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もしも今、D-4民家群の中にある古びた一戸建ての家の前を通りかかった者がいたとしたら 閉め切られたカーテンの隙間から、少しの光が漏れていることに気づいただろう。 部屋の中は少しばかり薄暗くあったが それでもテーブルの中心に置かれたロウソク、その灯りのお陰で多少なりとも明るかった。 埃をかぶっているテーブルの横には、4つの影が並んでいる。 ―――――と、不意に何処からか物音がした。 部屋の中の3人は一同に驚愕の表情を示し、玄関口のほうを振り返ったが 男は薄くその目を開いただけだった。 男がその視線を彷徨わせると、その先に犯人はすぐ見つかった、窓ガラスだ。 重く垂れたカーテンの向こう側では、立て付けの悪い窓ガラスが風でがたがたと音を立てている。 ここに来た時にちゃんと閉めた筈なのに 、力任せに閉めただけではやはり駄目だった様だ。 男がゆっくりと窓の方を指で指すと3人もようやくこの『犯人』の正体に気がついたようだった。 3人はほっと肩を撫で下ろすと、また先程と同じ様に話を続けた。 「……………ですよ」 「だから、さっきからそう言って……」 「それじゃどうしようも………」 (彼らは何を話しているんだろうか) 男は先程から早口で進んでいく会話に加わることもできずに その様子をただ真摯に見つめていた。 何かを熱弁しているらしいのはまだ若い野手、松本高明(背番号45)だ。 最初にこの島中に放り出されたとき 森の中で一人佇んでいた男にたどたどしい英語で声をかけたのは彼だった。 『Will you go with me』 それは男にとって少々意外なものであったのだが。 (……どうして、だろう) 普通こういう場合は言葉のあまり通じない外国人を避けるものなんじゃないだろうか 何を考えているのかわかったもんじゃない、普通はそう思うものじゃないんだろうか。 今までこういう事態に陥った事はないが少なくとも自分ならそうすると思う。 男はそこから視線をはずすと 主に聞き役に回っているらしいこれもまだ若い2人の捕手へと視線を移した。 石原慶幸(背番号31)と倉義和(背番号40)。 当てもなく2人でふらふら歩いているときに出会ったのが彼らだった。 これもまた意外な組み合わせだと思ったが、 同じポジションといっても取り立てて仲が悪いという訳でもなく 寧ろチーム内で見る限り彼らの関係は良好そうだった事を思い出した。 また視線を熱弁中の松本に戻すと、今度は目が合った。 笑顔が視界に入る。男は弱弱しく笑い返した。 (早く、僕は、出て行かないと) 彼らはまだ若い、きっと4という数字の重さには耐えられないだろう。 表面上はきっと優しい、あくまで優しい。 それでも、深層心理下では常に怯えている筈だ。 男は先程の事を思い出し軽く微笑んだ。 彼らが普通の心理状態ならばすぐにあれが窓の音だと気づいただろう。 けれど彼らはまるっきり見当違いの方向、玄関の方を気にしていた。 ここに来てからずっと明るく振舞ってはいるが、やはり精神的にも限界なんだろう。 ゲームクリアの条件は、裏切り者と名された仲間を全員を倒すこともしくは 3日以内に生存者を3名まで減らすこと、なのだから。 (1では足りない2でも駄目だ、3なら丁度良い、4じゃ――――) 多すぎる。 男は最初の学校……教室を出てすぐの場所で 上等の黒いスーツを着た男達に説明を求めた時の事を思い出した。 並々ならない事態だという事はわかったが 日本語、松田元の説明だけでは色々わからない事もあったからだ。 たくさんの質問を投げかける男に対して黒いスーツの男の1人はこう返答した。 『リアルストラテジーゲームを知っているか?』 それなら僕も知っている、パソコンゲームの一種だ。 プレイヤーはリアルタイムに進行する時間に対応しつつ、プランを立てながら敵と戦う。 うん、確かそんな感じのゲームだった様に思う。僕も実際やってみた事がある、 その時はゲーム内で進行していく時間に追われてすぐ敵にやられてしまったが それでもゲームならリセットすればまた主人公は復活出来る。 男がそう答えると、マシンガンを構え上等の黒いスーツを着た男は せせら笑いながら変に流暢な英語でこう言った。 『これは文字通り命をかけたリアルストラテジーゲームだ』 質問タイムはそこまでだった、その後すぐに校舎外へと男は追いやられた。 (この場合の『敵』は誰なんだ?) 裏切り者、何らかの形でオーナーに協力している者が確かにいたとしても それが本意かどうかなんてわからないじゃないか。 脅されているのかもしれない、止むにやまれぬ事情があったのかもしれない。 その3人だけを責めるわけにはいかない。 条件の一つとして挙げられている『裏切り者3人の死』 とにかく……その裏切り者達だって生きる為に必死になんだろうから。 暗い島内を彷徨うのはゲームの中の怪物でも化け物でもなく 現実の『仲間達』に他ならないんだから。 ゲームなんかじゃない、こんな破綻したゲームはゲームとして成立してすらいない。 