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「しんせかいの かみ」(2008/08/06 (水) 02:37:30) の最新版変更点
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**しんせかいの かみ
なぜか、と聞かれても彼は答える事ができない。ただひたすらに急ぎたかった。ただ歩き続けるのは苦痛だったから
これは、GANTZによる新しいゲームだ。加藤勝はこう断定した
最も彼も、まだ3回しかGANTZによるゲームを経験した事はない。電車に轢かれ死に、マンションの一室にいた
黒い玉、GANTZ。謎の銃。謎のスーツ。そして、謎のせいじん
GANTZにより、標的として『せいじん』を設定され、部屋から転移。その『せいじん』を倒す、もしくは捕獲して送還すればゲームクリア、当面の危機は脱する
そう、危機だ。その『せいじん』はこちらを殺すつもりで来る、しかも強い。スーツや銃を装備しなければ、まず勝てない
実際、3回目のゲーム…自分達は、全滅した
巨大な敵、溶解液を放つ敵、レーザーを放つ敵
どんどん仲間は減った。幼馴染の玄野も重傷
残ったのは、加藤だけだった。それでも、敵はあと1体いた
苦しい戦いだった。だが、彼は辛くもその敵を倒した。自分の命という代償と共に
これで、玄野がまだ死んでいなければ、彼は部屋に転移されて怪我も治る、それが加藤の希望だった。それが加藤の賭けだった
が、死んでみれば……またも、同じ展開だった
同じリビング。同じ黒い玉。同じく集まった人々……
全ては、死んでも死んでも続く永遠のゲームだったのか?
(あれ……いや、違う)
3回のゲーム。どれとも違う事があった
あの『せいじん』にしか見えない男。自分達のゲームの時、リビングにあんな男は現れなかった。説明などしなかった
今首にある、この首輪。これもなかった。むしろ必要がないのだ。なぜなら、ゲームの時、彼らの脳に爆弾が仕込んであって、家に帰ろうと決められたエリアを出たものの頭は吹っ飛ぶ仕組みだった。つまり、あのダイアーという男を御するなら脳の爆弾で充分のはずなのだ
(……じゃあ……俺達の脳に、爆弾はないのか?)
首輪をつけるということは、その必要が出たという事だ。つまり、脳の爆弾がなくなった、ということになる
(一体、何が起こってるんだ?GANTZに……そもそも、俺達の時とクリア目標が違いすぎる!
生き残れ、だなんて。なぜ突然)
「ぐああああああ!!」
「!?」
思考の途中で、悲鳴が聞こえた。
加藤はそちらに足の方向を変えた。一瞬、危険という信号が頭をよぎった。だが、苦痛を伴っているように聞こえた悲鳴、その発した主がどんな目にあっているか、そう考えると、助けようという意志が危険という信号を、手元の日本刀を握り締める事で押さえつけた
加藤はやがて人影をみつけた。
立ってはいない。地面に座っている。左腕を右手を抑えていて、そこから何かが滴り落ちて……
「うっ、ぐっ…」
それが血だということは、小学生にさえわかることだった
「だ、大丈夫か!?」
**********
「L?」
「そう、L。それが彼の名……いや、彼にはもう一つ名前があるんだ
……キラ。悪人を断罪する大量殺人者。それが彼のもう一つの名前だ」
加藤は目の前の青年、夜神月と名乗った彼にそう言われた。
月の傷はそれほどひどいものではなかった。左の上腕に入った切り傷。だが彼が言うには動かせないほどではないらしく、
傷口の消毒などをしておけば大丈夫だろう、とのことだ。
支給されたデイパックにはその類のものはなかったため、破った加藤のワイシャツで左腕を縛って簡単に止血、
水で傷口を洗った程度で、あとで救急品を捜そうという事になり、話はその傷をつけた人物に関する件に移った
月が言うには、その人物は彼の知り合いで、エルというらしい。エルは、転移して戸惑っていた月に突然ナイフで切りかかってきたらしく、
