「不意打ち」(2005/11/07 (月) 16:15:48) の最新版変更点
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<h2>嫉妬</h2>
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―初恋シリーズ2―<br>
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<div style="FONT-SIZE: 14px; LINE-HEIGHT: 30px; LETTER-SPACING: 1px"><br>
何の変哲もない帰り道。<br>
隣を振り返れば、いつもと同じ顔がある。少しだけ大人びた横顔が、いつも以上に大人びて見えるのは、きっと夕日のせいかもしれない。<br>
時折横を通り過ぎる車にはライトが灯り、道を歩く俺たちの影がライトの光を浴びてその姿を色々な形に変えていった。<br>
「そうだ。お前、覚えてるか?」<br>
突然振り返った顔。視線と視線がぶつかり合い、俺は思わず目を瞬く。すると彼は楽しげに笑って、一枚のチケットを目の前に差し出した。<br>
「これだよ、これ」<br>
目の前で振られるチケットを目で追うと、そこにはまだ上映されていない映画の名前が記されている。<br>
話題沸騰中のアクション映画で、今度試写会が開かれるとマスコミでも騒がれている作品だ。<br>
正直言ってかなり興味のある作品なだけに、作品名を見ただけでそれが何のチケットなのか分かった。<br>
「もしかして、試写会のチケットか?」<br>
ネット上でだけ見たことのある試写会の招待状。それが今目の前にある。<br>
そのことが俺を興奮させ、目を輝かせて彼の顔を見上げた。<br>
「ああ。応募したら当たったんだ」<br>
得意げに言う様子が、少しだけおかしく思える。それでも羨ましいのは当然だ。 俺は食い入るようにチケットを見詰めた。<br>
すると、そのチケットが二枚あることに気付いた。<br>
もしかしたら……。<br>
そんな思いが自分の胸を過ぎる。<br>
「お前……」<br>
「あ! あなたたち今帰り?」<br>
俺の言葉を遮るように響いた声。それに慌てて振り返ると、俺たちと同じクラスの女子が駆け寄ってくるのが見えた。<br>
ロングの髪を風に靡かせながら近付く女子に、俺も彼の足も止まる。そして息を切らせ顔を上げた彼女に、彼が笑いかけるのが見えた。<br>
「ああ、そうだよ。君も今帰り?」<br>
優しい微笑を浮かべる彼の顔に、チリリと胸の奥が痛む。<br>
その痛みが何なのかは分からない。それでも嫌な痛みだと言うのだけは分かる。<br>
俺は密かに眉を寄せると、女子に軽く手だけ上げて見せた。<br>
「そうなの。部活が長引いちゃって……あ! それ今話題の新作の試写会チケットじゃない?」<br>
ビクッと肩が揺れる。<br>
視線を向けると彼の手からチケットを取り上げる姿が目に入った。<br>
再び胸の奥に浮かぶ嫌な痛み。その痛みに眉を潜めるとそっと視線を外した。<br>
「いいなぁ。ねえ、誰と行くの? もし行く人が居ないんだったら、連れてって欲しいなぁ」<br>
ゴクリと喉が鳴った。<br>
不自然に渇いた喉が、少しだけ痛みを発しているような気がして更に眉が寄る。<br>
「俺、先帰るな。……また、明日」<br>
これ以上この場には居たくなかった。<br>
心の中ではそんな自分に対して、くだらない言い訳が次から次へと溢れ出し、思わずそのことに苦笑してしまう。<br>
そして足を動かすと、夕焼け色に染まる自分の影を見詰めながら歩いた。<br>
未だ胸の奥の痛みは消えない。そっとそこに胸を添えると、無意識に足が止まった。<br>
握り締めるようにして服を掴んだ手に力が篭り、目頭が熱くなる。そして一筋、 俺の目から涙が零れ落ちると、肩に触れるものがあった。<br>
引き寄せるように振り返らされると、思いもかけない顔が目に飛び込んでくる。 慌てて目元を拭うが、既に流した涙はその人物に見られてしまった。<br>
不可解そうに寄せられた眉だけが印象的に目に焼きつく。<br>
