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「夜の海に加わる渦巻く影(後編)」(2008/08/06 (水) 08:13:20) の最新版変更点
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**夜の海に加わる渦巻く影(後編)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
平穏というものの価値を、どうして人は真の意味で理解することが出来ないのだろうか。
それは特別に難しいことをせずとも誰もがお互いをほんの少しだけ、思いやれば簡単に得ることが出来るはずのものである。
それに人々が気付きさえすれば世界は何と穏やかなものになることだろう。
……それに比べれば正義も悪も世界を変えるには何の力も持たない。
真に人が求めるべきものは安心。それがわからないものはどれだけ優れた能力の持ち主であろうと愚か者に過ぎない。
吉良吉影は懐中電灯を見た程度ですげえ! といちいち騒ぎ立てる馬鹿面を忘れたくなって、あるべき世界の姿に思いを馳せていた。
これと比べてみれば川尻早人はよく出来た息子だ。
唐突に出来た息子だったため接し方が、なかなか掴めずにいて……つい、殺してしまったが、おかげで新たな力を得ることも出来た。
家族というものの力は本当に偉大かもしれない。例えそれが仮初めであったとしてもだ。
家族は生活を維持する上での基本であり、人に心から安心を与えてくれる存在。……本来はそうでなければならないのだ。
そう考えていると一刻も早くあの家族の元に帰りたいと思えてくる。
こんな異常な状況に巻き込まれること自体、何かの間違いなのだ。間違いは早く正さなければ、一つのミスが次々と誤算を生む。
吉良は苛立ちが段々と高まってきていることを内心、自覚していた。が、それをあっさり抑えられるなら連続殺人などは起こさない。
……何か気休めとなって安心を与えてくれるものでもあれば、そう、美しい女性の手があれば……。
と期待するのだが、実際にはそう上手くいくはずもない。
「……川尻のおっちゃん。やっぱどうかしてんじゃねえ?」
件の馬鹿面が、顔を覗かせるだけだった。
猫のようなヒゲっぽいものが目に止まる。洒落ているつもりなのか、理解に苦しむ。猫草も変な生き物だったが、こいつもおかしい。
どうせならグルグルと頬に渦巻きでも書いていればいいじゃないか。それなら子供染みた変な偽名とも合うに違いない。
……どうにも感情の捌け口を見付けられず、吉良は木にもたれかかるようにして身体を楽にして呼吸を整えようとする。
人の感情の機微を察することに長けているように見えないナルトに気付かれるぐらい、不安な気持ちが端々に表れているようだった。
しかし、それも無理はないのだ。こんな状況に追い込まれて冷静さを保っている人間など、脳に欠陥でも抱えてない限りは有り得ない。
例外があるとすれば物を知らない子供ぐらいなものだろう。ナルトはスタンド能力に目覚めて、浮かれているだけのただの子供。
……少し現実を教えてやった方がいいのだろうか。そうすれば騒ぎ立てることも少なくなるに違いない。
「……いや、残してきた家族のことが少し心配でね。しっかりしているから、私がいなくとも大丈夫だとは思うのだが」
「そんな下んねーこと言うなってばよ!
オレが必ず帰してやるって約束したんだから、それを信じろ!
オレはスゲーんだから、やることはやる! やってやる!!
だから何にも心配することなんてねえから、安心してろよ!!」
「…………ああ、ありがとう。ナルト君の方もご家族の方がきっと心配しているだろう。決して無理はしてはいけないよ」
「……あ、うん。いいってことよ!」
……大体、本当にどうか出来るのであれば部屋に集められた時点で、何かしておいて欲しいところだ。
それが無理だったから、こういう状況に陥ってしまっているというのに、これだから頭の悪いガキは困る。
……くらいのことは言いたいところだったが、勿論、そんな本心を明かすわけにもいかない。プッツンといきなりキレ出しては困る。
本当の狙いは、ほんの少しだけでも家族のことに思考を向けさせてホームシックにでも、なってくれればいいと思っただけだ。
まあ、泣き喚いてこられては困るので、それとなくではあったが、一応の効果はあったとみていいだろうか。
ほんの一瞬だけ暗い顔をしていたのが見えた。家族のことを考えたからだろうか。……いや、それとも家族がいないからなのか。
後者だ、吉良はそう判断する。
それもそうだ。普通、まともな家庭で育っていれば、こんな年にもなって忍者遊びに本気で興じているはずもない。
……手に入れてしまったスタンド能力が、その一人だけの妄想に、拍車をかけてしまったのだろうか。
触れたものを爆弾化させるキラークイーンのスタンド能力に目覚め、殺人を犯し続ける自分と、どこかで……似ているのかもしれない。
吉良はそう思った。
「だからさ。だからさ。そこでオレはね。
言ってやったんだってばよ。何て言ったかわかる? へへ……」
……やっぱりあの程度のことで黙るような繊細なところを期待するだけ無駄だったようだ。
まさかどれだけ自分が凄いのか武勇伝を聞かされる羽目になるとは思ってもいなかった。
カカシ先生やら、エロ仙人やら、心の中で勝手に作り出した師匠の存在やら仲間の話が次々と出てくるのには本気で閉口したくなる。
(駄目だこいつ……早く何とかしないと)
この年で、ここまで異常な精神を持つようになるとはいったい周囲の大人は何をしていたのだろう。
殺し合いだけでなく社会の歪みという残酷なものを突き付けられることになるとは思ってもみなかった。
……勿論、最終的には殺す必要があるのだが、こんなアホのままで殺していいものか、どうにも腑に落ちない感情に襲われる。
広瀬康一が靴下を裏返しに穿いていた程度でも、ストレスを感じたというのに、こいつはそれ以上だ。
せめて、少しだけでも真っ当な人間に戻してやらなければこのまま捨て置いたら一生後悔しそうな気がする。
(何だ? この吉良吉影、ひょっとして今、この小僧のことを心配しているのか?
いや違う! この小僧が死んだら、あの「チャクラ」とかいったスタンドを利用できなくなる心配があるだけ……。
ただそれだけ……)
実際に便利なのである。はっきり言って生き残る上では途方もなく強いスタンドといえるだろう。正直、甘く見ていた。
吉良吉影は、ナルトにいくつもの影分身を作り、偵察に回って来てもらうことにする。
森を抜けるためにも手分けした方が早い。森の外に広がる砂漠や、小屋の位置、流れる川から現在地がB-2であることを把握した。
スタンドは一人一体のはずだが、ナルトのスタンドは恐らく砂粒とか霧のような微小な粒子か何かの集まりで出来ているのだろうか。
以前に爆破したスタンド能力者も複数のスタンドを出していたが、タネは大体同じと思っていいはず。
自分の持つスタンド、キラークイーンのシアーハートアタックとて一見別のスタンドのようにも見えるが技のひとつに過ぎない。
それにしても特筆すべきなのは、遠隔自動操縦でありながら本体と同じような意思を持ち、得た情報を本体に送ることが出来る点。
情報を送るには一度、スタンドを解除しなければならないし、得た疲労は本体にも伝わる、だがそんなものは欠点とすらいえない。
攻撃を受けても煙となって消えるだけ、それによっても本体に情報を送ることが出来る。本体にダメージは伝わらない。会話も出来る。
破壊出来ないほどに頑丈ではあるが、熱でしか対象を識別することが出来ないシアーハートアタックと比べると格段に優れている。
こんなスタンドに遠距離から次々と攻められたら、どうしろと言うのか。
情報を本体に送ることで、相手のスタンド能力を知ることも出来る。
スタンド能力を知れば相手に対抗する手段はいくらでも出てくる。更には変化の術を併用すれば、どんな姿になることも出来る。分身では本体がダメージを受ける心配もない。
「チャクラ」で本体を強化することも出来るために、近距離戦闘も可能。これといった穴が見付からない。
……ひょっとして最強なんじゃないか、このスタンド。本体がアホでなければという限定はつくものの。
(大した奴だ……)
以前に似たスタンド使いを倒した上、無敵のスタンド、パイツァ・ダストを手に入れた吉良とて、戦慄することを隠せないスタンドだ。
それ以外の点でもどうやら様々な応用が利くところを見ると、正直、本当にスタンド能力なのか疑いたくなるぐらいだった。
スタンド名――チャクラ
本体――うずまきナルト
破壊力:B スピード:B 射程距離:B
持続力:D 精密動作性:A 成長性:?
