「1/2の扉」(2008/08/06 (水) 02:36:13) の最新版変更点
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**1/2の扉
ルン・エルシ・ジュエリアは城のある一室に置かれた、ベッドの上に腰掛けていた。
淡い色彩の髪を手で弄んでぼんやりと思考する。
暗い室内の中には怪しげな薬品や書物が所狭しと置かれている。
けれど、不思議と嫌な感じはしない。どこか人を落ち着かせる雰囲気に満ちていた。
さすがに髑髏をあしらった調度品は趣味がいいとは思えなかったが。
……地球に来てどれだけの月日が過ぎただろう?
メモルゼ星の王族である自分が何だって辺境の地球になどに来ることになったのか。
最初はレンの身勝手な行動に腹を立ていたものの、好きな人も出来た。
ララがいることを除けばそれほど悪くない日々が続いている。
アイドルとして活躍をしたり、ちゃんと地球に馴染んできていると思った矢先にこの仕打ち。
後悔、とまではいかないもののそれに近い感情が一瞬、湧き起こる。
(おまけにララもいたし、リトくんまで……)
まさか、よりによって自分が犯罪に巻き込まれることになるなんて思ってもみなかった。
(……いくら辺境だからって、あんなヤツが王様?)
ドラム王国、国王ワポルなんて名は今まで一度も聞いた覚えがない。
少なくとも、自分の星と交流を持っているような国でないことだけは確かだ。
そんな知らない田舎者が叶えられる願いなど、合法、非合法な手段を含めて大したものだとは到底思えない。
そもそも叶える気があること自体、疑わしい。
(……まぁ、ちょっとだけなら期待をしないこともなかったけど)
しかし、それも殺し合いをしろと言い出される直前までのこと。
――誰があんな死体を見せられて、同じことを出来ると思えるのか。
室内に転送されてきてから、ルンは未だに一歩たりとも動くことが出来ないでいる。
ディバックは足下に置かれたまま、中身を確認することもしない。
まるで、それは得体の知れない生き物の内部を探るような、悪趣味な行為に思えてならなかったから。
(……嫌)
嫌悪感が先に立ち、意味としてまとまりをもたないとりとめのない思考が続く。
動かねばとは思うものの、どう動けばいいのか、何をすればいいかが分からない。
自分が何もしなければ何も起こることもないのではないか。そんな下らないことまで考えてしまう始末だった。
(私、会いたいのかな? ……リトくん)
出会えたところで彼が助けてくれるとでもいうのだろうか。
彼はスーパーヒーローでも何でもない。平凡な地球人だ。
会えて嬉しいだろうか? 殺し合いが今まさに起こるような場所で、本当に彼と出会えて嬉しいだろうか?
(もっと、素敵な場所だったらいいのに……)
それはロマンチックな想像。
けれど現実は非情で、そんな乙女心を理解してくれないようである。
「はぁ……」
遂に溜め息をつくとルンは、そのままベットに横になってしまった。
もう好きにして、とでも言わんばかりのまな板の鯉状態である。
もし、マーダーがこんな美味しい状況を見て襲いかからなかったら、それはマーダー失格と言っていいだろう。
――勿論、異論があることは認めます。
(……どうしたものかな?)
こつん、と足でディバックを蹴ってみる。
結局、嫌でも中身を見なければ今後の対策の取りようがないのかもしれない。
あの男の言いなりに行動するのは不愉快だったが、自衛のためにも武器は必要なのだろう。
(……でも、なるべく使いたくないのよね)
他の人間もどうかそう思ってくれていることを祈りたいものだ。
そんなこんなでも、とりあえずはディバックを調べる覚悟を決めた、その時。
ざくっ、ざくっ。……部屋の外から何か物音が聞こえてきた。
その音は段々とこちらに向かっているように大きくなってきている。
「……っ!」
予想外の展開に驚き、ルンは目を見開く。
……本来ならこの程度のことは予想して然るべきなのだが、こんな最悪の展開をルンは予想したくはなかった。
一転して、緊張に身を包まれる。
ジッパーを開いて武器を取り出せば、物音を立て相手に気付かれてしまう可能性がある。
気付かれるかもしれない危険を冒してまで、そうする必要があるのだろうか?
まだ、この部屋に誰かがいることは分かっていないはず。そのまま通り過ぎてくれることも考えられる。
しかし、もし部屋に入ってこられた場合、武器を構える暇はない。
(……ええっと、鍵! 鍵よ。鍵を掛ければいいんだ!)
即座に立ち上がると走ってドアの鍵を回す。これで時間が稼げる。
……音が止まった。痛いような沈黙が走る。
「……誰かいるのかー?」
悲鳴を上げなかった自分を褒めたかった。
呼吸を必死で整える。足音がこちらに向かってくる。
滑り込むようにしてディバックの元に近付き、必死で手繰り寄せて抱え込む。
ディバックの堅い感触が肌に伝わる。
これを開ければ、自分は人を殺してしまうかもしれない。
人一倍、悪巧みをすることも多いルンだったが、その為にどこまでなら許されるかといったことも、人一倍考えていたりもする。
――それは、どれほど取り返しがつかないことなのだろう。
「っ……こ、来ないでよ! 私、一人になりたいの!」
勇気を振り絞り、何とかそれだけを告げる。
こちらの意思を告げた後は、相手の出方を窺うしかない。
「……あー、そっか。そうだよな。……いや、悪かった。
じゃあ、オレは離れてるけど。……気をつけてくれよ」
……そして再びざくっ、ざくっ……という音が。
「……へ? いや、ちょっと……」
ルンは思わず愕然として言葉を失ってしまう。
自分は安全だから信用してここを開けてくれないか、とかそういう言葉を内心では期待していたのだ。
信用する、信用しないかは、こちらに完全な権限があるものとして、せめてそういった言葉が欲しかった。
が、相手はあっさりと説得することもなくルンを見捨ててしまう。
(な、なんなの。それは……そういうのってありなわけ?)
