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死者達のあとさき

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死者達のあとさき


私達は、見た事の無いくらい大きな川辺に二人、座っていた。

隣には、少し不機嫌そうな様子の♀剣士さん。

あの後、ノービス君に渡した手紙を、聖書の節の暗記で培った暗記力で朗読しようとしたせいだ。

最も、それは顔を真っ赤にした彼女にがくんがくんと揺さぶられて止められたんだけれど。

あの場所では、あんなに強い人だったのに。

ちょっとした意地悪に、すぐにムキになる♀剣士さんがなんだか可笑しかった。

それはこの場所…つまり、果ての見えない川辺には、何処までも似合わないような気がするけれど。

彼女が、私を連れて、さっき居た場所から少し歩いた川辺に連れて来た理由は、私には判っていた。

「すまない」

「いえ…いいんですよ」

悲しそうな顔をして、♀剣士さんが私に言う。

「私は、嘘をついた。…いや、事実を告げる勇気が無かったんだろうな」

ぽつり、と呟く。
それは、そうだ。そんな残酷なことを告げる事なんて、誰にも出来ないだろう。
私達は。此処にいる人達は、皆死んでしまった。それが、変わらない事実。
いずれ、何処の誰とも知らない…私達にとって、本当に神、と呼ばれる誰かが私達の処遇を決めるのだろう。
行き先は天国が、それとも地獄か。それは判らない。
ここは、それが決まるまでの間、私達が過ごす仮初でしかない。

私は、聖職者だから。そして、誰も殺せなかったから。
だから、この人は、私に話す事にしたんだと思う。

「本当は、私達は、もう死んでしまっている…」

ぽつり、と言う。

「そうだ。流石は聖職者だな…冷静だ」

「人の死を看取る事はよくありましたから。~流石に、自分のは初めてですけど」

「それは、そうだな」

♀剣士は、笑った。何処か、寂しそうな笑みだった。

「これから、どうするんですか?」

「私は…そうだな。この川辺で、人を待つとするよ。
どんな職業についているかは判らないが…年老いて、家族に看取られながら幸せに逝った老人をね」

「奇遇ですね…私も、そんな人を待つつもりなんです」

私も、笑う。やっぱり、寂しそうな表情をしているんだろう。

「ほう。…折角だ。時間はたっぷりある。
聖職者の心を射止めた、その不埒者の話、聞かせてはくれないか?」

意趣返しなのだろうか。笑いながら、彼女は言う。
暫く考えてから、私は口を開いた。

「いいですよ」

にっこりと、笑って言う。
そして、座りながら、手を後ろについて、雲が流れる空を見上げた。

「貴方の言うとおり、時間はたっぷりありますし。
ここから、私達の心をスナッチャーした人達が、年老いてやってくるのを祈りながら、ゆっくりと話しましょう?」

冗談めかして言ってから、私達は、その大きな川辺でお互い笑いあった。


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