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鉄塔が、天に伸びている。
塔に背を預けるように座り、瞑想する男が一人。
程なくして男……鵺野冥介は目を開けると白み始めた空を見上げ、歯を噛み締める。

(広……)

童守小学校の教師である鵺野が思うのは、愛する生徒の事だった。
このゲームの始まりの場所……黒い球体の置かれた部屋で垣間見た、自分のクラスの生徒。
一瞬の出来事だったため、あちらは気付かず、声をかけることもできなかったが、確かに見た。

立野広。
リーダーシップに富み、責任感が強い、クラスの人気者だ。

(こんな……こんな事が、許されるはずがあるか! )

鵺野は地面に拳を叩きつけ、憤怒を募らせる。
当然だろう、己が命に代えても守るべき生徒が、殺し合いなど言う馬鹿げた行為に参加させられているのだ。

(浮遊霊に頼んで、広を探そうと思ったが……この場所は、奇妙だ)

霊力を研ぎ澄まし、霊を探して協力してもらおうとしていた鵺野だったが、それは徒労に終わっていた。
普段ならそこら中に溢れかえっているはずの霊が、ここには一切存在していなかったのだ。
それだけではなく、普段はいつでも交信できた、自らの左手に取って代わっている鬼の手の中にいる恩師さえ、
自分の呼びかけに応えてくれない。

(一時間ほど粘ってみたが……もう、無駄かも知れんな)


鵺野は霊を探すことを諦めて立ち上がり、ディバッグから地図を取り出した。

「ここは……恐らく、Eの6だな」

聳える塔に目を向け、現在位置を確認する。
次に、自分の生徒が向かいそうな場所を探す。

「E1~2とF1~2の中間に、学校のグラウンドらしき場所があるな……
 いやいや、こんな状況でサッカーをするほど広は能天気じゃ」

瞬間、鵺野の脳裏に普段の広の素行がフラッシュバックする。

「……一応、候補にいれておこう」

バッグから取り出したペンでグラウンドに丸を付ける。

「他には……」

鵺野は顎に手を当て、考える。
このような状況で、人はどう行動するだろうか。
いきなり殺し合いをしろなどと言われて、はいそうですかと納得する者がそう多いとは思いがたい。

「となると……他の者と接触し、且つ危険人物からは逃げやすいように、入り組んだ町などの地形に人が集まりそうだな」

地図をざっと見回し、市街地を探す鵺野。

「西と北と南西に大きな市街地があるが、近くに民家らしき場所があるな。何か使える物があるかも知れん」


地図をディバッグにしまい、首輪に手をやる鵺野。


これと同じものが広の首にも巻かれていると思うと、鳥肌が立った。
あの子は、どうしているだろうか?
なまじ勇気があるだけに、迂闊な行動に出て身を危険に晒さなければいいが……。


この非常事態のせいか、ネガティブな思考だけが鵺野の中で加速していく。

(もしかしたら、今この瞬間にも広が危機に陥っているかも知れない……)

黒い手袋に包まれた、鬼の手を握り締める鵺野。
逸る気持ちを抑えるように、大きく深呼吸をする。
のんびりしている暇もないが、過剰な焦りは禁物だ。

(広……俺は必ず、お前を守ってみせる……! )

「小っちぇえな」

「!? 」


声に驚いて振り向く鵺野。
見ると塔の向こう側、西の方角から、中学生くらいの少年が歩いてきていた。
五芒星をあしらった服装の上に、マントを羽織っている。

「君は……?」

「人は死ぬものだ」

鵺野の質問に答えず、少年は子供とは思えない物腰で呟き、歩き続ける。
お互いの距離が数mにまで狭まったところで、少年は立ち止まった。

「それはいつ・いかなる場所・いかなる状況でも同じだよ。人はあらゆる意味で脆いからね。
 この殺し合いに参加していなくても、交通事故で死ぬかもしれない。通り魔に殺されるかもしれない。
 悪霊に憑り殺されるかもしれない。あるいは病気に倒れて、周りからお金を工面してもらえずに死んだりね」

「……!」

つらつらと語る少年に、鵺野は警戒を深める。
少年は構わずに、言葉を紡ぎ続ける。

「だから、そんなに動揺することはないさ、たとえ君の生徒がここで死んだとしてもね。
 放っておいても潰える命……少し死ぬのが早まるだけだ」

「……そうかも知れない。だが、そうだとしても、俺は生徒を守る。俺は教師だからな」

子供とは思えない威圧感と威厳で語りかける少年に言葉を返す鵺野。
数歩下がり、冷や汗を流しながら懐に手をやる。
少年は笑顔でそれをただ見ている。
鵺野がその笑顔に感じたのは、絶対的な自信だった。


(間違いない、この少年は霊能力者だ。俺に気付かれずにここまで近寄ってくるとは……。
 それどころか、この霊力……人間の物とは思えん!)

