩れてきている。
傍らに人が居たら単に狂人が何か叫んでいるとしか分からなかっただろう。

「死にたい……死んで、この悲劇を終わらせたい……」

心のどこかで続く悲しみが♂アーチャーの胸を締め上げる。
一人で抱えきるにはあまりに大きすぎる想いに♂アーチャーは
潰れようとしていた…。
そして死んで大地に帰すことを望んでいた…。
閉じた宇宙の中で最後の一人が死に絶える。
なんと悲劇の幕引きに相応しいことか。
どうせ人、一人が死んでも、この空間が終えても元居た現実世界は廻り続ける。
ならば、今ここで頑張っているのも無為ではないのだろうか?

「アツ!?」

ツヴァイハンダーが白熱して思わず手を離した。
だが、魔剣は♂アーチャーの足を串刺しにすることなく再び面前に浮かび上がった。
驚いているとその「声」が聞こえてきた。

「……き……み……は本当にそれでいいのかね?」

不鮮明だが段々鮮明になる。

「君がこ……こで死んだら一……体、誰がこの悲劇を後世に伝えるのかな……?」
謎の声…だが優しくも厳しいその声…。
心の底で最後まで死に抗い続けていたオーラがほんのわずかだが再び灯った。

「私は負けなかったぞ……。絶望に負けるな!」
無骨だが優しさを秘める深遠の騎士子の声が突如した。

「責務を果たさずに逃げるのか?♂アーチャーよ」
厳かだが傲慢ではない魔王の声もした。

「おいおい、命がけで俺たちが救ってやった命を自己中で終わらせんな!」
♂プリーストの快活な声がした。

次に出てくるのは…!? ♂アーチャーは辺りをキョロキョロ見回す。

「♂アーチャーよ。お前の命は最早、お前一人の物ではない。
残酷だがその生は果てしない私達の屍の上に成り立っているのだ」
♀クルセだ。

どこですか!?思わず叫んでいた。

「そうだ……お前は私達の希望だ……」♀セージが静かに言う。

俺も連れて行ってください!置いていかないで下さい!駄々っ子のように叫ぶ。

「まぁ……そのなんだ……お前は俺と♀クルセの子供だと思う事にしたぜ。
だから俺らの代わりに生き延びてくれよ。」
♂ローグが照れている様子でそう言った。

♂アーチャーはうつむき。
その目からは止め処なく大粒の涙がこぼれ始めた。
しかし確実にまたあのオーラが燃え出そうとしていた。
生きたいという名のオーラが。

「おいおい……泣くなよ……。こっちまで泣きたくなるだろ……。
まぁ、こっちはこっちでいい所だから心配すんな。
……おっと……お前はまだ来る資格は無いぜ。
悪いが、一生懸命生き抜いて、成すべきことを
成し遂げた奴しか来ちゃいけないんだからな……」

嬉しいんだか悲しいんだか分からない涙が下に
溜まっていた血溜まりの水面に落ちていく。

「みんな……ずるいよ……」


一際剣が強く光を発した。


「少々ルール違反ですが彼らの意志……。確かに伝えましたよ。
私はGMひゃっくたん。自らを疑わなかった者が最後には勝ちます……。」
神に逆らい辺境の地に左遷された情に厚き男。
だが魂の荒野に居た♂アーチャーを放っては置けなかった男。
神さえも成し遂げられなかっただろう。
砂漠の砂の一粒の如き♂アーチャーさえをも発見したのだ。

熱い涙が止まらない。既に流した血の比率より涙の比率が大きい。

「生きてください!多くの英雄達が命を賭けて残した、たった一つの命!
その命をあなたは自らの手で閉じようとしているのですよ!?
逃げないで下さい!GM秋菜と同じ轍を踏まないで下さい!
彼女もそう望んでいるのですよ!?」
GM♀の声が凛と響いた。