「何で先に帰るんだよ」<br>
少し怒った声。その声に視線を外すと、足元の影を見詰めた。<br>
傾いた夕日がもう直ぐ姿を無くそうとしている。そのせいか、見詰める影も長さを増して色を濃くしていた。<br>
「……別に、良いだろ」<br>
未だ肩に触れる手を振り払うようにして動かすと、一度離れた手が今度は腕を掴んだ。<br>
ズキリと胸の奥の痛みが、更にその強さを増して胸を締め付ける。<br>
「良くないだろ。だいたい、俺はまだ話が終ってない」<br>
「そんなの、お前の事情だろ。俺は……知らない」<br>
再び目頭が熱くなる。<br>
何故こんな気持ちにならなければいけないんだとか、何故こいつと話をしているんだろうとか、色々考えた。<br>
でも一つも答えなんて物は浮かんでこない。<br>
そうしている間にも、俺の目からは涙が零れ落ち、徐々に視界を霞ませてゆく。<br>
「お前なぁ。お前が見たいって言うから、俺はチケット手に入れたんだ。応募ハガキ書くの大変だったんだぞ? ほら、受け取れよ」<br>
俯く視線の先に出された一枚のチケット。<br>
それを見詰めていると、今度は痛みではなく、ジンッとした暖かな感覚が胸を埋め尽くしてゆく。<br>
その感覚は嫌な物ではない。むしろ、嬉しいと感じる物だ。<br>
俺はその感覚にそっと涙を拭うと、差し出されたチケットを受け取った。<br>
「……ありがとう」<br>
泣いたせいで少し掠れた声が唇から漏れる。<br>
そしてその声を耳にした彼は、少しだけ笑って俺の肩を叩いた。<br>
「ほら、帰るぞ?」<br>
無理矢理掴まれた腕。<br>
そこから伝わる痺れるような感覚に、夕日のせいではなく俺の頬が染まった。<br>
彼は何故泣いたとか、何故怒ったとか、そんなことは決して聞かなかった。<br>
ただ俺の目の前を歩いて、前へと進んでゆく。<br>
俺はその背を見詰めながら、自分の中で生まれつつある感情に戸惑いながら自分の胸を掴んだ。</div>
<div style="FONT-SIZE: 14px; LETTER-SPACING: 1px"></div>
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<div style="FONT-SIZE: 14px; LETTER-SPACING: 1px">―おわり―</div>
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"2">※戻り、移動の場合には横のメニューよりお願いします。</font>
<h2>不意打ち</h2>
<div style="FONT-SIZE: 14px; LINE-HEIGHT: 30px; LETTER-SPACING: 1px">
―初恋シリーズ3―<br>
<br></div>
<div style="FONT-SIZE: 14px; LINE-HEIGHT: 30px; LETTER-SPACING: 1px"><br>
窓の外を眺めれば、沢山の明かりが灯り、春や夏、秋とは比べ物にならないほど街が華やかに輝いている。<br>
隣の家に飾られた沢山の明かりは、明らかに電気代を喰うのではないかと思うほど豪華で、思わず笑い声が零れた。<br>
「ッ……ごほっ……」<br>
喉を擽るだけで漏れる咳に、思わず眉を潜めてしまう。<br>
今日は年に一度のクリスマス。<br>
聖なる夜には恋人たちが愛を語り、恋人が居ない奴らは友達と語り明かす。どちらにしろお祭り騒ぎには代わりが無い今日に限って、俺は風邪を引いた。<br>
特別体が丈夫という訳ではないが、それなりに風邪は引きにくい体質だと思っていた。それだけに自分が今寝込んでいることが信じられない。<br>
「くそっ……クリスマスなんて……クソくらえッ! げほっ」<br>
悪態を吐こうとした所で再び漏れた咳に口を押さえると、そのまま布団の中に潜り込んだ。<br>
外の寒さとは無縁な室内は、賑やかな外界と俺をキッチリと遮断している気がする。<br>
時折耳を突く時計の音は、普段よりもその音を大きくして俺に存在をアピールしているようだし、自分で付けたくせに妙に腹立たしいカレンダーの丸も気になる。<br>