「安心しなよ、鵺野鳴介。今のところ、君を殺すつもりはない」

少年が、一歩、歩み寄った。

(―――――――― 何故、俺の名前を?)

鵺野の背筋に冷たいものが走る。それは、警戒を通り越し、恐怖の域に達していた。

「南無大慈大悲救苦救難!」

とっさに懐から数珠を取り出し、少年に向かって振りかざす。
数珠は必中の速度で少年を捕らえ、拘束する。

「へえ。面白い偶然もあるものだね」

少年は自らを捕らえた数珠を楽しそうに見つめ、軽口を叩く。
鵺野は確かな手ごたえを感じ、少年に話を聞こうとする――――しかし。

「超・占事略決 『巫門遁甲』」

ゆらり、と少年の身体が波に乗るように不思議に動き、鵺野に伸びている数珠を伝って移動する。
一瞬で鵺野の後ろに回りこんだ少年は、数珠を掴み、鵺野に足払いをかけた。

「……なっ!? 」

「これは僕のお嫁さんの持ち物でね。返してもらうよ」


数珠……『1080』を自分のディバッグに移すと、少年は鵺野に手を差し伸べる。

「さっきも言ったけど、敵意はないんだ。君も優れたシャーマンのようだしね」

「シャーマン……? 霊媒師のことか? 」

鵺野は少年の手を借りずに立ち上がり、なお警戒したまま問い掛ける。

「まあ、その表現でも間違ってはいないね。……手を出したのに、握ってくれないのはちょっと酷いんじゃないかな?」

「自分で転ばせておいて……」

「ああ、僕が出したのが左手だったからかな?」

「……」

絶句する鵺野を見ておかしそうに笑い、少年はディバッグから経文を取り出した。
無造作に鵺野にその経文を投げつける。


「1080の代わりだよ。君にはそれの方が使いやすいだろう」

「白衣観音経……これは、俺の使っていた物か?」

「これでわかっただろ? 僕に敵意がないってことがさ」

鵺野は数秒考え込み、やがて息を吐いて脱力した。

「わかったよ……しかし、敵意がないというなら君は何故俺に声をかけてきたんだ?」

「言ったろ? 君も優れたシャーマンだってさ。面白い持霊も連れてるみたいだしね」

「いや、だから何で……」

「生徒を探すんだろ? 手伝ってやるよ」

少年は踵を返し、鵺野が向かおうとしていた方角へ歩き出す。
鵺野は一瞬この会話が通じない不思議な少年に着いていくか迷ったが、ある程度の距離をとりつつ、少年に続いた。
ふと思い出したように、少年が顔だけを鵺野に向ける。

「ああ、僕の名前を教えてなかったね。僕はハオ。未来王、ハオだ。よろしく、ぬ~べ~先生」


名を告げて再び前を向き、ハオは思考する。

(鬼……か。因果な物だね)

後ろを歩いている男の持霊(と表現するにはいささか奇妙な形態であるが)について、思い耽る。

(霊格はおそらく神クラス……よほど深いコミューンから来た存在のようだね)

直接触れられれば、より正確な情報を得られたのだろうが、
霊視によって得られた情報だけでは、具体的な力を測ることは出来なかった。

(禁人呪殺が使えれば、S.O.Fに簡単に食わせてやれたんだけどな)

対象の魂を肉体から引き剥がし、一瞬で死に至らしめる超・占事略決の技法の一つ、禁人呪殺。
どういうわけか、この術は使えなくなっていた。
今、持霊が弱った状態で本格的に交戦しても、鵺野に無傷で勝てるかどうかはわからない、とハオは判断したのだ。

(巫門遁甲は問題なく使えたけど、ほかの術も試しておいた方がいいかもしれないな)

ハオは一旦思考を切り、素霊状態まで退化したS.O.Fの属性を変える。問題なく、火の精霊は水に属性を変えた。
しかし、火の状態で、他の参加者に二つ持っていれば怪しまれるであろうディバッグを一つ処分した時は、
燃やしきるのに数分かかったことを考えると、他の属性での力もあまり期待できないだろう、とハオは思い含んだ。

(ふむ……僕の巫力自体は特に増減した感覚はないし……この首輪か、土地が作用して術を禁じているのかな?)

