「谷間」(2008/08/06 (水) 02:35:34) の最新版変更点
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**谷間
「さて…どうしたもんかの」
真夜中に長い髪を靡かせているのは一人の女性。
その若さにそぐわぬジジイ口調の着物美人が、髪を撫でて考え込んでいた。
その流れるような髪色は銀。
悩ましい膨らみが押し上げる肌蹴た胸元は艶やかに月明かりに照らされ、整った顔立ちも色香が溢れんばかりだ。
まさに月下美人と言えるだろう。
統道学園三年、柔剣部部長。
棗真夜は思案していた。
(まさかタチの悪い"ドッキリ"ではあるまい…)
馬鹿な、と頭を振って下らない考えを振り払う。
ただの趣味の悪い冗談で、首から上を吹き飛ばされてたまるものか。
はっきりと見た、アレは真実。
この地獄のような遊戯も、また真実。
『殺し合いをしてもらう』…?ふざけているがやはり真実だ。
首にはまる、冷たい感触がその証拠。
あの獣のかぶりものをした男が、異能の者であることも把握できた。
刀剣類を食す人間など、常識では測れないことばかりだ。
「好戦的な輩に出会わぬことを望むばかりじゃな…」
歩き出しながら、取りあえずは支給品を確認することにする。
むろん、こんな下らない遊戯に付き合う気はさらさら無い。
しかし、自分以外全てが闘いを始める可能性もけして否定できないのだ。
そのため、自衛の手段があるに越したことはない。
体術の心得もあるが、やはり自分に合った獲物がいい。
特に日本刀のような武器を求めて、支給品の入った袋に手を突っ込んだ。
妹の亜夜や、部の宗一郎達は来ては居ないか、等と考えながら。
が、その思考は中断される。
「……!!」
中断は背後より出でた気配によるものだった。
振り向きざまに中に入っていた棒状の物を取り出す。
長めのそれは、紅色をしていた。
棍だろうか?
油断なく両手で構えなおした。
ここまで接近を許したのは、単に真夜が思案中だったからではない。
それ相応の使い手が現れた、ということだ。
好戦的な輩ではないか、と緊張が走る。
暗闇の中、相手の姿が目視できる距離になるまで近づいた。
「……」
「はろー」
気の抜けた挨拶を投げかけられた。
現れたのは老人だった。
「ご老人、そこで止まってくれ」
「ほいほい」
夜の闇に眼が慣れ、相手の姿の仔細が見えてきた。
ド派手なアロハシャツに身を包み、背中には何か背負っているように見えた。
表情は豊かな白髭と、今時の若者から見れば古風な大きめなサングラスに遮られ、窺い知れない。
両手を顔の横に上げているのは、おどけているようにも見える。
「……乗っていないのなら、こちらに荷物を投げてもらおうか」
「……ええのぉ」
「は?」
「ええのーーーーーーーーっ!!!」
むっちんむっちん。
ぷりんぷりん。
ド外れたピチピチギャルを目の前にして、獣の箍は外れていた。
老人の赤ら顔が一瞬で接近する。
その思いもがけない速度に真夜は不意を突かれた。
一瞬で回りこまれ、気づいた瞬間には太股に縋り付かれ頬擦りをされていた。
「なっ!?」
「ええのー、ピチピチじゃのぉぉぉーーー!」
「こ、このっ」
振り払おうとするが、この老人、存外力が強く離れない。
ならば、と手の棍で振り払うと、脚にかかった重みが瞬時に消失する。
「な…!?」
「プリプリじゃのぉぉぉーー!!!」
「ぬおっ!?」
尻を撫でられていた。
はしたない声が出てしまうが、当然の反応ではある。
得体の知れない老人にセクハラを受ければ無理も無いだろう。