彼の言っていた『公平』なんて欠片もないじゃないか。 大体このゲームのルールが確実に守られているのか、 僕達はそれを確かめる術すら持っていないというのに。 男はにやけ顔の松田元の事を思い出し、悔しそうに目を瞑った。 外見は紳士であっても中身はそれに伴わない場合が多々ある。 それは教養のある人間のように振る舞おうとする俗物、似非紳士に他ならない。 クレイジー、彼はとんだスノッブだ。 (でも………) 果たして狂っているのは彼だけなんだろうか。 『狂う』という事がもしも自己の認識によるものなのだとしたら どんな感情でもどんな気持ちでもいい。 それを狂気と認識した時から人は狂い出すんではないか? 気の持ちようで人は狂人にも常人にもなれるんじゃないか? それなら、彼に対して憎しみとも恨みともつかない、言い様のない感情を抱き続けている僕は――――― (ああ、もうそろそろ行かないと) 未練が残る。なかなか決心がつかなかったのは、 きっとここがあたたかかったからだと思う。離れ難いと思ってしまうくらいに。 僕にとってのこの場所は、最後の砦とでも言うべきものだったのかもしれない。 (なんだか似てるんだよ) 言い換えれば、これはノスタルジアというものだろうか。 僕には2つの故郷がある、一つは祖国アメリカもう一つが日本、広島だ。 活躍する度に喜んでくれる人達の存在、あの赤い球場、仲間、あの空気は 僕にとって、とても優しい場所だった。 いつしか僕は、この家の中の雰囲気にあの場所を重ねていたのかもしれない。 そういえば、ここに来てもうどれくらいの時間がたったのだろうか 男が腕の時計に目を滑らすと、そこには自分達がここにやって来てから 2時間半もの時間が経過している事を示す数字が表示されていた。 「だからこそ…………」 「どうしてそう悲観的に…………」 卓上で続く会話をどこか遠いもののように感じながら 男は机の上に広げたザックの中身を手早くまとめ始めた。 男の動きに気づいたらしい松本が顔を上げた。 「ちょ、どこに行くんですか、外に出たら危ない……」 その言葉を遮り、ゆっくりとした口調で日本語と英語を取り混ぜながら グレッグ・ラロッカ(背番号43)が告げた言葉は、場の誰もが予期せぬものだった。 「……君達にはいくら感謝してもし足りない、でも僕は――――」 風もないのに卓上の炎は揺らぎ、静かにロウがその白い幹を滴り落ちた。 【残り48人】 ---- Written by 301 ◆CChv1OaOeU
もしも今、D-4民家群の中にある古びた一戸建ての家の前を通りかかった者がいたとしたら 閉め切られたカーテンの隙間から、少しの光が漏れていることに気づいただろう。 部屋の中は少しばかり薄暗くあったが それでもテーブルの中心に置かれたロウソク、その灯りのお陰で多少なりとも明るかった。 埃をかぶっているテーブルの横には、4つの影が並んでいる。 ―――――と、不意に何処からか物音がした。 部屋の中の3人は一同に驚愕の表情を示し、玄関口のほうを振り返ったが 男は薄くその目を開いただけだった。 男がその視線を彷徨わせると、その先に犯人はすぐ見つかった、窓ガラスだ。 重く垂れたカーテンの向こう側では、立て付けの悪い窓ガラスが風でがたがたと音を立てている。 ここに来た時にちゃんと閉めた筈なのに 、力任せに閉めただけではやはり駄目だった様だ。 男がゆっくりと窓の方を指で指すと3人もようやくこの『犯人』の正体に気がついたようだった。 3人はほっと肩を撫で下ろすと、また先程と同じ様に話を続けた。 「……………ですよ」 「だから、さっきからそう言って……」 「それじゃどうしようも………」 (彼らは何を話しているんだろうか) 男は先程から早口で進んでいく会話に加わることもできずに その様子をただ真摯に見つめていた。 何かを熱弁しているらしいのはまだ若い野手、松本高明(背番号45)だ。 最初にこの島中に放り出されたとき 森の中で一人佇んでいた男にたどたどしい英語で声をかけたのは彼だった。 『Will you go with me』 それは男にとって少々意外なものであったのだが。 (……どうして、だろう) 普通こういう場合は言葉のあまり通じない外国人を避けるものなんじゃないだろうか 何を考えているのかわかったもんじゃない、普通はそう思うものじゃないんだろうか。 今までこういう事態に陥った事はないが少なくとも自分ならそうすると思う。 男はそこから視線をはずすと 主に聞き役に回っているらしいこれもまだ若い2人の捕手へと視線を移した。 石原慶幸(背番号31)と倉義和(背番号40)。 当てもなく2人でふらふら歩いているときに出会ったのが彼らだった。 これもまた意外な組み合わせだと思ったが、 同じポジションといっても取り立てて仲が悪いという訳でもなく 寧ろチーム内で見る限り彼らの関係は良好そうだった事を思い出した。 また視線を熱弁中の松本に戻すと、今度は目が合った。 笑顔が視界に入る。男は弱弱しく笑い返した。 (早く、僕は、出て行かないと) 彼らはまだ若い、きっと4という数字の重さには耐えられないだろう。 