月はそれをなんとか避けたが、軽くナイフで左腕を切られた。彼は恐怖と誰でもいいから助けてくれ、という狙いと共に、悲鳴を上げたらしい。
幸い、加藤の走ってくる音で、エルは逃げたらしい。よほど慌てていたのか、その場には血のついたナイフがそのまま残されていた
そして、そのエルについて詳しく聞いて、今に至る
「キラは、自分の正義の下に次々と人を殺していった。犯罪者だけじゃない。自分にとって邪魔だった捜査関係者たち……僕の、父さんも…!」
そう言って月は悔しそうな顔をして、拳を握り締めた。かみ締めた口からは歯をきしる音が。瞑った目からは涙が流れていた。加藤はそれだけで、彼のキラに対する憎しみと悔しさを知り、そのキラに怒りを覚えた
「僕は父の敵を取ろうと、捜査に協力した。その時に、世界一の探偵として捜査の指揮を取っていたのが……エルだった」
「え? で、でも、さっきの話じゃ」
「そう。あいつは……自分で起こした事件を、自分で捜査してまんまと犯人の範囲から逃れたんだ」
「なっ!?」
加藤は驚いた。探偵が、犯人。そんなのはミステリーの禁じ手みたいなものだ。そんなことが…
「でも、自分で起こした事件を解決しようとしたって無理なんだから、自分の無能なところが出るだけなんじゃないか?」
「いや、彼は上手く捜査を操って、ギリギリのところでキラを逃がしているように見せたんだ。時には他人も利用してね。情報操作や心理操作は、あいつの得意技なんだ」
「……でも、なんで夜上さんはそんなことを知ってるんだ?」
確かに妙だった。それではまるで、ミステリーの全てを把握する作者のようだ。だが、彼は登場人物のはず
そう聞くと、月は自嘲気味に
「僕はそこまでたどり着いたんだ。だが、もう少しのところで……奴に口を封じられた。死んだんだ。そう、確かに……ところが、気がついてみればこんなところさ。もしかしたら、ここは奴の新しい殺人場なのかもしれない…」
そう言って考え込む月を尻目に、加藤は戦慄を覚えた
月もやはり死者だった。しかも、初だ。自分のように、2回目の存在ではない。
ただ、彼にはどうも腑に落ちない点があった
「あの……俺、キラなんていう大量殺人者、聞いたことないんですけど」
「……なんだって?」
月が怪訝そうな顔で加藤を見た。そこには本当に当然のことを知らない、無知に対する視線があった
「かなりニュースでも報道されているはずなんだけど…変だな」
変だな、と言われても加藤には思い当たるものはない。キラ、などという大量犯罪者は。そうなると、月の言うことにはどうも信憑性がなくなる…
「あ…」
「どうしたんだい?」
加藤に思い当たる事があった
あのリビング。自分達は確かほぼ全滅。だが、あそこには50人近くは人がいた。だが3回とも、せいぜい10人程度がいいところだった。となると…
あの人数は、何回かで蓄積しているのではないだろうか。月は初めてだ。だが、あの中にその前からの人物が残っていたとしたら
つまり、自分の死んだ時から、今までかなりの時間が経っている。そう考えると、キラのことは説明がつく。キラの事件は、加藤がおこりんぼ星人たちに殺されてから、その後に起こったとしたら
正直曲解だとはわかっている。だが、加藤には月の言っていることが嘘には思えなかった。父を殺されたという月の涙、それが全て彼の妄想だと、切り捨てるのは……悲しかった。だから、そう思った
「い、いや……あの、どこか移動しませんか?ここは危ないと思うし」
だが、すぐに月に言うのは気が引けた。もっと落ち着いた場所で話したい。なにせ、あなたは本当に死んだ、なんて言ったらどうなるか…
「そうだね…まだエルが近くにいるかもしれない。移動しようか」
そう言って、月が立ち上がろうとする
「あ、いえ。俺が先頭行きますよ。夜神さんは怪我してますし、武器もさっきのナイフくらいだし」
「けれど、高校生の君にそんな事させられないよ。僕は大学生、君より年上だ」
「そんなこと関係ないですよ、俺の方が…体格いいし」
「……そう、だね。わかった、君に甘えさせてもらう。ありがとう」