だが真夜とて、ただの女子高生ではないのである。
こうも容易く背後を取られるとは、この老人は只者ではないのではと考える。
油断なく、振り返り身構えたものの、そこに姿は無い。
そして背後から、声がかかった。
「お嬢さん」
「…?」
振り向けば、先程までとは打って変わって真剣な表情だ。
落ち着かない様子はどこへやら、水を打ったように静かだ。
こちらに飛び込んでくる様子も無い。
「あんたに、頼みがあるのじゃよ」
「……何が、目的じゃ?」
「その…あの…」
「?」
「ちょっとだけ…ぱ…ぱぱ…『ぱふぱふ』させてもらえんかの…?」
赤ら顔に棍が叩きつけられた。
「……つまり、こういう事かの?『わしの身体を見ていてもたってもいられんようになった』」
「すまんのー」
「たわけ…そもそもなんじゃ、『ぱふぱふ』とは」
語感から淫猥な予感を感じ取って防衛本能が反応したが、具体的な行為は不明だ。
もっとも、あの伸びきった鼻の下を考えれば良い返答は期待できなかったが。
「むふふふふ…こう…おっぱいとおっぱいの間にカオをはさんで…」
「むんっ」
やっぱりそれなりに卑猥な行動であって、実行に移そうとした老人の額を棍でどつく。
無礼な行動ではあろうがこちらも相応のことをやられた、余すとこなくやられたのだ。
これ以上されてはたまったものではない。
「ほんのご挨拶じゃよー…お嬢さん、名前はなんじゃい?」
「はぁ……まぁ、戦意が無いのならヨシとするか…棗 真夜じゃ」
「マヤちゃんか、よろしくのう…わしの名は『武天老師』じゃよー」
目の前の老人の名乗った名称に、真夜は少々呆気に取られた。
この老人、老師と呼ばれるほど徳の高い人物なのかと疑問が湧いて出たのだ。
だが、よくよく思い直してみればあの動きは常人の成す技では無い。
やはり、只者では無かったのだろうか。
「…でも皆には『亀仙人』で通っとるよ。亀ちゃんとでも呼んでちょ」
「…老師、そろそろ本題に移らせてもらうぞ」
「んもー、つれない娘っコじゃのう…あだだ」
さり気なく尻に伸びる手は、やはり常人の成す技では無かった。
でも、やっぱりただのスケベじじいかもしれない。
ともかく、右も左も解らぬ者同士としてひとまず同行することとなった。
身の危険は少なからず感じているが。
「よいかの?わかってはいると思うが我々には情報が必要と思うんじゃ」
「うむ」
「ここは人の集まる場へ行って、他の参加者からの情報を得るのはどうかと思うのじゃが、どう思う?」
「うむ」
「聞いておるのか?」
「うむ」
「…年齢はいくつじゃ?」
「うむ」
「うりゃっ」
視線がどうも胸に固定されていたようなので再び棍でどついた。
余裕なのだろうか、それともボケているのだろうか。
真夜は不安になった。
「とほほ…もう少し老人をいたわってほしいわい…」
「安心せい老師…十分盛っとるよ…………あ。そうか」
真夜は頭を掻きながら、一人物陰へと歩き出した。
亀仙人がその後をついていこうとするも、手で制される。
「少々、待ってていただきたい」
「む?」
「野暮用じゃ。詮索無用」
そう言い残し、真夜は物陰の方へ駆けていった。
「オシッコかの…」
その場に残された亀仙人は、真夜が聞いていたらどつかれるであろう事を呟いた。
だが、それだけでは収まらないのが亀仙人という人物だ。
「むふふふ…」
以前、天才発明家ブルマの発明品を利用してトイレを覗こうとしたほどの筋金入りスケベなのだ。
前例に漏れず、こっそり真夜の後についていった。
「そーっと、そーっと…」
「何がそーっとじゃ」