……ふつふつと怒りが込み上げてくる。
助かったとだけ思えばいいのだろうけれど、安堵すれば他のことを考える余裕も生まれてきてしまう。
せめて小声で後ろから一言でも文句を言ってやらねば気が済まない。
扉に手を掛けて鍵を回すと、ほんの僅かだけ身体を外に覗かせて
「この人でなし!」
と、あまりと言えばあまりな罵声を浴びせようとした。
「何かあったか?」
……が、こちらを向く鋭い視線にいきなりぶつかって、その試みは頓挫してしまう。
視線の主は若い。背の高い黒髪の少年で腰に刀のようなものを差している。
それほど離れていない壁に寄りかかるようにして、こちらをじっと見詰めていた。
「……えっと、何もないです」
さすがに面と向かってまで文句を言える度胸はない。
ルンはそのまま扉を閉じて中に戻ろうとして、……疑問に感じる。
明らかに相手は最初からこちらを向いていた。つまり扉が開くことを待っていたことになるのではないだろうか。
……だとしたら何の目的で?
はっ、と気付く。……これは罠。
相手は人が離れたことに安心して周囲を確認しようとするであろう、自分を待ち構えて始末しようと潜んでいたのだ。
気付かずに、おめおめと誘い出されてしまうとは、何たる不覚。
……が、急いで扉を閉じる前に、意外なことに相手はそんなルンの考えを頓着しないような表情で弁明してきた。
「あ、いや。悪かったな。……いるの、わかっちまったか?
行こうと思ってたんだけど、やっぱ少し心配でさ……ハハハ」
見付かったことでばつを悪そうにしながらも、悪意の欠片も抱いてないような様子で笑って、そう言ってくる。
……どうやら相手は危害を加えるつもりはなく、こちらを案じて扉の近くで待機しようとしていてくれたらしい。
ルンはそれを聞いて暫しの間、黙考した後、扉に身を半分以上隠しながら相手に部屋の中に入るよう手招きする。
……これを利用しない手があるだろうか。いや、ない。(反語)
(なんてチョロイの……。やはりこれも日頃の行いの成果ね)
心の底で薄い笑みを浮かべながら、ルンは自分の護衛を手に入れることが出来た喜びに打ち震えた。
――ところで唐突だが、ルンはメモルゼ星人である。
男と女、記憶と感覚を共有する二つの性の身体と人格を持ち、特定の条件でお互いが入れ替わる。
本来の入れ替わる条件はまた別なのだが、地球の磁場などの関係でくしゃみで性別が入れ替わる体質となってしまっていた。
扉を開けた途端、廊下の空気が室内に入り込んでくる。何だか妙に冷え込んでいるような気がしてならない。
ルンがもしも廊下に出ていればその理由に気付けたかもしれない。
実のところ城の中には何故か雪が積もっていたのである。
そんなことは露知らず、おかげで鼻が無性にむずむずとすることになる。
……くしゃみがした、い。
「へ……は、は、くしゅん」
突如、現れた煙と共に少女のルンは少年のレンの姿へと変わった。
ちなみに、入れ替わりはあくまで肉体と精神だけのものであって、身につけているものはまた別である。
「わ、わ、わー!」
というわけで、彩南高校女子制服を着込んでいたルンの格好を、そのままレンは引き継ぐことになった。
一見したところは、華奢な美少年なので少女と見間違えられたとしても不思議はない。
そんな少女のような容姿と変身体質から、好きな幼馴染みのララに意識されることもなく、玩具のような扱いを強いられてきた。
そのため、強いコンプレックスを持つことになり、人一倍強く、男らしさを求めるようにして生きることになる。
……だから、見知らぬ誰かであってもこんな姿は見られたくない。
そんなわけで、折角、開きかけた扉は鼻先で再び閉じられてしまうことになったのであった。
こういうのもある意味、一種の詐欺と呼べるのかもしれない。
……山本武は再び扉の前で立たされるはめになった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
レン・エルシ・ジュエリアは焦っていた。
一刻も早く、ララ・サタリン・デビルークと再会して守らなければならないというのに、この状況。
……いつもながらルンの行動には苦しめられる。
メモルゼ星ではそれなりにお互いの領分を侵さずやってこれたが、地球に来てからは上手くいかないことが多い。
ルンがララに対するよい感情を抱いていないことも困るし、よりにもよって結城なんかに恋心を抱いているのも最悪だ。
……けれど、今はそんなことを考えている状況でない。何とかルンと協力し合わなければ。
自分たちは二人で一人、お互いに反目する行動をとっていては何も出来ないのだから。
癪に触るが万一にも結城と合流した場合は、行動を共にすることも考えなければならないかもしれない。
……はっきり言って嫌だけど。
服装などに拘っている場合でないことも明白。
だが、長年に渡って身に付いた習性はなかなか自分ではどうしようもないものでもある。
せめて身を隠すものでもないか、と服を探す。そんな情けない行動に出てしまう有様だ。
……本来なら今頃は、颯爽とララを救い出すために動いているはずだというのに。
現実は非情で、そんなヒロイズムを理解してくれないらしい。
と、そんな考えを抱いていると、そんな思考を切り裂くような衝撃と共に何者かが、部屋の中に侵入する。
どん、と扉が蹴り破られていた。
……よく考えると鍵を閉め忘れていた。
とりあえず、明かりをつけていなかったことだけが幸いである。
月の僅かな光だけではよく見えていないことを是非とも祈りたい。
……っと、それより大事なことがあることに気付いて、慌ててレンは乱入者に呼び掛けた。