そう言って、月は微笑みと共に頭を下げた。加藤はそれに照れて顔が真っ赤になった
「不安な事があるんだ」
「え?」
歩き出して少しで、後ろを歩く月がそう呟いた
「エルが去り際に言っていた。『キラはあなたに差し上げますよ』と」
「?どういう、意味ですか?」
「これは僕の推測だが……これは、キラの汚名を僕に被せるという意味かもしれない」
「え!?」
「僕がエルがキラという大量殺人者であるということを言いふらせば、奴が追い詰められるのは目に見えてる。誰にだって信用されなくなる。
だから、奴は先手を打って、僕がキラだとこの会場にいる人間達に流布するつもりなんだ。奴は探偵だ。探偵であり犯罪者だ。巧に人間を誘導し、
信じ込ませる術には長けてる!もし、もし奴が僕をキラだなんて言っていたら、僕は…!僕は孤立する!孤立して、何者かに殺害される時を待つ、
哀れな獲物になるだけだ!」
どんどん月の声が大きくなっていた、錯乱し始めている。加藤は振り向くと、頭を抑えて震えている月の腕を握った
「!? 加藤、くん?」
「大丈夫です!たとえ、奴があなたをキラだって言って回っても、たとえそれで騙された奴が出てきても!俺は、俺だけはあんたを信じる!だから、安心してください!」
「加藤くん……済まない、取り乱してしまって…」
月は落ち着いたらしい
「とりあえず、先を急ごう。それで、エルに接触する前に、この殺し合いに反抗している人間と接触してグループを作るんだ。そうすれば、エルにも、生き残ろうとする犯罪者にも、主催者にも対抗できる」
「そうですね、行きましょう!」
加藤は皆を救いたい
今までの星人を倒すのすら辛かった、なのに、殺しあえだなんて絶対にできない。彼は、主催、GANTZへの反抗を決めた。自分や月のように、主催に対抗しようという人物と結託する事を
(計ちゃん……生きている、よな?)
自分は間に合ったのだろうか、それだけが気がかりだった
彼は気付いていない。
反抗する人間を集めて、主催者へ反抗する。彼におぼろげにありつつもはっきりしていなかった方針が、なぜ明確に彼に刻み込まれたのか
それが、月ととの会話によって形成されたという、自覚はなかった
*************
計 画 通 り !
全ては自分の思うように進んでいる。全ては彼、夜神月のシナリオのままに
彼は加藤を先に見つけていた。体力のありそうな体躯、まっすぐ前を見ているその表情。ある程度の打算を持って、彼は賭けを実行した
それがあの悲鳴だ。案の定、加藤は彼のふんだとおりの人間像だった。お人よし、善人。これが悪意のある人物だったら、
ポケットに仕込んでいた手榴弾(彼に支給された5つのうちの一つ。これについては加藤には『4つ』支給されたと説明している)を放つつもりだった
ナイフ、正確にはスペツナズナイフ。これは元々月に支給されたものだ。当然彼は襲われてなどいない。傷は自分でつけた。エルだって見ていない……いや、見てはいる。あの説明の時に
(まさか、確実に殺したお前をあそこで発見できるとはな。最初は驚いたが…あの程度の低そうな男や、攻撃を跳ね返した見えない壁、この首輪……死神の世界があるくらいだ。
なにか、現代の科学ではない、何かの力があるんだろう。死者が蘇っても驚きはしないさ)
だが、不都合は生じる。半分くらいしか見渡せなかったとはいえ、見知った顔はほとんどいなかった。となれば、自分の善人面で善人に取り入り、その中に入り込むことは簡単だ
エルさえいなければ。彼が自分の情報をばらまくことはまずい。それに、個人的には彼にはもう一度引導を渡してやるのも悪くはない。その方法が、先のことだ
(エル、先手は僕が取ったぞ。加藤を先達に、もっと反抗者のグループを広げる。そうすれば、お前の悪評はどんどん広がる。お前がこれを読んで自分もグループを作るかもしれないが…
お前ではたかが知れてるよ。お前は推理力はあっても、協調性はない)
さて、月は反抗者のグループを自ら作ろうとしている。だが、彼は内心はそんな気はさらさらない。