能力――身に纏うことで本体の身体能力を向上させるスタンド。
スタンドを操作することで、己の分身を作り出したり、姿形を他のものに変化して見せることも可能。
分身は本体と同じ意思を持ち、個別に行動することが出来る。分身が消えれば、本体にその分身の得た経験が伝わる。
スタンドがダメージを受けても煙となって消えるだけで、本体にはそのダメージが伝わることはない。
……さて、色々脇に逸れたような気がするが、現在地はわかった。
ここからどう行動するかだが、はっきり言って吉良は人の集まる所に行くつもりは殆どなかった。
何故、わざわざ危険を冒してまでそんなことをしなければならないのか。危険を避けるために集団に入るのにそれでは本末転倒である。
確かに集団に属するには最初に潜り込まないといけない。これから先、恐らく殺し合いが始まっていくことだろう。
既に何人か死んでいるかもしれない。それが知れた時、グループの中で、後から入ってきた人間を疑う気持ちが生まれないはずもない。
『こんな奴ら信用出来るか! オレは一人で部屋に……』
まあ、こういったタイプなら何の問題もなく始末出来る。失踪したように見せ掛けることも簡単なので、都合が良いとさえ言える。
問題なのは、こちらから武器を取り上げようとしたり、疑心暗鬼に走ったあげく危害を加えようとする連中だ。
いくらスタンド能力があるからといって拳銃が恐ろしくないわけではない。本体はどこまでいっても人間だもの。
至近距離からの一発で簡単に死んでしまう。毒殺だって怖い。
……そのため、少しでも危険を減らすには最初の内から集団の中に潜り込んでおく必要がある。
さすがに多人数での集団同士の遭遇となれば、対等に話をすることも出来るだろう。……そうして信頼を増やしながら、少しずつ崩す。
これが理想的だ。
だが、集団となればその中で主導的な役割を果たそうとするものが生まれることになるだろう。
それがあくまで安全を優先する人物であればいい。勢いだけのバカに振り回されるなんてのは絶対に御免だ。
……そこまで言うなら自分でやればいいのでは、と考える者もいるかもしれない。だが、リーダーなんて注目される役はお断りである。
あくまで嫉まれず、そして馬鹿にされず平穏に生きていくのが人生目的である以上、それは譲れない。
これからもう暫く待てば、危険な中心部から離れようとする人間が、何人かは出てくるだろう。
そういった人間と合流して、そのうち誰かをリーダーに祭り上げる。危険を避けようとした人間なら、迂闊な真似はしないはずである。
ナルトのスタンドならそれを見逃すこともなく、安全な人間か確認することも出来る。
……これが最善だろうと思うのだが、待ちを良しとしないバカが、肝心の能力を持っている点が色々と台無しにしてくれる。
あげくの果てに地図に載っているA-1のモアイ像を見に行きたいとか言い出す始末だ。……どうも一緒に行きたいらしい。
火影の里という忍者の里には、歴代火影という里の長を勤めた人間の顔が彫り込まれている場所があるのだそうだ。
そのため、何か意味があるのではないかという発想に飛んだようだ。
……明らかに、どこかの国の影響を受けていることが分かる。……その火影の里の火影になるのが夢だと聞かされた。
こういう時、人は本当に無力であることを実感するのかもしれない。
……本来なら何か言わなければいけないのだが、言葉というものは探せば見付かるというものでもない。
ナルトがじっとこちらを見詰めてくる。
(ど、どうする……!?)
だが、救いは彼方から訪れる。
「……おっ、見付けたぜ。川尻のおっちゃん。あっちの方だ。名前は海馬瀬人だってさ。なんかスッゲ偉そうなヤツだった」
八方に飛んでもらっていたナルトの影分身のうちのひとつが誰かと接触したらしい。腕を振るうようにして、男のいる方角を指し示す。
勿論、このような事態を想定していないはずがない。
点けていた懐中電灯はすぐに消す。
ナルトのスタンドは便利だが、過剰な遭遇となってしまうのは非常に危険なのだ。
みすみす危険人物を勝手に連れて来られては堪ったものではない。まずは情報をこちらに伝えてもらうのが先決。
何度も執拗に言い付けていたことが功を奏したらしい。忘れないでくれていたことに心の底から安堵する。
……内容を聞くところによる高笑いを上げながら、木をへし折って歩き回っていたという。
……明らかに危険人物じゃないか。それでもワポルに対抗していると言っていたらしい。……わけがわからない。
植物の心のような生活を送ろうとしている吉良にとって、それで人を集めようとしていたと言われても、到底承伏できる話ではない。
その上、透明になることが出来る――恐らく近距離パワー型のスタンド使い――最悪も最悪だ。
そんな安心を脅かす最悪のスタンドがあっていいだろうか。
常にこの男が潜んでいないか、気を配っていなければいけなくなる。こんなものに存在されたら安心した生活が汚される。
「別に気配を読めば、大丈夫だって!」
などと、ナルトは気楽に言ってくれるが、気配を読むなんてことが漫画の世界でもないのに本当に出来ると思っているのだろうか。
確かに何かおかしいと、勘付く程度のことは誰にでもある。透明な人間でも歩けば足音ぐらいはするだろう。
しかし、それは集中していればの話。襲われている間も変わらずに精神を保ち続けるなど、余程の達人でなければ無理に決まってる。
普通の人間はスタンドに対抗出来ない。見えることも触れることも出来ないからだ。本体を狙う以外にはどうしようもない。
……スタンド使いにも、決して見えないスタンド。どれだけ驚異的なことか、更に衣類も含めて本体以外も透明化させることが可能。
例えば、透明にした拳銃からの銃弾を、音だけで躱せるような者がいるとでも言うのだろうか。そんなものは怪物の領域だ。
……だが、シアーハートアタックなら、透明でも熱を追跡して始末することが可能。予め知ることが出来て、実によかった。
何より相手は透明になることが出来る。突然、消え去ったとして何の違和感もない。
思わず高笑いを上げたい気分になる。これでまずは一人。どうやら運はこの吉良吉影に味方しているようだ。
こうやって一人ずつ消して、いずれ平穏な日常を取り戻すのである。が、そんなしい気分を盛大にぶち壊してくれる声が。
「……おっ、また見付けたぜ。川尻のおっちゃん。あっちの方だ。
今度は二人組だった。夜神月と加藤勝。月って奴が肩に怪我してたけど、Lってヤツに襲われたんだって。
で、大量殺人鬼のキラに気をつけろって……」
――キラークイーン。
あまりの展開に咄嗟に吉良はスタンドを出しかけたが、さり気ないポーズの姿勢をとったように見せ掛けることで、何とか誤魔化す。
……クールになれ。クールになるんだ。吉良吉影。
必死に心の中で自分に呼び掛けながら、冷静さを取り戻そうとする。
……いったい何の確証があってそんなことを言っているのだろうか。
この状況で「キラに気をつけろ」という言葉が飛び出す。
吉良の存在を知っているということは、承太郎の仲間。
しかし、ゲームの参加者の中に吉良がいると考えない限り、そんな発言が出来るはずもない。
かなり近付いているに違いないが、まだ承太郎たちにも誰が吉良かは掴めていない。そのはずなのだが、何故。
とりあえず、そいつらへの考察よりも重要なのはナルトがどこまでの話を知ったかだ。
事と次第によっては始末しなければ。こいつの能力は危険過ぎる。敵に回して確実に勝てる保証はない。
「それで彼らは、そのキラが……?」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
いつでも爆破できるようにそっと肩に手を置きながら、(まさか、これも分身だということはないだろうな)、先を促す。
「だから、そのLって奴がキラなんだってばよ!!」
……ピタ。
吉良は歯車の間に何かががっちりと挟まったような感覚に襲われる。
何を言っているのか分からずに、一瞬途方に暮れてしまった。キラがL。
既に能力もスタンドの姿までも承太郎たちに知れ渡っている。そこまでの知識があって、よりによって誰かと誤解出来るものだろうか。
夜神月と加藤勝と言ったが、父親からの情報ではそのような者達は承太郎の仲間にはいない。最近出来た仲間かと思ったのだが……。
まさか、全く別に自分を探ろうとしている人間がいたのだろうか。
どうする? ひょっとするとL=キラと考えているのは、夜神月と加藤勝の二人だけなのかもしれない。
……スタンド使いばかりが集められているとすれば、この場に空条承太郎が呼ばれていたとしておかしくはないはずだ。
どのような確証があって、そんな大それたことを言っているのかは知れないが、これはひょっとすると利用できるのかも。
しかし、Lの正体が分からなければ利用するも何もない。L、何かの隠語なのか。それともエルという名前なのか。
この吉良と同じ殺人鬼であることだけは間違いないようだが、……何者なのだろう。不気味としかいいようのない存在である。
さては……新手のスタンド使いかッ!?