音を立てないように近づいた亀仙人の背後から声をかけたのは、銀の長髪に着物を着込んだ『少女』であった。
「のう、マヤちゃん」
「なんじゃ」
二人は今、地図で確認した一番近い町の方角である西に向け、歩みを進めている。
亀仙人はどこか沈んだ様子であった。
「もとの、ピチピチギャルに戻らんか?」
「こっちの方がいろいろと都合がいいんじゃ」
大して真夜は、どこかニンマリとした顔で亀仙人の後についている。
先程隠れたのは、用足しなどではない。
『身体操術』と言う技法で彼女のもう一つの姿である幼女形態に変形したのだ。
『気』の発散が抑えられる上、老人と子どもというこのコンビならば相手にそう警戒を与えるわけでも無いと踏んだからだ。
そして何より重要なのは、亀仙人は幼女は守備範囲外だということだ。
真夜は執拗なセクハラから開放されたというわけである。
亀仙人のほうも、多少は驚いたらしい。
彼は口からガムを吐き出す恐竜や満月を見ると人間になる狼といった、常識外れの生物を知っていた。
だが、変身する美女などこの世にランチさんくらいしかいないと思っていたらしく、その衝撃は大きかったようだ。
おまけに眼の保養が出来なくなってしょんぼりしている。
「あんまりじゃ…老いぼれの楽しみを奪わんといて…ゴホ、ゴホ」
「クヨクヨするな老師、きびきび歩くんじゃ」
とぼとぼ歩く亀仙人の背の甲羅を、後ろから『如意棒』でつつく。
亀仙人にこれを見せたところ、彼の弟子の持ち物だと言うのだ。
真夜はそれならば、と彼にこれを預けようとしたが、亀仙人は断った。
『紳士は女性から武器を取り上げるような真似はしない』らしい。
それに彼は生粋の武術家、その身一つで戦えるからとのことだった。
これには素直に感謝の意を表し、真夜もありがたく如意棒を持たせてもらうことにした。
何でも自由自在に伸縮する武器だそうで、これは様々な用途に活用できそうである。
そのまま数分歩いたところで、そういえば自分らの支給品を把握していないことに気がついた。
先程は咄嗟に取り出した如意棒しか確認していなかったし、亀仙人は出会ったときに何も所持していなかった。
彼には何が支給されたのかを聞こうとしたときだ。
前を歩いていた亀仙人が、歩みを唐突に止めた。
「む、どうしたんじゃ老師」
「耳をすませるんじゃ、マヤ。何か、聞こえんか……」
亀仙人の表情が、引き締まる。
真夜も耳を済ませてみれば、なるほど確かになにやら聞こえる。
なにやらくぐもった声が断続的に叫び声を上げているようだった。
「ふぎ!…うう、ふんぎぎぎぎぎ!」
「…ほら、聞こえるじゃろう?」
二人が声のする方角に警戒しつつ向かうと、そこにはなんとも奇妙な光景が広がっていた。
声の主は、わら帽子の少年だ。
顔を歪めて、声を上げている。
問題なのはその『状況』であった。
岩山の麓には、大きな岩がいくつも転がり、積重なっている。
その中でもひときわ重そうな大岩二つの間に、その少年はみっちりと挟まっているのだ。
よく見ればその身体がぐにゃりと変形しているようにも見える。
一体全体どうやったらその状況に行き当たるのか、真夜と亀仙人は呆然とした。
「あっ!おーい!うおーい!」
「こちらに気づいたか」
「…助けた方がいいかの?」
苦しそうにくねくねともがいている様は確かに気の毒だ。
二人は、麦わらの少年を引っ張り出すことにした。
「上からはまったようじゃな…一体どうしたんじゃ、おぬし」
「いやー助かった!おれ気づいたら岩山の上にいて、建物が見えたからそっちの方へ行こうと飛び降りたんだ」
「それでこの隙間にはまり込んだというわけか…破天荒な奴じゃ」