自分達をいつのまにか拉致し、一瞬で場所を移動させるような技術や力、そんな者に反抗するのはリスクが高すぎる。
では、なぜ彼はグループを作るのか
(理由は2つ。一つは、強力な殺戮者-仮にマーダーと呼ぼう―に対抗する為だ。
あのダイアーという男、かなりの武道の身のこなしだった。見渡した中でも、そんな筋肉隆々とした男はいたし、見るからに殺気立っているのもいた
マーダーは強者だろう。いや、強者だからこそ、自信を持ってマーダーになる。自分が殺されるなどありえない、と。僕1人じゃ正直勝てるとは思えない。だから集団を作る。
そいつらとマーダーをぶつける。反抗者にも何人か強者はいるだろうし、弱者でも何人か集めて、戦略を作ればどうとでもできる。弱らせるのでも構わない。
そうすれば、僕でも仕留めるチャンスは大幅に増える
マーダーが消え、反抗者のグループが残ったとしも。その時には僕はかなりの信頼を得ているはずだ。そこで、1番心の弱そうな奴をたきつける、揺さぶる。
ほんの少しの疑心暗鬼で、グループはあっという間に崩壊するさ。マーダーとの戦いで疲弊していればなおさらだ。疲弊した精神に揺さぶりは1番効く。これで僕は優勝だ
複数のグループが残った場合は、互いをぶつける。これも同じ要領だ。)
それが月のプラン。反抗者のグループでマーダーを殲滅、その後グループを崩壊させ自分が優勝
(もっとも、ただ優勝する気はない。それがグループを作るもう一つの理由だ。あの程度の低そうな男の裏に、真の黒幕がいるはずだ。これだけの技術力を作る頭脳を持つ黒幕が
参加者の中にはそれを知る奴もいるかもしれない。情報は多いほどいい。情報は人の数が多いほどおおい。グループを作れば、伝聞でも情報は手に入る。
支給品の中にも黒幕相手に使えるものがあるかもしれない。グループの中心になれば支給品の把握だって容易だ
開催中に真の黒幕と接触を取る。そこで交渉をする。そして、優勝の後……
奴の力を僕が手に入れる
新世界の神である、この僕が!
DEATH NOTE以上の力。そうだ、この力で今度は僕が主催をしよう。犯罪者連中に戦い合わせ、優勝者をこの僕が断罪する!生き残った罪を断罪する!犯罪者達はふさわしい結末を迎える!
ははっ、ははっ、ははっ
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははっ!)
神は笑う
ただ笑う。全てを作ろう、積み木の城を作ろう、兵隊を作って戦おう
そして、それを最後に自分でぶち壊そうと、高らかに、そして哀れに
自分のライバルの今の姿も知らないで
【A-1 砂漠 1日目 深夜】
【加藤勝@GANTZ】
【装備】:雪走@ONE PIECE
【所持品】:支給品一式 不明支給品0~2(本人確認済み)
【状態】:健康 エルへの怒り
【思考・行動】
1:GANTZに反抗し、ゲームを脱出する
2:月と一緒に、反抗者を探し仲間にする
3:月を信じる
4:襲撃者はできれば殺したくない
5:どこか安全な施設を捜す
※参戦時期は、おこりんぼ星人戦で死亡直後です
【夜上月@DEATH NOTE】
【装備】:スペツナズナイフ@現実 手榴弾@現実
【所持品】:支給品一式 手榴弾×4 不明支給品0~1
【状態】:健康 左肩に浅い切り傷
【思考・行動】
1:優勝して、主催の力を手に入れる
2:反抗者グループを作りマーダーを打倒、その後グループを壊滅させる
3:L=キラ、という悪評を広める
4:加藤は利用するだけ利用する
※参戦時期は第1部終了直後です
|012:[[妲己の三分間クッキング]]|CENTER:[[投下順>本編(投下順)]]|014:[[全速前進吸血鬼]]|
|012:[[妲己の三分間クッキング]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|014:[[全速前進吸血鬼]]|
|&color(skyblue){初登場}|加藤勝|028:[[神への道]]|
