※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


世界の車窓から



汽車の窓から見える風景は、日々政治に心血を注いで疲れきっている心を少なからず癒してくれた。
目の前にはどこまでも続く広大な水平線。
仙道となってから随分と長い時を生きてきたが、じっくりとこれを拝んだのは、そういえば今回が初めてなのではなかろうか。
自分が気づかなかっただけで、世界はまだこんなにも新たな発見に満ち溢れていたのだ。
そう考えると、この体験のなんと衝撃的で感動的なことか。
たとえそれが一時的なことであっても、それでもこの一瞬だけは殷の宰相でも仙道でもない、生まれたままの一人の人間としての自分がいることを感じる。
この位置からは見ることはかなわないが、きっと東の海は朝焼けに染まっていてさぞきれいなのだろう。
できることならばそちらも見てみたいものだ。

時折り大きく揺れる振動に身を委ねながら、聞仲は列車の窓枠に左肘をついたまま、そこからの風景をぼんやりと眺めていた。
生まれて初めて利用した乗り物だが、これがまたなかなか乗り心地がいい。
あとは何かしらの飲み物などといったサービスでもあれば言うことはないのだが。
…………。

(――って、私は一体何をしているのだッ!?)

ふと我に還り、気の抜けた顔を急速に引き締めなおす。
一刻も早く殷に戻らなければならないと決意してからまだ数時間しか経っていない。
だというのに、今はこんなところでなごんでいる場合ではないだろう……

――だがそんな聞仲の気持ちなど知ったことではなく、島を走る唯一のこの汽車はただ己の役目を果たさんと線路上を滑走し続けていた。


時は少々遡る。
あれから……突然襲撃してきた十字傷の男と別れてから、聞仲はその男が走り去っていったのとは違った方向へと歩みを進めていた。
特にその判断に深い理由があったわけではない。
強いて言うなら、単純に十字傷の男と再び出会ったら勝てるかどうかわからないためだ。
今の自分はまだそこまで大した力は持っていない。奴を追うよりは別方向へ進んだ方が得策だろう。
それに、好戦的な輩はまず中央を目指し、一方で集団を形成したがる弱者はそこを避けて移動するものだ。
もしその集団と出会ってそれに紛れ込むことができれば、当面は生き残る確率も増える。
……当然、最後まで彼らと手を結んだままでいるつもりはないが。
あくまでもっと強い宝貝が手に入るまでの協定に過ぎない。
充分に戦力を一人で補えるようなれば、もはや用はない。その時は始末してやろう。

故に崖に沿ってゆっくりと北上し、聞仲はとりあえずの目的地として砂漠の町を目指していた。
その途中では誰かと遭遇することもなく、気づけば暗い夜空も次第に明るくなり始めていた。
そして完全に夜が明けるにはもう少しかかるかと思っていたその時……聞仲は自身が歩いていたその先に、奇妙な巨大物を見つけたのだった。
それが何かを理解するのは、古代中国の人間である彼には酷なことだといえる。

「これは……」

最初にそれを見た時、大きな箱を連想した。
ただでさえ大きいのにそれら一個一個が連結しているため巨大な列を成して、地面に敷かれた長い線の上にどっしりと居座っている。
ここにたどり着くまでの間、何のためにこの線が存在しているのか気になってはいたのだが。
赤茶色に塗られた外観に一筋の白い直線が横に走っていて、数え切れないほどの窓がその線のすぐ上で横並びにずらっと取り付けられてある。
そこから中の様子を覗きたかったが、なんとなく子供のようにピョンピョンと飛び跳ねる自分の姿を想像すると、とてもそんな真似はできなかった。

よく見れば先頭だけ、他のものと比べて随分形が違う。
基本的にこれらの箱は四角形なのだが、先頭のそれは箱の正面から巨大な円柱をぶち込んだような形をしていて、さらに煙突らしきものがにょきっと自己主張しているかのように伸びている。
色もまた、他が赤茶色なのに先頭だけ黒一色だ。
特別仕様だということはわかるが、単にデザイン上の問題だろうか。

一体これはなんだろう。
純粋な疑問に、聞仲はその箱の列へと近づいていく。
この島に送られてきてから様々な見慣れないものを見てきたが、中でもこれは別格だ。
ただの展示物として片付けることは容易だが、それにしては何か違和感があった。
用途はわからないものの、見た目からして何かしらの働きを持っていそうな気がするのだ。
下をよく観察してみると、車輪らしきものまでついている。
まさか人もいないのにこんな大きなものが動き出すわけもないだろうが……

