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業を負いし者



まるでなにかから逃れるように、俺は右手に川を見ながら土手の上を疾駆した。
苦しかった――肺が破裂しそうだった。
足がもつれそうになった――踏ん張って耐えた。
まだ男を殺した感触が手に残っている。
肉を裂き、刃が骨に当たる鈍い手ごたえ。そして噎せ返るほど濃厚な血のにおい。
いつもと変わらぬ人斬り。相も変らぬ殺し。
人を殺すのは慣れていた。殺し自体は好きじゃなかったが、それでもそれが俺の仕事だった。
それなのに何故だか今は胸がむかついていた。ともすれば胃の中のものを全て吐き散らしそうだった。
新撰組や幕府方の士をいくら斬ろうと、ここまで陰鬱な気持ちになることはなかった。
あの男は何者だったのだろうか――。
口ぶりから男が動乱を生き抜いてきた志士であるのは疑いようもなかった。
攘夷派ということはあるまい。
桂先生を悪く言っていたのだから長州に与する者ではないはずだ。
では佐幕派か、そうでなければ開国論者なのか。それとも公武合体を望む者ということもあるうる。
偶然とはいえそのような者を斬ったとなると、それなりにツイていたようだ。
少なくともこんなところで無関係な庶民を斬るより救いがある。
しかし、正直なところそんなことはどうでもよかった。
あの男の思想がどんなものであれ、桂さんにどんな心象を持っていようと、
今の俺にはそれほど大きな意味をもたらさなかった。
いや、もちろん意味はあるのだろう。
佐幕派の一人を斬ったとなれば、それだけ新たな時代を早く呼び寄せることになる。
仮にそうならなくとも、新時代到来の前に立ち塞がる邪魔者を消せたのは意味のあることだった。
だがそんなことじゃなかった。俺の感情を激しく揺さぶるのはそんなものではない。

――笑えよ。

耳元であの男の声が聞こえる。
寒気のする思いだった。心の臓を鷲掴みにされたみたいだった。
俺はいつから笑うことを忘れてしまったのか――思い出すことはできない。
笑うとはどんな感覚だったか――思い出すことはできない。
死んでいった者達は本当に俺のような奴に笑って欲しかったのだろうか?
巴も俺に笑ってもらいたかったのだろうか?
俺にはどうもわからない。

――死んだ嫁さんは喜ばない。時代も変わることはない。

本当にそうなのか?
だとしたら俺は今までなんのために多くの人を斬ってきたのか……。
すべては新時代のためだった。誰もが安心して暮らせる時代を呼び込むためだった。
それなのに……。
自分のやってきたことの意味があの男の所為で翳んでいくようだ。
あの男の最後の言葉。命を賭してまで俺に伝えようとした言葉。
取るに足らないはずの言葉がじわじわと俺を蝕んでいく。
巴を想う。狂おしかった。無性に恋しかった。
俺が妻とした女。俺が愛した女。俺が殺した女――。
巴……巴……巴……。
何度呼び掛けても巴が答えてくれることはなかった。
当たり前だった。巴は死んだのだ。俺がこの手で殺したのだ。答えてくれるわけがなかった。
巴がなにを考え、なにを俺に求めていたのか――今となってみればわかりはしない。
だがもし巴がそうして欲しかったのだとしたら――いや、駄目だ。
俺に笑う資格などあろうはずがなかった。そんなことを考えてもいけないのだ。
俺は人斬りだ。人を殺すことしか知らない剣鬼だ。
数知れぬ士を斬り、あまつさえ巴まで手に掛けたこの俺が、残された世で笑うなど許されることじゃなかった。
俺は笑えない。笑ってはいけない。笑う資格がないのだ。
俺は胸中でそう自戒し、歩度を緩めて河原へ降りた。