表面上はきっと優しい、あくまで優しい。 それでも、深層心理下では常に怯えている筈だ。 男は先程の事を思い出し軽く微笑んだ。 彼らが普通の心理状態ならばすぐにあれが窓の音だと気づいただろう。 けれど彼らはまるっきり見当違いの方向、玄関の方を気にしていた。 ここに来てからずっと明るく振舞ってはいるが、やはり精神的にも限界なんだろう。 ゲームクリアの条件は、裏切り者と名された仲間を全員を倒すこともしくは 3日以内に生存者を3名まで減らすこと、なのだから。 (1では足りない2でも駄目だ、3なら丁度良い、4じゃ――――) 多すぎる。 男は最初の学校……教室を出てすぐの場所で 上等の黒いスーツを着た男達に説明を求めた時の事を思い出した。 並々ならない事態だという事はわかったが 日本語、松田元の説明だけでは色々わからない事もあったからだ。 たくさんの質問を投げかける男に対して黒いスーツの男の1人はこう返答した。 『リアルストラテジーゲームを知っているか?』 それなら僕も知っている、パソコンゲームの一種だ。 プレイヤーはリアルタイムに進行する時間に対応しつつ、プランを立てながら敵と戦う。 うん、確かそんな感じのゲームだった様に思う。僕も実際やってみた事がある、 その時はゲーム内で進行していく時間に追われてすぐ敵にやられてしまったが それでもゲームならリセットすればまた主人公は復活出来る。 男がそう答えると、マシンガンを構え上等の黒いスーツを着た男は せせら笑いながら変に流暢な英語でこう言った。 『これは文字通り命をかけたリアルストラテジーゲームだ』 質問タイムはそこまでだった、その後すぐに校舎外へと男は追いやられた。 (この場合の『敵』は誰なんだ?) 裏切り者、何らかの形でオーナーに協力している者が確かにいたとしても それが本意かどうかなんてわからないじゃないか。 脅されているのかもしれない、止むにやまれぬ事情があったのかもしれない。 その3人だけを責めるわけにはいかない。 条件の一つとして挙げられている『裏切り者3人の死』 とにかく……その裏切り者達だって生きる為に必死になんだろうから。 暗い島内を彷徨うのはゲームの中の怪物でも化け物でもなく 現実の『仲間達』に他ならないんだから。 ゲームなんかじゃない、こんな破綻したゲームはゲームとして成立してすらいない。 彼の言っていた『公平』なんて欠片もないじゃないか。 大体このゲームのルールが確実に守られているのか、 僕達はそれを確かめる術すら持っていないというのに。 男はにやけ顔の松田元の事を思い出し、悔しそうに目を瞑った。 外見は紳士であっても中身はそれに伴わない場合が多々ある。 それは教養のある人間のように振る舞おうとする俗物、似非紳士に他ならない。 クレイジー、彼はとんだスノッブだ。 (でも………) 果たして狂っているのは彼だけなんだろうか。 『狂う』という事がもしも自己の認識によるものなのだとしたら どんな感情でもどんな気持ちでもいい。 それを狂気と認識した時から人は狂い出すんではないか? 気の持ちようで人は狂人にも常人にもなれるんじゃないか? それなら、彼に対して憎しみとも恨みともつかない、言い様のない感情を抱き続けている僕は――――― (ああ、もうそろそろ行かないと) 未練が残る。なかなか決心がつかなかったのは、 きっとここがあたたかかったからだと思う。離れ難いと思ってしまうくらいに。 僕にとってのこの場所は、最後の砦とでも言うべきものだったのかもしれない。 (なんだか似てるんだよ) 言い換えれば、これはノスタルジアというものだろうか。 僕には2つの故郷がある、一つは祖国アメリカもう一つが日本、広島だ。 活躍する度に喜んでくれる人達の存在、あの赤い球場、仲間、あの空気は 僕にとって、とても優しい場所だった。 いつしか僕は、この家の中の雰囲気にあの場所を重ねていたのかもしれない。 そういえば、ここに来てもうどれくらいの時間がたったのだろうか 男が腕の時計に目を滑らすと、そこには自分達がここにやって来てから 2時間半もの時間が経過している事を示す数字が表示されていた。 「だからこそ…………」 「どうしてそう悲観的に…………」 卓上で続く会話をどこか遠いもののように感じながら 男は机の上に広げたザックの中身を手早くまとめ始めた。 男の動きに気づいたらしい松本が顔を上げた。 「ちょ、どこに行くんですか、外に出たら危ない……」 その言葉を遮り、ゆっくりとした口調で日本語と英語を取り混ぜながら グレッグ・ラロッカ(背番号43)が告げた言葉は、場の誰もが予期せぬものだった。 「……君達にはいくら感謝してもし足りない、でも僕は――――」 風もないのに卓上の炎は揺らぎ、静かにロウがその白い幹を滴り落ちた。 【残り48人】 ---- prev [[8.それでも××××××]] next [[10.H・ERO≠HERO?]] ---- Written by 301 ◆CChv1OaOeU

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