とりあえず両方の情報は得た。ここからどうするかである。
……どちらも危険な可能性は高い。それならいっそのこと、お互いをまず遭遇させてしまったほうがいいだろうか。
上手くいけば相打ちとなってくれるだろうし、もしも安全だということが分かれば情報を得るために接触してやってもいい。
だが、問題はその案にナルトが賛同するかどうかという点だ。
影分身を使えるのはナルトだけ。つまり、ナルトが納得しない限りどんな案を考えつこうとあまり意味はない。
迂闊に近付くわけにもいかない以上、安全策は絶対に取らなければならない。
海馬にシアーハートアタックを使うつもりだったが、簡単に始末を出来るという保証はない。仕留められなければ、逃げようとする。
そこを月たちに見付かって、こちらに疑念をもたれても厄介である。
……さて、どうしたものか。
待っていてくれと伝えたようだが、あまり時間を掛ければそのうち不審に思ってくることだろう。
急がなければこちらの位置を相手に掴まれてしまうかもしれない。
殺人鬼、吉良吉影は自身の保身のためだけに思案し続けた。
何か無くしたものを探すように良い案が浮かばないか考えて、自然と周囲に目を向けていく。
と、そこに手持ち無沙汰にしているナルトが目に映る。ある支給品のことを思い出した。
ふっ、と顔を和らげると、それをディバックから取り出す。
「そうだ。まずはご苦労様だったね。
ちょうどいいものがあるんだった。ナルト君にこれを上げよう」
意外! それはお菓子!
吉良は箱からクッキーを一枚だけ取り出すと、さっと箱を閉じようとする。
しかし、それをみすみす見逃そうとするナルトではなかった。
「ガキの使いじゃねーんだってばよ。
……それにたったの一枚かよ。このケチッ!」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……
激しく火花散る視線の交錯。上と下という背丈の差は確かにある。
けれど、その眼差しに秘められた意思の強さに何の違いもあるはずもない。闘いとは常に譲れないものを持つ者同士の間で行われる。
……だが、ここで舐められてはいけないッ!
主導権があくまで、こちらにあることを絶対に理解させなければ。
一度に沢山望むのは贅沢な考えであることを徹底的に叩き込むッ!
最初が肝心なのだ。さもなければもっと付け上がるに決まっている。
別に決して卑しい理由でお菓子を惜しんでいるわけではない。これは人として当然の教育的指導というものなのである。
吉良の凄みとさえ呼べる気迫を前に、ナルトは渋々、折れることになった。
それでも交渉の結果、かろうじてもう一枚増やすことになったのは僥倖といっていいだろう。
さて、お互い一応の合意が出来たところで、吉良はナルトにお菓子を渡してやることにする。
「ナルトッ! こいつは取れるかッ! 手を使っちゃ駄目だぞ!」
……ちなみに、上は非常に悪い例である。
犬にフリスビーでも投げてやるように、お菓子をやるなど言語同断。
きちんと菓子屑が零れないように何かに包んでから渡さなければ、礼儀正しい人間に成長することは期待できない。
吉良は懐からハンカチを取り出すと、そっとクッキーを包んでからナルトに丁寧に手渡してやる。
「…………あ、あんがと。おっちゃん」
……もう少し、きちんとした感謝の仕方があるのではないか。そう言ってやりたいところだが、ぐっと堪える。
これは報酬である以上、あまり口うるさく言っても仕方あるまい。
何故、吉良はナルトにお菓子を与えようとしたのか。その訳は意外にあっさりとしたものである。
単にこちらの言うことを聞いて貰いやすいように友好関係を深めておこうとしただけだ。
……ほとんど犬猫の躾と同レベルである。だが、直球である分だけアホには、猫草と同じように効果的であるかもしれないのだ。
そして吉良は一枚だけ、自分の分として同じようにクッキーを取り出した。
実のところ吉良は、最初の時、あのまま箱を閉じようなんて思っていなかったのである。
食べないのか、と訊いてくるのを心の底では期待していたのだ。が、それはまったく無為に終わったことは、改めて説明するまでもない。
そうすれば、もう少しは奮発してやったかもしれないものを……。
無遠慮な子供の図々しい言動のために、当初の計画を歪めなければいけない無念さを胸に秘め、吉良はクッキーを寂しく見詰めていた。
同じものを食べる。それはお互いに信頼を深める行為に他ならない。
たとえば古典的な問いに、目玉焼きに何をかけて食べるか。というものがあるだろう。
醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、塩、コショウのみ。
どれほどに思い合った相手であっても、食の嗜好が違えば致命的な亀裂が入ってしまうことが、世の中にはあるのである。
……草食動物が肉食動物と仲良く暮らせるはずもない。
酒を飲み交わす。サラリーマン世界であろうと極道の世界であろうと、その意味するところはどちらも変わらない。
――お互いを同じ仲間だと認識させる。そのために吉良は敢えて、決して望んだ行為ではないが、クッキーを食べようとしていたのだ。
一口であっという間に食べてしまったナルトを横目にしながら、吉良は見せ付けるように、自分の持つ菓子の存在をまずはアピール。
その後は一口で食べず、噛み分けてゆっくりと味わう。まずいこともなかった。それほど、うんまァーいこともなかったが。
……大量生産のものである以上、まずまずといったところだろう。味の方は別に期待もしていなかった。
ところが、これで少しは友好関係が深まったかと思えば唖然とした様子で、ナルトはこちらを見てくる有様だ。
「なんだ? 私は一枚しか、食べていないぞ!」
吉良はきっぱりと自分の正義を標榜する。
恐らく、一人で何枚も食べようとしていると思ったに違いない。
大人である自分はたったの一枚で我慢してやろうとしているというのに、何て卑しい考え方をしているのだろうか。
大体、食べたいから食べてるわけではない。誰が得体の知れない奴から受け取ったものを好き好んで食べようと思う。
それを事もあろうに意地汚いように勝手に解釈するとは、何て食い意地のはった小僧なのか。こじつけも、そこまでいけば傑作だ。
そんなにも食べたいというのなら、存分に食わせてやろう。爆弾に変えて砕いてから耳に水で思い切り流し込んでやってもいい。
次第に物騒な発想に傾いていく吉良だが、あることに気付き一瞬で冷静さを取り戻す。向いている視線が、どうも奇妙なのである。
不満があるとすれば、顔よりも下を見るのはおかしなことではないだろうか。菓子箱を持つ手に注目しているようでもない。
確かに、嫌なことがあった子供は決して視線を合わせようとしないこともある。だが身体の一部を凝視するようなことはあるだろうか。
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
大地を駆け抜けるような音、心臓が激しく脈打つ。血は血管を巡り全身から汗が噴き出す。
突然、服が窮屈になる。
突然、全身が丸みを帯びてくる。
突然、胸のボタンを外したくなる。
何故だか知らないが、吉良はあの広瀬康一のスタンド「エコーズ」に左手を重くされた時のように胸に重みを感じていた。
……既に敵のスタンドの射程距離内にいて、攻撃されているのか?