「!」

その時初めて、聞仲はまるで箱に隣接するように……いやむしろ箱の方が隣接しているのだろうが……これまた妙な建物があることに気づいた。
建物とはいっても吹き抜けになっていて、外から中の様子が丸見えだ。
一応天井はあるために雨露は凌げそうだが、こんな造りでは中にいたところで風が入ってくるだろうに。
宴会場というのならまだ話もわかるが、こんな味気ない外観では恐らくそれもないだろう。

「…………」

用心しながら回りこんで、建物の中へと入る。
どうやらあまり手入れされていないようで、壁や床といったところどころに埃や錆が目についた。
建物の大きさからある程度予想はしていたものの、そこまで広いわけではなかった。
途中にある階段を上ると、すぐに開けたところへ出ることができ……そこでやっと、聞仲はこの建物の存在意義を理解した。
この建物はいわば、この箱に入るための足がかりのようなものなのだろう。
下からではとても無理そうだったが、ここからなら丁度いい高さに箱の扉が位置しているため、容易に中に入ることができる。
扉は一つの箱につき必ず二つは存在しているようだ。
現在それらは全て無防備に開かれていて、聞仲を中へと誘っているかのように見えた。

何か罠が仕掛けられている可能性も考えて慎重に最後尾の扉から入ってみると、その中身もまた彼を驚かせた。
外面は鉄でできていたものの、中は床も壁も天井も全て木製。
さらに一つにつき二人分が座れる椅子が左右に敷き詰められていて、それは明らかに休息を目的とされていた。
ここは変わった形をしているものの、一種の家のようなものなのか。
実際に暮らしていくには少々狭苦しい気もするが、多くの人間が一緒に住む共同体としてはかなりの利便性がある。
一種のカルチャーショックを覚えながら聞仲はさらに奥へと進んでいく。

――瞬間。

プシュー

「!?」

……ついさっきまで開きっぱなしだったドアが、何か空気が漏れ出るような音がしたかと思うと突然、一斉に閉じられた。
慌てて振り向くが、時既に遅し。
扉は完全に閉められており、押しても引いても決して開くことはない。
まんまと中に閉じ込められてしまった。

「しまった……」

聞仲は己の軽率な判断に歯噛みする。
もう少し注意を払っていればこのような単純な罠に引っかかることもなかったのに、心よりも先に体のほうが動いてしまっていた。
このように密室にしておいて、一体この罠を張った者は何をするつもりだろう。
まさかとは思うが、何か有害な毒の混ざった粉末でも蔓延させるのではなかろうか。
……いや大いに有り得る。これは、危険だ。

(こうなれば一刻も早く、無理矢理にでも脱出しなければ……!)

即決すると、聞仲はデイパックに入れていた打神鞭を取り出した。
多少骨は折れるが、この宝貝から発せられる風の刃ならば扉を切り裂くことも可能だろう。
精神を集中し、この世の全ての大気が打神鞭に集まってくるような感覚をイメージする。
こんなところで死ぬわけにはいかない。最大限まで溜まった風を、扉に向けて一気に放出しようとして……
――そして直後に訪れた唐突な振動によって、聞仲はガクンと体勢を崩して床に倒れたのだった。

「な!?」

最初は地震かと思ったが、その大きな振動は最初の一回だけだった。
なんだか妙な感じがする。
大した負荷ではないが、まるで重力が横向きになって自分に襲い掛かってきているような。
状況を確認しようととりあえず立ち上がり、聞仲は扉の上部にあるガラスから外を見た。
その結果、さらなる混乱が彼を襲うことになる。

――世界が、横に移動していた。



時刻にして朝の五時三十二分。
こうして列車は、その日の活動を開始した。


そして現在。
ひとまず落ち着きを取り戻すために、空いている席に座り込んで風景を眺めていた聞仲だが……必要以上に落ち着いてしまった。
どこぞの西洋貴族かぶれでもあるまいし、こんなところで風流にたそがれている場合ではないだろうに。
……まあおかげで、じっくりと思考することはできるようになったのだが。