殺し合いをさせるなんて露悪趣味の持ち主だ、一瞬で苦痛なく死をもたらすような技は好かないのかもしれない。
そう考えると、参加者の行動を観察、あるいは監視している可能性もあるか、とハオは思い至る。

(呪禁存思あたりも使えないだろうな……ますます、下手に手傷を負うわけにはいかなくなった)



ハオは軽く溜息を付き、鵺野というシャーマン自身について思いを廻らせた。

(『憑依合体』も『オーバーソウル』も、彼の心からは単語として読み取れなかった)

鬼を内部から封じている女の事を差し引いても、鵺野がそれなりに強力な巫力を持っていることは明らかだ。
霊視によって探った過去や精神性を鑑みても、それは確認できた。
そんな鵺野がシャーマンの基礎情報を知らないことが、ハオには理解できなかった。
国が違ってもそれは共通だし、そもそも彼の出身は自分と同じ日本だ。

(まるで、別の世界から来たような……それは考えすぎかな)

ともかく、とハオは気を持ち直す。

(簡単に持霊と魂を食べられない以上……彼には、出来るだけ多く人を殺してもらわないとね)

鵺野は、人を殺すような人間ではない。現に、先ほどの小競り合いでもハオを殺そうとはしなかった。
基本的には高潔で慈悲深い性質の男だ。
だからこそ、その一線を踏み越え続ければ、心に傷が入り、シャーマンとしての力は磨耗する。
その瞬間を狙えば、容易く彼を殺害し、鬼と鵺野の魂をS.O.Fに捕食させることができるだろう。


(理想は、ここに来ているという立野広を鵺野鳴介自身の手で殺したように演出することだけど
 ……まあ、難しいだろうね。さっき殺した娘の死体も、何かに使えるかもしれないな)

ハオは大物の餌を見つけた喜びに、心中で邪悪な笑みを浮かべる。

(最初は、危険人物を『やむなく』殺してしまった……くらいでいいだろう。それから段々と、彼の心を壊していこう)

ハオは凶悪な計画を立てながら、それを表に出すことなく、淡々と歩き続ける。

(彼が殺した人間の魂も、彼に見つからないようなら捕食できるだろうし……一石二鳥だね)

ハオは、ほんの少しだけ、口元を歪めた。


(役に立ってもらうよ――――『先生』?)



【E-6鉄塔付近 一日目 黎明】

【鵺野鳴介@地獄先生ぬ~べ~】
【装備】:白衣観音経@地獄先生ぬ~べ~
【所持品】:支給品一式、不明支給品0~2個(本人確認済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:広を保護する
2:ハオに警戒。
3:E6の民家に向かい、使えるものを探す
4:市街地を探索
【備考】
ガンツの部屋で確認した参加者は広のみです。
ゆきめ、玉藻が参加していることには気付いていません。

【麻倉ハオ@シャーマンキング】
【装備】:S&W M36 (残り弾数4/5) 、1080@シャーマンキング
【所持品】:支給品一式×2、不明支給品0~2個、春菜の不明支給品0~2個。
      (怪しまれないよう、バッグ一つに統合済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:鵺野の心を壊して弱らせた上で隙を突いて殺害し、覇鬼と鵺野の魂をS.O.Fに捕食させる
2:鵺野に殺させた人間の魂をS.O.F に喰わせて成長させる。
3:対主催チームに潜り込むか、マーダーを利用したい。
4:とりあえず鵺野の行動に付き合う
【スピリット・オブ・ファイアについて】
ハオの持ち霊。素霊状態では弱い炎しか出せないようです。
力や格のある魂を喰うと、成長します。
成長すると乗って空を飛べたり、指で串刺しにしたり、人間を溶かすことができます。
(どの程度の魂を食べれば、力を取り戻せるのかは次の書き手任せです)



017:喧嘩 投下順 019:盗賊について
017:喧嘩 時間順 022:少年は涙を忘れ去り、少女は涙を拭い去る
初登場 鵺野鳴介 029:想い人
011:桜の木の下で 麻倉ハオ 029:想い人