相手が危険な存在だった場合、命に関わる。
呼び掛けた程度でどうにかなるとも思えないが、そうするより他に今は手がない。
「な、なんだっていうんだ。君は」
「……あー、そういうことなのな」
「へ?」
「いや、いきなり入って悪かったな。何かあったかと思ってよ」
「あ、いや。何でもない。大丈夫だ。……その、すまない」
「ハハハ。……そっか」
どうにも調子が狂う。
この姿を見ても何の不信も抱いている様子はなく、あまりにも自然な対応だったからだ。
むしろ、恥ずかしがっている自分がおかしいのではないかと一瞬、思ってしまった。
何かを勝手に理解しているような態度も不気味である。
とりあえず、ディバックで股間の辺りを隠しながら、この男は何者でどう対応するかを考えてみる。
……性別が入れ替わっていることを見ても、驚かないということはひょっとしてメモルゼ星人を知っているということか?
自分の通う学校の人間ならそれも不思議ではない。だが、それよりも考えられる理由がある。
彼が自分と同じようにどこかの宇宙人だということだ。
その事を考えた瞬間、電流が走ったかのように衝撃的なあることに思い至ってしまう。
もしも、あの部屋に集められた人間が全て宇宙人だった場合、とんでもないことになるかもしれない可能性に気付いた。
……それは以下のような内容のものである。
ここには沢山の宇宙人が集められている。
↓
ララは銀河を統べるデビルーク星の美しき王女である。
↓
デビルーク王の怒りによって滅んだ星がある。
↓
お互いに殺し合いをしろと命じられる。←今、ここ。
↓
ララが殺されたらデビルーク王は怒る。
↓
とりあえず地球は滅亡決定。
↓
自分の母星、メモルゼ星も含めて数多の星が危ないかも。
↓
対抗するため宇宙戦争勃発か。
↓
最悪の未来へ
……もし、自分の考えが間違っていないとすれば、それは恐ろしいことだ。
そうなれば、沢山の人々が犠牲になる。愛しいララの命が、そんな理由で弄ばれるなんてこと決して許されることではない。
……止めなければ。
主催者の思惑が戦争を引き起こすことなら、ララが決して生かして帰されることがないことは自明の理である。
(……ララちゃん。ボクは頑張る!!
君の命を犠牲になんてさせない。絶対に助けてみせるよ!!
……男だから!)
ぐっ、と血が滲み出す程に拳を握り締めてレンは愛しい人の無事を祈ると共に、改めて決意を強めたのだった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
山本武は、何か緊急の事態が起こったのだと思う。
突然、煙が出て来て目の前で扉が閉じられたら誰でも何かがあったことぐらいのことは推測出来るだろう。
ひょっとすると何か毒ガスのようなものを撒かれたのではないか。
そんな想像もする。
安全を考えるなら離れるべきだったが、あえて息を止め、気合いを込めて扉を蹴破る。
……扉を開くと、少女は消え、そこには女装した少年がいた。
階段を登ろうとしたら、いつの間にか降りていた。
たとえとして適切なものかは分からないが、もしもこういう状況に遭遇したら多くの人は、そんな感覚を味わうのではないだろうか。
――勿論、異論があることは認めます。
ともあれ、山本も奇妙なことが起こっていることは分かった。
体格まで変わっているのだからカツラを被っていたという理由では、説明が付けられないことは確かだ。
隠れたか、隠されたか、そうして、少女の代わりに予め少女と同じ格好をしていた少年が現れる。
しかし、それでも時間的な無理が多い気がする。
そもそもどういう事態を想定してそんな格好をする必要があるのかわからない。
では、宇宙人? まさか、そんなこと思い付くはずもない。
だから山本は、この状況を説明出来うる以前に起こったある現象に着目した。
――それは幻術。
並盛中学校であったボンゴレリング争奪戦で、霧の守護者クローク髑髏が六道骸へと幻術で一瞬にして変貌を遂げた一件だ。
正直言って、どういう原理で幻術を起こしているかも分からないので、そういうものなのな。と曖昧にしか理解出来ていないが。
他の仲間もあまり深く考えようとも思っていないようなので、それでいいかとも思っている。
確か、あの時は服装まで変わっていた。
しかしそれも、クローク髑髏より少年?の幻術の方が未熟だという理由があるとすれば分からなくもない。
未熟な狐や狸が人に化けても尻尾を隠せないとか、そういう理由。
それとも唐突に押し入ったことが幻術を失敗させたのかもしれない。
まあ、何でそんな幻術を使う必要があるのかは正直、疑問だが。
あるいは、もしかすると幻術が解けてしまったのかもしれない。
男よりも女の姿の方が守ってもらえやすいことは確かだ。
まあ、色々考えたところで、結局のところ山本は「面白ぇー」で、全部水に流すように収めてしまうところがある。
だから、あんまり深く考えるつもりも、そもそもなかったりする。
……そんなわけで、ほとんど理解出来ていないと言った方がいいが、山本は山本なりにレンのことを理解したのだった。
……10年後の自分と入れ替わるバズーカ、幻術、匣のようなものの存在を知ってしまえば大抵のことには耐性が出来てしまう。
それ以前からあまり何事が起きても動じることの少なかった山本にとってもそれは同じかもしれない。
……だが、それでも殺し合いをしろという展開は衝撃だった。
……首の吹き飛んだ男の姿も含めて。
城の近くに転送された時、山本は怒りのために一歩も動けなかった。