こんな考えに囚われていてはいけなかった。こんな考えが湧くのは弱気になっているからに他ならない。
荷物を傍らに置き、冷たい川の水を掬って荒々しく顔を洗う。
澄んだ清らかな水が薄い赤に染まった。あの男の返り血だった。
気がつけば小袖も袴も生臭い血をいっぱいに吸っていた。
まるでこの血の所為で妙に胸が騒ぐのだと言わんばかりに、俺は膝上まである川に身を没した。
流れに浸かり、頭から水を被る。身体中に浴びた血が溶けて流されていく。
しかし俺の手は赤く染まったままだった。
人斬りはどこまでいっても人斬りなのである。一度手を汚せばけして洗われることはない。
それが人の命を奪うことを生業とした者の宿命なのだ。
巴が喜ぼうと喜ぶまいと、時代が変わろうが変わらなかろうが、それだけは絶対に揺るがない事実だった。

――笑えよ。

再び男の声が聞こえる。耳元からではない、耳の奥底からだった。
声が煩わしかった。
揺れる水面に俺が映っている。剣を振ることに疲れた男の顔だった。
その顔にやはり笑顔はない。

――笑えよ。

男の声に巴の声が重なる。水面の俺と巴の顔が重なる。
やめろ、やめてくれ……。

――笑って。

巴……。俺には無理だ。俺にその資格はないんだ。

――笑って。

巴……。俺を惑わさないでくれ。

――貴方はどうして笑ってくださらないの。

だから俺は……。

「見つけたでござるぞ!」

堤の上から怒りを帯びた仰々しい声が降ってきた。
その声に驚き、俺は俯いていた川から顔を上げた。さっきの奴等だった。
追いつかれた――軽い舌打ちをして、すぐ思い直す。
まとめて殺せばいいだけだった。さして問題ではない。

「ヨホホホホ。貴方足が速いですねえ。追いかけるのに骨が折れました。
 ――あ、私ガイコツなんで、本当に折れたら困ってしまいますが」
「こらブルック、先に喋るなって言ったろ」
「葉殿、ぶるっく殿、無駄話はあとにしてくだされ。今はそこの武士に一言物申しておかねば!」

血は血を呼ぶ。戦いの輪廻から俺が解き放たれることはない。
やらなければこっちがやられるだけだ。
俺は俺を惑わす全ての考えを頭の中から追いやって、刀の鯉口を静かに切った。
俺の後ろから陽が顔を出しはじめている。
その陽が人斬りの行き着く先を照らすことはないだろう。それでも俺は刀を振り続ける生き方しか知らなかった。
鬨を上げながら抜刀し、堤の斜面を駆け登った。


【D-2 河原 /一日目 早朝】

【緋村剣心@るろうに剣心】
【装備】:黒刀・秋水@ONE PIECE、スタングレネード
【所持品】:支給品一式 不明支給品1個(本人確認済み)
【状態】:精神疲労大、肉体疲労小
【思考・行動】
1:全参加者を殺して日本に戻り、幕府と薩長の戦争を終わらせる。
2:さっきの男のような使い手に注意する。
3:(誰も殺したくない?)
※巴を殺した少し後の人斬り抜刀斎だった時代から来ています。
※精神疲労のためか、銀時の言葉に若干動揺しています。

【ブルック@ONE PIEC】
【状態】:健康
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品x1~3
【思考・行動】
1:少年(剣心)に一言物申し、わからないようなら力づくでわからせる。
2:麦わら海賊団のメンバーを探す
3:ワポルを倒して殺し合いから脱出する
※スリラーバーグ出航後からの参戦です。

【麻倉葉@シャーマンキング】
【状態】:健康
【装備】:阿弥陀丸
【所持品】:支給品一式、不明支給品x1~3
【思考・行動】
1:少年(剣心)に一言物申し、わからないようなら救うつもりでいる。
2:人と接触する時は自分が先に接触してブルックを紹介する。
3:ワポルを倒して殺し合いから脱出する。
※阿弥陀丸とセットで参戦しているよです。


034:夜の海に加わる渦巻く影 投下順 036:えっちぃのは嫌いです
031:鬼女 が 生まれた 日 時間順 038:妄想が現実を駆逐する
021:笑えよ ブルック
021:笑えよ 麻倉葉
021:笑えよ 緋村剣心