「さて……」

膝の上に地図を広げて思案する。
この箱は、どういう原理かは不明だが恐らく例の地面を走っている直線上を滑走する仕組みなのだろう。
そしてこのD-1を出発点にして、C-2、F-2の地点に同じように存在する建物の場所で止まる、と。
なかなかに考えられたものだと、聞仲は感心する。

この島では西側の範囲にまでしか広げられていないが、その線をさらに伸ばせば島中をこれ一つで行き来できるようになる。
それになんといっても速さ、そして収容できる人数が段違いだ。
殷にもこれがあれば大幅に移動が楽になり、人の行き来が盛んになって都が栄えるに違いない。
できることならこの技術をそのまま持ち帰りたいところだが……苦渋の決断でそれは諦める。
残念ながら、今はそれよりも『帰ること』そのものを第一に置かなければならない。

(勘違いするな……優先順位を見誤れば、そこで死ぬのだ)

生きて帰らなければ殷の繁栄どころの話ではない。
余計なことは考えるな。それは後の障害につながるだけなのだから。

この箱に対する思考を未練と共に振り払うと、あらためて聞仲は地図を眺める。
自分の左手に広大な海が広がっているということは恐らく、今は北に進んで……つまり地図でいうところのC-2地点へ向かっているのだろう。
ちょうどその側には、当初目的地としていた砂漠の町がある。
この調子ならそこに着くまでにさほど時間はかかるまい。
偶然乗り込んだこの箱だが、それは自分にとって幸運なことだといえた。

「紂王様――今しばらくお待ちください。すぐに殷に戻って、あなたを誑かす女狐を誅します故……」

決意を新たにしつつ、殷の父たる彼は列車がC-2にたどり着くその時を、じっと待ち続ける。


――聞仲が最後尾の第六車両に居座っている一方、同時刻の第一車両。

「ひゅーほほほほ! 気分爽快よねぇんLちゃん?」
「そうですか、それはよかったです」

一番前に位置する機関室を除けば、この場所が先頭車両だといえる。
その他に誰も乗客のいない車両の中で、気分上々に高笑いしている女がいた。
窓にしなだれかかるようにして無意味に色っぽく座っている彼女は、女狐の妖怪仙人である妲己。
そこから見える風景を楽しみつつ、デイパックの中から食料を取り出して優雅に朝食をとっている。
設備自体はどの車両も変わらないはずなのに、彼女がいるだけでその席は他よりも豪華に見えた。

この島に集められた目的を理解していないわけではないだろうに、その様子からはまるで殺し合いに参加しているような雰囲気は感じられない。
それは彼女の余裕からくるものか、ただ慢心しているだけなのか。
ただ一つ言えるのは……完全に、旅行気分だということだ。

「ほら、Lちゃんもそんなところに立ってないでこちらにおいでなさいん」
「いえ、すみませんが遠慮しておきます。甘いものもなさそうですしね」

妲己の方を見向きもせず、車両と車両を繋ぐドアの影で見張りを続けている男。
彼女の魅惑の術(テンプテーション)によって洗脳されている、元は世界最高の探偵と評されていた変人、Lだ。
彼らは聞仲がたどり着くよりもさらに前にこの汽車を発見し、既に中に乗り込んでいた。
正直Lとしてはこんな島では列車が動いているとは思えなかったのだが、どうやら古めかしいのは外見だけのようで中身は機械の自動操縦らしい。
この首輪を開発したことといい、あのワポルという男はなかなかの技術力を持っているらしい。

「…………」

Lは刀を構えたまま、ぴくりとも動かない。
相変わらず彼は猫背気味であるが、その目には一切の油断がない。
何者かが不用意にこの車両に入ってきたら、即座にその手に持った和道一文字で斬りかかることだろう。
――その姿に、妲己は少し不満を覚える。

(つまらないわねん……)

開始当初に簡単に自分の手駒にしたはいいものの、この男はどうにも扱い辛い。
頭脳はたしかに優秀だ。決断力も十分。身体能力ですら、不思議なスーツを着込むことで人間にしてはなかなかのものを持っている。
そんな奴が自分の忠実な部下となり、外敵から護ってくれようとしているのだから機能面だけ見れば申し分ないといえるだろう。
そもそもこうして見張りをしているのも、主人の身の安全を最優先しているからだ。
それはそれで有難いことだとはいえるのだが、妲己としては退屈で退屈でたまらない。
何か話しかけても必要最低限の返事しかして来ず、これでは暇つぶしの相手もろくに務まらない。
まったく、有能すぎるのも困ったものだ。
……そんなことを思っていた矢先、今度は珍しくLの方から妲己に話しかけてきた。