GM秋菜のバルムンクが静かに赤く輝き宙に浮きながら♂アーチャーの
手にやって来ようとしていた。
その輝きは彼女の最後の髪の色に良く似ていた…。
そして、また心の底から響く声。

「フ……私との戦い……立派だわ。まさかあんなバリスターを用意してくるとは
私でも予想できなかったわよ。あんたには全てを語り継ぐ責務があるわ」

声にならない嗚咽が唇から漏れる。

「死に逃げるな!狂気に逃げるな!あんたにはまだ成す事がある!
私の残忍さを語り継ぎなさい!私の狂気を語り継ぎなさい!
そして二度と私の様な者が誕生しないように語り継ぎなさい!
あんたには全てを語り継ぐ責務がある!!!!」

心のオーラが…戦いの最中に育んだ死に抗う不滅のオーラが…再び…

もう既にバルムンクは面前に迫っている。

「俺たちのことを語り継ぐ事ができるのはお前だけなんだぜ♂アーチャー。
お前がここでくたばっちまったら俺たちはただの犬死になっちまう。
頼むから俺らの死を無駄にさせないでくれ……」

♂ローグが彼に限りない力を与えた。

「さあ、生きるならこの剣を……取りなさい……取れ!……死にたいなら
そのままずっとうじうじして……いればいいわ!……していろ!」

♂ローグとGM秋菜の声が響き合う…。

「ぅぅあおおあおおおあおおおあおおあおあおあおおあおあおあおおおおお!!!」

狂人の如き叫び。しかしてそれは魂の叫び!大いなるオーラが其の瞬間
再び爆発した!最早、♂アーチャーに絶望も死の誘いも効かない!
♂アーチャーは再び決意と涙と激情に彩られた顔を上げ正面を真っ直ぐ見据えた。

「ぅぅぅぅぅぅううううううううがあああああああああああああああああ!!!」


そして今、伝説の剣は真の勇気ある者の手に。

「やればできるじゃねーか」
♂ローグの幻影が泣き笑いのような顔で彼を見ていた。
その傍らには全ての参加者が居た。

「あーそのなんだまあ、面識ない奴も大勢いるけどよ。
幾人かお前に話したいことがあるみてーなんだ」

♂ローグがポリポリ頭を掻く。

「ちょっとおどき!」「ぐへ」

♀ローグと思しき人物が♂ローグを押しどいて現れた。

「なんだ……どんなのかと思えば……こんな坊やが優勝しちゃったのかい……」

♀ローグは♂アーチャーの面前にしゃがんできてマジマジと見つめながら言った。
赤面する♂アーチャー。

「まあ、ご褒美よ。チュッ」

幻影なのに思わず顔面に火がついたようになる♂アーチャー。

「うはwwww或閲(♀ローグ)wwwwwSugeeeeeeeeeee」

なんか逆毛チックな♂アコが興奮しながら♂アルケミをヘッドロックしている。
♂アルケミがタップしているのに離す様子がない。

「いいかい、奇麗事じゃ生きていけない時もあるのよ。あんたは私らの覚悟を
背負うわけだから汚いことしても草の根啜っても生きていかなきゃならないからね」

そういうと後ろ向きに中指をおっ立てて静かに群集の中に消えた。

そしてその傍らから♀プリが現れた。初対面だがまた綺麗な人にドキドキ。

「本当にお疲れ様でした♂アーチャーさん。あなたがこれから歩む旅路は決して楽な
モノではないと思います。ですが主はいつも見ておられますよっ!
主よ……この子を憐れみ、そして救いたまえ……」

そう言いながら♀プリは軽く♂アーチャーのほっぺにキスをした。
また顔面がレッドゾーンになった。
気のせいか♂ローグが鼻の下を伸ばしている。しかし♀クルセの手が忍び寄っている。