しかし、あの時とは微妙に違う。この奇妙な感覚は新手のスタンド使いの攻撃と見て、間違いないだろう。
だが、焦ってキラークイーンを出すわけにもいかない。
もしかすると様子を窺い、スタンドの姿を確認しようとしている。……承太郎の仲間たちの仕業かもしれないのだ。
ギリギリの限界を見極める必要がある。まずは視線を下に向けよう。
ともかく何が起こったのかを確認しなくてはならない。まだ生命に関わるような攻撃は受けていないはずだ。
けれど何かで視界が遮られてしまっている。実に困った。これでは、何が起こったのか分からないではないか。
……いや、冷静になって考えてみればわかることだった。胸が盛り上がっている。これが原因で胸に重みを感じていただけのこと。
「な、なにィ――――――――ッ!?」
意外! それは突然の女体化!
「……川尻のおっちゃんも、おいろけの術、使えたのか?
ま、女の格好で驚かせるのもいいけどさ。オレにもやらせる気?
んー。ハーレムの術で歓迎ってのも、別にいいけどさぁ……」
ナルトの声など耳には入らない。
吉良はわなわなと手を震わせながら、その豊満な胸を掴み上げる。
「……ぁあっ」
男の身では余程の肥満体でもない限りは、胸の肉を揉みしだく経験など有り得ないだろう。
絞るようでありながら、身がほんのわずか軽くなる。不思議な体感に吉良は身悶えた。
……ずささっ。ナルトは思わず本能的に身を引いた。
無理もないと言える。
いかにお色気の術を使ったといえ、正体はおっさんである。それがいきなり目の前で胸を揉みながら変な声を上げれば仕方有るまい。
健全な青少年には目に耳に毒だった。気の毒とさえ言える。
……聞き慣れない女の声が、自分の声として内に響く。
吉良はわけのわからぬ異常過ぎる事態に思わず絶望し、いつもの癖で爪を噛もうとした。
見る人が見れば、その姿はある人物の、指をしゃぶる癖に似ていると見えたかもしれない。
ところがそんな絶望を止めてしまうような眼を疑う光景に襲われ、吉良は思わず我を忘れてしまう。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
吉良は叫びを上げた。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
吉良は叫びを上げた。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
吉良は叫びを上げた。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
……なんて美しい手なのだろう。
吉良は恍惚とした表情でその手を同じく美しい手で触れる。重ねる、その手のたおやかな自然な動作は見る者の眼を奪うに違いない。
真珠の如き、眩い輝きを秘めた爪は月の光を返して、なお天に届く程。
折り曲げた指、伸ばされる指、てのひらの皺、全てが美の調和を内に秘め、共に視界に入る光景を美しく艶やかな世界に形作っていく。
触れれば柔らかな手の温もりの感触が安心というものを、これでもかという勢いで、何と心地よく真摯に伝えてくることか。
もし、この手で口を塞がれでもしたら皆が呼吸を忘れることだろう。
――恐ろしいことに吉良は自分の手に見惚れているのだ。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……
……まあ、それはそれとして、そんな大声を上げてしまうと、近くに誰かがいた場合、どうなるのだろうか。
ついでに人を待たせていることをすっかり忘れているのもどうかと思う。
けれど、吉良がそれらに気付くには、まだ暫くの時間が必要となりそうだった。
【A‐1 森 / 一日目 黎明】
【海馬瀬人@遊戯王】
【装備】:ベレッタ(残弾数6/7)@現実 GANTZスーツ(ロワ仕様)@GANTZ
【所持品】:支給品一式×2 手榴弾×4 RPG@現実 不明支給品0~2
【状態】:健康
【思考・行動】
1:返り血を浴びないように小島の死体から首輪を手に入れる。そして首輪分析
2:ワポル打倒を目指す。ただし手段は選ばない。友情ごっこなんぞに興味はない
3:ナルトと川尻(吉良)と接触する?
※参戦時期はおそらく王国編以前だと思います
※小島多恵から色々と話を聞きました
【A-2 森 1日目 黎明】
【加藤勝@GANTZ】
【装備】:雪走@ONE PIECE
【所持品】:支給品一式 不明支給品0~2(本人確認済み)
【状態】:健康 Lへの怒り
【思考・行動】
1:島の中心部を目指す
2:GANTZに反抗し、ゲームを脱出する
3:月と一緒に、反抗者を探し仲間にする
4:月を信じる
5:襲撃者はできれば殺したくない
6:ナルトと川尻(吉良)と接触する?
※参戦時期は、おこりんぼ星人戦で死亡直後です
【夜神月@DEATH NOTE】
【装備】:スペツナズナイフ@現実 手榴弾@現実
【所持品】:支給品一式 手榴弾×4 不明支給品0~1
【状態】:健康 左肩に浅い切り傷
【思考・行動】
1:優勝して、主催の力を手に入れる
2:反抗者グループを作りマーダーを打倒、その後グループを壊滅させる
3:L=キラ、という悪評を広める
4:加藤は利用するだけ利用する
5:島の中心部を目指す
6:首輪と脳の中の爆弾を調べたい。
7:ナルトと川尻(吉良)と接触する?
※参戦時期は第1部終了直後です
【B-1 森の中/一日目 黎明】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 ホルモンクッキー×17@HUNTER×HUNTER 不明支給品0~2個(本人確認済み)
【状態】:健康 女性化
【思考・行動】
1:ナルトや他の人間を利用してゲームを生き残る。
2:海馬瀬人は安心を脅かすスタンド使い、始末したいが。
3:夜神月と加藤勝……まさか、承太郎の仲間か?