「絶対に寝てやる。絶対に……っ」<br>
コンコン。<br>
突然部屋の扉を叩く音がした。<br>
どうせ母親が様子を見に来たに決まっている。<br>
俺は布団を頭まで被ると、そのまま寝たふりを決め込むことにした。<br>
俺の返事が無いことに気付いた相手は、そっと部屋の扉を開けて入ってくる。<br>
そして近付く足音。<br>
寝たふりをしているだけなのに、妙に心臓が高鳴るのは、悪戯をしている気分になっているからかもしれない。<br>
「何だ。寝てるのか」<br>
頭上から響いた声に、ドキリと心臓が高鳴る。<br>
母親ではない、低い声。そして響いた椅子を引く音と、布擦れの音。<br>
「折角、親友様が見舞いに来てやったって言うのに。結構薄情だな、お前」<br>
勝手なことを呟く相手は、俺が被っている布団に手を掛けると、そっとそれを外してしまった。<br>
とっさに瞼をキツク瞑ると、今度は額にひんやりとした感覚が触れる。それがそいつの手だと分かると、俺の意思とは関係なく心臓が早くなっていくのが分かった。<br>
「ふぅん。熱は下がってんじゃん」<br>
優しい声が耳を突き、額に添えられた手が前髪をゆっくりと撫で上げる。<br>
くしゃくしゃっと、子供にするみたいに髪を撫でる手が、いつもなら癪に障るのに、今日は少しだけ気持ちが良い。<br>
もっと撫でて欲しいと思いながら、瞼を上げようとすると唇に何か柔らかなものが触れた。<br>
咄嗟に目を開けようとするが、その目を相手の手が塞いでしまう。<br>
長い沈黙が部屋を包み、やがて唇に触れた柔らかな感触は、相手の手と共に放れて行った。<br>
「……メリー、クリスマス」<br>
掠れたような囁き声に、今まで麻痺していた感覚が蘇ってくる。<br>
耳も、頬も、顔全体が再び熱を出してしまったのではないかと思うほど熱くなって、思わず目を開くと、俺の顔を見詰めていた相手と目が合った。<br>
驚いたように見開かれる目と、徐々に赤くなってゆく顔が俺の目に焼きついてゆく。<br>
「……っ、お前……起きてた、のか?」<br>
口元を押さえて声を掠れさせる相手に頷くと、そいつはバツが悪そうに目を細めて俺の顔を見詰めた。<br>
そして意を決したようにそいつの手が口元から放れて俺に触れてくる。<br>
真っ直ぐに、真っ直ぐに見詰められた目が、不自然なくらい逸らすことが出来なくて心臓の音が再び大きくなる。<br>
でも、その音は全然嫌なものではなくて、どちらかと言うと、クリスマスの夜にサンタを待っているような、そんなドキドキ感だった。<br>
「……なあ」<br>
徐々に近付く顔。<br>
本当なら男の顔を近づけられても嫌なだけなのに、今はそんなこと全然無い。<br>
「お前のサンタさ。俺じゃ、不満か?」<br>
「ヒゲも無いのに、サンタなのか? しょぼい」<br>
俺が小さく呟くと、そいつは笑って俺の唇に触れた。<br>
嫌がるでもなく、ただ降ってくる唇を受け止めると、そいつは蕩けそうなほど目を優しく染めて俺を見詰めている。<br>
そしてほんの少し放れた唇から、こう囁いた。<br>
「しょぼいので充分。だってさ、お前専用のサンタなんだから」</div>
<div style="FONT-SIZE: 14px; LINE-HEIGHT: 30px; LETTER-SPACING: 1px"><br>
――シャン、シャンッ……。</div>
<div style="FONT-SIZE: 14px; LINE-HEIGHT: 30px; LETTER-SPACING: 1px"><br>
窓の外には白い雪が降っていて。街を染める明かりに灯されてキラキラと綺麗に輝いている。<br>
そんな中、耳に届いた小さな鈴の音は、俺が恋に落ちてしまった音なのかもしれない。</div>
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<div style="FONT-SIZE: 14px; LETTER-SPACING: 1px">―おわり―</div>
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