唇を強く噛み締める。何故、自分は動けなかったのか、と思う。
何かの遊びでないことはあの悲鳴の連鎖を聞けば分かった。
けれど、その時、動き出すのではもう遅い。間に合わない。
爆発を恐れて逃げる人波に押されて近付くことすら出来なかった。
……そうして結局、ダイアーという男を見捨ててしまった。
思わず、ディバックを叩き付けたい気分になったが、もう一度拾い上げなければならないはめになるなら屈辱は増すばかりだ。
同じ確認するなら早い方がいい。
調べてみると、自分の使えそうな刀が一本だけ出て来た。
新井赤空作、最終型殺人奇剣。「無限刃」
……ぞくりと気が遠くなるような血の沸騰するような感覚に襲われる。
解説書に目を通すと、そこにはおぞましい内容が載っていた。
……出来ればこれにはなるべく頼らずにおきたい。
雨の守護者である自分にとって、火を巻き起こすことの出来るこの剣は決して相性がいいものとはいえないだろう。
時雨蒼燕流の伝承者に伝わる本来の刀、時雨金時が手に入るといいのだが。
しかし、この場にあるとは限らないし、伝承者以外には扱えないものを、誰かに支給することも考えにくい。
……やはり、今はこれを持って行くしかないようだ。
……見上げれば美しい城がある。
あいつは自分を王だと言っていた。王と言えば城に住むものであることは言うまでもない。
……山本は城に向かった。何となく自分でも単純な結論だと思う。
……だが、どうやらあては外れてしまったようだ。
城の表には雪の欠片もなかったのに中は不思議と雪が積もっている。
大半の部屋はそのせいか凍り付いていて開けることが出来ない。
無限刃を使えば溶かすことも出来るかもしれないが、なるべくなら使いたくはなかった。
武器庫というものもあったが、頑丈な扉に強固な錠が掛かっていてどうにも鍵がないと開けられそうにない。
廊下に続く雪の道を踏みしめながら一人、思う。
あの部屋はこの城の外装、内装から比べても明らかに違う。
……では、どこに、どうすれば、あの部屋に辿り着くことが出来るのだろうか。
そもそもが、どうやってあの部屋に連れてこられたがわからない。
(ん。……と、いや。ここがまた別の時代だったとしたら)
ふっ、とそんなことを思い付く。
ひょっとすると、また10年バズーカかそれに類するもので、どこか別の時代に飛ばされてしまっているのかもしれないのではないか。
……そんなことを考えていた矢先に先程の騒動だ。
兎にも角にも、やっと人に出会えた。何とか話も出来そうな相手だったことも幸いだ。
やれば出来ないこともないが、そもそも自分は頭を使うのは苦手な方。
一人より二人の方が知恵も出てくるだろうし、何か思いも寄らない解決の糸口が見付かるかも知れない。
そこで、山本はおかしく思われるかもしれないが、疑問を解消するべく思い切って聞いてみることにした。
「……そういや。あのさ、今って何年か分かるか?」
「……君はいったいどこの星系の宇宙人、なんだ?」
そんな風にして、山本とレンはほぼ同時に疑問を投げかけ合うことになる。
現実は非情である上に、どうやらSFだったりもするらしい。
――絡み合う複雑な事情をよそに、時は刻み続ける。
【Dー4 ドラム城・Dr.くれはの病室 /一日目 深夜】
【レン・エルシ・ジュエリア@To LOVEる】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 支給品1~3(未確認)
【状態】:健康、彩南高校女子制服姿。
【思考・行動】
1:目の前の宇宙人?と情報交換。
2:絶対にララを守り抜く。
3:ララをゲームから救出する。
4:……どうにかして服を手に入れたい。
5:このゲームは戦争を引き起こすのが、狙い?
【ルン・エルシ・ジュエリア@To LOVEる】
【思考・行動】
1:???
【山本武@家庭教師ヒットマンREBORN!】
【装備】:無限刃@るろうに剣心
【所持品】:支給品一式 支給品0~2(確認済み・刀剣類はない様子)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:目の前の幻術使い?と情報交換。
2:ゲームに乗って人を殺す気はない。
3:無限刃を使うか、迷っている。
4:時雨金時があれば。
5:主催者の打破。
6:ひょっとして、また違う時代なのかな?
|007:[[谷間]]|CENTER:[[投下順>本編(投下順)]]|009:[[霊は状況が悪い時に限ってでしゃばる]]|
|007:[[谷間]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|009:[[霊は状況が悪い時に限ってでしゃばる]]|
|&color(skyblue){初登場}|レン・エルシ・ジュエリア|037:[[男の戦い ver.snow]]|
|&color(skyblue){初登場}|山本武|037:[[男の戦い ver.snow]]|
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**1/2の扉
ルン・エルシ・ジュエリアは城のある一室に置かれた、ベッドの上に腰掛けていた。
淡い色彩の髪を手で弄んでぼんやりと思考する。
暗い室内の中には怪しげな薬品や書物が所狭しと置かれている。
けれど、不思議と嫌な感じはしない。どこか人を落ち着かせる雰囲気に満ちていた。
さすがに髑髏をあしらった調度品は趣味がいいとは思えなかったが。
……地球に来てどれだけの月日が過ぎただろう?