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**しんせかいの かみ
なぜか、と聞かれても彼は答える事ができない。ただひたすらに急ぎたかった。ただ歩き続けるのは苦痛だったから
これは、GANTZによる新しいゲームだ。加藤勝はこう断定した
最も彼も、まだ3回しかGANTZによるゲームを経験した事はない。電車に轢かれ死に、マンションの一室にいた
黒い玉、GANTZ。謎の銃。謎のスーツ。そして、謎のせいじん
GANTZにより、標的として『せいじん』を設定され、部屋から転移。その『せいじん』を倒す、もしくは捕獲して送還すればゲームクリア、当面の危機は脱する
そう、危機だ。その『せいじん』はこちらを殺すつもりで来る、しかも強い。スーツや銃を装備しなければ、まず勝てない
実際、3回目のゲーム…自分達は、全滅した
巨大な敵、溶解液を放つ敵、レーザーを放つ敵
どんどん仲間は減った。幼馴染の玄野も重傷
残ったのは、加藤だけだった。それでも、敵はあと1体いた
苦しい戦いだった。だが、彼は辛くもその敵を倒した。自分の命という代償と共に
これで、玄野がまだ死んでいなければ、彼は部屋に転移されて怪我も治る、それが加藤の希望だった。それが加藤の賭けだった
が、死んでみれば……またも、同じ展開だった
同じリビング。同じ黒い玉。同じく集まった人々……
全ては、死んでも死んでも続く永遠のゲームだったのか?
(あれ……いや、違う)
3回のゲーム。どれとも違う事があった
あの『せいじん』にしか見えない男。自分達のゲームの時、リビングにあんな男は現れなかった。説明などしなかった
今首にある、この首輪。これもなかった。むしろ必要がないのだ。なぜなら、ゲームの時、彼らの脳に爆弾が仕込んであって、家に帰ろうと決められたエリアを出たものの頭は吹っ飛ぶ仕組みだった。つまり、あのダイアーという男を御するなら脳の爆弾で充分のはずなのだ
(……じゃあ……俺達の脳に、爆弾はないのか?)
首輪をつけるということは、その必要が出たという事だ。つまり、脳の爆弾がなくなった、ということになる
(一体、何が起こってるんだ?GANTZに……そもそも、俺達の時とクリア目標が違いすぎる!
生き残れ、だなんて。なぜ突然)
「ぐああああああ!!」
「!?」
思考の途中で、悲鳴が聞こえた。
加藤はそちらに足の方向を変えた。一瞬、危険という信号が頭をよぎった。だが、苦痛を伴っているように聞こえた悲鳴、その発した主がどんな目にあっているか、そう考えると、助けようという意志が危険という信号を、手元の日本刀を握り締める事で押さえつけた
加藤はやがて人影をみつけた。
立ってはいない。地面に座っている。左腕を右手を抑えていて、そこから何かが滴り落ちて……
「うっ、ぐっ…」
それが血だということは、小学生にさえわかることだった
「だ、大丈夫か!?」
**********
「L?」
「そう、L。それが彼の名……いや、彼にはもう一つ名前があるんだ
……キラ。悪人を断罪する大量殺人者。それが彼のもう一つの名前だ」
加藤は目の前の青年、夜神月と名乗った彼にそう言われた。
月の傷はそれほどひどいものではなかった。左の上腕に入った切り傷。だが彼が言うには動かせないほどではないらしく、
傷口の消毒などをしておけば大丈夫だろう、とのことだ。
支給されたデイパックにはその類のものはなかったため、破った加藤のワイシャツで左腕を縛って簡単に止血、
水で傷口を洗った程度で、あとで救急品を捜そうという事になり、話はその傷をつけた人物に関する件に移った
月が言うには、その人物は彼の知り合いで、エルというらしい。エルは、転移して戸惑っていた月に突然ナイフで切りかかってきたらしく、
月はそれをなんとか避けたが、軽くナイフで左腕を切られた。彼は恐怖と誰でもいいから助けてくれ、という狙いと共に、悲鳴を上げたらしい。
幸い、加藤の走ってくる音で、エルは逃げたらしい。よほど慌てていたのか、その場には血のついたナイフがそのまま残されていた