大きめの岩の上によじ登り、亀仙人は少年に向かって手を伸ばす。
しかし、隙間は思いのほか深く、あとわずかで届かない。
中に入って岩をどかそうにも、中心の少年はぎっちりと挟み込まれていて自由が取れないほど狭いためそれも無理そうだった。
亀仙人は、真夜から如意棒を受け取り、隙間の少年に差し伸べる。
「おい小僧、この棒につかまるんじゃ」
「お、ありがとうじいさん!頼む、ひっぱってくれー!」
「挟まれてるというに元気じゃの…」
亀仙人が棒を引っ張ると、その先端を少年の手が握っている。
すかさず真夜がその腕を掴み、亀仙人も如意棒を置いて彼の手を握った。
そして、腰を入れて引っ張る。
「……なんじゃこれは」
「引っ張れども腕しか見えん…おぬし、どれだけ腕が長いんじゃ」
「あ、悪ィ!おれゴムだから」
説明になっていない、と頭を抱える真夜。
自分以上に変形する人間を初めて見て、困惑気味であった。
確かに目の前でびよんびよん変形する腕を見れば、それはゴムとしか形容しようがない。
だが今はそんなことよりも、引っ張っても引っ張っても伸びるだけということが問題だった。
「ダメだー!ぜんぜん抜けねー!」
「だらしなく伸びるな!!伸びるばかりじゃぞ!」
「ふんぬっ!ぬおおっ!」
亀仙人がぎっくり腰寸前まで腰を反らして引っ張るも、やはり腕がびよんびよんと伸びるだけであった。
いっこうに抜ける気配は無い。
「なーんか伸びるだけで抜ける気がしねえよ」
「おぬし、やる気あるのかっ!!」
「ぬおおおおおーーーーっ!」
亀仙人が顔を真っ赤にしつつ思い切り腕を引っ張ると、岩の隙間からずず、と音が聞こえた。
次の瞬間、ロケットのように少年が飛んでいく。
「ぬけたーーーーーっ!!」
そして夜空に叫んだ少年は、まっさかさまに大地へと堕ち、突き刺さった。
「いやーー助かった!!おれはルフィ!よろしくな!」
頭から突き刺さったために泥まみれの少年は高らかに笑った。
苦労して引っ張り出したとたん、大笑いしながら感謝の言葉を述べる少年に、いささか真夜は疲れた様子である。
「わしは武天老師、またの名は亀仙人じゃよー」
「…棗 真夜じゃ」
まあ、この態度ではゲームに乗っているとは考えづらい。
ひとまず名乗り、、情報交換といくことにした。
「いやーホント助かった!命の恩人だお前ら!ありがとう」
「ほっほっほ、大したことはしとらんよ」
「老師、汗を拭いたほうがよいぞ……さて小僧。お前には聞きたいことが山ほどあるな」
「ん?なんだ?」
きょとんとした目の前の少年に、最初から思っていた疑念をぶつける。
「なんでゴムなんじゃ」
「おれは小さい頃ゴムゴムの実を食った…ゴム人間だ!」
「…さっぱりわからん」
その後、要領を得ない会話の中からかろうじて得た情報は、彼が海賊であること。
『ゴムゴムの実』とは悪魔の実という果実の一種で、食すと特殊能力が使えるらしい。
その代償として一生泳げなくなるそうで、彼も礼によってカナヅチだとか。
しかし、思わぬ情報を彼は口にする。
「あの『邪魔口』またおれらの邪魔しに来たのかな…しつこいなーあいつ」
「…?それは誰のことなんじゃ」
「あいつだ、あのカバ男!おれ、あいつ知ってんだ!」
「まことか!?」
思わぬ情報を得た真夜、亀仙人。
一体このルフィという少年、どれほどの情報を持っているのか。
目の前のこの少年はバトル・ロワイアルを揺るがすほどの力を、持っているのかもだろうか。
【F-5 岩山の麓/一日目 深夜】
【棗真夜@天上天下】
【装備】:如意棒@DRAGON BALL
【所持品】:支給品一式、不明支給品本人未確認0~2?
