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『それでも必ず夜明けはやって来る』。 よく耳にするありきたりなフレーズ。 今日だって例外ではない。 昨日までの平和な日常とは正反対の世界に放り込まれても、ここに存在する限りそれは当然の事だ。 「……い!おいっ!起きろよ新井!放送の時間だぞ!」 中々仮眠から目覚めない新井貴浩(25)を揺り起こし、横山竜士(23)は地図とペンを手に取った。 まだ完全に目覚めていないも、慌てて新井もデイバッグに手を突っ込んだ。 島に散らばった誰もが安眠出来なかったであろう、午前6時。 第一回目の放送の声は、よく聞き慣れた独特の訛りだった。 『お~、聞こえとるか?朝やぞ~。みんな起きとるか~』 のんびりした口調の主は、今季まで監督を務めた山本浩二その人だった。 その声が何処から聞こえてくるのか分からないのか、新井はキョロキョロと辺りを見回す。 「ここだよ。ここ」 横山が右腕を差し出してトントンと指で腕時計を叩く。 新井が腕時計に耳を近づけたところで続けて声が聞こえてきた。 『そんじゃまず、この6時間で死んだ奴の名前を言ってくけぇのぉ。  27番木村一喜、64番井生崇光、10番比嘉寿光、19番田中敬人、20番永川勝浩、18番佐々岡真司。  以上、6人じゃ。6時間でこれだとまあまあのペースじゃな』 満足そうに読み上げられた名前とその数に、横山と新井は衝撃を受けた。 たった6時間で6人の人間が死んだ。その現実を突きつけられる。 『それから、現在の禁止区域は変わらずE-6の学校周辺じゃが、今後、立ち入り禁止区域を増やしていくことにする。  同じ場所に隠れてじっとしている連中が多いと殺し合いにならんけぇ。  時間になってもその場所にいると、首輪が爆発するからな。  立ち入り禁止区域は2時間ごとに増えるから、しっかり聞いとけよ』 「首輪が爆発」。その台詞は6時間前の出来事を蘇らせた。 もっとも、あの場面を忘れた瞬間などなかったのだが。 『それじゃあ今から、その立ち入り禁止になる区域を言うけぇ』 一つでも聞き間違いの無いように全神経を集中させる。少し緊張で手が震えた。 『8時にC-5、10時にC-2、そんで12時の二回目の放送と同時に、A-9。  これは全部、ブロック全体が立ち入り禁止じゃ』 地図の空白部分に読み上げられたアルファベットと数字を記入していく。 『おっと、言い忘れとったが、放送は6時間毎にあるからのぉ。  今のところ以上じゃ。  ほいじゃあお前らが元気出るよう、応援歌かけるけぇ、頑張れよ~!』 山本監督の声がフェードアウトしていくと共に、この場には似合わない音楽が流れ始めた。 ♪カープ カープ カープ ひろしま 広島カープ♪ そんな音楽は耳に届かないのか、お互いに確認しながら禁止区域に印を付けていく。 横山は溜息を吐くと共に呟いた。 「佐々岡さん……」 同じ投手として、そして一人の人間として尊敬するところが多い人だった。このふざけたゲームを止めるのに必要な人だと思っていたのに。 もちろん、名前を呼ばれた他の人間にも少なからず思い出はある。 名前を呼ばれた一人一人を思い出しながら名簿に×印を付けていく。 思っていたよりも深刻な状況に苛立ちと虚しさを感じながら、握っていたペンを潰さんばかりに力を籠めたその時、横山の目の前にパンが差し出された。 「食え」 すでにパンを頬張っている新井が、口をもぐもぐさせながら横山に勧めてきた。 正直食欲は無かったが、少しでも苛立ちを紛らわす為一千切りだけパンを口に含んだ。 「マズっ……」 「そうか?結構いけるぞ」 口を動かしながら新井はもう一口パンを頬張った。 あまりの無神経ぶりに、横山は一瞬怒りを覚えたが、すぐに「これは新井なりの気遣いなのだ」、と心落ち着かせる。 今ここで新井に感情をぶつけてもどうしようもない。今一度冷静になる為大きく深呼吸すると、 「あんまし食うなよ。二個しかないんだから」 と、3分の1しか残っていないパンにかぶりつく新井に一応釘を刺す。 「わかっとる。でも腹が減ってたら戦は出来ん、言うじゃろ?」 新井の言葉に横山は改めて地図を見直した。 「2時間毎か……」 呟くと頭を掻きながらしばし首を捻った。 「んじゃあ、集合場所はココが本命。もしくはココかココ。全部アウトだった場合はこの場所に戻ってくる。……時間は11時間後の午後5時で。OK?」 勢いの任せた感じではあったが、新井に向けてジェスチャーしてみせる。 新井は特に考えること無く、「うん」と素直に頷くと、横山が指差した場所に丸印を付けていく。 本命の場所がD-4の神社。他の候補地はそれぞれE-4の郵便局、F-1の岬。そしてここがC-8の民宿。 放送の時間までに色々提案し合った結果、2人は別行動をとることに決めた。 この島は二つの森と二つの市街地が存在していることが判った。 そこで、地図に書かれているアルファベットのA~Fを真ん中で分け、あみだくじを行った結果、新井がA~Cの範囲を、横山がD~Fの範囲で行動することになった。 別行動をとることによってリスクは高まりそうだったが、どうしても一人でも多くの仲間を捜さなければならない。 予め集合場所と集合時間を決め、それぞれが仲間を連れて合流する。 もう一度二人はこれからの行動を確認し合った。 「禁止区域お前の行くとこばっかだけど、大丈夫か?」 「うん。あみだで決まったもんは仕方ない。それに首輪が反応起こしたら即効逃げるけぇ、大丈夫じゃ」 いつもどたどたと音が聞こえてきそうな程必死な顔をして、ベースに向かって走る新井を思い出し、横山は思わず笑った。 少し和む二人。 一人でも多くの仲間を捜す理由。それは学校の出発時にまで遡る。 【生存者残り36人】 ---- prev [[33.「鬼」]] next [[35.幹英からの伝言]] ---- リレー版 Written by ◆9LMK673B2E

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