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       小さい頃、なぜだか魔法使いになりたいとよく夢見ていた。
 憧れて、ちゃちなファンタジー映画でも見れば嬉しくなって、そこら辺にある木の棒を拾っては回らない口で真剣に呪文を口ずさんでみたり、ばあちゃんの風呂敷をローブ代わりに羽織って走りまわった挙げ句、破っちまってブン殴られたりもした。
 だけど、そんなことをして魔法が使える筈もなく、欠けた枝の先から出て行くのは幼稚な夢の粒。欠けた夢の穴にじわじわと枝を張り巡らすのは、下らなくても絶対的な存在感を持って侵食する現実という名の強制力。
 その内に、俺や友達は昔よりも少し大人に近づいて、あの頃のことなんてすっかり良い思い出になっちまった。『魔法』なんてものは机上の空論にも挙がらないゲームや漫画の世界だけだと割りきって、夢を見ることすら忘れていたんだ。
 いまや昔の俺の夢はとっくに薄れて、将来普通に飯が食えて、一日8時間は寝られて、週休二日で、それでいてあまり疲れない仕事に就けたら良いと、リアリティ溢れるかつどことなく現実を見ていないと言われる目標に切り替わったのさ。
 だって実際そんなもんだろ?もしもだ、ある日俺がいつもの帰り道を歩いていると、謎の美少女がこれまた謎のファンタジックで巨大な邪悪っぽい生物に襲われているシーンに直面するとしよう。物語のセオリーで言うとここで俺は美少女を助けようとして案の定返り討ちに遭い、一気に瀕死の危機になるのだ。もう死ぬ・・・・・・と思った瞬間、美少女が持っていたペンダントだかネックレスだかがなんか神聖そうな光を発して俺を包み込み覚醒、超必殺技発動で邪悪っぽい生き物を打ち倒すわけだ。
 が、現実はそう甘くない。きっと助けに入ったところで神聖そうな光は出ずに、邪悪っぽい生き物の爪で引き裂かれて失血死か、邪悪っぽい生き物が吐く地獄の業火で焼き尽くされて焼死。主人公が出現する前に時間稼ぎで死ぬ不幸な通行人Aとして終わるだろう。仮にもし倒すことができたとしても、その後待っているのは面倒なことだけだ。
 きっとその美少女は魔王により破滅の危機に晒されている世界のお姫様で、恐らく邪悪っぽい生き物を倒した俺を勇者だなんだの言って異世界に連れ去った挙げ句、ガキの使いにもならない金を握らせて魔王討伐の旅を潤んだ上目遣いの目で要求してくるのだ。そんな事をされたら俺は断れる自身がない。
 しかも、異世界に飛ばされた後、現実世界で俺は行方不明者扱いになるだろう。ローカル新聞には『謎の失踪!平凡な高校生に何が!?事件当日に目撃された謎の発光体との関連性は・・・』といった具合で報道されるかもしれない。さらに俺が旅をしている間、学校に行くこともできない。もしそれが一年でも続いたら、留年、空白の青春、親による自主退学。恐ろしい、もう立派な社会不適合者の出来上がりじゃないか。
 結局、全て都合よく進むなんて事はほとんど無いわけで、常軌を逸脱した夢溢れるお話なんて物は面倒なだけなのさ。
 とは言ったものの、それは現実から完全にかけ離れた舞台に行くことを指しているのであって。もしも日常からそう遠く離れずに起こる非日常が有るとしたら、関わってみたいと思う気持ちが無いわけでもなく、むしろちょっと興味をそそられる位の憧れは俺にもある。って俺は一体何を熱弁しているのだろうか。
 後に俺は、そんな事を少しでも思ってしまった自分を凄く萎えた気持ちで見つめ直すことになるんだが・・・・・・
 __________ああ、そういえば昔よく口ずさんだあの呪文はどんな言葉だったっけ?
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