「あ・・取り込み中だったかナ たはは」
気まずい空気が流れているとは露知らず、北見サイクルの戸を開けた女―――秋川レイナは苦笑いを浮かべた。
「ワリーけど忙しいんだ また後でな・・オウ どーしたヨ ねーちゃん」
「・・・・くそったれ!」
悪態をつき啓介は店を出る。
「北見サン・・・・俺は諦めませんよ」
強い意志を感じさせる目でそう呟き涼介も店を後にした。
「なーに あの人達?」
「冷やかしだよ冷やかし・・で 何の用だ?」
「いやー今日オフなんだけどアキオ君が一日バイトでさァ 暇なオヤジとクルマ談義でもしよーと思ってェ」
「オイオイ(笑)」
鋭い目つきで啓介は店内の北見とレイナを睨み付ける。
「あの親父・・俺達をバカにしてやがるぜ!それになんだこの地味なGTRは・・乗ってるのはイイ女だけどさ」
「啓介・・物事を主観的に判断するのはお前の悪い癖だ このGTRのドコが地味なんだ?」
「へ・・・・んなコト言ったってよ兄貴 GTウィングもついてねぇし第一GTRだぜ?」
「ふ・・・・お前もまだまだだな ベッタリと溶けたタイヤのサイドウォールに跳ね石で傷だらけのスポイラー
おまけにホイールはパッドのカスが付着してブレーキのロゴは熱で変色している・・・・本気で走っているGTRだ」
「するってえと兄貴 あのオヤジは・・・・?」
「ああ 間違いなく悪魔のZに関わりがある このGTRを糸口にしてみせるさ」
数時間後―――
「じゃーね!オッサン」
陽も大分昇った昼過ぎに北見サイクルからレイナが現れた。
少し離れた場所にFCを停めていた高橋兄弟は、GTRの行く方向をじっと見つめている。
「兄貴 これからどうするつもりだ?」
「あのGTRも悪魔のZに近い匂いがした・・俺のカンだがあのGTRと悪魔のZは近い距離にいるような気がする・・」
「でもどうやって?」
「そうだな―――例えば・・あれーさっきも会いましたよね?なんていうのは」
「兄貴は女が絡むとてんで駄目だな・・中学生じゃないんだから堂々と会いに来たって言えよ」
「そういうものなのかな」
涼介はGTRを追いFCを走らせる。
先を行くレイナのGTRとの距離がクルマ5台分になった頃には、レイナも後ろにいる FCが北見の店の近くに停まっていたFCと気がついた。
「ヤレヤレ・・追っかけかなんか知らないけどウザイわねー」
ヒールアンドトーでギアを2速へダウン、クラッチミート。
前方を走るトラックとの距離を確認し、アクセルを踏み込む。
咆哮を上げるRB26DETT。交通量が比較的少ない道路と言えども鬼のようなスラロームに高橋兄弟は息を呑んだ。
「逃げるぞ!兄貴」
「ココで見失うワケにはいかない!」
フゲェァ――!
ウェストゲートの音を響かせFCも後を追う・・が、慣れていない道路、そして走る自動車の間を縫うスラロームでのバトルは、峠を閉鎖している状態でしか走っていない二人には圧倒的に分が悪い。
流れを掴めない二人はあっと言う間にGTRを見失った。
「駄目だ・・・・まるきり相手にならない クルマも乗り手も」
搾り出すように呟く涼介。
啓介はそんな兄を生まれて始めて見た気がした。