4:……それはともかくとして、なんて美しい手なんだろう。
※参加時期はバイツァ・ダストを身につけた直後です。
※スタンド使いが呼ばれていること、仲間らしき者がいることから承太郎も参加している可能性を考えました。
※ナルトには川尻浩作と名乗っています。
※L=キラ、危険人物だという情報を聞きました。
【うずまきナルト@NARUTO】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 不明支給品1~3個(本人確認済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:ゲームには乗らない
2:川尻浩作(吉良)と行動する
3:夜神月、加藤勝、海馬瀬人と合流したい
※参加時期は2部に入ってからです。
※海馬瀬人、夜神月と加藤勝、と簡単な情報交換をしました。
※L=キラ、危険人物だという情報を聞きました。
【ホルモンクッキー@HUNTER×HUNTER】
これを食べると24時間の制限付きで性別が変わります。
もう一枚食べれば、性別がまた変化します。一箱20枚いり。
|033:[[再会]]|[[投下順>本編(投下順)]]|035:[[業を負いし者]]|
|033:[[再会]]|[[時間順>本編(時間順)]]|036:[[えっちぃのは嫌いです]]|
|014:[[全速前進吸血鬼]]|海馬瀬人||
|028:[[神への道]]|夜神月||
|028:[[神への道]]|加藤勝||
|015:[[殺人鬼と忍者]]|うずまきナルト||
|015:[[殺人鬼と忍者]]|吉良吉影||
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**夜の海に加わる渦巻く影(後編)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
平穏というものの価値を、どうして人は真の意味で理解することが出来ないのだろうか。
それは特別に難しいことをせずとも誰もがお互いをほんの少しだけ、思いやれば簡単に得ることが出来るはずのものである。
それに人々が気付きさえすれば世界は何と穏やかなものになることだろう。
……それに比べれば正義も悪も世界を変えるには何の力も持たない。
真に人が求めるべきものは安心。それがわからないものはどれだけ優れた能力の持ち主であろうと愚か者に過ぎない。
吉良吉影は懐中電灯を見た程度ですげえ! といちいち騒ぎ立てる馬鹿面を忘れたくなって、あるべき世界の姿に思いを馳せていた。
これと比べてみれば川尻早人はよく出来た息子だ。
唐突に出来た息子だったため接し方が、なかなか掴めずにいて……つい、殺してしまったが、おかげで新たな力を得ることも出来た。
家族というものの力は本当に偉大かもしれない。例えそれが仮初めであったとしてもだ。
家族は生活を維持する上での基本であり、人に心から安心を与えてくれる存在。……本来はそうでなければならないのだ。
そう考えていると一刻も早くあの家族の元に帰りたいと思えてくる。
こんな異常な状況に巻き込まれること自体、何かの間違いなのだ。間違いは早く正さなければ、一つのミスが次々と誤算を生む。
吉良は苛立ちが段々と高まってきていることを内心、自覚していた。が、それをあっさり抑えられるなら連続殺人などは起こさない。
……何か気休めとなって安心を与えてくれるものでもあれば、そう、美しい女性の手があれば……。
と期待するのだが、実際にはそう上手くいくはずもない。
「……川尻のおっちゃん。やっぱどうかしてんじゃねえ?」
件の馬鹿面が、顔を覗かせるだけだった。
猫のようなヒゲっぽいものが目に止まる。洒落ているつもりなのか、理解に苦しむ。猫草も変な生き物だったが、こいつもおかしい。
どうせならグルグルと頬に渦巻きでも書いていればいいじゃないか。それなら子供染みた変な偽名とも合うに違いない。
……どうにも感情の捌け口を見付けられず、吉良は木にもたれかかるようにして身体を楽にして呼吸を整えようとする。
人の感情の機微を察することに長けているように見えないナルトに気付かれるぐらい、不安な気持ちが端々に表れているようだった。
しかし、それも無理はないのだ。こんな状況に追い込まれて冷静さを保っている人間など、脳に欠陥でも抱えてない限りは有り得ない。
例外があるとすれば物を知らない子供ぐらいなものだろう。ナルトはスタンド能力に目覚めて、浮かれているだけのただの子供。
……少し現実を教えてやった方がいいのだろうか。そうすれば騒ぎ立てることも少なくなるに違いない。
「……いや、残してきた家族のことが少し心配でね。しっかりしているから、私がいなくとも大丈夫だとは思うのだが」
「そんな下んねーこと言うなってばよ!
オレが必ず帰してやるって約束したんだから、それを信じろ!
オレはスゲーんだから、やることはやる! やってやる!!
だから何にも心配することなんてねえから、安心してろよ!!」
「…………ああ、ありがとう。ナルト君の方もご家族の方がきっと心配しているだろう。決して無理はしてはいけないよ」
「……あ、うん。いいってことよ!」
……大体、本当にどうか出来るのであれば部屋に集められた時点で、何かしておいて欲しいところだ。
それが無理だったから、こういう状況に陥ってしまっているというのに、これだから頭の悪いガキは困る。
……くらいのことは言いたいところだったが、勿論、そんな本心を明かすわけにもいかない。プッツンといきなりキレ出しては困る。
本当の狙いは、ほんの少しだけでも家族のことに思考を向けさせてホームシックにでも、なってくれればいいと思っただけだ。
まあ、泣き喚いてこられては困るので、それとなくではあったが、一応の効果はあったとみていいだろうか。
ほんの一瞬だけ暗い顔をしていたのが見えた。家族のことを考えたからだろうか。……いや、それとも家族がいないからなのか。
後者だ、吉良はそう判断する。
それもそうだ。普通、まともな家庭で育っていれば、こんな年にもなって忍者遊びに本気で興じているはずもない。
……手に入れてしまったスタンド能力が、その一人だけの妄想に、拍車をかけてしまったのだろうか。
触れたものを爆弾化させるキラークイーンのスタンド能力に目覚め、殺人を犯し続ける自分と、どこかで……似ているのかもしれない。
吉良はそう思った。
「だからさ。だからさ。そこでオレはね。
言ってやったんだってばよ。何て言ったかわかる? へへ……」
……やっぱりあの程度のことで黙るような繊細なところを期待するだけ無駄だったようだ。
まさかどれだけ自分が凄いのか武勇伝を聞かされる羽目になるとは思ってもいなかった。
カカシ先生やら、エロ仙人やら、心の中で勝手に作り出した師匠の存在やら仲間の話が次々と出てくるのには本気で閉口したくなる。
(駄目だこいつ……早く何とかしないと)
この年で、ここまで異常な精神を持つようになるとはいったい周囲の大人は何をしていたのだろう。
殺し合いだけでなく社会の歪みという残酷なものを突き付けられることになるとは思ってもみなかった。
……勿論、最終的には殺す必要があるのだが、こんなアホのままで殺していいものか、どうにも腑に落ちない感情に襲われる。
広瀬康一が靴下を裏返しに穿いていた程度でも、ストレスを感じたというのに、こいつはそれ以上だ。
せめて、少しだけでも真っ当な人間に戻してやらなければこのまま捨て置いたら一生後悔しそうな気がする。
(何だ? この吉良吉影、ひょっとして今、この小僧のことを心配しているのか?
いや違う! この小僧が死んだら、あの「チャクラ」とかいったスタンドを利用できなくなる心配があるだけ……。
ただそれだけ……)
実際に便利なのである。はっきり言って生き残る上では途方もなく強いスタンドといえるだろう。正直、甘く見ていた。
吉良吉影は、ナルトにいくつもの影分身を作り、偵察に回って来てもらうことにする。
森を抜けるためにも手分けした方が早い。森の外に広がる砂漠や、小屋の位置、流れる川から現在地がB-2であることを把握した。
スタンドは一人一体のはずだが、ナルトのスタンドは恐らく砂粒とか霧のような微小な粒子か何かの集まりで出来ているのだろうか。
以前に爆破したスタンド能力者も複数のスタンドを出していたが、タネは大体同じと思っていいはず。
自分の持つスタンド、キラークイーンのシアーハートアタックとて一見別のスタンドのようにも見えるが技のひとつに過ぎない。
それにしても特筆すべきなのは、遠隔自動操縦でありながら本体と同じような意思を持ち、得た情報を本体に送ることが出来る点。
情報を送るには一度、スタンドを解除しなければならないし、得た疲労は本体にも伝わる、だがそんなものは欠点とすらいえない。
攻撃を受けても煙となって消えるだけ、それによっても本体に情報を送ることが出来る。本体にダメージは伝わらない。会話も出来る。
破壊出来ないほどに頑丈ではあるが、熱でしか対象を識別することが出来ないシアーハートアタックと比べると格段に優れている。
こんなスタンドに遠距離から次々と攻められたら、どうしろと言うのか。
情報を本体に送ることで、相手のスタンド能力を知ることも出来る。
スタンド能力を知れば相手に対抗する手段はいくらでも出てくる。更には変化の術を併用すれば、どんな姿になることも出来る。分身では本体がダメージを受ける心配もない。
「チャクラ」で本体を強化することも出来るために、近距離戦闘も可能。これといった穴が見付からない。
……ひょっとして最強なんじゃないか、このスタンド。本体がアホでなければという限定はつくものの。
(大した奴だ……)
以前に似たスタンド使いを倒した上、無敵のスタンド、パイツァ・ダストを手に入れた吉良とて、戦慄することを隠せないスタンドだ。
それ以外の点でもどうやら様々な応用が利くところを見ると、正直、本当にスタンド能力なのか疑いたくなるぐらいだった。
スタンド名――チャクラ
本体――うずまきナルト
破壊力:B スピード:B 射程距離:B
持続力:D 精密動作性:A 成長性:?