そして、そのエルについて詳しく聞いて、今に至る
「キラは、自分の正義の下に次々と人を殺していった。犯罪者だけじゃない。自分にとって邪魔だった捜査関係者たち……僕の、父さんも…!」
そう言って月は悔しそうな顔をして、拳を握り締めた。かみ締めた口からは歯をきしる音が。瞑った目からは涙が流れていた。加藤はそれだけで、彼のキラに対する憎しみと悔しさを知り、そのキラに怒りを覚えた
「僕は父の敵を取ろうと、捜査に協力した。その時に、世界一の探偵として捜査の指揮を取っていたのが……エルだった」
「え? で、でも、さっきの話じゃ」
「そう。あいつは……自分で起こした事件を、自分で捜査してまんまと犯人の範囲から逃れたんだ」
「なっ!?」
加藤は驚いた。探偵が、犯人。そんなのはミステリーの禁じ手みたいなものだ。そんなことが…
「でも、自分で起こした事件を解決しようとしたって無理なんだから、自分の無能なところが出るだけなんじゃないか?」
「いや、彼は上手く捜査を操って、ギリギリのところでキラを逃がしているように見せたんだ。時には他人も利用してね。情報操作や心理操作は、あいつの得意技なんだ」
「……でも、なんで夜上さんはそんなことを知ってるんだ?」
確かに妙だった。それではまるで、ミステリーの全てを把握する作者のようだ。だが、彼は登場人物のはず
そう聞くと、月は自嘲気味に
「僕はそこまでたどり着いたんだ。だが、もう少しのところで……奴に口を封じられた。死んだんだ。そう、確かに……ところが、気がついてみればこんなところさ。もしかしたら、ここは奴の新しい殺人場なのかもしれない…」
そう言って考え込む月を尻目に、加藤は戦慄を覚えた
月もやはり死者だった。しかも、初だ。自分のように、2回目の存在ではない。
ただ、彼にはどうも腑に落ちない点があった
「あの……俺、キラなんていう大量殺人者、聞いたことないんですけど」
「……なんだって?」
月が怪訝そうな顔で加藤を見た。そこには本当に当然のことを知らない、無知に対する視線があった
「かなりニュースでも報道されているはずなんだけど…変だな」
変だな、と言われても加藤には思い当たるものはない。キラ、などという大量犯罪者は。そうなると、月の言うことにはどうも信憑性がなくなる…
「あ…」
「どうしたんだい?」
加藤に思い当たる事があった
あのリビング。自分達は確かほぼ全滅。だが、あそこには50人近くは人がいた。だが3回とも、せいぜい10人程度がいいところだった。となると…
あの人数は、何回かで蓄積しているのではないだろうか。月は初めてだ。だが、あの中にその前からの人物が残っていたとしたら
つまり、自分の死んだ時から、今までかなりの時間が経っている。そう考えると、キラのことは説明がつく。キラの事件は、加藤がおこりんぼ星人たちに殺されてから、その後に起こったとしたら
正直曲解だとはわかっている。だが、加藤には月の言っていることが嘘には思えなかった。父を殺されたという月の涙、それが全て彼の妄想だと、切り捨てるのは……悲しかった。だから、そう思った
「い、いや……あの、どこか移動しませんか?ここは危ないと思うし」
だが、すぐに月に言うのは気が引けた。もっと落ち着いた場所で話したい。なにせ、あなたは本当に死んだ、なんて言ったらどうなるか…
「そうだね…まだエルが近くにいるかもしれない。移動しようか」
そう言って、月が立ち上がろうとする
「あ、いえ。俺が先頭行きますよ。夜神さんは怪我してますし、武器もさっきのナイフくらいだし」
「けれど、高校生の君にそんな事させられないよ。僕は大学生、君より年上だ」
「そんなこと関係ないですよ、俺の方が…体格いいし」
「……そう、だね。わかった、君に甘えさせてもらう。ありがとう」
そう言って、月は微笑みと共に頭を下げた。加藤はそれに照れて顔が真っ赤になった
「不安な事があるんだ」
「え?」
歩き出して少しで、後ろを歩く月がそう呟いた
