終電を逃した勤め人を乗せるタクシーの姿も大分減り、時折オールクリアの状態を見せるC1にFCの姿があった。
路面の継ぎはぎが車体を細かく上下に揺らす。
限界まで攻めるでもなく、かと言って中途半端に流すでも無い。
「こうしているとまだ走り始めた頃のコトを思い出すよな」
流れる景色を見ながら啓介が呟いた。
「どうした?急に」
「覚えてるか?兄貴・・俺がレッドサンズに入る前のコト」
「忘れるもんか 初めてお前をFCのナビに乗せた時ときたら・・・・地元では名の知れたワルが泣きそうになったのは笑ったぜ」
「しょーがねえだろ 俺だってあんな経験初めてだったんだから・・それからしばらくは兄貴の横に乗ってたよな」
「こうしてお前とタンデムするのは秋名以来だな・・あれからもう1年か 早い物だ」
ハンドルを握りながらこれまでの思いを馳せる涼介。
群馬最速を目指した遠征、拓海との出会い、プロジェクトD、そして首都高。
既にただ楽しいだけでは済まなくなった走るという行為、だがその中で得た掛け替えの無い物、それを継いでくれる仲間に対し
伝えられるのは走るという行為を通してのみ。
北の丸トンネルを抜け、赤坂STへ。
FCの車速が乗っていく。
「啓介・・今夜のタンデムがお前との最後のタンデムだ」
「え?」