能力――身に纏うことで本体の身体能力を向上させるスタンド。
スタンドを操作することで、己の分身を作り出したり、姿形を他のものに変化して見せることも可能。
分身は本体と同じ意思を持ち、個別に行動することが出来る。分身が消えれば、本体にその分身の得た経験が伝わる。
スタンドがダメージを受けても煙となって消えるだけで、本体にはそのダメージが伝わることはない。
……さて、色々脇に逸れたような気がするが、現在地はわかった。
ここからどう行動するかだが、はっきり言って吉良は人の集まる所に行くつもりは殆どなかった。
何故、わざわざ危険を冒してまでそんなことをしなければならないのか。危険を避けるために集団に入るのにそれでは本末転倒である。
確かに集団に属するには最初に潜り込まないといけない。これから先、恐らく殺し合いが始まっていくことだろう。
既に何人か死んでいるかもしれない。それが知れた時、グループの中で、後から入ってきた人間を疑う気持ちが生まれないはずもない。
『こんな奴ら信用出来るか! オレは一人で部屋に……』
まあ、こういったタイプなら何の問題もなく始末出来る。失踪したように見せ掛けることも簡単なので、都合が良いとさえ言える。
問題なのは、こちらから武器を取り上げようとしたり、疑心暗鬼に走ったあげく危害を加えようとする連中だ。
いくらスタンド能力があるからといって拳銃が恐ろしくないわけではない。本体はどこまでいっても人間だもの。
至近距離からの一発で簡単に死んでしまう。毒殺だって怖い。
……そのため、少しでも危険を減らすには最初の内から集団の中に潜り込んでおく必要がある。
さすがに多人数での集団同士の遭遇となれば、対等に話をすることも出来るだろう。……そうして信頼を増やしながら、少しずつ崩す。
これが理想的だ。
だが、集団となればその中で主導的な役割を果たそうとするものが生まれることになるだろう。
それがあくまで安全を優先する人物であればいい。勢いだけのバカに振り回されるなんてのは絶対に御免だ。
……そこまで言うなら自分でやればいいのでは、と考える者もいるかもしれない。だが、リーダーなんて注目される役はお断りである。
あくまで嫉まれず、そして馬鹿にされず平穏に生きていくのが人生目的である以上、それは譲れない。
これからもう暫く待てば、危険な中心部から離れようとする人間が、何人かは出てくるだろう。
そういった人間と合流して、そのうち誰かをリーダーに祭り上げる。危険を避けようとした人間なら、迂闊な真似はしないはずである。
ナルトのスタンドならそれを見逃すこともなく、安全な人間か確認することも出来る。
……これが最善だろうと思うのだが、待ちを良しとしないバカが、肝心の能力を持っている点が色々と台無しにしてくれる。
あげくの果てに地図に載っているA-1のモアイ像を見に行きたいとか言い出す始末だ。……どうも一緒に行きたいらしい。
火影の里という忍者の里には、歴代火影という里の長を勤めた人間の顔が彫り込まれている場所があるのだそうだ。
そのため、何か意味があるのではないかという発想に飛んだようだ。
……明らかに、どこかの国の影響を受けていることが分かる。……その火影の里の火影になるのが夢だと聞かされた。
こういう時、人は本当に無力であることを実感するのかもしれない。
……本来なら何か言わなければいけないのだが、言葉というものは探せば見付かるというものでもない。
ナルトがじっとこちらを見詰めてくる。
(ど、どうする……!?)
だが、救いは彼方から訪れる。
「……おっ、見付けたぜ。川尻のおっちゃん。あっちの方だ。名前は海馬瀬人だってさ。なんかスッゲ偉そうなヤツだった」
八方に飛んでもらっていたナルトの影分身のうちのひとつが誰かと接触したらしい。腕を振るうようにして、男のいる方角を指し示す。
勿論、このような事態を想定していないはずがない。
点けていた懐中電灯はすぐに消す。
ナルトのスタンドは便利だが、過剰な遭遇となってしまうのは非常に危険なのだ。
みすみす危険人物を勝手に連れて来られては堪ったものではない。まずは情報をこちらに伝えてもらうのが先決。
何度も執拗に言い付けていたことが功を奏したらしい。忘れないでくれていたことに心の底から安堵する。
……内容を聞くところによる高笑いを上げながら、木をへし折って歩き回っていたという。
……明らかに危険人物じゃないか。それでもワポルに対抗していると言っていたらしい。……わけがわからない。
植物の心のような生活を送ろうとしている吉良にとって、それで人を集めようとしていたと言われても、到底承伏できる話ではない。
その上、透明になることが出来る――恐らく近距離パワー型のスタンド使い――最悪も最悪だ。
そんな安心を脅かす最悪のスタンドがあっていいだろうか。
常にこの男が潜んでいないか、気を配っていなければいけなくなる。こんなものに存在されたら安心した生活が汚される。
「別に気配を読めば、大丈夫だって!」
などと、ナルトは気楽に言ってくれるが、気配を読むなんてことが漫画の世界でもないのに本当に出来ると思っているのだろうか。
確かに何かおかしいと、勘付く程度のことは誰にでもある。透明な人間でも歩けば足音ぐらいはするだろう。
しかし、それは集中していればの話。襲われている間も変わらずに精神を保ち続けるなど、余程の達人でなければ無理に決まってる。
普通の人間はスタンドに対抗出来ない。見えることも触れることも出来ないからだ。本体を狙う以外にはどうしようもない。
……スタンド使いにも、決して見えないスタンド。どれだけ驚異的なことか、更に衣類も含めて本体以外も透明化させることが可能。
例えば、透明にした拳銃からの銃弾を、音だけで躱せるような者がいるとでも言うのだろうか。そんなものは怪物の領域だ。
……だが、シアーハートアタックなら、透明でも熱を追跡して始末することが可能。予め知ることが出来て、実によかった。
何より相手は透明になることが出来る。突然、消え去ったとして何の違和感もない。
思わず高笑いを上げたい気分になる。これでまずは一人。どうやら運はこの吉良吉影に味方しているようだ。
こうやって一人ずつ消して、いずれ平穏な日常を取り戻すのである。が、そんなしい気分を盛大にぶち壊してくれる声が。
「……おっ、また見付けたぜ。川尻のおっちゃん。あっちの方だ。
今度は二人組だった。夜神月と加藤勝。月って奴が肩に怪我してたけど、Lってヤツに襲われたんだって。
で、大量殺人鬼のキラに気をつけろって……」
――キラークイーン。
あまりの展開に咄嗟に吉良はスタンドを出しかけたが、さり気ないポーズの姿勢をとったように見せ掛けることで、何とか誤魔化す。
……クールになれ。クールになるんだ。吉良吉影。
必死に心の中で自分に呼び掛けながら、冷静さを取り戻そうとする。
……いったい何の確証があってそんなことを言っているのだろうか。
この状況で「キラに気をつけろ」という言葉が飛び出す。
吉良の存在を知っているということは、承太郎の仲間。
しかし、ゲームの参加者の中に吉良がいると考えない限り、そんな発言が出来るはずもない。
かなり近付いているに違いないが、まだ承太郎たちにも誰が吉良かは掴めていない。そのはずなのだが、何故。
とりあえず、そいつらへの考察よりも重要なのはナルトがどこまでの話を知ったかだ。
事と次第によっては始末しなければ。こいつの能力は危険過ぎる。敵に回して確実に勝てる保証はない。
「それで彼らは、そのキラが……?」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
いつでも爆破できるようにそっと肩に手を置きながら、(まさか、これも分身だということはないだろうな)、先を促す。
「だから、そのLって奴がキラなんだってばよ!!」
……ピタ。
吉良は歯車の間に何かががっちりと挟まったような感覚に襲われる。
何を言っているのか分からずに、一瞬途方に暮れてしまった。キラがL。
既に能力もスタンドの姿までも承太郎たちに知れ渡っている。そこまでの知識があって、よりによって誰かと誤解出来るものだろうか。
夜神月と加藤勝と言ったが、父親からの情報ではそのような者達は承太郎の仲間にはいない。最近出来た仲間かと思ったのだが……。
まさか、全く別に自分を探ろうとしている人間がいたのだろうか。
どうする? ひょっとするとL=キラと考えているのは、夜神月と加藤勝の二人だけなのかもしれない。
……スタンド使いばかりが集められているとすれば、この場に空条承太郎が呼ばれていたとしておかしくはないはずだ。
どのような確証があって、そんな大それたことを言っているのかは知れないが、これはひょっとすると利用できるのかも。
しかし、Lの正体が分からなければ利用するも何もない。L、何かの隠語なのか。それともエルという名前なのか。
この吉良と同じ殺人鬼であることだけは間違いないようだが、……何者なのだろう。不気味としかいいようのない存在である。
さては……新手のスタンド使いかッ!?