メモルゼ星の王族である自分が何だって辺境の地球になどに来ることになったのか。
最初はレンの身勝手な行動に腹を立ていたものの、好きな人も出来た。
ララがいることを除けばそれほど悪くない日々が続いている。
アイドルとして活躍をしたり、ちゃんと地球に馴染んできていると思った矢先にこの仕打ち。
後悔、とまではいかないもののそれに近い感情が一瞬、湧き起こる。
(おまけにララもいたし、リトくんまで……)
まさか、よりによって自分が犯罪に巻き込まれることになるなんて思ってもみなかった。
(……いくら辺境だからって、あんなヤツが王様?)
ドラム王国、国王ワポルなんて名は今まで一度も聞いた覚えがない。
少なくとも、自分の星と交流を持っているような国でないことだけは確かだ。
そんな知らない田舎者が叶えられる願いなど、合法、非合法な手段を含めて大したものだとは到底思えない。
そもそも叶える気があること自体、疑わしい。
(……まぁ、ちょっとだけなら期待をしないこともなかったけど)
しかし、それも殺し合いをしろと言い出される直前までのこと。
――誰があんな死体を見せられて、同じことを出来ると思えるのか。
室内に転送されてきてから、ルンは未だに一歩たりとも動くことが出来ないでいる。
ディバックは足下に置かれたまま、中身を確認することもしない。
まるで、それは得体の知れない生き物の内部を探るような、悪趣味な行為に思えてならなかったから。
(……嫌)
嫌悪感が先に立ち、意味としてまとまりをもたないとりとめのない思考が続く。
動かねばとは思うものの、どう動けばいいのか、何をすればいいかが分からない。
自分が何もしなければ何も起こることもないのではないか。そんな下らないことまで考えてしまう始末だった。
(私、会いたいのかな? ……リトくん)
出会えたところで彼が助けてくれるとでもいうのだろうか。
彼はスーパーヒーローでも何でもない。平凡な地球人だ。
会えて嬉しいだろうか? 殺し合いが今まさに起こるような場所で、本当に彼と出会えて嬉しいだろうか?
(もっと、素敵な場所だったらいいのに……)
それはロマンチックな想像。
けれど現実は非情で、そんな乙女心を理解してくれないようである。
「はぁ……」
遂に溜め息をつくとルンは、そのままベットに横になってしまった。
もう好きにして、とでも言わんばかりのまな板の鯉状態である。
もし、マーダーがこんな美味しい状況を見て襲いかからなかったら、それはマーダー失格と言っていいだろう。
――勿論、異論があることは認めます。
(……どうしたものかな?)
こつん、と足でディバックを蹴ってみる。
結局、嫌でも中身を見なければ今後の対策の取りようがないのかもしれない。
あの男の言いなりに行動するのは不愉快だったが、自衛のためにも武器は必要なのだろう。
(……でも、なるべく使いたくないのよね)
他の人間もどうかそう思ってくれていることを祈りたいものだ。
そんなこんなでも、とりあえずはディバックを調べる覚悟を決めた、その時。
ざくっ、ざくっ。……部屋の外から何か物音が聞こえてきた。
その音は段々とこちらに向かっているように大きくなってきている。
「……っ!」
予想外の展開に驚き、ルンは目を見開く。
……本来ならこの程度のことは予想して然るべきなのだが、こんな最悪の展開をルンは予想したくはなかった。
一転して、緊張に身を包まれる。
ジッパーを開いて武器を取り出せば、物音を立て相手に気付かれてしまう可能性がある。
気付かれるかもしれない危険を冒してまで、そうする必要があるのだろうか?
まだ、この部屋に誰かがいることは分かっていないはず。そのまま通り過ぎてくれることも考えられる。
しかし、もし部屋に入ってこられた場合、武器を構える暇はない。
(……ええっと、鍵! 鍵よ。鍵を掛ければいいんだ!)
即座に立ち上がると走ってドアの鍵を回す。これで時間が稼げる。
……音が止まった。痛いような沈黙が走る。
「……誰かいるのかー?」
悲鳴を上げなかった自分を褒めたかった。
呼吸を必死で整える。足音がこちらに向かってくる。
滑り込むようにしてディバックの元に近付き、必死で手繰り寄せて抱え込む。
ディバックの堅い感触が肌に伝わる。
これを開ければ、自分は人を殺してしまうかもしれない。
人一倍、悪巧みをすることも多いルンだったが、その為にどこまでなら許されるかといったことも、人一倍考えていたりもする。
――それは、どれほど取り返しがつかないことなのだろう。
「っ……こ、来ないでよ! 私、一人になりたいの!」
勇気を振り絞り、何とかそれだけを告げる。
こちらの意思を告げた後は、相手の出方を窺うしかない。
「……あー、そっか。そうだよな。……いや、悪かった。
じゃあ、オレは離れてるけど。……気をつけてくれよ」
……そして再びざくっ、ざくっ……という音が。
「……へ? いや、ちょっと……」
ルンは思わず愕然として言葉を失ってしまう。
自分は安全だから信用してここを開けてくれないか、とかそういう言葉を内心では期待していたのだ。
信用する、信用しないかは、こちらに完全な権限があるものとして、せめてそういった言葉が欲しかった。
が、相手はあっさりと説得することもなくルンを見捨ててしまう。
(な、なんなの。それは……そういうのってありなわけ?)