【状態】:健康
【思考・行動】
1:ルフィから情報を得る。
2:人の集まる所へ行く。
3:妹や仲間が来ていないか気になる。
【武天老師(亀仙人)@DRAGON BALL】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品本人未確認
【状態】:健康
【思考・行動】
1:ルフィから情報を得る。
2:ひとまず真夜と行動を共にする。
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品本人未確認
【状態】:健康
【思考・行動】
1:目の前の二人と話をする。
2:仲間を探す。
|006:[[はじまり]]|CENTER:[[投下順>本編(投下順)]]|008:[[1/2の扉]]|
|006:[[はじまり]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|008:[[1/2の扉]]|
|&color(skyblue){初登場}|モンキー・D・ルフィ|027:[[二人の武道]]|
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|&color(skyblue){初登場}|棗真夜|027:[[二人の武道]]|
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**谷間
「さて…どうしたもんかの」
真夜中に長い髪を靡かせているのは一人の女性。
その若さにそぐわぬジジイ口調の着物美人が、髪を撫でて考え込んでいた。
その流れるような髪色は銀。
悩ましい膨らみが押し上げる肌蹴た胸元は艶やかに月明かりに照らされ、整った顔立ちも色香が溢れんばかりだ。
まさに月下美人と言えるだろう。
統道学園三年、柔剣部部長。
棗真夜は思案していた。
(まさかタチの悪い"ドッキリ"ではあるまい…)
馬鹿な、と頭を振って下らない考えを振り払う。
ただの趣味の悪い冗談で、首から上を吹き飛ばされてたまるものか。
はっきりと見た、アレは真実。
この地獄のような遊戯も、また真実。
『殺し合いをしてもらう』…?ふざけているがやはり真実だ。
首にはまる、冷たい感触がその証拠。
あの獣のかぶりものをした男が、異能の者であることも把握できた。
刀剣類を食す人間など、常識では測れないことばかりだ。
「好戦的な輩に出会わぬことを望むばかりじゃな…」
歩き出しながら、取りあえずは支給品を確認することにする。
むろん、こんな下らない遊戯に付き合う気はさらさら無い。
しかし、自分以外全てが闘いを始める可能性もけして否定できないのだ。
そのため、自衛の手段があるに越したことはない。
体術の心得もあるが、やはり自分に合った獲物がいい。
特に日本刀のような武器を求めて、支給品の入った袋に手を突っ込んだ。
妹の亜夜や、部の宗一郎達は来ては居ないか、等と考えながら。
が、その思考は中断される。
「……!!」
中断は背後より出でた気配によるものだった。
振り向きざまに中に入っていた棒状の物を取り出す。
長めのそれは、紅色をしていた。
棍だろうか?
油断なく両手で構えなおした。
ここまで接近を許したのは、単に真夜が思案中だったからではない。
それ相応の使い手が現れた、ということだ。
好戦的な輩ではないか、と緊張が走る。
暗闇の中、相手の姿が目視できる距離になるまで近づいた。
「……」
「はろー」
気の抜けた挨拶を投げかけられた。
現れたのは老人だった。
「ご老人、そこで止まってくれ」
「ほいほい」
夜の闇に眼が慣れ、相手の姿の仔細が見えてきた。
ド派手なアロハシャツに身を包み、背中には何か背負っているように見えた。
表情は豊かな白髭と、今時の若者から見れば古風な大きめなサングラスに遮られ、窺い知れない。
両手を顔の横に上げているのは、おどけているようにも見える。
「……乗っていないのなら、こちらに荷物を投げてもらおうか」
「……ええのぉ」
「は?」
「ええのーーーーーーーーっ!!!」
むっちんむっちん。
ぷりんぷりん。
ド外れたピチピチギャルを目の前にして、獣の箍は外れていた。
老人の赤ら顔が一瞬で接近する。
その思いもがけない速度に真夜は不意を突かれた。
