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「これはDを自分が作った時から決めていたコトなんですが───」

一個呼吸置いてから涼介は語りだした。

「島先生は既にご存知のようですが自分は将来父の病院を継がなかればなりません・・現在自分はG大の3年です
4年になれば研修先も探さなければなりませんし現状でも学業との両立はギリギリなんです」
「だったら尚更だ・・君が考えているよりこの業界は甘くないヨ」
「それもわかっています・・ですが自分も先生同様に”走る”というコトに取り憑かれた一人です 出来るコトなら走り続けたい
だけど現実的に考えていつか降りる日がやって来る だけど自分の打ち込んできたコトはこのまま終わらせたくないんです」
「成る程ね それでリスクを犯してでも伝えたい・・と」
「ええ Dは活動出来ても秋までです それまでに自分の志を継いでくれる二人に自分がしたコトや見たコト・・そしてわかったコトを伝えて走り続けて欲しい・・自分が遂げられない夢を伝えて継いで欲しいんです」

―――降りる・・か―――

島がポルシェに憧れ18歳で免許を取り気がつけば10年近く経っている。
ある者は走る事に疲れ、ある者は命を奪われ・・・・気がつけば彼の周りには当時を知る者は誰もいなかった。
走るという事がずっと続くと思っていた、だが終わりはいつか必ずやって来る。
存続できても今年いっぱい―――奇しくもそれは異次元の速さを手に入れた引き換えに車検を通せなくなった島のポルシェの
寿命と一緒である。

「君なりに色々考えていたんだね」

島は相変わらずの無表情だが、座席を包んでいた緊張感は無くなったように涼介は感じた。

「僕は君のやり方全てを理解は出来ない・・が それも一つの正しい選択だと思うヨ そろそろ出ようか」

時計の針は11時を回っていた。

夜の闇を更に黒くしたかのようなクルマが、黄色いヘッドライトでその闇を切り裂きながら疾走する。
交通量の多いC1を物ともせず、豪快に、そして繊細に走る島のドライビングに涼介は関心を抱いた。

「まるで車線変更がワープのようですね・・自分もポルシェとは峠(やま)で何回か走りましたがとてもこんな動きは」
「だろうね・・このポルシェの外装は全てドライカーボンなんだ 同時にフレームも切断しパイプ化されている」
「成る程・・軽さが武器になるのはステージが違っても一緒ですね」
「そういうコトになるかな」

―――それにしても・・このポルシェは何なんだ?―――

これまでに自分が見てきたチューンドとは明らかに速さと完成度の次元がズレている。
RRという駆動方式から生じる筈の一番のネガとなるアンダーステア、それすらネガと感じさせない。
それだけではない、このポルシェもあの日涼介が啓介と共に目にした悪魔のZに似ている破滅を求めるかのような
突き抜けていくその走りをしているようだ。

「運転してみるかい?」
「え?」
「客観的に物事を捉えるのも大事だが自分で触れてこそ解るモノもあるかもしれない・・どうかな?」
「是非お願いします」

島はポルシェをPAへと入れる。
一方その頃、昼間島が訪れた倉庫街に一人の若い女性の姿が見えた。
数日前に北見の店で涼介と啓介と擦れ違ったGTRの女、秋川レイナである。
彼女の向かう先は暗く静まり返った中に一つだけ明かりの灯った貸し倉庫。
そこではミッドナイトブルーのS30Zが低いアイドリングの唸り声を上げていた。