……ふつふつと怒りが込み上げてくる。
助かったとだけ思えばいいのだろうけれど、安堵すれば他のことを考える余裕も生まれてきてしまう。
せめて小声で後ろから一言でも文句を言ってやらねば気が済まない。
扉に手を掛けて鍵を回すと、ほんの僅かだけ身体を外に覗かせて
「この人でなし!」
と、あまりと言えばあまりな罵声を浴びせようとした。
「何かあったか?」
……が、こちらを向く鋭い視線にいきなりぶつかって、その試みは頓挫してしまう。
視線の主は若い。背の高い黒髪の少年で腰に刀のようなものを差している。
それほど離れていない壁に寄りかかるようにして、こちらをじっと見詰めていた。
「……えっと、何もないです」
さすがに面と向かってまで文句を言える度胸はない。
ルンはそのまま扉を閉じて中に戻ろうとして、……疑問に感じる。
明らかに相手は最初からこちらを向いていた。つまり扉が開くことを待っていたことになるのではないだろうか。
……だとしたら何の目的で?
はっ、と気付く。……これは罠。
相手は人が離れたことに安心して周囲を確認しようとするであろう、自分を待ち構えて始末しようと潜んでいたのだ。
気付かずに、おめおめと誘い出されてしまうとは、何たる不覚。
……が、急いで扉を閉じる前に、意外なことに相手はそんなルンの考えを頓着しないような表情で弁明してきた。
「あ、いや。悪かったな。……いるの、わかっちまったか?
行こうと思ってたんだけど、やっぱ少し心配でさ……ハハハ」
見付かったことでばつを悪そうにしながらも、悪意の欠片も抱いてないような様子で笑って、そう言ってくる。
……どうやら相手は危害を加えるつもりはなく、こちらを案じて扉の近くで待機しようとしていてくれたらしい。
ルンはそれを聞いて暫しの間、黙考した後、扉に身を半分以上隠しながら相手に部屋の中に入るよう手招きする。
……これを利用しない手があるだろうか。いや、ない。(反語)
(なんてチョロイの……。やはりこれも日頃の行いの成果ね)
心の底で薄い笑みを浮かべながら、ルンは自分の護衛を手に入れることが出来た喜びに打ち震えた。
――ところで唐突だが、ルンはメモルゼ星人である。
男と女、記憶と感覚を共有する二つの性の身体と人格を持ち、特定の条件でお互いが入れ替わる。
本来の入れ替わる条件はまた別なのだが、地球の磁場などの関係でくしゃみで性別が入れ替わる体質となってしまっていた。
扉を開けた途端、廊下の空気が室内に入り込んでくる。何だか妙に冷え込んでいるような気がしてならない。
ルンがもしも廊下に出ていればその理由に気付けたかもしれない。
実のところ城の中には何故か雪が積もっていたのである。
そんなことは露知らず、おかげで鼻が無性にむずむずとすることになる。
……くしゃみがした、い。
「へ……は、は、くしゅん」
突如、現れた煙と共に少女のルンは少年のレンの姿へと変わった。
ちなみに、入れ替わりはあくまで肉体と精神だけのものであって、身につけているものはまた別である。
「わ、わ、わー!」
というわけで、彩南高校女子制服を着込んでいたルンの格好を、そのままレンは引き継ぐことになった。
一見したところは、華奢な美少年なので少女と見間違えられたとしても不思議はない。
そんな少女のような容姿と変身体質から、好きな幼馴染みのララに意識されることもなく、玩具のような扱いを強いられてきた。
そのため、強いコンプレックスを持つことになり、人一倍強く、男らしさを求めるようにして生きることになる。
……だから、見知らぬ誰かであってもこんな姿は見られたくない。
そんなわけで、折角、開きかけた扉は鼻先で再び閉じられてしまうことになったのであった。
こういうのもある意味、一種の詐欺と呼べるのかもしれない。
……山本武は再び扉の前で立たされるはめになった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
レン・エルシ・ジュエリアは焦っていた。
一刻も早く、ララ・サタリン・デビルークと再会して守らなければならないというのに、この状況。
……いつもながらルンの行動には苦しめられる。
メモルゼ星ではそれなりにお互いの領分を侵さずやってこれたが、地球に来てからは上手くいかないことが多い。
ルンがララに対するよい感情を抱いていないことも困るし、よりにもよって結城なんかに恋心を抱いているのも最悪だ。
……けれど、今はそんなことを考えている状況でない。何とかルンと協力し合わなければ。
自分たちは二人で一人、お互いに反目する行動をとっていては何も出来ないのだから。
癪に触るが万一にも結城と合流した場合は、行動を共にすることも考えなければならないかもしれない。
……はっきり言って嫌だけど。
服装などに拘っている場合でないことも明白。
だが、長年に渡って身に付いた習性はなかなか自分ではどうしようもないものでもある。
せめて身を隠すものでもないか、と服を探す。そんな情けない行動に出てしまう有様だ。
……本来なら今頃は、颯爽とララを救い出すために動いているはずだというのに。
現実は非情で、そんなヒロイズムを理解してくれないらしい。
と、そんな考えを抱いていると、そんな思考を切り裂くような衝撃と共に何者かが、部屋の中に侵入する。
どん、と扉が蹴り破られていた。
……よく考えると鍵を閉め忘れていた。
とりあえず、明かりをつけていなかったことだけが幸いである。
