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「凄いクルマですね・・アレ」

ルームミラー越しにポルシェをちらりと見ながら呟く拓海。
先ほどまでの涼しい様子とは打って変わり、額にはうっすらと汗が滲み出ている。
見るもの全てを魅了する悪魔のZとは対極に見るもの全てを威圧するその姿は、正にコインの表と裏。
同じでありながら相成れない双子の存在と言えるだろう。

峠では完全に持て余す700馬力の大パワー車を当たり前のように振り回す。
拓海がこれまでに出会った事の無いタイプのドライバーと言えよう。
だがポルシェは拓海を威圧するでもなく、その走りを綺麗にトレースする。
決して首都高の走りを押し付けるわけではなく、峠に存在するそのルールを目の前の相手から学び取るかのようだ。

「啓介さん 後ろのポルシェ・・」
「俺達を煽るでもなく抜くでもなく合わせている・・中々出来る芸当じゃねーな 流石兄貴を認めただけはあるぜ」
「え?啓介さんは後ろのクルマのドライバーを知ってるんですか?」
「ああ・・ちょっと な」

そう答えた啓介は少しバツが悪そうな顔をした。
一つの線で繋がるかのように、赤城を駆け上る二台。
頂上のレッドサンズの溜まり場である駐車場にハチロクが滑り込むとポルシェもそれに従いついて来る。
そして運転席から現れたのは紛れもなく、あの島 達也であった。

「驚きだな・・やっぱりアンタか」

偶然か、それとも必然か。
同じ水域に住んでいる者同士の引き合う力の不思議さに驚くのは島もであった。

「気晴らしで峠に来てみたんだが・・人は本当に不思議なモノだね」

ちらりと視線を横にする島、目が合った拓海が「どうも」と頭を小さく下げる。

「で 一体何の用だ?」
「特に用はナイよ ただ峠を流していたら君がいた・・それだけだ」
「こちとらアンタと会って以来ツキに見放されちまった感じだぜ・・兄貴も首都高首都高ってバカみたいだぜ」
「そのコトなんだが―――」
「あん?」
「実は以前に涼介君と一緒に走ったコトがあってネ・・その時に彼は言っていたんだ”近い内に自分は走れなくなる 走り続けたい という思いを仲間に伝えてそれを継いで欲しい”と 今の君には彼は何かに憑かれているように見えるだろう?だが彼は自分の本心がちゃんと見えている・・戻るべき場所も見えている 彼は彼なりに色々考えていたヨ」
「・・・・」
「君はいいお兄さんを持ったネ・・じゃあ」

そう言い残し、島は赤城の北面に抜けて行く。
駐車場には啓介と拓海だけがポツンと残された。

「わざわざアレだけ言いに来たんですか?何か変な人ですね」
「まったく・・医者ってのは変なのが多いぜ」

―――思いを継いで欲しい―――

涼介が語ったというその言葉が啓介の心の靄を取り除いて行くのを彼は感じていた。