一瞬で回りこまれ、気づいた瞬間には太股に縋り付かれ頬擦りをされていた。
「なっ!?」
「ええのー、ピチピチじゃのぉぉぉーーー!」
「こ、このっ」
振り払おうとするが、この老人、存外力が強く離れない。
ならば、と手の棍で振り払うと、脚にかかった重みが瞬時に消失する。
「な…!?」
「プリプリじゃのぉぉぉーー!!!」
「ぬおっ!?」
尻を撫でられていた。
はしたない声が出てしまうが、当然の反応ではある。
得体の知れない老人にセクハラを受ければ無理も無いだろう。
だが真夜とて、ただの女子高生ではないのである。
こうも容易く背後を取られるとは、この老人は只者ではないのではと考える。
油断なく、振り返り身構えたものの、そこに姿は無い。
そして背後から、声がかかった。
「お嬢さん」
「…?」
振り向けば、先程までとは打って変わって真剣な表情だ。
落ち着かない様子はどこへやら、水を打ったように静かだ。
こちらに飛び込んでくる様子も無い。
「あんたに、頼みがあるのじゃよ」
「……何が、目的じゃ?」
「その…あの…」
「?」
「ちょっとだけ…ぱ…ぱぱ…『ぱふぱふ』させてもらえんかの…?」
赤ら顔に棍が叩きつけられた。
「……つまり、こういう事かの?『わしの身体を見ていてもたってもいられんようになった』」
「すまんのー」
「たわけ…そもそもなんじゃ、『ぱふぱふ』とは」
語感から淫猥な予感を感じ取って防衛本能が反応したが、具体的な行為は不明だ。
もっとも、あの伸びきった鼻の下を考えれば良い返答は期待できなかったが。
「むふふふふ…こう…おっぱいとおっぱいの間にカオをはさんで…」
「むんっ」
やっぱりそれなりに卑猥な行動であって、実行に移そうとした老人の額を棍でどつく。
無礼な行動ではあろうがこちらも相応のことをやられた、余すとこなくやられたのだ。
これ以上されてはたまったものではない。
「ほんのご挨拶じゃよー…お嬢さん、名前はなんじゃい?」
「はぁ……まぁ、戦意が無いのならヨシとするか…棗 真夜じゃ」
「マヤちゃんか、よろしくのう…わしの名は『武天老師』じゃよー」
目の前の老人の名乗った名称に、真夜は少々呆気に取られた。
この老人、老師と呼ばれるほど徳の高い人物なのかと疑問が湧いて出たのだ。
だが、よくよく思い直してみればあの動きは常人の成す技では無い。
やはり、只者では無かったのだろうか。
「…でも皆には『亀仙人』で通っとるよ。亀ちゃんとでも呼んでちょ」
「…老師、そろそろ本題に移らせてもらうぞ」
「んもー、つれない娘っコじゃのう…あだだ」
さり気なく尻に伸びる手は、やはり常人の成す技では無かった。
でも、やっぱりただのスケベじじいかもしれない。
ともかく、右も左も解らぬ者同士としてひとまず同行することとなった。
身の危険は少なからず感じているが。
「よいかの?わかってはいると思うが我々には情報が必要と思うんじゃ」
「うむ」
「ここは人の集まる場へ行って、他の参加者からの情報を得るのはどうかと思うのじゃが、どう思う?」
「うむ」
「聞いておるのか?」
「うむ」
「…年齢はいくつじゃ?」
「うむ」
「うりゃっ」
視線がどうも胸に固定されていたようなので再び棍でどついた。
余裕なのだろうか、それともボケているのだろうか。
真夜は不安になった。
「とほほ…もう少し老人をいたわってほしいわい…」
「安心せい老師…十分盛っとるよ…………あ。そうか」
真夜は頭を掻きながら、一人物陰へと歩き出した。
亀仙人がその後をついていこうとするも、手で制される。
「少々、待ってていただきたい」
「む?」
「野暮用じゃ。詮索無用」
そう言い残し、真夜は物陰の方へ駆けていった。
「オシッコかの…」
その場に残された亀仙人は、真夜が聞いていたらどつかれるであろう事を呟いた。
だが、それだけでは収まらないのが亀仙人という人物だ。
「むふふふ…」
以前、天才発明家ブルマの発明品を利用してトイレを覗こうとしたほどの筋金入りスケベなのだ。
前例に漏れず、こっそり真夜の後についていった。
「そーっと、そーっと…」
「何がそーっとじゃ」
音を立てないように近づいた亀仙人の背後から声をかけたのは、銀の長髪に着物を着込んだ『少女』であった。
「のう、マヤちゃん」
「なんじゃ」