月の僅かな光だけではよく見えていないことを是非とも祈りたい。
……っと、それより大事なことがあることに気付いて、慌ててレンは乱入者に呼び掛けた。
相手が危険な存在だった場合、命に関わる。
呼び掛けた程度でどうにかなるとも思えないが、そうするより他に今は手がない。
「な、なんだっていうんだ。君は」
「……あー、そういうことなのな」
「へ?」
「いや、いきなり入って悪かったな。何かあったかと思ってよ」
「あ、いや。何でもない。大丈夫だ。……その、すまない」
「ハハハ。……そっか」
どうにも調子が狂う。
この姿を見ても何の不信も抱いている様子はなく、あまりにも自然な対応だったからだ。
むしろ、恥ずかしがっている自分がおかしいのではないかと一瞬、思ってしまった。
何かを勝手に理解しているような態度も不気味である。
とりあえず、ディバックで股間の辺りを隠しながら、この男は何者でどう対応するかを考えてみる。
……性別が入れ替わっていることを見ても、驚かないということはひょっとしてメモルゼ星人を知っているということか?
自分の通う学校の人間ならそれも不思議ではない。だが、それよりも考えられる理由がある。
彼が自分と同じようにどこかの宇宙人だということだ。
その事を考えた瞬間、電流が走ったかのように衝撃的なあることに思い至ってしまう。
もしも、あの部屋に集められた人間が全て宇宙人だった場合、とんでもないことになるかもしれない可能性に気付いた。
……それは以下のような内容のものである。
ここには沢山の宇宙人が集められている。
↓
ララは銀河を統べるデビルーク星の美しき王女である。
↓
デビルーク王の怒りによって滅んだ星がある。
↓
お互いに殺し合いをしろと命じられる。←今、ここ。
↓
ララが殺されたらデビルーク王は怒る。
↓
とりあえず地球は滅亡決定。
↓
自分の母星、メモルゼ星も含めて数多の星が危ないかも。
↓
対抗するため宇宙戦争勃発か。
↓
最悪の未来へ
……もし、自分の考えが間違っていないとすれば、それは恐ろしいことだ。
そうなれば、沢山の人々が犠牲になる。愛しいララの命が、そんな理由で弄ばれるなんてこと決して許されることではない。
……止めなければ。
主催者の思惑が戦争を引き起こすことなら、ララが決して生かして帰されることがないことは自明の理である。
(……ララちゃん。ボクは頑張る!!
君の命を犠牲になんてさせない。絶対に助けてみせるよ!!
……男だから!)
ぐっ、と血が滲み出す程に拳を握り締めてレンは愛しい人の無事を祈ると共に、改めて決意を強めたのだった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
山本武は、何か緊急の事態が起こったのだと思う。
突然、煙が出て来て目の前で扉が閉じられたら誰でも何かがあったことぐらいのことは推測出来るだろう。
ひょっとすると何か毒ガスのようなものを撒かれたのではないか。
そんな想像もする。
安全を考えるなら離れるべきだったが、あえて息を止め、気合いを込めて扉を蹴破る。
……扉を開くと、少女は消え、そこには女装した少年がいた。
階段を登ろうとしたら、いつの間にか降りていた。
たとえとして適切なものかは分からないが、もしもこういう状況に遭遇したら多くの人は、そんな感覚を味わうのではないだろうか。
――勿論、異論があることは認めます。
ともあれ、山本も奇妙なことが起こっていることは分かった。
体格まで変わっているのだからカツラを被っていたという理由では、説明が付けられないことは確かだ。
隠れたか、隠されたか、そうして、少女の代わりに予め少女と同じ格好をしていた少年が現れる。
しかし、それでも時間的な無理が多い気がする。
そもそもどういう事態を想定してそんな格好をする必要があるのかわからない。
では、宇宙人? まさか、そんなこと思い付くはずもない。
だから山本は、この状況を説明出来うる以前に起こったある現象に着目した。
――それは幻術。
並盛中学校であったボンゴレリング争奪戦で、霧の守護者クローク髑髏が六道骸へと幻術で一瞬にして変貌を遂げた一件だ。
正直言って、どういう原理で幻術を起こしているかも分からないので、そういうものなのな。と曖昧にしか理解出来ていないが。
他の仲間もあまり深く考えようとも思っていないようなので、それでいいかとも思っている。
確か、あの時は服装まで変わっていた。
しかしそれも、クローク髑髏より少年?の幻術の方が未熟だという理由があるとすれば分からなくもない。
未熟な狐や狸が人に化けても尻尾を隠せないとか、そういう理由。
それとも唐突に押し入ったことが幻術を失敗させたのかもしれない。
まあ、何でそんな幻術を使う必要があるのかは正直、疑問だが。
あるいは、もしかすると幻術が解けてしまったのかもしれない。
男よりも女の姿の方が守ってもらえやすいことは確かだ。
まあ、色々考えたところで、結局のところ山本は「面白ぇー」で、全部水に流すように収めてしまうところがある。
だから、あんまり深く考えるつもりも、そもそもなかったりする。
……そんなわけで、ほとんど理解出来ていないと言った方がいいが、山本は山本なりにレンのことを理解したのだった。
……10年後の自分と入れ替わるバズーカ、幻術、匣のようなものの存在を知ってしまえば大抵のことには耐性が出来てしまう。