「あ…ありが…」
「今こそ積年の恨みを!これでも食らえ!濃縮緑ハーブジュー…ブ!」

緑色っぽい変なジュースを逆毛なアコにぶつけようとして
クロスカウンターで顔面に叩き返された♂アルケミが居た。
結局ありがとうを言わせてもらえなかった。
♀プリは軽く肩をすくめてウィンクしながら群集に帰っていった。

「アルケミ卑怯杉wwww修正してやるwwwぅぇ」

「ぎゃあああ、眼があああ眼がああああ」

敗者の♂ケミの眼に♂アコは馬乗りになり
容赦なく残りのおぞましい汁をすりこんでいる。

「ぐ、ぐるじいいいい。が、がんべんして…」

その向こうでは♂ローグが怒った♀クルセに締め上げられている。

♂ケミと♂アコはコンビを組んだら最高の漫才家になるだろう。

♀クルセと♂ローグはこれからも天然で夫婦漫才をやってくれるだろう。

阿鼻叫喚だ。誰もが腹を抱えて大爆笑している。

これじゃとても悲劇の幕引きにはふさわしくないだろう…。

だけど、こういう終わり方も悪くはない…。

♂アーチャーは心の底から感じそして大爆笑した。

月の穏やかな夜。波の静かな夜。そこに伝説が生まれた。







「よっし、みんな!最後に♂アーチャーを元の世界に帰すぞ!」

「おう!!!」一同が嬉しそうに手を振り上げる。

そして魂達は♂アーチャーを取り囲んだ。

「帰ろう……帰ってこの馬鹿な奴らの話しを後世に伝えよう……」

崩壊の兆しはもう既にそこまで迫っていた。

「耳も聞こえないし、歌ももう歌えない……」

流星雨がミッドガルド大地の全体に降り注ぎ全てを白い虚無に変えていく。

「だけど、楽器を弾くことはできるし、詩を書き残すこともできる」

フワリと♂アーチャーは浮かび上がると同時に一際大きな流星が
直前まで居た場所に降り注ぎ世界の中心が消えた。

「そ……う……残……そう……」

彼は幾千億の星が点滅する夜空を少しずつ上昇する。
彼方ではノーグロードが噴火しその赤き断末魔のような炎は夜空を照らし出した。

「最高の勲を……」

その噴煙と大気の摩擦で発生した紅の稲妻が天と地を繋ぐ
最後の生命線のように荒れ狂う。

「忘れない……この美しくも恐ろしい光景を……」

海が沸騰し、大量の白い水蒸気を天に上げている。
それがノーグロードの熱波と混合し上天の嵐を象る。
その嵐の中心部に強き光が見えた。

「うおおおおおお、♂アーチャーを守れ!みんな!」

♂ローグが叫ぶ。
全ての幻影が寄り添い♂アーチャーを嵐から守る。
そして少しずつだが確実にその光へと♂アーチャーを導いてゆく。

「目に焼き付けよう……この理不尽な世界を……」

嵐は益々強くなり普通なら一瞬で千切れとぶような暴風である。
しかし仲間達は苦しいながらもどんな風にも意志を折らせはしなかった。
♀プリは目を硬く閉じ祈りを捧げ、♂ローグは光を睨みながら
瞬き一つせずにじっと耐え忍んでいる。♀ローグは
ニヤニヤ笑いながらだが何者にも屈しない表情を浮かべていた。

「そしてこの残酷だけれど、この美しい人間の物語を……伝え続けよう!!!……いつまでも!!!」

♂アーチャーは光の回廊に入った。現世に通ずる最後の扉の中に…。

終焉を迎えた世界の中で一つの伝説の詩が……生まれた。

そしてその詩を生んだ者の傍らには多くの魂が居たという……。

その魂をトーガのように纏った♂アーチャーはまさしく全ての記録を綴る

智天使のようであった……。


<♂アーチャー 現在位置/ヴァルキリーレルム 所持品/ツヴァイハンダー、白ハーブ1個 備考:首輪無し>
<残り1名>

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