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クライモリ



誰かに見られている。唐突に思った。
恐怖に身がすくむ。腰が抜け、その場にへたり込んだ。
息を殺し、眼球だけを動かす。
眼に映るのは黒と木々のシルエットだけ。
もちろんただの気のせい。近くに人のいる気配はない。
神経が過敏になっているだけだ。そう自分にいい聞かせた。――効果は薄い。
心臓は胸膜を突き破るのではと不安になるほど激しい拍動を繰り返している。
一緒に『転送』されてきたデイパックを抱き、心細さを埋めようとする。――無駄だった。


『お前たちには殺し合いをしてもらう』


あのカバの被り物をした男の言葉が耳から離れない。

――殺し合い。

――殺す。

――人を殺す。

また脈が跳ね上がる。髪の根がぎゅっと締まった。
「何故私が……」とは思わない。世の不条理は人一倍痛感しているつもりだった。
ツイていないときはどん底まで一気に転げ落ちる。そんな人間を何人と見てきた。
今回はそれが自分に回ってきただけ。意外と冷静に考えることができた。
でも駄目だ。恐怖までは拭いきれない。

デイパックをきつく抱きしめるが、どうにもならない。
首輪の吹き飛んだ男の姿が瞼の裏に焼きついていた。
吹き出る鮮血。痙攣を起こす身体。飛んでいく生首が自分の顔になる。
腹のそこからせり上がってくるものがあって、堪えきれず吐いた。
涙が頬を伝う。一体これからどうなってしまうのか。
救いのない絶望。やり場のない怒り。

――いやだ。

――死にたくない。

――死にたくない。

首に巻かれた金属の輪っかが妙に重たかった。

「秋山さん……」

不安が口をついて出る。無論、応えてくれる者はいない。
頼りになる秋山はどうしているのか。考えずにはいられなかった。
いつもそばにいて助けてくれた。だが彼はそこにいない。

孤独を感じる。不安に押し潰されそうになる。どうにかなってしまいそうだった。
震える手。デイパックをあける。懐中電灯。形でそれと知れた。スイッチを入れる。
暖かみのない作り物の光が手元を照らした。それでも灯りが点くと、少しだけ勇気が湧いた。
仄かな希望。――だが行く末は見えない。
よろよろと立ち上がる。いつまでもこうしてるわけにはいられない。早く安全な場所を探さなくては。
秋山はどうしているのか。やはり考えずにはいられなかった。

「秋山さん、助けて」

口の中で小さく呟く。ほとんど声になっていなかった。
孤独。不安。恐怖。怒り。絶望。
負の感情がない交ぜになっていく。気が狂いそうだった。
それでも懐中電灯を手に、前に歩き出すしかなかった。


【F-5 ジャングル /一日目 深夜】

【神崎直@LIAR GAME】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 懐中電灯 未確認支給品1~3
【状態】:健康 精神的に不安定
【思考・行動】
1:死にたくない
2:安全な場所に移動
3:誰かに助けてもらいたい


002:どうでもいいことに限ってなかなか忘れない 投下順 004:笑う狼
002:どうでもいいことに限ってなかなか忘れない 時間順 004:笑う狼
初登場 神崎直 022:少年は涙を忘れ去り、少女は涙を拭い去る