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不意打ち

―初恋シリーズ3―


 窓の外を眺めれば、沢山の明かりが灯り、春や夏、秋とは比べ物にならないほど街が華やかに輝いている。
 隣の家に飾られた沢山の明かりは、明らかに電気代を喰うのではないかと思うほど豪華で、思わず笑い声が零れた。
「ッ……ごほっ……」
 喉を擽るだけで漏れる咳に、思わず眉を潜めてしまう。
 今日は年に一度のクリスマス。
 聖なる夜には恋人たちが愛を語り、恋人が居ない奴らは友達と語り明かす。どちらにしろお祭り騒ぎには代わりが無い今日に限って、俺は風邪を引いた。
 特別体が丈夫という訳ではないが、それなりに風邪は引きにくい体質だと思っていた。それだけに自分が今寝込んでいることが信じられない。
「くそっ……クリスマスなんて……クソくらえッ! げほっ」
 悪態を吐こうとした所で再び漏れた咳に口を押さえると、そのまま布団の中に潜り込んだ。
 外の寒さとは無縁な室内は、賑やかな外界と俺をキッチリと遮断している気がする。
 時折耳を突く時計の音は、普段よりもその音を大きくして俺に存在をアピールしているようだし、自分で付けたくせに妙に腹立たしいカレンダーの丸も気になる。
「絶対に寝てやる。絶対に……っ」
 コンコン。
 突然部屋の扉を叩く音がした。
 どうせ母親が様子を見に来たに決まっている。
 俺は布団を頭まで被ると、そのまま寝たふりを決め込むことにした。
 俺の返事が無いことに気付いた相手は、そっと部屋の扉を開けて入ってくる。
 そして近付く足音。
 寝たふりをしているだけなのに、妙に心臓が高鳴るのは、悪戯をしている気分になっているからかもしれない。
「何だ。寝てるのか」
 頭上から響いた声に、ドキリと心臓が高鳴る。
 母親ではない、低い声。そして響いた椅子を引く音と、布擦れの音。
「折角、親友様が見舞いに来てやったって言うのに。結構薄情だな、お前」
 勝手なことを呟く相手は、俺が被っている布団に手を掛けると、そっとそれを外してしまった。
 とっさに瞼をキツク瞑ると、今度は額にひんやりとした感覚が触れる。それがそいつの手だと分かると、俺の意思とは関係なく心臓が早くなっていくのが分かった。
「ふぅん。熱は下がってんじゃん」
 優しい声が耳を突き、額に添えられた手が前髪をゆっくりと撫で上げる。
 くしゃくしゃっと、子供にするみたいに髪を撫でる手が、いつもなら癪に障るのに、今日は少しだけ気持ちが良い。
 もっと撫でて欲しいと思いながら、瞼を上げようとすると唇に何か柔らかなものが触れた。
 咄嗟に目を開けようとするが、その目を相手の手が塞いでしまう。
 長い沈黙が部屋を包み、やがて唇に触れた柔らかな感触は、相手の手と共に放れて行った。
「……メリー、クリスマス」
 掠れたような囁き声に、今まで麻痺していた感覚が蘇ってくる。
 耳も、頬も、顔全体が再び熱を出してしまったのではないかと思うほど熱くなって、思わず目を開くと、俺の顔を見詰めていた相手と目が合った。
 驚いたように見開かれる目と、徐々に赤くなってゆく顔が俺の目に焼きついてゆく。
「……っ、お前……起きてた、のか?」
 口元を押さえて声を掠れさせる相手に頷くと、そいつはバツが悪そうに目を細めて俺の顔を見詰めた。
 そして意を決したようにそいつの手が口元から放れて俺に触れてくる。
 真っ直ぐに、真っ直ぐに見詰められた目が、不自然なくらい逸らすことが出来なくて心臓の音が再び大きくなる。
 でも、その音は全然嫌なものではなくて、どちらかと言うと、クリスマスの夜にサンタを待っているような、そんなドキドキ感だった。
「……なあ」
 徐々に近付く顔。
 本当なら男の顔を近づけられても嫌なだけなのに、今はそんなこと全然無い。
「お前のサンタさ。俺じゃ、不満か?」
「ヒゲも無いのに、サンタなのか? しょぼい」
 俺が小さく呟くと、そいつは笑って俺の唇に触れた。
 嫌がるでもなく、ただ降ってくる唇を受け止めると、そいつは蕩けそうなほど目を優しく染めて俺を見詰めている。
 そしてほんの少し放れた唇から、こう囁いた。
「しょぼいので充分。だってさ、お前専用のサンタなんだから」

――シャン、シャンッ……。

 窓の外には白い雪が降っていて。街を染める明かりに灯されてキラキラと綺麗に輝いている。
 そんな中、耳に届いた小さな鈴の音は、俺が恋に落ちてしまった音なのかもしれない。



―おわり―





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