「エルが去り際に言っていた。『キラはあなたに差し上げますよ』と」
「?どういう、意味ですか?」
「これは僕の推測だが……これは、キラの汚名を僕に被せるという意味かもしれない」
「え!?」
「僕がエルがキラという大量殺人者であるということを言いふらせば、奴が追い詰められるのは目に見えてる。誰にだって信用されなくなる。
だから、奴は先手を打って、僕がキラだとこの会場にいる人間達に流布するつもりなんだ。奴は探偵だ。探偵であり犯罪者だ。巧に人間を誘導し、
信じ込ませる術には長けてる!もし、もし奴が僕をキラだなんて言っていたら、僕は…!僕は孤立する!孤立して、何者かに殺害される時を待つ、
哀れな獲物になるだけだ!」
どんどん月の声が大きくなっていた、錯乱し始めている。加藤は振り向くと、頭を抑えて震えている月の腕を握った
「!? 加藤、くん?」
「大丈夫です!たとえ、奴があなたをキラだって言って回っても、たとえそれで騙された奴が出てきても!俺は、俺だけはあんたを信じる!だから、安心してください!」
「加藤くん……済まない、取り乱してしまって…」
月は落ち着いたらしい
「とりあえず、先を急ごう。それで、エルに接触する前に、この殺し合いに反抗している人間と接触してグループを作るんだ。そうすれば、エルにも、生き残ろうとする犯罪者にも、主催者にも対抗できる」
「そうですね、行きましょう!」
加藤は皆を救いたい
今までの星人を倒すのすら辛かった、なのに、殺しあえだなんて絶対にできない。彼は、主催、GANTZへの反抗を決めた。自分や月のように、主催に対抗しようという人物と結託する事を
(計ちゃん……生きている、よな?)
自分は間に合ったのだろうか、それだけが気がかりだった
彼は気付いていない。
反抗する人間を集めて、主催者へ反抗する。彼におぼろげにありつつもはっきりしていなかった方針が、なぜ明確に彼に刻み込まれたのか
それが、月ととの会話によって形成されたという、自覚はなかった
*************
計 画 通 り !
全ては自分の思うように進んでいる。全ては彼、夜神月のシナリオのままに
彼は加藤を先に見つけていた。体力のありそうな体躯、まっすぐ前を見ているその表情。ある程度の打算を持って、彼は賭けを実行した
それがあの悲鳴だ。案の定、加藤は彼のふんだとおりの人間像だった。お人よし、善人。これが悪意のある人物だったら、
ポケットに仕込んでいた手榴弾(彼に支給された5つのうちの一つ。これについては加藤には『4つ』支給されたと説明している)を放つつもりだった
ナイフ、正確にはスペツナズナイフ。これは元々月に支給されたものだ。当然彼は襲われてなどいない。傷は自分でつけた。エルだって見ていない……いや、見てはいる。あの説明の時に
(まさか、確実に殺したお前をあそこで発見できるとはな。最初は驚いたが…あの程度の低そうな男や、攻撃を跳ね返した見えない壁、この首輪……死神の世界があるくらいだ。
なにか、現代の科学ではない、何かの力があるんだろう。死者が蘇っても驚きはしないさ)
だが、不都合は生じる。半分くらいしか見渡せなかったとはいえ、見知った顔はほとんどいなかった。となれば、自分の善人面で善人に取り入り、その中に入り込むことは簡単だ
エルさえいなければ。彼が自分の情報をばらまくことはまずい。それに、個人的には彼にはもう一度引導を渡してやるのも悪くはない。その方法が、先のことだ
(エル、先手は僕が取ったぞ。加藤を先達に、もっと反抗者のグループを広げる。そうすれば、お前の悪評はどんどん広がる。お前がこれを読んで自分もグループを作るかもしれないが…
お前ではたかが知れてるよ。お前は推理力はあっても、協調性はない)
さて、月は反抗者のグループを自ら作ろうとしている。だが、彼は内心はそんな気はさらさらない。
自分達をいつのまにか拉致し、一瞬で場所を移動させるような技術や力、そんな者に反抗するのはリスクが高すぎる。
では、なぜ彼はグループを作るのか
