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蜜夜の恋





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黒江一花様のHPで5000HITを踏んだ記念に頂きましたv
初めて黒江様の絵を目にしてから、すっかり虜だったので物凄く嬉しかったですv
そして「お姫様抱っこ」というリクエストに、こんなにも素晴らしいイラストを頂きましたvv
嬉しさのあまり、SSを付属v
イラストにあっているかどうか不安ですが、興味がある方は是非読んでみてくださいv
黒江一花様HPは、こちらから
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暗い、暗い、闇の中。
木々がざわめく森の奥深く。
そこに漆黒の美しい毛並みをした狼が大木を見上げていた。
金の瞳が見詰める先。そこに映える緑達。
その中にある一つの葉が神々しい輝きに包まれると、狼の目の前に一人の女神が現れた。
「わたくしを呼ぶのは、貴方ですか? 闇に染まりし気高き魂よ」
女神の手が、狼の毛並みへと添えられる。
そしてその問いに頷くように、狼は深く頭を垂れた。
「はい。私は、どうしても貴女にお願いしたい事があるのです」
頭を垂れたままの狼。
その狼の姿を見詰めながら、女神は静かな頷きを返した。
「どのような願いでしょう?」
問われる声は涼やかで、狼はその声を噛み締めるように瞼を伏せた。
「どうか私を――……」


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深い森に人間が足を踏み入れた。
擦り切れた衣服と、汚れた身体。
迷い込んだのか、それとも何か目的があって入り込んだのか。
どちらにせよ、闇夜に森の中に紛れ込む者は、森の中に住まう獣にとって格好の餌食だった。
踏み入れられた人の足音に誘われ、その森に住む狼たちが群がってくる。
久しぶりの食事。そして、ひ弱そうな生き物。
狼たちはその人間を取り囲むと、いっせいに飛び掛るチャンスを覗った。
静まり返った森の中で一匹の狼が静寂を破るように飛び出した。
「――っ!」
突然飛び出してきた黒い影。
その影に怯えるように人が退くと、次々と黒い影が姿を現した。
ザッと見てもかなりの数だ。
「お、狼の……群れっ」
咄嗟に狼を避けた腕が擦り切れ、赤い線が滲み出ている。
人はそこに視線を落とすと、逃げ道を探した。
しかし取り囲んだ狼たちに隙があるはずも無く、人は小さく息を飲み込んだ。
「……ここまで、来たのに」
苦々しげな呟きが人の唇から漏れる。
そしてその声を合図のように、いっせいに狼たちが飛び掛ってきた。
「ッ!」
もう駄目だ。
そう思い、人が目を閉じた瞬間だった。
「ウォー――ッ!」
人の耳に、闇を裂くような鋭い声が響いたのだ。
そして襲ってくるはずの狼たちの牙がいつまで経っても身体に伸びてこない。
人は恐る恐る目を開けると、その目を大きく見開いた。
「なっ!」
呆然と人が見詰めるもの。それは闇の中で輝く漆黒の髪。
狼たちに立ちはだかっている人の姿だった。そしてその人物に、狼たちは皆が皆深く頭を垂れ、耳を下げているのだ。
「去れ!」
背が粟立つほど心地の良い声だった。
男が発した一言は、狼たちの耳に直ぐに届いた。そして少しの間も空けない内に狼たちは闇の中へと消えて行った。


「あ、あの……ありがとう」
森の奥深くに存在する泉。
そこに腰を下ろした人が、目の前で自分の身体を洗う人物に向け謝罪を口にしていた。
汚れた服と、汚れた身体。
その全てを清める間、助けてくれた男は口を開いていない。
ただ黙って、森の奥深くを見詰めていた。
「えっと……貴方は、この森に住んでいるんですか?」
洗い清めたい服を羽織りながら問う。
その声に男性は漸く人へと視線を向け、目の前の顔を見詰めた。
射抜かれてしまいそうなほど美しい瞳。
人は息を呑むと静かに返事を待った。
「ああ」
短く返された声。その声が人にとって心地が良く響く。
「お前は、何故この森に足を踏み入れた。ここは狼にとっての聖地。お前のようなか弱き人間が足を踏み入れるべき場所ではない」
水音を立てながら男が近付く。
そして人の目の前に立つと、その顔を覗き込んだ。
「会い、たかったんだ……どうしても……」
「何?」
目が魅入られたように離すことが出来ない。
ただ、見詰めた目に尋問されるように人は口を開いた。
「黒く、誇り高い、狼に……」



この森に入る数時間前。
人は森の入り口で狼の群れに襲われた。
酷く冷たい目をした狼たち。彼らは人の柔らかな肌に喰らい付き肉を貪ろうとした。
しかしそれを助けたものがあった。
漆黒の毛を身に纏った気高き狼。
狼の群れに入った彼は、一人で全ての狼を薙ぎ払った。
その勇ましさと強さ。
人は一目でその狼の虜となった。


「僕は、あの狼に会って、お礼が、言いたい」
月夜に照らされる人の頬が、僅かに赤く染まっている。
ただ会いたいと願う気持ちだけであれば、そのような表情を見せるはずも無い。
男はその事に気付いたのか、鋭い瞳を僅かに細め、人の頬に手を伸ばした。
「……礼は、お前が良い」
捕らわれてしまいそうなほど甘い囁き。
男の鋭い瞳が、闇の中で出会った狼と重なる。
「私は、人間に興味が無かった。だが、お前は違う。お前のように美しい人間を、私は始めて見た」
「……あなたは……まさか……」
人の喉が小さく音を立てて上下に揺れた。
そしてそれを合図に男の唇が人のそれに重なる。
「お前が欲しい。今宵だけ……私に、お前をくれ」
重なった唇の合間からの囁き。
その全てを相手に送り込むように、男は唇の重なりを深くした。
そして求めるように重ねられた熱。
二人が動くたびに、月を浮かべた泉の水が小さな音を立て闇の中に鳴り響いた。


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「どうか私を人間にして下さい」
狼の瞳は真剣そのものだった。
女神は狼の目を見詰めながら緩やかに瞼を伏せると、彼の毛を優しく撫でた。
「……解りました」
短い返事が狼の耳を擽る。
心の中に広がってゆく嬉しさ、そして幸福感。
狼は毛を撫でる女神の手に擦り寄りながら、先ほど助けた人の姿を思い描いた。
「ただし、貴方を人間に出来るのは今宵限りです。朝日が昇り、夜が明ければ全てが夢と化し、貴方は人の姿から元の姿へと戻るでしょう」
狼は女神の目を真っ直ぐに見詰めた。
たった一晩の夢。
狼は静かに瞼を伏せると、女神に向けて深く頭を下げた。
そして、小さく、そして短く女神に呟いた。
「……――構いません」



―おわり―



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