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愛するココロ

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愛するココロ(NG)


生前から華奢だった♂マジの亡骸は真っ黒に炭化していて、
下手に手を触れると崩れ落ちてしまいそうだった。
悪魔プリは仕方なく、遺体をそのままに略式の祈りを捧げた。

思えばゲームが始まってから、ほとんどの時間を共に過ごしてきた。
外見は男の子で、泣き虫で意地っ張りで、かと思えば
幼い顔に似合わず小生意気な口をよく利いた。
そんな器の中にいたのは、ただ一人の人を心から愛する純真な乙女。
内に宿っていた、その身を滅ぼすほどの炎。それを知っていながら。
「私がもう少し早く気付いていれば、止めることが出来たのに・・・。
・・・もっとも、止めることがあなたにとっての救いになったかは分かりませんが」
♂マジの焼け焦げた頬の皮を破らない程度に、そっと右手を触れさせて、
悪魔プリは声を絞り出すように言った。
「でもね、私はあなたがとても好きでしたよ。
だから最後まで一緒に頑張りたかった。
――これって、やっぱり我儘でしょうかね」
我儘。その言葉がチクリと胸を刺す。
軽い気持ちで放ったその言葉が、死の肯定に使われるなんて思ってもみなかった。
悪魔プリは自嘲気味に頬をゆがめた。
その時だった。
背後でポキリ、と乾いた木の枝を踏む音がした。
振り返ると、片手に包丁を手にした女が佇んでいた。
悪魔プリは咄嗟にタブレットを手に身構えた。
「私にはあなたと争うつもりはありません。
ですがあなたにその気があるのなら、相応の礼でお返しします」
言い放ち、現れた女――♀BS――をじっと見つめる。
♀BSはだらりと両の腕を下ろし、一見とても無防備に立っていた。
目は虚ろで焦点は宙を漂い、頬をゆがめる様子がまるで笑っているように見える。
彼女はぼそぼそと何かをつぶやいているようだった。悪魔プリは耳を澄ました。
「・・・いなくなっちゃえ・・・みんないなくなっちゃえ・・・。
こわい人はみんな・・・あの人も、みんな・・・
・・・みんなみんな、いなくなっちゃえばいい・・・」
あの人、と聞こえた。
それだけで、悪魔プリは大まかな事情を察した。
(――ああ、この人も)
♀BSの目は数刻前の♂マジにそっくりだったのだ。
(・・・・・・この人も、このゲームの悲しい犠牲者なのですね)
両目に宿るは愛する者を失った絶望。そして狂気。
一瞬張り詰めた気が緩んだ、その時。
♀BSが両手で包丁を構え、走りこんできた。
「!」
虚を突かれながらも、何とか身を翻してかわす。
包丁の切っ先がセイントローブの左脇を切り裂いた。
悪魔プリは後ずさり間合いを開きながら、慌てて自分に支援魔法をかけた。
ブレッシング、速度上昇、そしてキリエエルレイソン・・・
踵を返した♀BSが袈裟懸けに切りつけてくる。
後方に飛んでかわすが、切っ先が左肩をかすめた。
ぴっと鮮血が飛んで、衝撃で詠唱が中断される。
♀BSは更に包丁を小脇に構え、容赦のない突きを繰り出した。
それを横っ飛びに飛んでかわし、再び間合いを稼ぐ。
(この人・・・速い・・・!!)
悪魔プリは舌を巻いた。
呪文詠唱のために距離をとろうとするのだが、短い獲物を持った♀BSは
すぐ間合いを詰めてきて、速く正確な斬撃を加えてくる。
流石は武器の扱いに長けたBSというところか。
更に、悪魔プリは対応を迷っていた。
神に背く邪悪なものに容赦はしないと決めていた。
しかし目の前の♀BSは、とてもそのような存在には見えなかった。
出来るなら彼女を狂気から救い出したいと思った。
同じように壊れてしまった♂マジの代わりに彼女だけでも助けたかった。
その思いから、♀BSに攻撃を加えるのはためらわれた。
しかし逃げ回っているだけではいずれ追い詰められるだけだ。
みすみす命を落とすつもりももちろんないのだ。
(すみやん、WIZぽん・・・・・・私、どうすればいいのかしら)
じりじりと距離を詰めてくる♀BSに身構えながら、悪魔プリは懐かしい仲間たちの顔を思い浮かべていた。


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