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空は快晴。 強い日射しは季節の感覚を麻痺させる。 海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。 文句の付け所のない絶好のロケーション。 午後の散歩を好むお爺ちゃんやマラソンに励むスポーツメンの清涼剤になりそうな冬木の港は、しかし。
この上なく対照的な二人によって、ギチギチの険悪空間になっているのであった……!
「って、一人増えてるぅ……!?」
ランサーの背後。 頼れる背中がキラリと光る、あの褐色の男は間違いなく新たな暇人……!
「フ、イナダ十六匹目フィッシュ。 よい漁港だ、面白いように魚釣れる。ところで後ろの男、今日それで何フィッシュ目だ?」 「うるせえな、何でテメェに答えなきゃいけねえんだっての。うるせえから余所でやれ余所で」
「はっはっは。まだサバが八匹だけか。 時代遅れのフィッシングスタイルではそんなところだろうよ、と、十七匹目フィィィイッシュ!」
※フィッシュは当たりの意味です。ヒット、ビンゴ、コーブラー等とお考えください。
「だからうるせえってのこの近代かぶれ! 魚が逃げるだろうが魚が!」
「ふ。腕のなさを他人の所為にするとは落ちたなランサー。近場の魚が逃げるのならリール釣りに切り替えればいいだろう。 もっとも、石器人であるおまえにリール釣りのなんたるかがりかできるとは思えないが、おっとすまないね、十八匹目フィィィィイッシュ!」
ヒャッホー、と歓声を上げる赤ジャケットの男。 ……おかしいなあ。 童心に返っている大人を見るのって、こんなにも苦々しいものだったっけ……。
「…………つーか、なんだありゃ」 ……ホント、我がことながら目を背けたい。 上下ともにギョシンさんばりにキメキメのズボンとジャケット、悪趣味なロッドは兼ねに糸目をつけない99%カーボンの高級品。 リールは最近技術の結晶、十六個のボールベアリングによるブレなしガタなしおまけに電動操作の高速巻き上げ式ときたか……!
「……いいなあ。アレ、最新型のリールだよなあ……」 赤い男のリールはランサーの野生の勘と同等か、あるいは凌駕するほどの逸品なのだ。 データさえ入力しておけばほとんどリールがやってくれるという、もう釣りに来ているのか機械の調子を見に来ているのか判断のつかないハイテクぶり。
その他各種オプションもすべて最先端の高級品。 あの装備のお値段、一括で二十万とんで三千円というキチ○イ沙汰だ。
ちなみに、言うまでもなくぜーんぶ投影によるバッタもんである。
「はっはっは。この分では夜明けを待たずして勝負がつくな! 軽い準備運動で始めたのだが様子を見るまでもない。 なあランサー、別にこの港の魚を釣りつくしても構わんのだろう?」
「はいはい、できるもんならやってみろ。そん時ゃあ二度とテメェをアーチャーとは呼ばねえよ」 「よく言ったランサー。 ふふ、こんな形でおまえと雌雄を決する時がこようとはな……! どちらが漁港最強か、ここでハッキリさせてやろう!」
ノリノリのアーチャーに、いいからどっか行ってくんねえかなあ、というノリのランサー。 ……ほら、言わんコトじゃない。 ヘンなこと口にするからヘンなのが寄ってくるんだ。
二人の邪魔をしないよう、こっそりと港を後にする。 どうかあの男がアーチャーからアングラーに改名することがありませんように。
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