とりあえず両方の情報は得た。ここからどうするかである。
……どちらも危険な可能性は高い。それならいっそのこと、お互いをまず遭遇させてしまったほうがいいだろうか。
上手くいけば相打ちとなってくれるだろうし、もしも安全だということが分かれば情報を得るために接触してやってもいい。
だが、問題はその案にナルトが賛同するかどうかという点だ。
影分身を使えるのはナルトだけ。つまり、ナルトが納得しない限りどんな案を考えつこうとあまり意味はない。
迂闊に近付くわけにもいかない以上、安全策は絶対に取らなければならない。
海馬にシアーハートアタックを使うつもりだったが、簡単に始末を出来るという保証はない。仕留められなければ、逃げようとする。
そこを月たちに見付かって、こちらに疑念をもたれても厄介である。
……さて、どうしたものか。
待っていてくれと伝えたようだが、あまり時間を掛ければそのうち不審に思ってくることだろう。
急がなければこちらの位置を相手に掴まれてしまうかもしれない。
殺人鬼、吉良吉影は自身の保身のためだけに思案し続けた。
何か無くしたものを探すように良い案が浮かばないか考えて、自然と周囲に目を向けていく。
と、そこに手持ち無沙汰にしているナルトが目に映る。ある支給品のことを思い出した。
ふっ、と顔を和らげると、それをディバックから取り出す。
「そうだ。まずはご苦労様だったね。
ちょうどいいものがあるんだった。ナルト君にこれを上げよう」
意外! それはお菓子!
吉良は箱からクッキーを一枚だけ取り出すと、さっと箱を閉じようとする。
しかし、それをみすみす見逃そうとするナルトではなかった。
「ガキの使いじゃねーんだってばよ。
……それにたったの一枚かよ。このケチッ!」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……
激しく火花散る視線の交錯。上と下という背丈の差は確かにある。
けれど、その眼差しに秘められた意思の強さに何の違いもあるはずもない。闘いとは常に譲れないものを持つ者同士の間で行われる。
……だが、ここで舐められてはいけないッ!
主導権があくまで、こちらにあることを絶対に理解させなければ。
一度に沢山望むのは贅沢な考えであることを徹底的に叩き込むッ!
最初が肝心なのだ。さもなければもっと付け上がるに決まっている。
別に決して卑しい理由でお菓子を惜しんでいるわけではない。これは人として当然の教育的指導というものなのである。
吉良の凄みとさえ呼べる気迫を前に、ナルトは渋々、折れることになった。
それでも交渉の結果、かろうじてもう一枚増やすことになったのは僥倖といっていいだろう。
さて、お互い一応の合意が出来たところで、吉良はナルトにお菓子を渡してやることにする。
「ナルトッ! こいつは取れるかッ! 手を使っちゃ駄目だぞ!」
……ちなみに、上は非常に悪い例である。
犬にフリスビーでも投げてやるように、お菓子をやるなど言語同断。
きちんと菓子屑が零れないように何かに包んでから渡さなければ、礼儀正しい人間に成長することは期待できない。
吉良は懐からハンカチを取り出すと、そっとクッキーを包んでからナルトに丁寧に手渡してやる。
「…………あ、あんがと。おっちゃん」
……もう少し、きちんとした感謝の仕方があるのではないか。そう言ってやりたいところだが、ぐっと堪える。
これは報酬である以上、あまり口うるさく言っても仕方あるまい。
何故、吉良はナルトにお菓子を与えようとしたのか。その訳は意外にあっさりとしたものである。
単にこちらの言うことを聞いて貰いやすいように友好関係を深めておこうとしただけだ。
……ほとんど犬猫の躾と同レベルである。だが、直球である分だけアホには、猫草と同じように効果的であるかもしれないのだ。
そして吉良は一枚だけ、自分の分として同じようにクッキーを取り出した。
実のところ吉良は、最初の時、あのまま箱を閉じようなんて思っていなかったのである。
食べないのか、と訊いてくるのを心の底では期待していたのだ。が、それはまったく無為に終わったことは、改めて説明するまでもない。
そうすれば、もう少しは奮発してやったかもしれないものを……。
無遠慮な子供の図々しい言動のために、当初の計画を歪めなければいけない無念さを胸に秘め、吉良はクッキーを寂しく見詰めていた。
同じものを食べる。それはお互いに信頼を深める行為に他ならない。
たとえば古典的な問いに、目玉焼きに何をかけて食べるか。というものがあるだろう。
醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、塩、コショウのみ。
どれほどに思い合った相手であっても、食の嗜好が違えば致命的な亀裂が入ってしまうことが、世の中にはあるのである。
……草食動物が肉食動物と仲良く暮らせるはずもない。
酒を飲み交わす。サラリーマン世界であろうと極道の世界であろうと、その意味するところはどちらも変わらない。
――お互いを同じ仲間だと認識させる。そのために吉良は敢えて、決して望んだ行為ではないが、クッキーを食べようとしていたのだ。
一口であっという間に食べてしまったナルトを横目にしながら、吉良は見せ付けるように、自分の持つ菓子の存在をまずはアピール。
その後は一口で食べず、噛み分けてゆっくりと味わう。まずいこともなかった。それほど、うんまァーいこともなかったが。
……大量生産のものである以上、まずまずといったところだろう。味の方は別に期待もしていなかった。
ところが、これで少しは友好関係が深まったかと思えば唖然とした様子で、ナルトはこちらを見てくる有様だ。
「なんだ? 私は一枚しか、食べていないぞ!」
吉良はきっぱりと自分の正義を標榜する。
恐らく、一人で何枚も食べようとしていると思ったに違いない。
大人である自分はたったの一枚で我慢してやろうとしているというのに、何て卑しい考え方をしているのだろうか。
大体、食べたいから食べてるわけではない。誰が得体の知れない奴から受け取ったものを好き好んで食べようと思う。
それを事もあろうに意地汚いように勝手に解釈するとは、何て食い意地のはった小僧なのか。こじつけも、そこまでいけば傑作だ。
そんなにも食べたいというのなら、存分に食わせてやろう。爆弾に変えて砕いてから耳に水で思い切り流し込んでやってもいい。
次第に物騒な発想に傾いていく吉良だが、あることに気付き一瞬で冷静さを取り戻す。向いている視線が、どうも奇妙なのである。
不満があるとすれば、顔よりも下を見るのはおかしなことではないだろうか。菓子箱を持つ手に注目しているようでもない。
確かに、嫌なことがあった子供は決して視線を合わせようとしないこともある。だが身体の一部を凝視するようなことはあるだろうか。
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
大地を駆け抜けるような音、心臓が激しく脈打つ。血は血管を巡り全身から汗が噴き出す。
突然、服が窮屈になる。
突然、全身が丸みを帯びてくる。
突然、胸のボタンを外したくなる。
何故だか知らないが、吉良はあの広瀬康一のスタンド「エコーズ」に左手を重くされた時のように胸に重みを感じていた。
……既に敵のスタンドの射程距離内にいて、攻撃されているのか?