二人は今、地図で確認した一番近い町の方角である西に向け、歩みを進めている。
亀仙人はどこか沈んだ様子であった。
「もとの、ピチピチギャルに戻らんか?」
「こっちの方がいろいろと都合がいいんじゃ」
大して真夜は、どこかニンマリとした顔で亀仙人の後についている。
先程隠れたのは、用足しなどではない。
『身体操術』と言う技法で彼女のもう一つの姿である幼女形態に変形したのだ。
『気』の発散が抑えられる上、老人と子どもというこのコンビならば相手にそう警戒を与えるわけでも無いと踏んだからだ。
そして何より重要なのは、亀仙人は幼女は守備範囲外だということだ。
真夜は執拗なセクハラから開放されたというわけである。
亀仙人のほうも、多少は驚いたらしい。
彼は口からガムを吐き出す恐竜や満月を見ると人間になる狼といった、常識外れの生物を知っていた。
だが、変身する美女などこの世にランチさんくらいしかいないと思っていたらしく、その衝撃は大きかったようだ。
おまけに眼の保養が出来なくなってしょんぼりしている。
「あんまりじゃ…老いぼれの楽しみを奪わんといて…ゴホ、ゴホ」
「クヨクヨするな老師、きびきび歩くんじゃ」
とぼとぼ歩く亀仙人の背の甲羅を、後ろから『如意棒』でつつく。
亀仙人にこれを見せたところ、彼の弟子の持ち物だと言うのだ。
真夜はそれならば、と彼にこれを預けようとしたが、亀仙人は断った。
『紳士は女性から武器を取り上げるような真似はしない』らしい。
それに彼は生粋の武術家、その身一つで戦えるからとのことだった。
これには素直に感謝の意を表し、真夜もありがたく如意棒を持たせてもらうことにした。
何でも自由自在に伸縮する武器だそうで、これは様々な用途に活用できそうである。
そのまま数分歩いたところで、そういえば自分らの支給品を把握していないことに気がついた。
先程は咄嗟に取り出した如意棒しか確認していなかったし、亀仙人は出会ったときに何も所持していなかった。
彼には何が支給されたのかを聞こうとしたときだ。
前を歩いていた亀仙人が、歩みを唐突に止めた。
「む、どうしたんじゃ老師」
「耳をすませるんじゃ、マヤ。何か、聞こえんか……」
亀仙人の表情が、引き締まる。
真夜も耳を済ませてみれば、なるほど確かになにやら聞こえる。
なにやらくぐもった声が断続的に叫び声を上げているようだった。
「ふぎ!…うう、ふんぎぎぎぎぎ!」
「…ほら、聞こえるじゃろう?」
二人が声のする方角に警戒しつつ向かうと、そこにはなんとも奇妙な光景が広がっていた。
声の主は、わら帽子の少年だ。
顔を歪めて、声を上げている。
問題なのはその『状況』であった。
岩山の麓には、大きな岩がいくつも転がり、積重なっている。
その中でもひときわ重そうな大岩二つの間に、その少年はみっちりと挟まっているのだ。
よく見ればその身体がぐにゃりと変形しているようにも見える。
一体全体どうやったらその状況に行き当たるのか、真夜と亀仙人は呆然とした。
「あっ!おーい!うおーい!」
「こちらに気づいたか」
「…助けた方がいいかの?」
苦しそうにくねくねともがいている様は確かに気の毒だ。
二人は、麦わらの少年を引っ張り出すことにした。
「上からはまったようじゃな…一体どうしたんじゃ、おぬし」
「いやー助かった!おれ気づいたら岩山の上にいて、建物が見えたからそっちの方へ行こうと飛び降りたんだ」
「それでこの隙間にはまり込んだというわけか…破天荒な奴じゃ」
大きめの岩の上によじ登り、亀仙人は少年に向かって手を伸ばす。
しかし、隙間は思いのほか深く、あとわずかで届かない。
中に入って岩をどかそうにも、中心の少年はぎっちりと挟み込まれていて自由が取れないほど狭いためそれも無理そうだった。
亀仙人は、真夜から如意棒を受け取り、隙間の少年に差し伸べる。
「おい小僧、この棒につかまるんじゃ」
「お、ありがとうじいさん!頼む、ひっぱってくれー!」
「挟まれてるというに元気じゃの…」
亀仙人が棒を引っ張ると、その先端を少年の手が握っている。
すかさず真夜がその腕を掴み、亀仙人も如意棒を置いて彼の手を握った。
そして、腰を入れて引っ張る。
「……なんじゃこれは」
「引っ張れども腕しか見えん…おぬし、どれだけ腕が長いんじゃ」
