耳を劈く音が夜の赤城に木霊し、赤いS14がスキール音と白煙を上げてダウンヒルスタート地点から走り出す。
それから5秒遅れる形で黒いエボⅢがS14を追う形で走り出す。
ハンディキャップ方式…エンペラーが秋名といろは坂で拓海相手に用いた先行後追い形式である。
双方のクルマにパワー差がある場合に用い、先行のクルマが任意のタイミングでスタートを切り、後追いのクルマが
一定の間隔を開けてスタートする対戦方式だ。

「おい!早く涼介さんにつなげろよ!」
「だあああじれってぇ!手が震えて」
「貸せ」
「あ・・・・史浩さん」

駐車場にたむろしている走り屋から一人の男性が携帯を取り上げる。
史浩と呼ばれた男性は、落ち着いた様子で携帯を操作し涼介を呼び出す。
普段はプロジェクトDとして遠征先の現場を仕切るだけあって、ここ一番という時の度胸の据わりはあるようだ。

プルルルル・・・・プルルルル・・

「涼介か?俺だ・・実は今赤城なんだがエンペラーの須藤がやって来てな ああ それでな ケンタがバトルを受けちまったんだ・・わかった」

ピッ

通話を終えて史浩は走り屋の一人に携帯を返す。

「涼介がこれから赤城に来るそうだ・・だけどこのバトルには間に合わないな」

二台が下って行った方向を見つめる史浩。
スキール音とけたたましいエボⅢの排気音からバトルは最初の中低速セクションに突入したようだ。

「須藤の野郎・・俺を以前の俺と思うな!プロジェクトDのエースにしごかれた俺の走りを―――な!?」

三つ目のヘアピンを抜けたケンタはルームミラーに移る青いHIDヘッドランプを見て驚愕の声を上げた。
5秒もあったビハインドを物ともせず、エボⅢは既にS14を射程圏内に納めつつある。

「話にならんな・・尤も俺の相手はこんな雑魚じゃあない」

ペロリと舌で唇を舐め、4WDの性能を生かし一気にシルビアとの距離を詰めサイドバイサイドへ持ち込む。
一歩鼻先をリードされたS14は、アウトからのエボのプレッシャーに耐え切れず緩い左の中速コーナーで引いてしまう。

「終わりだ」

シルビアを抑え込む形でコーナーに進入し、脱出。
そのままの勢いで次にせまるきつい右コーナーもなんなく走り抜ける。

「な・・・・なんだぁ あのエボⅢ 涼介さんや藤原はあんなのと戦ったのか・・・・・・」

消え去るエボⅢを見ながらケンタは愕然とした。 

最終更新:2008年04月03日 21:01