しかし、あの時とは微妙に違う。この奇妙な感覚は新手のスタンド使いの攻撃と見て、間違いないだろう。
だが、焦ってキラークイーンを出すわけにもいかない。
もしかすると様子を窺い、スタンドの姿を確認しようとしている。……承太郎の仲間たちの仕業かもしれないのだ。
ギリギリの限界を見極める必要がある。まずは視線を下に向けよう。
ともかく何が起こったのかを確認しなくてはならない。まだ生命に関わるような攻撃は受けていないはずだ。
けれど何かで視界が遮られてしまっている。実に困った。これでは、何が起こったのか分からないではないか。
……いや、冷静になって考えてみればわかることだった。胸が盛り上がっている。これが原因で胸に重みを感じていただけのこと。
「な、なにィ――――――――ッ!?」
意外! それは突然の女体化!
「……川尻のおっちゃんも、おいろけの術、使えたのか?
ま、女の格好で驚かせるのもいいけどさ。オレにもやらせる気?
んー。ハーレムの術で歓迎ってのも、別にいいけどさぁ……」
ナルトの声など耳には入らない。
吉良はわなわなと手を震わせながら、その豊満な胸を掴み上げる。
「……ぁあっ」
男の身では余程の肥満体でもない限りは、胸の肉を揉みしだく経験など有り得ないだろう。
絞るようでありながら、身がほんのわずか軽くなる。不思議な体感に吉良は身悶えた。
……ずささっ。ナルトは思わず本能的に身を引いた。
無理もないと言える。
いかにお色気の術を使ったといえ、正体はおっさんである。それがいきなり目の前で胸を揉みながら変な声を上げれば仕方有るまい。
健全な青少年には目に耳に毒だった。気の毒とさえ言える。
……聞き慣れない女の声が、自分の声として内に響く。
吉良はわけのわからぬ異常過ぎる事態に思わず絶望し、いつもの癖で爪を噛もうとした。
見る人が見れば、その姿はある人物の、指をしゃぶる癖に似ていると見えたかもしれない。
ところがそんな絶望を止めてしまうような眼を疑う光景に襲われ、吉良は思わず我を忘れてしまう。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
吉良は叫びを上げた。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
吉良は叫びを上げた。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
吉良は叫びを上げた。
「こ、これはぁぁああああっっ!?」
……なんて美しい手なのだろう。
吉良は恍惚とした表情でその手を同じく美しい手で触れる。重ねる、その手のたおやかな自然な動作は見る者の眼を奪うに違いない。
真珠の如き、眩い輝きを秘めた爪は月の光を返して、なお天に届く程。
折り曲げた指、伸ばされる指、てのひらの皺、全てが美の調和を内に秘め、共に視界に入る光景を美しく艶やかな世界に形作っていく。
触れれば柔らかな手の温もりの感触が安心というものを、これでもかという勢いで、何と心地よく真摯に伝えてくることか。
もし、この手で口を塞がれでもしたら皆が呼吸を忘れることだろう。
――恐ろしいことに吉良は自分の手に見惚れているのだ。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……
……まあ、それはそれとして、そんな大声を上げてしまうと、近くに誰かがいた場合、どうなるのだろうか。
ついでに人を待たせていることをすっかり忘れているのもどうかと思う。
けれど、吉良がそれらに気付くには、まだ暫くの時間が必要となりそうだった。
【A‐1 森 / 一日目 黎明】
【海馬瀬人@遊戯王】
【装備】:ベレッタ(残弾数6/7)@現実 GANTZスーツ(ロワ仕様)@GANTZ
【所持品】:支給品一式×2 手榴弾×4 RPG@現実 不明支給品0~2
【状態】:健康
【思考・行動】
1:返り血を浴びないように小島の死体から首輪を手に入れる。そして首輪分析
2:ワポル打倒を目指す。ただし手段は選ばない。友情ごっこなんぞに興味はない
3:ナルトと川尻(吉良)と接触する?
※参戦時期はおそらく王国編以前だと思います
※小島多恵から色々と話を聞きました
【A-2 森 1日目 黎明】
【加藤勝@GANTZ】
【装備】:雪走@ONE PIECE
【所持品】:支給品一式 不明支給品0~2(本人確認済み)
【状態】:健康 Lへの怒り
【思考・行動】
1:島の中心部を目指す
2:GANTZに反抗し、ゲームを脱出する
3:月と一緒に、反抗者を探し仲間にする
4:月を信じる
5:襲撃者はできれば殺したくない
6:ナルトと川尻(吉良)と接触する?
※参戦時期は、おこりんぼ星人戦で死亡直後です
【夜神月@DEATH NOTE】
【装備】:スペツナズナイフ@現実 手榴弾@現実
【所持品】:支給品一式 手榴弾×4 不明支給品0~1
【状態】:健康 左肩に浅い切り傷
【思考・行動】
1:優勝して、主催の力を手に入れる
2:反抗者グループを作りマーダーを打倒、その後グループを壊滅させる
3:L=キラ、という悪評を広める
4:加藤は利用するだけ利用する
5:島の中心部を目指す
6:首輪と脳の中の爆弾を調べたい。
7:ナルトと川尻(吉良)と接触する?
※参戦時期は第1部終了直後です
【B-1 森の中/一日目 黎明】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 ホルモンクッキー×17@HUNTER×HUNTER 不明支給品0~2個(本人確認済み)
【状態】:健康 女性化
【思考・行動】
1:ナルトや他の人間を利用してゲームを生き残る。
2:海馬瀬人は安心を脅かすスタンド使い、始末したいが。
3:夜神月と加藤勝……まさか、承太郎の仲間か?
4:……それはともかくとして、なんて美しい手なんだろう。
※参加時期はバイツァ・ダストを身につけた直後です。
※スタンド使いが呼ばれていること、仲間らしき者がいることから承太郎も参加している可能性を考えました。
※ナルトには川尻浩作と名乗っています。
※L=キラ、危険人物だという情報を聞きました。
【うずまきナルト@NARUTO】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 不明支給品1~3個(本人確認済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:ゲームには乗らない
2:川尻浩作(吉良)と行動する
3:夜神月、加藤勝、海馬瀬人と合流したい
※参加時期は2部に入ってからです。
※海馬瀬人、夜神月と加藤勝、と簡単な情報交換をしました。
※L=キラ、危険人物だという情報を聞きました。
【ホルモンクッキー@HUNTER×HUNTER】
これを食べると24時間の制限付きで性別が変わります。
もう一枚食べれば、性別がまた変化します。一箱20枚いり。
|033:[[再会]]|[[投下順>本編(投下順)]]|035:[[業を負いし者]]|
|033:[[再会]]|[[時間順>本編(時間順)]]|036:[[えっちぃのは嫌いです]]|
|014:[[全速前進吸血鬼]]|海馬瀬人||
|028:[[神への道]]|夜神月||
|028:[[神への道]]|加藤勝||
|015:[[殺人鬼と忍者]]|うずまきナルト||
|015:[[殺人鬼と忍者]]|吉良吉影||
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