「それにしても、あなたは本当に困った人ですね。もしこの線路上のどこかが禁止エリアに指定されたらどうするつもりですか」

どうやら小言……というより愚痴らしい。
誘惑の術にかかっているというのにそんなことを主人に対して堂々と言ってこれるとは、それは彼の意志の強さの表れか……もしくは傾世元禳の威力が弱まっているのか。
ただいずれにしても、退屈しのぎにはなることは確かだ。

「あらん、もしそうなったらLちゃんがわらわを抱えて窓から脱出すればいいじゃなあい?」
「…………」

Lは妲己のその言葉に、人知れずため息をつく。
彼女はまるで危機感を覚えていない様子だ。
いや危険性は十分承知しているのだろうが、それすらも含めて楽しんでいる節がある。
まったく、喰えない御人だ。

沖田総吾を葬った後、後の展開を有利にするためにどこに向かおうか地図を見ながら思案している際に列車に乗ってみたいと言い出したのは妲己だった。
島の西側をぐるりと囲む線路について説明を求められたため、これは列車という、主に人や物資の輸送を目的とした乗り物が通る道筋であると教えたのがそもそもの間違いだったか。
大抵の場合そこは冷房が効いていて涼しいというのが最大の決め手だったらしい。
彼女はすっかりそちらに興味津々で、だいぶ粘ったものの結局押し切られる形となって列車のあるホームへと向かう羽目になってしまった。
その結果、現在のこの状況がある。

「……約束どおり、一周だけですからね」
「ふふっ、エルちゃんったら心配性なんだからん」

妲己は妖しく微笑む。
たとえ敵が襲ってこようとも、それならそれで構わない。
彼女にとって、この島で起こる全ては遊びなのだから。
列車で旅行気分を味わうのも、人を殺すことも……全て等価値の遊び。


このような乗客を引き連れて、この島唯一の列車はただ走る。
その先にどんな運命が待ち構えているか、彼自身もまだ知らないままに。


【C-1 列車内・第一車両/一日目 早朝】

【蘇妲己@封神演義】
【装備】: 傾世元禳@封神演義 ナイフ@家庭教師ヒットマンREBORN!
【所持品】:支給品一式 ベルフェゴールのナイフ×9@家庭教師ヒットマンREBORN、不明支給品0~1個
【状態】:健康
【思考・行動】
1:列車で旅行気分を楽しむ
2:傾世元禳に何らかの制限が掛けられている?
3:他者を利用し身の安全を買う。

※ 誘惑の術の制限について。
  誘惑の術が使えるのは8時間に一回。
  意思の強い者は抵抗することも可能です。

【L@DEATH NOTE】
【装備】: GANTZスーツ@GANTZ、和道一文字@ONE PIECE
【所持品】:支給品一式 不明支給品0~1個
【状態】:健康 洗脳
【思考・行動】
1:妲己を守る。

※ GANTZスーツの制限について。
  全体的に効果は減っていますが、どのくらい制限されているかは後の書き手に任せます。

【C-1 列車内・第六車両/一日目 早朝】

【聞仲@封神演義】
【装備】:打神鞭@封神演義
【所持品】:支給品一式(不明支給品なし)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:どんな手を使ってでも優勝して殷に戻り、妲己を滅ぼす
2:砂漠の町で手を組める者を探す
3:もっと強力な武器(期待はしていないができれば禁鞭)が欲しい
4:太公望がいたら優先的に殺す
5:十字傷の男(剣心)といった強力な参加者に注意を払う

【備考】
この舞台を空間宝貝でできた亜空間だと思っています
裏の主催者が妲己であると思っています

【汽車について】
全六両編成
見た目は蒸気機関車だが、実際は機械による自動運転
D-1から出発して、C-2、F-2を通っておよそ二時間程度で線路上を一周します


039:GANTZにかけられた制限 投下順 041:LIAR GAME
039:GANTZにかけられた制限 時間順 041:LIAR GAME
016:日中衝突事件 聞仲
012:妲己の三分間クッキング 蘇妲己
012:妲己の三分間クッキング L