「あ、悪ィ!おれゴムだから」
説明になっていない、と頭を抱える真夜。
自分以上に変形する人間を初めて見て、困惑気味であった。
確かに目の前でびよんびよん変形する腕を見れば、それはゴムとしか形容しようがない。
だが今はそんなことよりも、引っ張っても引っ張っても伸びるだけということが問題だった。
「ダメだー!ぜんぜん抜けねー!」
「だらしなく伸びるな!!伸びるばかりじゃぞ!」
「ふんぬっ!ぬおおっ!」
亀仙人がぎっくり腰寸前まで腰を反らして引っ張るも、やはり腕がびよんびよんと伸びるだけであった。
いっこうに抜ける気配は無い。
「なーんか伸びるだけで抜ける気がしねえよ」
「おぬし、やる気あるのかっ!!」
「ぬおおおおおーーーーっ!」
亀仙人が顔を真っ赤にしつつ思い切り腕を引っ張ると、岩の隙間からずず、と音が聞こえた。
次の瞬間、ロケットのように少年が飛んでいく。
「ぬけたーーーーーっ!!」
そして夜空に叫んだ少年は、まっさかさまに大地へと堕ち、突き刺さった。
「いやーー助かった!!おれはルフィ!よろしくな!」
頭から突き刺さったために泥まみれの少年は高らかに笑った。
苦労して引っ張り出したとたん、大笑いしながら感謝の言葉を述べる少年に、いささか真夜は疲れた様子である。
「わしは武天老師、またの名は亀仙人じゃよー」
「…棗 真夜じゃ」
まあ、この態度ではゲームに乗っているとは考えづらい。
ひとまず名乗り、、情報交換といくことにした。
「いやーホント助かった!命の恩人だお前ら!ありがとう」
「ほっほっほ、大したことはしとらんよ」
「老師、汗を拭いたほうがよいぞ……さて小僧。お前には聞きたいことが山ほどあるな」
「ん?なんだ?」
きょとんとした目の前の少年に、最初から思っていた疑念をぶつける。
「なんでゴムなんじゃ」
「おれは小さい頃ゴムゴムの実を食った…ゴム人間だ!」
「…さっぱりわからん」
その後、要領を得ない会話の中からかろうじて得た情報は、彼が海賊であること。
『ゴムゴムの実』とは悪魔の実という果実の一種で、食すと特殊能力が使えるらしい。
その代償として一生泳げなくなるそうで、彼も礼によってカナヅチだとか。
しかし、思わぬ情報を彼は口にする。
「あの『邪魔口』またおれらの邪魔しに来たのかな…しつこいなーあいつ」
「…?それは誰のことなんじゃ」
「あいつだ、あのカバ男!おれ、あいつ知ってんだ!」
「まことか!?」
思わぬ情報を得た真夜、亀仙人。
一体このルフィという少年、どれほどの情報を持っているのか。
目の前のこの少年はバトル・ロワイアルを揺るがすほどの力を、持っているのかもだろうか。
【F-5 岩山の麓/一日目 深夜】
【棗真夜@天上天下】
【装備】:如意棒@DRAGON BALL
【所持品】:支給品一式、不明支給品本人未確認0~2?
【状態】:健康
【思考・行動】
1:ルフィから情報を得る。
2:人の集まる所へ行く。
3:妹や仲間が来ていないか気になる。
【武天老師(亀仙人)@DRAGON BALL】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品本人未確認
【状態】:健康
【思考・行動】
1:ルフィから情報を得る。
2:ひとまず真夜と行動を共にする。
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品本人未確認
【状態】:健康
【思考・行動】
1:目の前の二人と話をする。
2:仲間を探す。
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|006:[[はじまり]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|008:[[1/2の扉]]|
|&color(skyblue){初登場}|モンキー・D・ルフィ|027:[[二人の武道]]|
|&color(skyblue){初登場}|武天老師(亀仙人)|027:[[二人の武道]]|
|&color(skyblue){初登場}|棗真夜|027:[[二人の武道]]|
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