(理由は2つ。一つは、強力な殺戮者-仮にマーダーと呼ぼう―に対抗する為だ。
あのダイアーという男、かなりの武道の身のこなしだった。見渡した中でも、そんな筋肉隆々とした男はいたし、見るからに殺気立っているのもいた
マーダーは強者だろう。いや、強者だからこそ、自信を持ってマーダーになる。自分が殺されるなどありえない、と。僕1人じゃ正直勝てるとは思えない。だから集団を作る。
そいつらとマーダーをぶつける。反抗者にも何人か強者はいるだろうし、弱者でも何人か集めて、戦略を作ればどうとでもできる。弱らせるのでも構わない。
そうすれば、僕でも仕留めるチャンスは大幅に増える
マーダーが消え、反抗者のグループが残ったとしも。その時には僕はかなりの信頼を得ているはずだ。そこで、1番心の弱そうな奴をたきつける、揺さぶる。
ほんの少しの疑心暗鬼で、グループはあっという間に崩壊するさ。マーダーとの戦いで疲弊していればなおさらだ。疲弊した精神に揺さぶりは1番効く。これで僕は優勝だ
複数のグループが残った場合は、互いをぶつける。これも同じ要領だ。)
それが月のプラン。反抗者のグループでマーダーを殲滅、その後グループを崩壊させ自分が優勝
(もっとも、ただ優勝する気はない。それがグループを作るもう一つの理由だ。あの程度の低そうな男の裏に、真の黒幕がいるはずだ。これだけの技術力を作る頭脳を持つ黒幕が
参加者の中にはそれを知る奴もいるかもしれない。情報は多いほどいい。情報は人の数が多いほどおおい。グループを作れば、伝聞でも情報は手に入る。
支給品の中にも黒幕相手に使えるものがあるかもしれない。グループの中心になれば支給品の把握だって容易だ
開催中に真の黒幕と接触を取る。そこで交渉をする。そして、優勝の後……
奴の力を僕が手に入れる
新世界の神である、この僕が!
DEATH NOTE以上の力。そうだ、この力で今度は僕が主催をしよう。犯罪者連中に戦い合わせ、優勝者をこの僕が断罪する!生き残った罪を断罪する!犯罪者達はふさわしい結末を迎える!
ははっ、ははっ、ははっ
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははっ!)
神は笑う
ただ笑う。全てを作ろう、積み木の城を作ろう、兵隊を作って戦おう
そして、それを最後に自分でぶち壊そうと、高らかに、そして哀れに
自分のライバルの今の姿も知らないで
【A-1 砂漠 1日目 深夜】
【加藤勝@GANTZ】
【装備】:雪走@ONE PIECE
【所持品】:支給品一式 不明支給品0~2(本人確認済み)
【状態】:健康 エルへの怒り
【思考・行動】
1:GANTZに反抗し、ゲームを脱出する
2:月と一緒に、反抗者を探し仲間にする
3:月を信じる
4:襲撃者はできれば殺したくない
5:どこか安全な施設を捜す
※参戦時期は、おこりんぼ星人戦で死亡直後です
【夜上月@DEATH NOTE】
【装備】:スペツナズナイフ@現実 手榴弾@現実
【所持品】:支給品一式 手榴弾×4 不明支給品0~1
【状態】:健康 左肩に浅い切り傷
【思考・行動】
1:優勝して、主催の力を手に入れる
2:反抗者グループを作りマーダーを打倒、その後グループを壊滅させる
3:L=キラ、という悪評を広める
4:加藤は利用するだけ利用する
※参戦時期は第1部終了直後です
|012:[[妲己の三分間クッキング]]|CENTER:[[投下順>本編(投下順)]]|014:[[全速前進吸血鬼]]|
|012:[[妲己の三分間クッキング]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|014:[[全速前進吸血鬼]]|
|&color(skyblue){初登場}|加藤勝|028:[[神への道]]|
|&color(skyblue){初登場}|夜神月|028:[[神への道]]|
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