それ以前からあまり何事が起きても動じることの少なかった山本にとってもそれは同じかもしれない。
……だが、それでも殺し合いをしろという展開は衝撃だった。
……首の吹き飛んだ男の姿も含めて。
城の近くに転送された時、山本は怒りのために一歩も動けなかった。
唇を強く噛み締める。何故、自分は動けなかったのか、と思う。
何かの遊びでないことはあの悲鳴の連鎖を聞けば分かった。
けれど、その時、動き出すのではもう遅い。間に合わない。
爆発を恐れて逃げる人波に押されて近付くことすら出来なかった。
……そうして結局、ダイアーという男を見捨ててしまった。
思わず、ディバックを叩き付けたい気分になったが、もう一度拾い上げなければならないはめになるなら屈辱は増すばかりだ。
同じ確認するなら早い方がいい。
調べてみると、自分の使えそうな刀が一本だけ出て来た。
新井赤空作、最終型殺人奇剣。「無限刃」
……ぞくりと気が遠くなるような血の沸騰するような感覚に襲われる。
解説書に目を通すと、そこにはおぞましい内容が載っていた。
……出来ればこれにはなるべく頼らずにおきたい。
雨の守護者である自分にとって、火を巻き起こすことの出来るこの剣は決して相性がいいものとはいえないだろう。
時雨蒼燕流の伝承者に伝わる本来の刀、時雨金時が手に入るといいのだが。
しかし、この場にあるとは限らないし、伝承者以外には扱えないものを、誰かに支給することも考えにくい。
……やはり、今はこれを持って行くしかないようだ。
……見上げれば美しい城がある。
あいつは自分を王だと言っていた。王と言えば城に住むものであることは言うまでもない。
……山本は城に向かった。何となく自分でも単純な結論だと思う。
……だが、どうやらあては外れてしまったようだ。
城の表には雪の欠片もなかったのに中は不思議と雪が積もっている。
大半の部屋はそのせいか凍り付いていて開けることが出来ない。
無限刃を使えば溶かすことも出来るかもしれないが、なるべくなら使いたくはなかった。
武器庫というものもあったが、頑丈な扉に強固な錠が掛かっていてどうにも鍵がないと開けられそうにない。
廊下に続く雪の道を踏みしめながら一人、思う。
あの部屋はこの城の外装、内装から比べても明らかに違う。
……では、どこに、どうすれば、あの部屋に辿り着くことが出来るのだろうか。
そもそもが、どうやってあの部屋に連れてこられたがわからない。
(ん。……と、いや。ここがまた別の時代だったとしたら)
ふっ、とそんなことを思い付く。
ひょっとすると、また10年バズーカかそれに類するもので、どこか別の時代に飛ばされてしまっているのかもしれないのではないか。
……そんなことを考えていた矢先に先程の騒動だ。
兎にも角にも、やっと人に出会えた。何とか話も出来そうな相手だったことも幸いだ。
やれば出来ないこともないが、そもそも自分は頭を使うのは苦手な方。
一人より二人の方が知恵も出てくるだろうし、何か思いも寄らない解決の糸口が見付かるかも知れない。
そこで、山本はおかしく思われるかもしれないが、疑問を解消するべく思い切って聞いてみることにした。
「……そういや。あのさ、今って何年か分かるか?」
「……君はいったいどこの星系の宇宙人、なんだ?」
そんな風にして、山本とレンはほぼ同時に疑問を投げかけ合うことになる。
現実は非情である上に、どうやらSFだったりもするらしい。
――絡み合う複雑な事情をよそに、時は刻み続ける。
【Dー4 ドラム城・Dr.くれはの病室 /一日目 深夜】
【レン・エルシ・ジュエリア@To LOVEる】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 支給品1~3(未確認)
【状態】:健康、彩南高校女子制服姿。
【思考・行動】
1:目の前の宇宙人?と情報交換。
2:絶対にララを守り抜く。
3:ララをゲームから救出する。
4:……どうにかして服を手に入れたい。
5:このゲームは戦争を引き起こすのが、狙い?
【ルン・エルシ・ジュエリア@To LOVEる】
【思考・行動】
1:???
【山本武@家庭教師ヒットマンREBORN!】
【装備】:無限刃@るろうに剣心
【所持品】:支給品一式 支給品0~2(確認済み・刀剣類はない様子)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:目の前の幻術使い?と情報交換。
2:ゲームに乗って人を殺す気はない。
3:無限刃を使うか、迷っている。
4:時雨金時があれば。
5:主催者の打破。
6:ひょっとして、また違う時代なのかな?
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|007:[[谷間]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|009:[[霊は状況が悪い時に限ってでしゃばる]]|
|&color(skyblue){初登場}|レン・エルシ・ジュエリア|037:[[男の戦い ver.snow]]|
|&color(skyblue){初登場}|山本武|037:[[男の戦い ver.snow]]|
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